「へぇ、珍しいわね」
「俺もだ」
「同感です」
みんな同じことに驚いてる訳ではなそうだが、驚いていた。
「ふふ、眠っちゃってる。珍しい。スバルが他人のそばで眠るなんて」
「そんなに珍しいのか?」
「ハーレに乗って首都高を逆走するイリオモテヤマネコを見た気分ね」
すっごく珍しい感じだが、俺はスバルじゃなくて……。
「ジローは大丈夫なのか?」
隣のスバルの頭が思いっきりジローの肩に当たっている。
「ああそうだな、俺の中ではまだ近衛は男子な分類らしい」
「そうか。で、なんでスバルが眠ってるんだ」
「たぶん緊張の糸が切れたんでしょう」
「ああ、そういうことか」
「納得です」
「えっ、俺はわからないんだが。そう言われると今日の近衛は変だったけど、あれって緊張してたのか。でもなんで?」
「なんでって……そんなのあなたと会うからに決まってるでしょう」
「は?」
まあそうだろう、これが普通の価値観だろう。
「ジローは当たり前のことでも、スバルみたいな事情がある人は、人付き合いに慣れてないんだよ」
「どういう意味だ?」
奏が引き継いで、こう言った。
「スバルには友達が作れなかったのよ、自分が女の子だって秘密があって」
そういことだ。バレないためには、誰とも関わらなければいい。
「そしてジローくんはスバルの秘密を知っている。初めて私以外で友達になれる人が出来たのよ。スバルなりにこのチャンスをなくさないように頑張ったのよ」
「俺たちがわかったのは奏たちと一緒で高校から入ったからだ。最初は誰でも緊張するだろ」
ということだ。
「チャンスをあげた私としてもこの結果はうれしいわ」
「俺が当たり前でと思うことをしただけだ」
うわ! 顔赤くなってる。
「照れるな、気持ち悪い」
「うるせーな」
「ふふ、照れ屋さんね。そううなあなたにこれをあげる」
「……? なんだこれ?」
「名前をつけるなら執事券ね。端的に言うとスバルの上半身だけ裸にして胸にハチミツをすりこませながら『ボクを舐めてください』って言わせることが出来る券よ」
「そんな事するつもりはない。というか、それしか出来ないのか!?」
「冗談よ。本当はスバルに一度だけ命令できる券よ」
「たのむから、最初からそう言ってくれ!」
長くなりそうなので俺も眠るか。
「俺も眠るよ」
「どうぞ」
姫華が正座をしだした。
「なにが?」
「ひざを」
あの世に言うひざまくらか。
「い、いや。それは申し訳ないと言うか……」
「ど・う・ぞ」
「わかりました」
ジローもそうだが、男って立場弱いな。しみじみそう思うよ。
実際やってみると頭がほどよい温かさと柔らかさに包まれていい気分だ。
ちょっと、恥ずかしいけど。
いい夢が見られそうだ。