小説『おひナイ』
作者:五月雨桜花()

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 学校の校門を出るところで姫華に「お願いですから降ろしてください!」と、本気で頼まれたので降ろしてあげた。

 相当ショックだった、そんなに嫌か? 別に雰囲気はそんなに悪くはなかったんだが……。



 ゲーセンに着いたが、なんだか見覚えのある二人組が中に入っていった気がしたが、姫華に聞いたら。

「み、見てません! ……多分。すみません、ぼーっとしてました」

 と言われたので、気のせいだということにした。

 しかし、さっきからずーっとこんな調子だ。顔も赤いし大丈夫か?



「ところで、なんでゲームセンターなんですか?」

「……カラオケでも良かったんだけどさー」

「ゲームセンターがいいです!」

「だよな」



「とりあえずゲーセンと言ったらUFOキャッチャーだが、何か欲しいのあるか」

 個人的には人形を集める趣味はないが、姫華は人形が結構好きだったりする。

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………特にないです」

 沈黙長っ! 絶対我慢してるな。

「遠慮しなくてもいいぞ。何でも言ってくれればいい」

「……なら、沈黙ヒツジと、ゲコニャンと、ロッティーさんのぬいぐるみが欲しいです」

「わかった、それくらい朝飯前だ」

 ちなみに沈黙ヒツジは、歯がギザギザな口元が赤い奴もたまにいるデフォルメのぬいぐるみだ。
 そしてゲコニャンは、カエルの頭の帽子をかぶった猫だが一見ネズミに見えてしまう、しかしネズミだと言うとファンに怒られる。
 最後にロッティーさんだが、これは白色のウサギのぬいぐるみで赤い上着を着ている、森に仲間たちがいるらしい。

「はい、取れたぞ」

「ありがとうございます♪」

          ニコッ

「グハッ!!!」

「っ! 大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ。こちらこそありがとう」

「何がですか?」

 そんな無邪気な顔で微笑まれたらやばいって、なぁ。

「いや、なんでもないんだよ」

 そう言って俺は姫華に手を伸ばし、引き寄せる。

「きゃっ」

          シュッ!

 俺たちの横を何かが通り過ぎた。

「何のつもりだっ!」

「兄さん、どうして女装してる近衛先輩なんか…と一緒に……?」

「兄さん? 人違いだろ、ていうか紅羽じゃないか何やってんだ」

 いきなりジローの妹に襲撃されるとか、どんなアトラクションだよ。

「あっ、ヨルさん。ごめんなさい、間違えました! 大丈夫ですか? 怪我とかしてませんか?」

「ああ、大丈夫だ。でも何でここにいるんだ?」

「それは……。あっ、兄さん! ちょっと用事があるので失礼しますね。気になったら、明日兄さん聞いてください」

 そう言って走り去っていった。

「騒々しいな。大丈夫だったか?」

「だ、大丈夫…ですけど……その、そろそろ離してもいいんじゃないですか?」

 と真っ赤な顔で尋ねてきた。

「おっとゴメン」

 必死になってて、忘れてた。

「ありがとうございました、本当は私が守らなければいけないのに……」

「いいんだよ、両方無事ならそれで」



 そのあとゲーセン内で暴動が起きただの何だので、危なくなりそうだったので帰った。しかし姫華はずっと幸せそうだったので、俺としても来てよかったと思えた。

 最近では久しぶりの二人の時間と言っていい時間だった。

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