小説『緋弾のアリア ―交わらぬ姉妹の道―』
作者:Pety()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

三十五話










周囲を山に囲まれた、人里離れた場所にある研究所。
偶然に発見されるような確率が皆無に等しいその場所で、警報が鳴り響いていた。

侵入者を表すその音に、職員達は大慌てで逃げ惑う。
ある者は半狂乱で滅茶苦茶に走り回り、ある者は必死にデータを持ち出そうと躍起になっている。

しかし不思議な事に、誰一人この施設からは出られなかった。
外へと続く道は例外なく閉じられ、操作して開けようにも、騒ぎが起こった時には完全にコントロールを奪われていた。

それは外部への通信やデータのやり取りも同様であり、まさに今この研究所の人間は世界から切り離されていた。
そして、彼等の精神にトドメを刺すかのように響き渡る爆発音。

研究データやサンプルを保管している場所が、一定時間ごとに破壊されているのだ。
今までの自分達の努力、その成れの果てに涙する者も多かった。

『さーてとぉ、これでここの研究もお終いですかねぇ』
「そうね、データは完全に破壊出来たわ」

爆炎渦巻く室内を、悠々と歩く二つの影。
足のつま先から頭のてっぺんまで全身が黒づくめのフリッグと、恐怖の中でさえ思わず見惚れてしまいそうな絶世の美女、カナだ。

肩を並べて歩く二人を、まるで炎が避けるように横に広がる。
まるで光と闇のように対照的な二人を見て、ただでさえ混乱していた職員が子供のように泣き叫びながら走り去っていく。

『くっくく―――おやおや、貴方のあまりの美しさに泣いて走って行っちゃいましたよ?』
「笑えない冗談ね。それより早く帰還しましょう」

任務はもう終わった、ここにいる必要はない。
それに、これ以上彼らを閉じ込めておくのは危険だとカナは判断した。

精神的には既に限界な者も多く、自分達を見て混乱はさらに悪化する。
一秒でも早く解放し、どこかしらの保護を受けるべきだ。

そう思って歩を進めるカナだが、何故だかフリッグが立ち止まる。
どうかしたのかと振り返り、しかしカナが問う前にフリッグが口を開く。

『そうですね、さっさと――――』

偶然、通りかかった職員がフリッグの横を通過する・・・その瞬間。
施設内に、一発の銃声が響いた。

「な・・」

カナの目が、驚愕に見開かれる。
スローで倒れていく職員、その頭から飛び散る血液。

フリッグが右手に持ったベレッタ、その銃口から出る硝煙。
ドサリ、と。

撃たれた職員が倒れる音が、やけに大きく聞こえた。
その瞬間、施設の混乱は頂点に達する。

突然に響いた銃声、フリッグが発砲したのを目撃した者も少なくない。
困惑と不安が大半だった彼らの感情は、今まさに明確な恐怖となって心を侵食する。

悲痛な叫びが周囲を包み、座り込んで失禁する者も出ている。
あまりのショックに気絶した者は、或いは幸福であったのかもしれない。

「何をしているのっ!?」
『何って、任務ですが?』

大声を上げるカナにしれっと答えながらも、フリッグは次々と職員を撃ち殺していく。
一人、また一人と死体が増えていく。

恨めしいほどに正確な射撃は、的確に心臓を貫いていた。
人によっては即死せず、自身の死をゆるりと味わうことになる。

頭を狙おうと思えば出来るだろうに、しかしフリッグはそうしない。
ただ黙々と撃って撃って撃って、切れれば弾倉を挿し変えてまたひたすらに撃つ。

その腕を掴んで止めたのは、他でもないカナ。
思い返せば初めて触れたその腕は、驚くほどに細かった。

しかし今はそんな事に驚いている場合ではない、表情など皆目見えない漆黒の仮面を、鋭く睨みつける。

「私達の任務は施設の破壊と研究の阻止よ!」
『だぁから、それをやってるんでしょう?』
「これはただの虐殺だわ!!」

カナの言葉に、ああ・・とフリッグは合点がいったというような声を出した。
そして、面白い物を見つけたような含み笑いをする。

悲鳴と爆音が鼓膜を揺さぶる空間で、その笑い声は不気味なほどによく聞こえた。

『どうやらカナ、貴方は勘違いをしているようだ』
「・・勘違い?」
『ええ、命令の意図を少しばかり吐き違えている』

そこでフリッグは、カナに握られていない方の手で人差し指と中指の二本だけをピンと立たせて見せた。

『繰り返し言いますが、我々の任務は研究所の破壊と、ここの研究を阻止することです』
「ええそうよ、そして私達はもうそれを完遂したわ」
『いいえ、違いますよ』

今度は人差し指だけを立て、チッチッチと左右に振る。
実を言えば、この時からカナにも予想はついていた。

もっと言えば、フリッグが職員を撃った時、まさかとは考えていた。
しかし、考えたくなかった――――いや、そうあって欲しくなかった。

最悪な展開にもほどがある。
よりによって、目の前の存在とペアで組まされる時にこんな任務が来るなんて、と。

『我々が遂げたのは施設の破壊だけ。研究の阻止はまだ出来ていない・・・完全には、ね』
「・・・っ」

この言葉で、もうそれ以上は必要ない。
あたって欲しくない考えが当たり、奥歯を噛み締めるカナ。

そんな様子に気付いていて尚、仮面の奥にある口はその動きを止めようとしない。

『今のままでは、たんにここでの研究を邪魔しただけに過ぎない。我々の任務は、研究自体が二度と行われないように消し去ることですよ』

要するに、まだデータは残っているのだ。
人間と言う、記録の媒体が。

職員の脳の記憶という記録が。
それだけでは、阻止したなどとは言えない。

もちろん、彼らを始末したところで未来永劫に渡って阻止出来る訳じゃない。
第二第三の研究はいずれゼロからやり直され、繰り返されるだろう。

しかしここで彼らを消せば、消さなかった時よりも遥かに時間を要する事になるだろう。
その間は確かにその脅威を人々から遠ざける事ができ、次代へと引き継ぐ猶予となる。

無責任と言われればそれまでだが、その時代の事はその時代の人間が対処すべきこと。
イ・ウーはあくまで現代の抑止力であり、永久の楔ではないのだ。

『ですからこれも任務の内です、わかっていただけましたか?』
「くっ・・」

悔しげにうめきながら、それでも掴んだ手は離せない。
イ・ウーへと入って、強くなっていく自分にどこか酔っていた。

これならより多くの人を救えると、信念を貫けると。
そして――――彼女の言葉に報いる事が出来ると。

もう何年も会っていないその人物に、かつて背中を押されてここまで来た。
あの日かけられた言葉に、いつも心を救われて。

しかし今、自分は殺される人々を前にして動けずにいる。
彼らが犯罪者だとしても、死んでもいいなどとは微塵も考えていない。

中には職務上、自分達が違法な研究施設にいると知ってすらいない者だっているはずだ。
なのに、体が動かない。

助けたいとは思う、そうする事に躊躇はない。
イ・ウーは良くも悪くも自分勝手な集団で、多少命令違反したからといって即座に厳罰なんて規則はない。

むしろ気に入らないからといって無視する事自体は、そこまで珍しいことではないのだ。
だが、問題はそれをするために目の前の人物を止めなくてはならないこと。

しかし今の自分でもフリッグを止められるとは、カナは思っていない。
彼を食い止めながら、職員の逃走経路を確保し、全員を無事に逃がす。

今までこなしてきた数々の任務が児戯だったと笑えるくらいの難易度だ。
それでも諦めきれず、果てのない思考の渦の中をひたすらに藻掻く。

そんな時、再び口を開いたフリッグの言葉に、その思考は一瞬で停止することになる。

『じゃあ、ゲームしましょうか』
「・・・・・は?」














目の前で、冗談みたいな戦いが繰り広げられていた。
衝突する剣閃、飛び散る火花。

それだけならまだ普通だが、そんな物が可愛く思えるほどに壮絶な光景だった。
どこからか舞い散るダイヤモンドダスト、白雪の刀に灯る烈火のごとき炎。

二人の剣に触れたものはバターのように両断され、ただの鉄屑になりはてる。
スーパーコンピューターも、防弾性のエレベーターの扉も、リノリュームの床も壁も。

まるでどこかのア二メのような戦いを、俺とアリアは見ているだけだった。

「これが、一流の超偵の戦いなのね」
「・・・アリア、動けそうか」

囁いて聞きながら、状況を確認する。
アリアはなんとか動けるらしいが、アリアの銃は凍りついて使えない。

どうにかして白雪に加勢したいところだが、下手をすれば足を引っ張る形になる。
ヒステリアモードの状態と言えど、俺は超能力者に関する知識には疎い。

このままだとマトモな打開策は思い浮かばない。

「アリアはああいう超能力者を逮捕してきたんだよな? なにかきっかけを掴む方法はないか」
「ここまで高度なステルスには、正直当たったことがないわ。でも、この戦いは長くは続かないと思う」

アリア曰く、能力が強力であればあるほど消耗が早いらしい。
特に同類同士でぶつかりあえば、それはより顕著になるそうだ。

「その瞬間は分かるか?」
「経験でね。・・・ほとんでカンだけど、信じてくれる?」

うかがうような、不安の入り混じった声で聞いてくる。
やっぱり俺が信じないって言ったのがかなり効いてるらしいな。

信頼関係の不全は重要なタイミングを誤ってしまいかねない。
だから俺は、アリアの髪をそっと撫でる。

「この間の俺は馬鹿だった、許して欲しい。俺はアリアを、生涯信じると誓うよ」
「しょ・・しょーがい?」
「世界中の誰もがアリアを信じなくとも、俺だけはアリアの味方だ」
「な、ななななに言って!?」

イチゴみたく真っ赤になったアリア。
けれど、声はどこか嬉しそうだった。

「アリアも―――俺を信じてくれるかい?」
「あ・・・えと・・・・・うん」

こくり、と可愛らしく頷く。
ヒステリアモードの俺に、もうされるがままって感じだ。

そんなアリアに、今の俺はさらにトドメをさす。

「俺達は、信じ合ってる」

きゅん、と。
まるで心の中で音が鳴ったように、緩く握った手を胸の前に寄せる。

「だから自信をもって、タイミングを教えてほしい。魔剣を・・逮捕するぞ」

アリアが頷くのを確認し、俺達は超常の戦いへと再び向き直った。














目の前で迸る炎に、恐怖がないわけではない。
我が一族に植え付けられた、消し去りようのないトラウマ。

幾百年の時を経てもそれは薄れることなく、一族の魂に刻まれている。
しかし、だとしても退くことなど出来はしない。

すでに退路は自ら絶った、いわば背水の陣。
ここで私にあるのは勝利か敗北、その二つのみ。

負ければボストーク号に帰還することは叶わず、こいつらに逮捕される。
正直、星伽白雪が禁を破ったのは誤算だった。

想定していなかった訳ではないが、ほぼありえないと思っていた。
軽く調べただけでも、この少女がどれだけ厳格に生きてきたかは手に取るように分かる。

遠山という例外はあるものの、星伽の命には常に忠実に従っていた。
特に今回の戒めはその中でもとりわけ特別なものだったはず。たとえどのような状況でも問答無用で禁じられるほどの。

しかして奴はそれを破った。紛れもない、己の意思で。
星伽の意に背き、自身の思いを貫くと決めたのだ。

切り結んだ向こうに見える瞳には、そう思わせるだけの強い光を見た。
名に縛られず、己の信を選ぶか。

少しだけ、理子に通ずるものがあるな。
もし仮にこの者が最初からイ・ウーにいたら、良き友人にもなれたかもしれん。

だが、それは考えても詮無いことだ。
なるほど、確かに原石なだけあって力はある。

正しく研磨すれば、私以上になるのもそう難しくはない。
だが、どこまで行っても所詮は原石。

普段から禁じられているが故に、扱い方はまだ稚拙。
G17は脅威ではあるが、それだけで私の戦意を削ぐ事など叶わない。

・・・お前は先程、遠山に言ったな。
武偵は超偵には勝てぬと。

それは裏を返せば、超能力者でないものが超能力者に勝つことは不可能、と言っているようなものだ。
甘い、見識の狭さにも程がある。

星伽の巫女とは言え、やはりまだ井の中の蛙だ。
そんな低レベルな常人の考えでは、イ・ウーでは生き残れない。

所詮ステルスは、ほんの少し人の領域から「外れただけ」の存在に過ぎないのだ。
外れただけで、決して超えた訳ではない。

物を凍らせるだけなら液体窒素でも出来る、炎を吹かすだけなら火炎放射器で事足りる。
我々の力は、結局そんな代用が効く程度ものだ。

しかし、そんな代用など決して不可能な絶技は存在するのだ。
理論だけの世界で言えば可能と言えど、しかし絶対に人間には実現出来ない世界。

そんな世界で猛威を振るう、人智を越えた超人達が。
まばたきする間に氷を砕き、炎を穿つような一撃を繰り出す怪物が。

それらの前で、我ら二人の力など羽虫に等しい。
世界は広い。誰もが知っていて忘れている、そんな現実を嫌と言うほどに叩きつけてくる者達。

「はぁ・・・はぁ・・はぁ」

息をきらし、荒い呼吸を繰り返す巫女。
この戦いが始まってから一撃も、私を狙わず剣だけを狙っている。

もしかせずとも我が聖剣を斬らんとしているのだろうが、無駄なことだ。
絶対に斬れんなどと驕るつもりはない、しかしお前ごときに斬られるほど弱くもない。

「剣を捨てて、ジャンヌ。もうあなたの負けだよ」
「ふ、ふふ・・・ふふふ」

放たれた言葉に、思わず笑いがこぼれてしまった。
負け? 私がか?

自分の状況を見てからモノを言え、追い詰められているのはどっちだ。
有利だったのがお前だったというのは認めよう、私の能力はお前のものと相性が最悪だからな。

しかし、今となっては逆転した。
既に貴様に殆ど力が残っていないのは明白だ。

どうやら最後の一撃を打とうとしているのだろうが、そんな時間を与えると思っているのか。

「お前はまるで、砂糖のように甘い女だ。私の体を狙わず、剣ばかりを狙う。聖剣デュランダルを斬ることなど、お前には出来んというのに」

聖剣の切っ先を、首筋に向ける。
星伽の巫女の顔が悔しげに歪むのが見えた。

私は力を解放し、ダイヤモンドダストが吹雪のごとく空間を包む。

「見せてやる。『オルレアンの氷花』―――銀氷となって、散れ!」

我が聖剣の刀身、そこに青い光が集まっていく。
力の収束が、今まさに最高に達しようかと言うその時に―――――

「キンジ! 私の三秒後に続いて!」

今まで大人しくしていた神崎・H・アリアが、刀を持って突撃してきた。
だが、驚きはしない。

なにやらコソコソと囁やき合っていたのは知っていたし、どこかで手出しをするのは分かりきっていた。
そして、その動きはあまりに直線的。

速さも相当と聞いていたが、やはりマリアに比べれば一歩も二歩も劣る。
あいつはそれに加えて人の意識や認識の隙間を突いて接近するという恐ろしい歩法を用いるため、さらに数段も厄介なものになる。

それに比すればこの程度、動揺する要素などにはなりえない。

「未熟者が!」

聖剣を横に薙ごうとした、その瞬間。
視界を、布のような何かで一瞬塞がれた。

「――っ!」

それは星伽の巫女が脱ぎ捨てた装束。
構わずそのまま振り切ったが、目標に当たる事はなかった。

それを予期していた神崎は、スライディングのように姿勢を低くして躱していたのだ。

「今よキンジ! ジャンヌはもう能力を使えない!」

直後、遠山の銃から三発の弾丸が撃ち出された。
すぐさまデュランダルを引き戻し、その全てを弾く。

向こうもそれを予想していてらしく、驚きもせずに突っ込んでくる。
私に挑もうというのか、いまだ未完成の欠陥品の分際で!

同じくわたしも遠山に向かって駆ける。
神崎が足払いをかけてきたが、飛んでそれを避ける。

途中で襲ってくる弾丸を弾き、遠山の脳天に向かって渾身のひと振り落とす。
ここで死ぬのなら、それが貴様の器だったと言うこと。

もとより私は後継者問題においてどっちつかずな部類であるため、誰が時代の教授になろうかなど興味がない。
まあ、しいて言うならマリアがなれば良いのでは、とは思っているがな。

本人が拒否するならば是非もない。
私はただひたすらに、己を高みへと研鑽していくだけだ。

デュランダルを遠山の頭目掛けて、その刃を振り下ろし―――――

「―――!」

きる事は、出来なかった。
デュランダルを空中で止めたまま、私は遠山の横に着地する。

「なんて―――奴・・っ」

デュランダルは、受け止められていた。
それも、片手の人差し指と中指の二本だけで!

首筋に遠山の銃が突きつけられる。

「これにて一件落着だよ、ジャンヌ。もういい子にしていた方がいい」

普段とは明らかに違うこの口調。
なるほど、少し侮っていたのは認めよう。

この状態の遠山の戦力を、私は見誤っていた。
しかし、それでもまだ終わらない。

「武偵法9条」

憮然と言い返した私に、遠山は目を逸らしながら苦笑いをする。

「忘れたわけではあるまいな、武偵はけっして人を殺せない」
「ははっ、どこまでも賢いお嬢さんだ」
「お、お嬢・・・?」

誰にも言われたことのないような言い回しに、今度は私が口を詰まらせる。
わ、私がお嬢・・・だと? 

顔に微かな熱が宿るのが分かる、私の頬は僅かにでも赤く染まっているだろう。
いやいや、待て! 私にはマリアという立派な―――――

(いや、これも違う!! なんでそうなる!?)

くそ、思考がグチャグチャにされた!
遠山、見かけによらず小賢しい手を使いおって!!

デュランダルの錆にしてくれる!

「キンちゃんに! 手を出すなあぁぁぁぁ!!」

その時、側面から巫女が踏み込んでくる。
その刀に、尋常じゃない力が集められているのが横目でもハッキリと見て取れた。

「――緋緋星伽神(ヒヒホトギガミ)!!」

下から上へと、居合抜きのように走る緋色の剣閃。
それがデュランダルを通過し、天井にまで巨大な焔を吹き上がらせた。

天井が爆ぜ、ガレキが崩れ落ちてくる。
そんな中で、私は断ち切られたデュランダルを見て呆然としていた。

「そ・・・そんな・・」

ありえない、何かの間違いだ。
そう自分に言い聞かせても、手の聖剣が直るわけもない。

最後の最後に訪れた最大の誤算、それによってもたらされた敗北。
これ以上ないほどに目を見開き、私は立ち尽くすことしか出来ない。

「魔剣(デュランダル)!!」

そして、声と共に右手首へとかけられる手錠。
それは対超能力者用の、能力封じの特別性だ。

「うっ!」
「逮捕よ!」

神崎が飛びかかり、左手首や両足首にも手錠がかけられていく。
もはや逃げ出すことさえ不可能、完璧な詰みだ。

・・・ああ、負けてしまったのか。
理子に続いて、私もこの様か。

マリアは、私の敗北さえも知っていたのだろうな。
あえて何も聞かずにやってきたが、やはり覆せなかったらしい。

遠山と星伽がなにやら甘い雰囲気を作っているが、あの二人はそういう関係だろうか?
まあホームズとはあくまで、武偵としてのパートナーで居てくれれば文句はない。

神崎が気付いてないようなのが救いかもな。
理子も言っていたが、はたから見ればこれほど分かりやすい感情もないな。

「魔剣・・・いえ、ジャンヌ・ダルク。あなたに聞きたいことがあるわ」

そんな時、声をかけてきたのは他でもない神崎だった。
その目には期待と不安、そして微かな憎しみが見え隠れする。

おおよそ、質問の内容は分かるがな。

「イ・ウーの中に、あたしの妹を殺した奴がいる。そいつの情報を教えなさい」

意外に冷静なのは、理子の時の事を十分に反省しているのだろう。
二度と同じ轍は踏まない、結構なことだ。

「私に言えることは何もない。・・・だが、いずれ奴はお前の前に姿を現すだろう」
「っ!・・・望むところよ、絶対に風穴あけてやるんだから。」

闘志に燃える瞳を輝かせ、神崎は意気込んでみせる。
しかし私には、それはどこか危うい物に見えて仕方なかった。

-36-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




緋弾のアリア 7 (アライブコミックス)
新品 \550
中古 \249
(参考価格:\550)