手を伸ばせば、届いたかもしれない
足が動けば、追いついたかもしれない
声が出れば、助けを呼べたかもしれない
実力があれば、助けられたかもしれない
いや、かもではなく出来たはずだ
ただ怖かっただけで……
あのとき、この中のどれか一つでも出来ていたら、これまでの生活が続けられたかもしれないのに……
その思考のごとく、俺はどす黒い泥沼へと沈んでゆく
必死にもがいても留まることはなく、沈んでいくばかりだ
そして、顔まで沈んでしまった
呼吸が止まり、意識が遠のいていく
「…………っ」
目が覚めた時は朝五時だった。外では雨が降っている、あの時もそうだったな。
「はぁっはぁっはぁっ、またあの夢か……」
後悔しても後悔しきれない、昔の話だ。
「そろそろ起きるか」
俺の日課は朝食と弁当を作ることだが、今日は早く起きすぎた。
しかし、他にやることもないので作り始めるか。
この家には二人が暮らしている、俺とメイドさんだ。
メイドがいるのになぜ俺が料理を作っているのかは気にしないでくれ、それが普通だ。
もう六時か、次の作業だ。
メイドを起こす主ってなかなかシュールな光景だな、と。我ながら思わなこもないが、これも普通だ。
「おい。朝だぞ、起きろ」
「ふみゅ〜〜〜」
「まあまだ時間はあるから、時間になったらもう一回起こしにくるよ」
しかたない、勉強でもするか。
ピンポーン
「はいはい、どちら様?」
ガチャッ
「涼月です♪」
「ああそうか、寄ってくか?」
「あら、意外とすんなり受け入れるわね」
「昨日あんなことがあったのに、奏が俺たちを放っておく訳ないしな」
「か、奏?……まあいいわ。今日は一緒に登校しようと思うんだけど」
「スバルはいいのか」
「スバルは今、ジローくんの家よ」
「そうか、ジローも大変だな。ところでお前は朝食取ったか」
「いいえ、ヨルくんの家でごちそうになろうと思って」
「いいぜ別に。今からもう一人分作るから、もう少し経ったら姫華起こしといてくれないか」
「わかったわ」
そして三十分後、つまり六時半に朝食の時間だ。
姫華も奏も手伝ってくれなかった、まあ仕方ないか。
「いただきます」「いただきます♪」「い・た・だ・き・ま・す」
俺、奏、姫華の順で言ったが、姫華の様子が変だ。
「どうかしたか姫華?」
「何で、『どこぞ』のお嬢様がいるんですか」
「監視役よ。スバルのためだから仕方ないわ」
「とか言いつつ楽しそうですね」
「そうかしら。観察眼の鋭いあなたがそう思うなら、そうかもしれないわね」
「オホホホホホホホホ」
「ウフフフフフフフフ」
食事くらい普通にしてくれよ。
だらだらと朝食を食べたあと、これまただらだらと談笑などをし、気付いたら七時二十分だった。
俺たちは玄関に準備してある(俺がした)二つの鞄を一つずつの持って、奏はスバルに持たせたようで、準備万端だ。
「それじゃあ行くか」