小説『IS〜world breaker〜』
作者:山嵐()

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番外編:みんな気になるあの話

バカバカしい男子高校生のやり取りを書きたかったんですが、うまくできたかな……^_^;

あ、とりあえず年越しで読むような話ではないっす(笑)

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「皆さんこんにちは。五反田弾です。皆さんはふと、こんな疑問を持ったことは無いでしょうか?」



『あの2人はエ○本とかに興味はないの?』



「ごもっともです。本当にごもっともです。今日はそのことに関するお話をお届けしようと思います。それでは、どうぞ!」



――――――――――――――――――――――



 夏休みも後半にさしかかり、今日は一夏と弾、それに信も参加して男祭りを開催中である。開催場所は五反田家、目玉イベントは一昨日発売されたばかりの格闘ゲームである。
 今はそのイベントの真っ最中で、三人はガチャガチャとコントローラーを忙しく動かしている。

「なぁお前らさ、エ○本とか持ってねぇの?」

 格闘ゲームで対戦しながら、弾は一夏と信に疑問をぶつける。これで気をそらしてその隙に奥義をぶちこもうと少なからず思っていたが、二人は容赦なく弾のキャラクターをK.Oし、弾が呻き声をあげる。

「「は?」」

「いや、だからエ○い本、略してエ○本を持ってないかって」

「一文字しか略してねぇし。隠しきれてねぇし」

「ていうかいきなり何言い出すんだよ。そんなだからいつまでも彼女できないんだって」

「一夏! 泣くぞ! 俺は泣くぞ!」

「おう。泣け泣け」

 わりと本気で泣こうかと思ったが、今しがた一夏のキャラクターも倒して優勝した信の思い通りになるのも気にくわない。

「くっ……! こいつら……! 仕方ない! ここはあいつを呼ぼう!」

「「あいつ?」」

「数馬ー! 数馬ー!」

「はいはい〜」

「誰!?」

「あ、こいつは御手洗 数馬みたらい かずまって言って、俺と弾の友達。ていうか本当にどこから出てきたんだよ、数馬」

 『いつでも呼んでや〜』と言われたので呼んでおいた甲斐があったと言うものである。何を隠そう、というか何も隠していないので、この男はそれはそれはオープンなやつなのである。
 あだ名は『エ○神様』というとんでもないものがつくほど女の子大好き思春期暴走少年、それがこの御手洗数馬。弾の親友であり、師である。

「細かいこと気にしたらあかんでー。君が真宮ん? 話は聞いとるでー。よろしゅー」

「ま、自己紹介はそれくらいにして……数馬、こいつらにエ○本の素晴らしさを語ってやってくれ」

「いいんか? 僕にエ○本を語らせたら何時間しゃべるかわからんで?」

「構わんさ! 存分にやってくれ!」

「そうなん? では……ごほん。そもそもエ○本いうんはなぁ、男の夢、希望、そして欲望の現れでできたベストオブ書物、いや、書物なんて生ぬるいもんやない。あ、結果的に生ぬるいものは出てくるんやけども、そういうことやなくてやな、本なんていうもんやないということを言っとるんや。あ、イッてるんやないで? 言っとるんや。そら、僕ぐらいになればしょっちゅうイッてまうけどな。あっはっは。いや、早くないで! 勘違いせーへんでや! それでな、続きやけど、エ○本言うんはなぁ、男の夢、希望、そして欲望の……え? もう聞いた? ああ、すまんすまん。生ぬるいところからやったっけ? で、その本はな、もう男の人生、運命、そういうもんを表しとるんや。『名は体を表す』って言うやん? もうそのレベルを越えとんねん、あれは。『エ○本の趣味で男の器がわかる』って感じやねん、わかるやろ? 姉好きもいれば妹好きもいるし、はたまた幼なじみ好き、マニアックなあんなシチュエーション、それらすべては本を購入したものの器を表すんや。おいおい、器ってそーいうんやないで? まだ早いで。そっちの方はしまっといてーな。エ○本とは何かと聞かれれば、それは人の器を表すものである……そう答えるのがまぁ定石やな。しかし! だがしかし! 逆接やで! ここから逆接入るで!? それは僕が小学生の時に出したときの結論や。あの頃は親の目、世間の目がどうしても気になったんや……それでも僕ん家の近くのコンビニに勇気と性欲を振り絞って何度も足を運んだんや。いや、まだ性欲は絞ってないんやけど。だってエ○本買うまでに絞ってもーたら意味ないやん? あ、ごめんごめん、また反れてもーたな。それでな、小学生から大人に一歩近付く中学生んときや。遂に僕は……成人向け雑誌のコーナーに立てたんや! これまでは河原に落ちてたり、側溝に落ちてたりするあのふにゃふにゃにふやけてしもーた情けないエ○本を遠くから眺めるしかなかった小学生の僕! ふにゃふにゃなエ○本見てふにゃふにゃやった僕の僕! よく頑張ったで! でな、ありとあらゆるジャンルを立ち読みまくっ……あ、立つってそういうことやないで? ま、確かに当たっとるけどな。まぁ、そうやな……ダブルスタンドプレーって僕は呼んでるんやけど、好きにしてやー。そして中学生の僕はな、わかったんや。エ○本とは、男の器。それは間違っとらん。けどな、器なんてまだまだちっちゃいん……だからちゃうねん! 器ってそういうこっちゃないねん! 弾! いい加減僕ん股間に目線を下げんのやめーや! 言っとくけどなぁ! お前んとこのよりもデカイで! って、そんなこと言ってる暇ないねん! 戻すで、話を! ……ごほん、『覆水盆に帰らず』言うやろ? ちゃうねん! 例えば、エ○本ていう器から僕というちっぽけな存在がこぼれ落ちても、エ○本はそこにあんねん! 何を言っとるかわからんって顔しとるな。それはまだまだ初心者やからや! あんな、エ○本というものはな、こぼれ落ちてもまだそこにおる、落ちても落ちても全然落ちられへんねん。つまりな……宇宙やねん。ユニバースやねん。ユニバース……ユニバーーース!! ごめん、取り乱してもうた。話戻すで? でな、つまりどんな男でも差別なく受け入れてくれる大きな大きな器、それはエ○本という名の宇宙やったんやと、中学生の僕は気付いた。中学生の、僕はな! そして今、ここにいる高校生の僕は何を思うか、今日はそれを話すわ。気付いたやろか、3人とも……最初、僕はエ○本を男の器を表すものと言ったんや。でもやで、思い出してみぃ? いや、思い切り出すんやなくて。思い出してみぃ? そのあと、僕はエ○本はすべてを受け入れる宇宙という器やと言った……せや! ここでおかしいと思ったやろ!? いつん間にか、僕はエ○本を男の『器を表すもの』から『器そのもの』に置き換えてしまってたんや! 恐ろしいやろ。これこそがエ○本が持つ恐ろしい力、エ○本の力、すなわちヘンタイズムや。心を読み取るんやない、心が動かされてるんや! 正直、これに気付いたんはついこの間や。そこから僕は悩んだんや……何かとんでもない間違いをしてしまったんやないかって……それでな、わかったんや……エ○本はな……僕自身やねん……! みんな、矛盾って知ってるやろ? 『盾と矛をひさぐものあり』ってやつや。どっちもどっち、最強の盾と矛。結局、そいつは『じゃあその盾と矛を戦わせたらどうなるん?』っていう問いに答えられんかったやろ? 僕もな、エ○本が器を表すものなのか、それとも器そのものなのか、迷ったんや。どっちかを取れば、どっちかがダメになる。そんな八方塞がりな時に、気付いたんや。僕が小さい頃から、そう、幼稚園に入る前から見とった親父の押し入れの布団の下敷きになっとったエ○本は、そんなものやったかと。器がどうとか、そういう議論になるものやったかと。違うねん。矛盾……よくある話や。けどな、エ○本はそんなもんないねん。いや、あるんやけど、それは違うんや。それはな、エ○本自身がエ○本たりえるためにはな……その矛盾すら抱え込む、僕という器があってこそなんや。しかもその器、つまり僕があるんはエ○本があるから存在しうるから、エ○本があるんは僕が存在しうるからいうわけや。簡潔に言えば、僕とエ○本は強いなにかで繋がっとんねん。あ、いや、まだ繋がった経験はないんやけど……ちゃ、ちゃうで!? 別にしてないだけで、僕だってやるときゃやるで!? でな、また反れてもーたな。いや、こっちは反ってないで? でな、エ○本がエ○本たりえるために、僕が僕たりえるのが絶対条件なんや。なんのこっちゃない、それだけやったんや。だいたい、エ○本の定義なんて人それぞれや。水着を着てるだけでエ○いと思うやつやっているやろーし、学校の制服着てたってエ○いと思うやつやってもちろんおる。あくまで僕の結論やけどな、エ○本というのは最初からエ○本としてこの世に性を……あ、いや、生を受けるんやない。僕たち男がそれをどう受け止め、そして受け止められるか。それでエ○本、というものがここに存在するんや。もしもや。あの矛盾の話でな、盾と矛やなくてエ○本とエ○本を売ってたとする。もちろん、僕がや。僕が両手に1冊ずつ、違う種類のエ○本を持って売るとするやろ? 道行く人は立ち止まって、僕にこう言う。『それでは、どちらのエ○本がよりエ○いのか』。そしたら、僕は迷わず言うんや。『僕が一番エ○いです』」

「ごめん、俺トイレ……」

 一夏はあまりの話の長さに耐えかねて、席を外す。



――――数分後――――



「ふー……話、終わったかな……」

 恐る恐る扉を開ける。まだ話が続いていたらこのままこっそり帰ってやろうかと考えるほど、一夏はエ○本談義を聞き疲れていた。
 そして、その目に飛び込んできたのは……。

「数馬はそういうのが好きなのかー。あ、そうだ。やっぱり巨乳ってみんな好きなのか? 俺は別に気にしないんだけどさ」

「信! あれにはな、男の夢とロマンとかがぶちこまれてるんだぞ!」

「せやせや。真宮んはもーちょい考えるべきやでー」

「そうか。じゃ、今度から気を付ける」

 ものの数分前とは比べ物にならないほど、この場所に馴染んでいた信たちの姿であった。五反田家には人を仲良くさせる魔物でも住んでいるのかと半ば呆れてしまう。

「あ、一夏。トイレ長いぞー」

 部屋に戻ってきた一夏に弾が声をかける。とりあえず、ごめんごめんと手を立てて謝りながら、信の隣の席へと戻る。

「弾、言ってやるなや。一夏だってそないなときもあるんや。なぁ?」

「いや、でも弾の家では流石に無いんじゃないか? ほら妹いるし」

「甘いな、真宮ん……逆にそれを狙ったかもわからへんで……」

「マジかよ!?」

「くっ、蘭……そんなやつのどこに……」

「一夏! 厳さんに殺されるぞ!」

「3人して何を想像しているんだ、何を」

「ナニを想像していたんや」

「ちょ、数馬。表出ろ」

 一夏が珍しく暴力行為に走ろうとするが、弾と信、それに数馬が笑い声をあげたので、結局一夏もつられて笑ってしまい、部屋は爆笑の渦に巻き込まれた。
 しばらく大笑いしたあと、涙を拭いつつ数馬が話を切り出した。

「まあ、あれやな。一夏と真宮んはそういうのばれたらあかんやろ? もう学校いかれへんやろ?」

「「確かに……」」

「ということでや。今日からここをエ○本置き場にすればええんや。この4人共用のな」

「いやいや、ここは俺の部屋だから! ダメだって! 俺のほうがばれた時のダメージ深刻だから」

「ええやん、ええやん。エ○神様の僕には弾の隠しそうなところもお見通しやし。なんなら家族にばれない隠し場所も教えたるでー」

「はは。残念だが俺の宝のありかには誰も気付かないぜ!」

 弾はバッと手を前に出して自信満々に言う。
 数馬はニヤリと笑ったかと思うと、ベットの下に手を伸ばす。

「ふーん……ま、例えば……ここや!」

 ベットの下には大量のエ○本が隠されていた。

「うげっ!?」

「すげぇ! 一発で……! 一夏! なんてすごい友達を持っていたんだ!!」

「いや……すごいけど、ね……誇れない……」

「ほぉ〜なるほどな〜。なになに? タイトルは――」

「ストーーーーップ!! わかった! わかったから! よし! ここを今日からエ○本置き場にしよう!」

 もうこりごりだと弾は恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら申し出を受けることを認めた。

「せやせや。考えてもみい。1人の時は4人分見放題やで?」

「弾、良かったじゃないか!」

「そうだぞ! 俺と信はあんまり頻繁に来れないし、エ○本読み放題だ!」

「そ、そうか! そうだよな! ものは考えようだな! よーし! 読みあさるぜーー!」

(((ちょろい……)))

 三人は呆れ半分で弾を見るが、有頂天になっている弾には気付かれない。
 が、突然弾が『あ』と何かを思い出したように声を出す。

「でもあれだな……エ○本ってなんかこう……響きがな……隠しきれないよな」

「うーん確かにな……」

「まぁ仕方ないっちゅー話やな」

 それが運命というやつだ、と数馬は弾の肩に手をのせる。そのとき信がじゃあさ、と口を開く。

「エ○本をさらに略してエ本(えほん)でよくね? 絵本って認識するだろ、周りは」

「「「……!」」」

「な、なんだよ……」

「信! お前は……お前ってやつは! 天才だ!」

「真宮んにはランク、エ○マスターを与えるでー!」

「なるほど……信はやっぱりすごいなぁ」

「微妙だ……褒められてるのに……なんだこの虚無感」

 信は男三人組に手を握られて苦笑する。
 そして、一際強く手を握っていた数馬は片手を離し、ガッツポーズを作る。

「よしゃ! 今! ここに! エ本同盟の結成や!」

「うおーー!」

((弾がうるさい……))

 この二人のテンションに果たして最後までついていけるのか、一夏と信は不安になるのだった。



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「で? なんでこうなるの?」

「俺が知るかよ……」

 IS学園在籍の男子二人組は駅前のファーストフード店の窓際席でストローをくわえながら、ちょうど目の前にある本屋に入っていくエ本同盟の会長と副会長を見ていた。 実際落ち着いてみると何バカなことやってんだと思ってしまった二人は、この計画に乗り気ではない。
 この計画というのは『そうだ、エ○本を買いにいこう』というもので、数馬と弾が企画し実行に移すものである。内容は題名そのままである。

「ま、楽しいけど。一夏はいい友達持ってるよな」

「俺たちに火の粉が降りかかんなくて良かった、本当」

 二人は飲み物を片手に、道行く人たちに目を向けた。

「しっかしエ○本か〜」

「信、声デカイって。そして略せ」

「あ、悪い。エ本買おうなんてさ、今まで考えたことなかったな〜」

「そうなんだよな。俺も全然考えたことなかった」

 信が柔らかに笑って椅子に背中を預ける。

「でも、そういうのには興味ない訳じゃないんだよな。一夏は?」

「そりゃ俺もあるに決まってんだろ? 信だって、俺だって、健全な男なんだからさ」

 二人が少し笑いながらハンバーガーをかじる。ちなみにポテトは二人分を一つにして一緒に食べるようにしてある。

「なんか男同士でこういうのも悪くはないな」

「ああ。毎日女子に囲まれてるから、それなりに気を使ってるところもあるし」

「何だろうな……こう……」

「普通の男子高校生って感じ?」

 一夏が言わんとしたことを信が引き継ぐ。そうそれと一夏はポテトをつまみ、信も単品で頼んだチキンナゲットを一つ口に放り込む。

「IS学園じゃこんな話できないし」

「だな。ましてエ本なんか持ち込んで、その上ばれたら……」

「……なぁ、もし俺たちがエ本隠してて、誰かにばれたとするよな?」

 一夏の突然の発言に面食らいながら、信は手に持ったナゲットを口へ放り込んで、ハムスターが餌を食べているかのように頬を膨らませた。

「なんだよ、いきなり」

「いや、俺たちがもしそういう危機的な状況になったときにさ、味方はいるのかなぁって……」

「うーん……いないだろ、きっと」

「そうか? 信だったら、案外誰かは許してくれるんじゃないか? 例えば……シャルロットとか!」

「シャルねぇ……多分……」


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「うわっ! な、なにこれ……う、うわっ……」

「あれ、シャル来てた……あっ!?」

「……し、信……ちょっと……これは僕でも……」

「あ、いや!? 違うんだこれはっ……!」

「ご、ごめんね……誰にも言わないから……ね? ま、まぁ仕方ないよね。ぼ、僕はなにも見てないよ。気にしなくていいからね?」

「いや、だから……な、なんで距離とるの!?」

「そ、そんなことないよ? それじゃ、僕この辺で……」

「ま、待ってくれ! シャル〜……!」


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「ってことに……それからのあまりの居づらさに自ら退学届けを書いてしまいそうだ……」

「お、おい……」

 一気にブルーが入ってしまった信に申し訳なさを感じつつ、一夏は考察を続けることにした。理由は簡単。いつもいつも先をいかれてしまうこの男子に、少なからず仕返しをしたくなったのである。

「じゃ、じゃあ、セシリア! セシリアは?」

「セシリアとか一番ダメだろ!」


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「信さん……これは」

「うげっ!?」

「これは信さんのですわよね?」

「い、いや!? い、一夏の! 一夏のだよ!?」

「信さんのクローゼットから見つけたのですが……」

「え? ベットの下に隠してたんだけど……」

「……」

「……なーんてねっ!」

「もう遅いですわ」

「ちっ、違うって!」

「不潔、野蛮、変態、下劣……わたくしに二度と近寄らないでくださいまし」

「ま、待ってくれ! セシリアぁ〜……!」


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「そしてセシリアは毎回ゴミを見るような目で俺を遠くから……あり得そうだから怖い!」

「そうかー。俺はそれよりも平気で俺を身代わりに使っちゃうお前が怖いよ」

 もちろんジョークなのだろうが、万が一ということもある。もし立場が逆転したら、こっちも信を身代わりに使おうと心に決めるのだった。

「ま、いいや。それじゃ、ラウラは? 許してくれるんじゃないか? ほら、嫁って言うくらい仲いいじゃないか」

「ラウラも危険だぞ!?」


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「嫁、お前のベットの下からこんなものが出てきた」

「うわっ!? か、勝手に……! かっ、返せ!」

「ほう? 返せ、ということはこれはお前のものか?」

「え? あ、いや!? 違うって!」

「40秒で自白しろ。さもなくばドイツ軍仕込みのとびきりキツイ拷問で根掘り葉掘り聞かせてもらうぞ」

「すいません。俺のです」

「よし。しかしよもや嫁が己の中の性的な欲望すら押さえ込めないような軟弱な男だとは……」

「はい……」

「これは最初から鍛え直す必要があるな」

「え?」

「1日12時間、軍の特殊トレーニングをつけてやる。なに、2日ほどで疲れと痛みの峠など越してしまうさ」

「いやだぁぁぁ〜……ラウラぁ〜……!」


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「ダメだぁ〜……軍の訓練とか一般人には無理だぁ〜……」

「お前なんでさっきから自爆してんの?」

 セシリアのときといい隠すの下手くそすぎだろ、と一夏は残念な人を見る目で頭を抱えている同級生を見ていた。

「じゃ、鈴。鈴は俺とか弾とか、あと数馬とだって友達だぜ? 中学校のときよく遊んでたからな。男子のそういう面については寛容だろ」

「いや、だからこそだろ……」

「え?」

「だからさぁ……」


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「ふふふ〜ん♪」

「どうした、鈴? やけに機嫌良さそうじゃないか」

「まぁね〜? あ、信〜? あたしね〜さっき〜信の部屋でこーんなの見つけちゃったんだけど〜」

「あっ!?」

「ベットの下とかバッカみたいね! ぷぷぷ……! そんなのお見通し過ぎよ!」

「くっ……! ぬかった……!」

「まーあんたも男だしね、仕方ないわよね? あたしも中学校のときは男子ともよくつるんでたし、わからなくもないわ。だから黙っといてあげる」

「ほ、本当か!?」

「たーだーしー! 今日からあたしの言うことぜーんぶ聞きなさいよね! じゃ、早速! 喉乾いたからジュース! もちろんあんたがお金出すのよ?」

「なっ! それくらい自分で――」

「みんなー! 信のベットの下からねー!?」

「鈴様。ジュースは何味がよろしいでしょうか。なんなりとお申し付けを」


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「……という展開に……」

「考えすぎだろ」

「バカ! 鈴は男子のことよく知ってる分、こういうことになったらジョーカーになるぞ! 切り札になるぞ!」

 心なしか信が顔面蒼白になりつつあるような気がして、一夏もそろそろこの話題を取り止めることにした。
 まだいじり足りないといえば足りないが、これ以上はまた今度のお楽しみに取っておこう。一夏は自分の飲み物を飲み干した。

「ていうか俺ばっかりはひどいだろ! 一夏、お前はどうなんだよ!」

「え? 俺?」

「想像してみろよ、一夏……ベットの下に隠したエ本を、そうだな……箒とかにばれたシチュエーションを……!」

「箒か……」


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「一夏……」

「え、なに……あっ!?」 

「そこに直れ。幸いIS学園の制服は白いからな、ちょうどいいだろう」

「なにが!?」

「幼馴染みとして、最期くらいは看取ってやるさ。ほら、脇差しだ。あとはわかるな?」

「いやいやいや!? え!? 切腹!?」

「覚悟はいいか? いいならいいと言え。タイミングはお前に任せる」

「いやダメだって!? 落ち着くんだ箒!」

「チェストぉぉぉぉ!!」

「タイミングはぁぁぁぁ!?」


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「いやぁぁぁぁ!」

「お前も俺と大差ない想像力だよな」

「信……悪かった」

「わかればよろしい」

 最後の最後でまた仕返しされてしまった。
 そんな男友達との下らない応酬も、この二人にとっては大切な時間でもある。その意味では、ただ想像力をネガティブな方向に働かせていた、とは言い切れないのかもしれない。

「ま、でも一番ばれたくないのは」

「「織斑先生」」

 二人は声を揃えて、そしてすぐに身震いした。

「したら織斑先生……いや、千冬さんにボコボコにされるぞ」

「だよなー」

 二人はストローを同時にくわえた。

「「……」」

 そして、そうなったときの自分達を思い浮かべてしまう。体が恐怖で震えだした頃、弾と数馬が帰ってきた。

「お待たせ! あれ?」

「おっ、ポテトやん。いただき。ん? なんや2人とも。顔色悪いで?」

「いや……別に……別に何もない……何もないんだ……大丈夫……大丈夫…!」

「き、気にすんな! うん! 考えるな! 考えるな……」

 自己暗示をかけるように言葉を繰り返す二人に首をかしげるも、とりあえず空いてる席に腰を下ろす数馬と弾。

「いや〜今回はなかなか難儀やったな〜。まさか店員さんがあない美人揃いとは驚いたで」

「だな〜。ギリギリで中年男にレジ打ち変わって本当によかったぜ〜」

 一仕事終えたとばかりに笑い声をあげる男子二人。
 信たちも何かの想像から立ち直ったようだったので、しばらく4人で談笑しようと弾は話を振る。

「で? 一夏たちは何話してたんだ? どうせならついてくれば良かったのに」

「嫌に決まってるだろ。エ○ほ――エ本を買おうなんて考えたことなかったって話してたんだよ」

「ほ〜? そらまたおかしな話やな〜。男たるものまず間違いなく買おう思うもんやで」

「ま、一夏はいろいろと無意識のうちにいい思いしてっからな〜」

「「あ〜」」

 信の言葉に納得したような数馬と弾は、声を揃える。そういえばこいつはそういうやつだったと思い出したのである。
 一夏だけは『?』となっていたが、他の三人はやれやれと首を振るのだった。

「でもさ、信だってそんなこと考えなかったんだろ?」

「ん、まぁな」

「おいおい、お前ら大丈夫か?」

「異常やで2人とも。まさか……」

「違ぇよ。俺と一夏はいたってノーマルだ」

「ま、そらそうか。変な勘繰りして悪かったわ」

「お前ら女の子に囲まれておかしくなったんじゃないのか?」

 弾は冗談半分、本気半分で複雑な表情を浮かべる。一夏や信に限ってアッチ系に走ることはないと思うが、将来は住職さんとかになりそうだとか変な想像をしてしまったり。
 数馬は『女の子に囲まれる……? 囲むんじゃなくて?』とか15歳にあるまじき想像をしている。

「ていうかさ、さっき俺がいい思いしてるとか言ってたけど………嘘つくなよ信」

「何言ってんだよ。本当のことだろ?」

 そんな想像をしてる間にIS学園組が話し出す。面白そうだったので、エ本同盟2人はポテトをつまみながら視聴することにした。

「だって入学初日から箒には木刀で襲われるし」

「それは風呂上がりでタオル一枚しか身に付けていない、ほぼ裸の姿をお前に見られたからだろ? まだ生きてるだけラッキーだって」

「う……そ、そうだけどさ! そんなこと言ったら信だって女子の裸見てるだろ?」

「え?」

「俺知ってるんだぞ。この前ラウラがお前と全裸で添い寝してたこと」

「な、なぜそれを!?」

「鈴から聞いた。しかも裸のラウラに乗っかってたらしいじゃないか!」

「それは鈴の誤解だ! あれはいろいろあったんだよ!」

「いろいろってなんだよ。しかも聞けば鈴の尻を……」

「どっから仕入れた!? その情報は!」

「あ! そうえばシャルロットと一緒に風呂に帰ってきた理由、まだ聞いてなかった!」

「だ、だから! あれはたまたまだって!」

「2人とも顔赤かったけど? なあ、本当は一緒に入ったんだろ? 風呂」

「は、入ってねぇよ!」

「本当か?」

「うわっ! ここのハンバーガーうまいな!」

「入ったんだな?」

「……察しろ……」

「なるほど〜そうでしたか〜」

「だいたい! まずお前はシャルロットの裸見たんだろ!? 本人から聞いたぞ! しばらく見られてたって!」

「い、いやいや! 別に見とれてた訳じゃないぞ!」

「見たんじゃねぇか」

「ふ、不可抗力だ! お前だってあるだろ! あれだ、あの臨海学校のときのセシリアの……」

「サンオイルのやつ? あれはお互いに不可抗力だって。ノーカン、ノーカン」

「セシリア、一瞬胸に隠すものが何もついてないって忘れてたしな」

「臨海学校といえば。お前千冬さんの黒ビキニに見とれてたよな」

「あれはほら! 黒だと変な男が寄って来そうだと……」

「あ〜、例えば一夏とか一夏とか一夏とか?」

「俺しかいないじゃないか! でもあれお前が選んだんだろ?」

「ああ。選べって言われたら選ぶしか無いだろ」

「選んだ決め手は?」

「俺が見たかったから」

「ほら!・お前だって見たかったんだろ!? 見とれてたんだろ!?」

「お、お前ほどじゃねぇよ!」

 ギャーギャーと騒ぎ出す一夏と信。いつの間にかポテトはなくなり、ナゲットもなくなり、隣にいた二人もいなくなり、残ったのはレシートの裏に短く書かれた言葉だけ。

『今日限りでエ本同盟は解散します』

 それに気付くのはあと三十分ほど先の話。なんで解散に至ったのか気付くのは、いつになることやら。













 カラスの鳴き声が夕日の綺麗な空にこだまする。
 弾と数馬は川沿いの土手に体育座りでしばらく座っていた。

「なぁ、数馬……」

「なんや……」

「俺、なんであいつらがエ○本に興味無いのか、わかった……」

「……なんでや?」

「だってもうエ○本みたいなことが日常茶飯事なんだから……」

 この日、二人は強く思った。
 リア充爆発しろ、と……。

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