小説『緋弾のアリア ―交わらぬ姉妹の道―』
作者:Pety()

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四話










「ねぇ、本当の本当に大丈夫?無理とかしてない?」
「本当の本当の本当に大丈夫ですよ」

ブラドを撃退した後、理子に全力タックルを無防備に喰らい、その後ずっとこの調子だ。
タックル自体は予想済みだったが、全力疾走してくるのを避けるのは危険なため、やむを得ず受け止めた次第である。

さすがに五分程悶絶したが、一応出来るだけ衝撃を拡散させていた。
曾お爺様に報告に行く途中なのだが、理子は私の横でくっ付く様に歩き、しきりに容態を聞いてくる。

正直、ダメージらしいダメージは理子のタックルだけなのだけど。

「心配しすぎですよ、私の力量はある程度知ってるでしょう?」
「そうだけど、全部って訳じゃないし。それに・・ブラドが強すぎるって事も知ってるから、アイツが来たって知らされた時は・・・・・体が・・震えちゃって・・・」

そう言って俯く理子。
体も微かに震えている。

やはりまだ根本的な恐怖が拭い切れないのだろう。

「だから、マリアが戦ってるって聞いたら・・・すごく怖かった」
「おかげで止めるのに苦労したぞ、最後は軽い錯乱状態だったしな」
「うっ・・」
「そうでしたか、ご苦労様でした。ジャンヌ」
「礼には及ばんさ」

そう言って微笑むのは、鮮やかな銀髪の女の子。
ジャンヌ・ダルク30世。

二つの三つ編みをつむじの辺りで結っているストレートロングヘア。
サファイア色の瞳が美しく輝いている。

研鑽派に属し、力量は最下級だが凍結能力を持つ?種超能力者(ステルス)だ。
まともな人付き合いが殆ど発生しない伊・ウーの中で、彼女とはよく一緒に話したりする事が多い。

「だ、だってマリアが心配で・・・」
「だからと言って私に銃を向けるのはどうなんだ?さすがにアレは焦ったぞ」
「そ、それは・・・」
「それに、例えお前が行ったところでどうにも出来まい?」
「・・そう・・・だけど・・・」

再び俯く。
きっと悔しさでいっぱいだろう。

「ジャンヌ。理子も反省しているでしょうし、その辺で」
「まったく、お前は理子には甘いな」
「そう言うつもりはありませんが・・・」

私の言葉を聞き、小さく溜息をつくジャンヌ。
無自覚か・・とか思われている気がしてならない、いや私の『条理予知』がそう導き出している。

そここう言っている内に曾お爺様の部屋に着き、二人と別れる。
曾お爺様は、普段は滅多にメンバーと顔を合わせる事は無い。

大体が人伝に任務を与えるか、私の様な一部の者と話すだけだ。
いつもの様に扉をノックし、返事の後に部屋に入る。

「予定通り、ブラドは行動不能になるまで弱体化させました。付近の陸地に放り出したとの報告も、先程受けました」
「そうか、ご苦労だったねマリア」
「いえ、それほど手間ではありませんでしたので」
「君から見て、彼はどう写ったかな?」
「実力は申し分ありません。イ・ウーの中でも私達を除けばトップレベルでしょう。相手を過小評価しすぎる部分には懸念が残りますが、それを補って余りあるものだと思います」
「ふむ、そうか・・」

これが私の評価。
曾お爺様も、頷いて手元の書類に目を戻す。

「・・・ですが」
「うん?」

再び私を見る曾お爺様。
心無しかワクワクしている様に見える。

「個人的には、自己中で猿山の大将で幼女監禁癖の変態ストーカー吸血鬼だと思います」

少しだけ、沈黙が流れた後・・

「・・ふふふっ、あっははははははははっ!ふっふっふっふ・・くくっ・・!」

口元に手を当て、心底愉快そうに笑う曾お爺様。
もう片方の手で腹を抑えており、まさに腹を抱えて笑っている状態だ。

扉の向こうに誰かがいたら確実に聞こえそうな音量で笑い続ける。
目元に涙すら浮かんでいる始末。

「笑いすぎですよ」
「ははっ、すまない。いや、彼を目の当たりにして尚そう言えるのは、君を含めて世界に何人いることだろうね」
「案外かなりの数いるのでは?彼は別に世界トップクラスの実力、と言う訳ではありませんし」
「まぁ、それはそうだがね」

目元を拭き、しかしまだ笑顔が抜けきらない状態で紅茶を一口飲む。
一息付いてから、机の引き出しから一丁の銃を取り出し、ゴトリと音を立てて机の上に置いた。

黒塗りの回転式拳銃で、見ているだけで威圧感を感じそうな気さえする。

「あの・・これは?」
「見ての通り、S&amp;WM500の8インチモデルだよ。君なら一目で分かるだろう」
「いや、それは分かりますけど・・・」

何故そんな物を出すのですか?
世の中で最強の拳銃だとか言われたり言われなかったりする様な代物を。

ハッキリ言って嫌な予感しかしないのですが・・。

「君は以前から決め手になる手段が欲しいと言っていたね」
「まぁ、確かに言いましたが・・・」

私は基本、先程使ったベレッタしか常備していない。
元々女で体型も小柄、さらにまだ十二歳と言う事もあり、必然的に大きな銃は邪魔なのだ。

と言うより私自信の好みの問題もあるのだが、妙にシックリこない。
まぁ、そうでなくとも四六時中ライフルだの持ち歩いてる人間なんてそうは居ないだろう。

「イ・ウーの大半は、何かしらの能力を持つステルスであったり、理子の様な色金所持者です。ですが残念ながら、私にはそう言った決定だになる力はない」

正確には、ある。
ここは元々、そう言った手段を教え合う場所なのだから。

当然私も、色々な技術や能力を教わっている。
だが、私が覚えた能力の数々は、曾お爺様程ではないとは言え、かなりの数になる。

そんな物を公に使いまくる訳には当然いかない為、よっぽどの事が無い限りは封印している。
受け継いだ『条理予知』だけでも戦術は無限大なので、はっきり言って表では一度も使わなかった。

と言うよりも、私は超能力を使って戦うのが苦手なのだ。
人並み以上に使えはするが、好みとでも言うのか、何故だかどうも性に合わない。

曾お爺様も少なからず感じていると以前言っていた。
生来のステルスじゃないのが原因だろうと思われるが、詳細は言及してない。

「だから、公に使える手段としてこれを用意したと言う訳だ」
「十二歳の少女に渡すものじゃないですね」

世に出た時に、「安易に使用した場合、射手の健康は保証できない。」などと言った事を堂々と宣言された代物なのに。

「普通の子供ならそうだろうが、君なら何の問題もない」
「それはそうですけど・・」

要は怪我をしない最適の撃ち方を導き出せばいいのだから、それをすれば危険なんて毛ほども無い。
銃を手に取り、感触を確かめる。

既に弾は装填済みの様で、ズッシリとした重みを感じる。
今では4インチの方が反動が弱かったり、ES等の物が出ているご時世。

何故このモデルをチョイスしたのか色々疑問だが、恐らくこの人の趣味だろう。

「では、有り難く使わせてもらいます」
「そうしてくれ。そこのテーブルの上に置いてあるケースに弾薬を入れておいた」

指さされた先、テーブルの上に小さなショーケースが置いてあった。
言われた通り、開けると500S&amp;Wマグナム弾がビッシリと入っていた。

一般人がみたら顔が引き攣りそうな光景である、一部の人は目を輝かせるかも知れない。

「では早速だが、それの慣らしもかねて任務をこなして貰いたい。今回は色金関連だ」

今度は引き出しから書類を取り出し、差し出してくる。
受け取って見ると、どうやら建物の設計図や警備装置などの詳細データのようだ。

「この場所に色金が?」
「そうだ、それもそこそこの量が保管されていてね、当然他の組織の多くが狙っている」

色金はどこの組織も喉から手が出る程欲しい宝だ。
むしろよく今迄無事だったと賞賛するべきだろう。

「必然と、警備は相当ですね」
「あぁ、ステルス対策も十全な為、力でゴリ押しと言うのも難しい。加えて最近は璃璃色金(りりいろかね)の粒子の影響が現地で強まっていて、多くの組織が手をこまねいている状態だ」
「その隙に頂いてしまおう、と」
「そう言うことだね」

ほんの少し口元を釣り上げてニヤリと笑う。
曾お爺様がこう言うイタズラ紛いの任務を伝える時、子供の様なワクワクした様子でいる事が多い。

やっぱり緋弾の資格者は子供っぽいと言うのは確実だと思う。

「以上だ。詳しい情報は道中に書類に目を通すといい」
「わかりました。早急に向かいます」
「頼んだよ」

部屋を出て、準備の為に自室に向かう。
用意するのは変装道具一式くらいしかないが、途中で理子には言っておかないと後で拗ねる。

案の定私の部屋でポッキーを食べていた理子。
ジャンヌも一緒に食べていて、イチゴ味とチョコ味のどちらが美味しいかで口論していた。

「あっ!マリアお帰り〜♪ねぇねぇ聞いてよ!ジャンヌってらポッキーはイチゴが至高だなんて言うんだよ!?チョコを差し置いてイチゴだなんて笑止千万だよね〜」
「何を言うか、時代とは常に変わり続けているのだぞ!?こうしてイチゴが開発された理由、それは製造側の人間たちが、次の主人公はイチゴしかないと判断したからに他ならない!!」
「ブッブゥーー!イチゴなんてポッキーでもトッポでも後手にしか出されない予備軍だもんねぇ〜〜〜!!どちらでも先陣として一番手を任されるチョコには足元にも及びませ〜〜ん」
「くぅぅっ!!貴様とてイチゴ味を食している癖に、何と言う言い草だ!!イチゴに謝れ!!」
「確かにイチゴも美味しいし好きだけどぉ〜〜、チョコが一番なのは絶対に譲れないもんね〜〜」

果てしなくどうでもいい議論でギャーギャーと騒ぎ立てる二人。
どうでもいいけど、人の部屋でやるのは止めて欲しい。

「くそっ!おいマリア!!この不埒ものに何とか言ってやれ!!」
「そうだよマリア!!そこのアマチュアちゃんにガツンって言ってあげないと〜!!」

矛先を私に移し、詰め寄る理子とジャンヌ。
だけど・・

「残念ですが私はポッキーよりもプリッツ派です」
「「な・・なんだってぇーーーーーーーー!!?」」

因みにサラダ味。

「まっさかマリアがポッキーよりもあんな歯の間に詰まってウザイったい棒なんかが好きなんて!」
「くっ、思わぬ伏兵に誑かされていたのか!?」
「・・・・なんですって?」

聞捨てなりませんね。

「確かに、プリッツは歯に詰まると厄介である事は間違いありません。ですがそれは素人に限った話です。正しい食し方をすれば、またたく間にひたすら美味しいだけの棒に大変身なのですよ」
「えぇ〜?プリッツなんてどうやって食べても同じ末路でしょ〜〜〜?」
「私もそれは同感だ。色々と工夫してみたが、結局は歯に詰まるのを阻止する事は出来なかった」
「ふっ、それこそアマチュアの領域ですね。真のプリッツァーになれば、毛ほども詰まる事無く味わう事ができ、周りで悪銭苦闘している友達をみて優越感に浸る事も可能なのです」
「プリッツァーって何!?というかそれって只の性格悪い奴じゃん!」
「それよりも、本当にそんな事が可能なのか?そしてそんな奴がどれだけ居るのだ?」
「出来ます。一口一口の力加減、それによって砕けた粒子の口内での流れを正確に読み取れる事で、初めて辿り着ける境地です。因みに私と教授以外に出会った事はありません。」

境地へと至る道は険しいのです。

「お菓子を食べるのにそんな高度な技術がいる時点でダメでしょ!?そんな気の休まらないお菓子なんて理子は認めないよ〜!」
「それに結局居ないではないか!お前と教授しか出来ない時点で、世界に五人もいれば奇跡だぞ!!?」

それからなんやかんやと口論を続け、結局二人に任務の事を話して現地に出発したのは、それから三時間後の事でした。

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