小説『緋弾のアリア ―交わらぬ姉妹の道―』
作者:Pety()

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四十九話










あたしと里香・・・ううん、マリアは屋上でお弁当を食べていた。
いつもは何人か生徒がいるんだけど、今日は誰もいないみたいで二人っきり。

ついてる、今日はついてるよ。
内心でガッツポーズしながら、あたし達は寄り添って座っていた。

そう、ほとんどくっつき状態、ここ重要!
いつもは「少し離れてください、食べづらいです」って言うはずなのに、今日は言われなかった!

「それでキーくんとアリアの追いかけっこが始まってさー、それでも授業は続いたけどね、何人か流れ弾くらって救護科に運ばれちゃったよ」
「ふふっ、そうですか、相変わらずですね二人とも」

口元に手を当てて、微笑みを浮かべるマリア。
最近はこういう良い笑顔が見られる機会が多くて嬉しいな、それがあたしだけに向けられれば文句なしなんだけどね〜。

他人の話題はちょっとミスチョイスだったかも、なんとか流れを変えないと・・。
そうして一つ思い至ったあたしは、自分の弁当から卵焼きを一つ箸で取る。

あたし達のお弁当はそれぞれの手作り。
ここ毎日はこうやって二人で食べるのが日課になりつつあるから、購買とか食堂の食事もそろそろ飽きたんだよね。

「はいマリア、あ〜ん」

笑顔で卵焼きをマリアに差し出す。
どんな反応をするのか考えながら、イタズラ半分にやったんだけど―――――

「ありがとうございます、あむ」
「へ・・・?」

と、なんの拒否もなく食べてくれた。
いや、嬉しいよ? うん。 食べてくれたこと自体はね?

ただ、行儀が悪いとたしなめられるか、良くて呆れながらも口に入れてくれるかだと思ってた。
それどころか嬉しそうに何の抵抗もなく食べてくれるマリアに、逆に驚かされちゃった。

「どうしました理子?」
「え・・・あ、いやなんでもな〜い」

手を振って誤魔化すけれど、ちょっとだけドキドキしてた。
自分でやっといてなんだけど、予想外だったから。

「そうですか、それじゃあお返しです」
「うんそうそう、お返し・・・・え?」
「はい理子、あーん」

そう言って、ミートボールを差し出してくるマリア。
落ちないように手を下に添えながら呟かれた声は、あたしの胸を弾丸のごとく貫いた。

え? 今、なんて言った?
あーん・・・だと!? マリアが、あーん・・・だと!!?

しかもちょっと頬を染めながら、しかし極上の微笑みを浮かべながら言いなさった!!
ちょ・・・なにそれ・・・めっちゃ萌えるんですけど!!

マリアが甘く囁くようにあーんとか、悶絶モンなんですけどぉ!?

「あ・・・えと・・」
「・・・・は、早く食べてください。けっこう・・・恥ずかしいです」
「〜〜〜〜っ!!?!?」

な・・ん・・だ・・こ・・れ・・は・・っ!!
ちょっぴり顔を俯かせ、上目遣いにこちらを見てくる。

ハッキリと見て取れるほどにポッと顔を赤くしたマリアは、それだけで男のハートを鷲掴みどころか握り潰さんばかりの破壊力を持っていた。
いや、今は有象無象どもの事なんかどうでもいいよ、問題は、これがあたしに向けられているという事実。

これは・・・まさかの・・・!!

(デレ期っ・・・キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!)

心の中で雄叫びを上げ、あたしは幸福の絶頂期に入った。
今すぐこの場で狂喜乱舞して踊り狂いたい衝動にかられるけど、そこはグッと堪えないと。

なにせこんな機会、たっぷりと堪能しておかないと勿体ないもんね。
いや、それともこれから沢山あるかな? むふふふ。

ざまぁみろジャンヌ! ざまぁみろパトラ!
やっぱりあの時のリードが決定的な差を浮き彫りにしたんだ。

雰囲気もタイミングも我ながらバッチリだなぁって後で思ったけど、まさかここまで重大な効果を発揮してたなんて!
普段はいつも通りの平静を装いつつ、実はしっかりと意識してくれてたんだ。

まさにクーデレ! ありだと思います!!

「じ、じゃあもらうね・・・あむ」

狂喜と興奮で顔が熱くなっていくのを感じながら、ミートボールを口に入れた。
突出した味ではなかったけれど、とても美味しく感じた。

「あの・・・どうですか?」
「うん、すっごく美味しい!」
「そうですか、よかった・・」

ホッとにしたように笑うマリア。
うぅおぉーーーーー!! 萌えーーー!!

マリアかわいいよマリア!
抱きしめたい! 首筋に顔を埋めたい! クンカクンカしたい!

変態? 自重? そんなものはクソくらえだ!
人類は欲望という偉大なる本能を得た! それをまっとうせずして何が人か!!

レズや百合の何が悪い! エロイんだからそれでいいじゃん!

(でもまぁこのムード壊したくないから今は襲わないけどねぇ)

そう、今は。
決戦は今夜、もちろんあたしの部屋で。

いや、万が一の邪魔に備えてホテルでも取る?
もしジャンヌにでも知れたらただ事では済まない、下手をすれば氷漬けにされる。

あたしのカンだとジャンヌって潜在的にヤンデレの才能あるからねぇ。
ショックのあまりマリアを殺して自分も死ぬとか言い出したら面倒だし。

とか色々と今日のプランを考えている時、昼休み終了五分前のチャイムが鳴る。
今はこれくらいにしておこう。

「そろそろ行こっか、マリアの教室ちょっと遠いもんね」

そう言ってお弁当をしまって立ち上がる。
名残惜しいけど、それ以上に幸福感があたしの胸を満たしているから大丈夫。

想いが叶う日は近い、大好きな人と結ばれるのはもうすぐそこだ。
それだけマリアの目はいつもと違っていて、今までにない感情が込められていると感じたから。

寝言と言われても知ったことじゃない、そう感じられた事こそが幸せなんだから。
意気揚々と歩き出そうとしたあたし、けれど、腕を掴まれて踏み出すことは出来なかった。

「え?」

誰がと思うけど、答えは一つしかない。
ここにいたのは二人だけで、あたし以外にはマリアしかいないんだから。

振り返ってみれば、両手でガッシリとあたしの腕を掴んで引き止めるマリア。
その顔はさっきまでの笑顔とは違って、どこか暗くて不安そうに瞳が揺れている。

「・・・嫌です」
「え・・マリア・・?」

掠れるような、耳をすましてようやく聞き取れるくらいの声。
思わずマリアって呼んじゃったけど、全く気にしていないようだった。

「もうすこし、ここにいましょう」
「でも・・・授業始まるよ?」
「・・理子は・・・私と一緒じゃ、嫌ですか?」
「うぇ・・?」

ビックリして変な声が出ちゃった。
マリアの顔が、まるで捨てられた子犬のような表情だったから。

「私は・・・もっと理子と一緒にいたいです。授業なんてどうでもいいです。もともと、ここには理子に会うために来てるんですから」
「え、そうなのっ!?」

計画に支障が出ないように備えるためだって、この前聞いた。
ボストーク号からだと距離的に無理があるからだって。

「理子に・・・その・・・キス・・されてから、私は理子のことばかり考えてました。夜もあんまり眠れなくて、理子に会いたくて、会いたくておかしくなりそうでした」
「あ・・・え・・・」

え、その・・・ちょっと・・・あれ?
そ、そんなに意識してくれてたの?

予想外過ぎるっていうか、驚愕の真実っていうか。

「でも、そんな風に全然見えなかったよ?」
「それは・・・・我慢してたんです。本当は・・すぐにでも飛びつきたくて・・・抱き締めて欲しかった」

ドクン、と。
心臓が飛び跳ねるのを感じた。

鼓動が急にうるさくなって、マリアの事がとても愛おしく感じる。
耳まで真っ赤になりながらポツポツと語っていく姿が、たまらなく愛らしくて。

体がドクドクと熱くなっていく、愛しさが溢れて止まらない。
まさか、マリアって攻略するとトロけるくらいにめっちゃデレるタイプ?

あたしとしては大歓迎なんだけど。

「こんな気持ちになったのは初めてで・・・何がなんだか分からなくなって・・・・・それでも、ただ理子に・・・私は・・」

掴んでいたあたしの手を、ゆっくりと自分の胸に当てたマリア。
マリアの鼓動が、手に直接伝わってくる。

あたしのに負けないくらいにそれはドクンドクンと脈打っていて、破裂しちゃうんじゃないかと思うくらいだった。

「この気持ちがなんなのか気付いて・・・・すごく迷いました。私達は女性同士で・・それに、私は血に汚れた人殺しだから・・」

あたしは犯罪者ではあるけれど、人を殺した事は一度もない。
武偵殺しなんて呼ばれてはいても、実際には攫っているだけで命は奪っていない。

けれど、マリアは違う。
正真正銘、幾百幾千幾万の人の命を奪っているから。

「私が触れたら理子が汚れてしまう。そう思っていましたけど・・・・・けど・・・気持ちが溢れて・・抑えれないんです」
「・・・マリア」

泣き声混じりに顔を俯かせたマリアを、あたしはそっと抱きしめる。
あの日、あたしにしてくれたように、優しく、力強く。

マリアの方が身長が上だから、抱きつくって言った方が正しいかも。

「そんなの関係ないよ。理子はね、マリアが好き。好き好き、大好き。世界中の誰より、お母様やお父様よりマリアが好きなの」
「理子・・・でも、私は・・」
「分かってるよ」

マリアが一番大切なのは、アリアと母親。
計画だって、きっと最終的にそのためになりうるもの。

ずっと大切だと思って、見てきたからこそ分かる。
マリアの一番は、いつだって家族なんだって。

「マリアにそう思ってもらえるだけで、理子は十分に幸せだよ。それに、一番を諦めるつもりもないもんね」
「え?」
「だって・・」

ヤバイ、本当に心臓が爆発しちゃいそう。
HSSのキーくんじゃあるまいし、すっごく恥ずかしいこと言おうとしてる。

「理子も、マリアの家族になれば問題ないもん」
「―――っ!」

驚いて目を見開くと同時に、ダムが決壊したように涙を流すマリア。
向こうからも強く抱きついてきて、これ以上ないくらいに密着する。

あ・・・もう死んでもいいかも・・。

「理子! 私も・・・・私も好きです! あなたの事が――――大好きなんです!」
「うん・・・理子も大好き」

幸福感が体を満たしていく。
あぁ、これが幸せなんだなぁ・・・ほんとに、生きててよかった。

「・・理子」
「マリア・・」

少しだけ体を離して、見つめ合うあたし達。
そのまま、ゆっくりと・・・互いの距離が縮んでいく。

マリアの潤んだ瞳が、そっと閉じられていく。
ぷっくりと柔らかそうな桃色の唇が美味しそうで、前の時の記憶がよみがえる。

(いただきます・・)

きっと今なら、あの時よりも幸せな気持ちになれるんだろうなって確信出来る。
そのまま、あたし達は唇を重ね――――――





「理子! おい、起きろ!」





ようとした瞬間、視界がブラックアウトした。




まるでいきなりテレビを消されたかのような喪失感。
なんで? どうして?

突然に意識が気だるさに襲われ、ゆっくりとどこかに浮上していく。
視界に光が洩れて、あたしは自分が目を閉じているのに気付く。

さっきまで確かに開けていたはずなのに。

「う・・・うーん?」
「起きたか?」
「うにゅう?」

体もどこか重く、呂律も上手く回らない。
思考にモヤがかかりつつも、あたしは周囲を見渡した。

そこはいつもの教室の風景で、さっきまでの屋上じゃなかった。
パチパチと瞬きを繰り返し、起こしたのであろう人物を見る。

少し呆れたような表情で見てくるキーくん、その腕時計が示している時間は、五間目の授業中であろう事を示している。
ラブシーンの後に寝ちゃったかな? とも思ったけど。

その時、あたしは思い出したんだ。
今日の昼休み、教室の女友達と食堂で食べた事を。

ファッションの事とか、恋愛相談とかで時間を潰した記憶がキッチリと残っていることを。
そんなあたしに、最悪の予想が頭をよぎる。

そんな、まさか・・・・勘弁してよ・・。

「・・・ゆ・・め・・?」
「ああ、随分と幸せそうな顔してたぞ。色々と危なかったから起こしたけどな」
「・・・・・・」

それを聞いた瞬間。
音を立てて、あたしの中の何かが崩れた気がした。

夢? あれ全部が夢? 妄想? 幻想? 夢想?
なんの冗談だよそれ、喧嘩売ってんの?

せめてあと十秒、いや、五秒だけでも良かったじゃん!!
もうすぐハッピーエンドだったじゃん!! マリアルート確定だっただろうがよぉーー!!!

そもそも何こいつ? 何余計なことしてくれちゃってんの?
お前はそんなキャラじゃねぇだろー!? いつものスルースキルは何処行ったんだよぉぉ!?

親切? なにそれ美味しいの? がテメェの性分だろうがぁ! なに中途半端な優しさ発動してんだよこネクラぁぁぁーーー!!!
よりにもよって最悪なタイミングで発現してんじゃねーよ昼行灯がぁぁぁ!!

衝動の赴くまま、あたしは机によじ登って仁王立ちする。
周りが何か騒いでいようが知ったことじゃない。

今は・・・こいつをぉぉ・・・。

「お、おい・・なにを」
「キィーーンーーージィィィィ!!」

思いっきり跳躍して襲いかかる。
この、憎たらしいハーレム主人公ごときがぁぁ!!

あたしの楽園をぉぉ、返せぇぇぇーーーーー!!!

「死ぃぃねぇぇぇぇぇーー!!!」
「ぎゃああああぁぁぁあぁーーーー!!!」

-50-
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