八十話
「一つ聞かせてくれ。お前は俺を殺す気か?」
「とんでもない」
さくっと出された問いにさらっと答え、里香は周囲の警戒をしていた。
現在、里香とキンジの二人は人気のない場所を選びながら移動し、なんとか病院の外への脱出を試みていた。
さすがに人目のあるところで交戦するわけにもいかず、しかし向こうは理性を殆ど失っていると考えていい。
まずはここから離脱し、広範囲にわたって人がいない場所に移動することが急務である。
「もうちょっと言い方ってもんがあっただろ・・・・・なんでよりによって・・・・」
「それについては謝罪します。ちゃんと私からした事を言っておくべきでした」
「・・・・・いや、そうじゃなくてだな」
思わずフラッシュバックをおこし、赤面するキンジ。
当時の感触と温もりは、二年経った今でも全く色褪せてはいなかった。
溢れる羞恥心を気合で乗り越え、辺りを確認しながら進んでいく。
理子に見つかったことにより、こちらが一階にいるのは敵側に知れ渡ったと考えるべきだ。
当然出入口は固められているだろうと判断し、二人は二階を目指して歩いていた。
「ともかく、今は四人を安全に、かつ一度に無力化出来る状況を作らなければなりません。特に警戒しなければいけないのは理子と姉さんですが、個々に接触した程度なら発砲前に阻止出来ます」
「それは・・・・まぁお前なら出来るんだろうな」
なにせイ・ウーのナンバー2である。
シャーロック・ホームズの右腕にして、あのブラドやパトラでさえ歯が立たない。
Sランク武偵数人がかりでさえ秒殺という逸話まであるのだから、これくらいの事態はさして苦でもないはずだ。
しかし、今回はキンジを五体満足で生還させるという大前提が存在する。
護衛がひたすら強ければ絶対安心、とはいかないのが『護る』という事の難しさである。
「とはいえ、やはり万事に備えておくにこしたことはありません。なので、これを」
「? なんだ?」
不意に差し出されたそれを、キンジは特に考えるでもなく受け取った。
何かの紙だと思われたそれは、手にとった感触から写真なのだと理解する。
眉を寄せながら、何気なく裏返した。
その時、キンジはふと妙な既視感に囚われたのだった。
視界がスローモーションになり、ゆっくりと裏返っていく謎の写真。
少しづつ見えてくるそれには、どうやら人物が写っているようだ。
―――なんか・・・こんな事が・・・前にもあったような?
どれだけ引っかかるものがあっても、結局は見てみないと始まらない。
故に、キンジは写真を完全に裏返し・・・・
「っっ!!!?!?」
直後に、思った。
―――あぁ・・・やられた・・・
と。
『こちらキラー1。今のところ異常なし』
『キラー2。今は三階だけど、見当たらないわ』
『キラー4だ。現在四階、こちらも同様だ』
「キラー3も同じだよ。やっぱり二階が当たりだったかぁ」
携帯片手にそう呟いた理子は、さきほどキンジと遭遇した場所から動いていなかった。
里香がキンジと合流した時点で単独での追跡は無謀なため、退路の封鎖、つまり出入口の見張りを優先したのだ。
以前紅鳴館で用いた機能でシーゲル、アリア、ジャンヌと連携を図り、こうしてそれぞれ分担して操作に臨んでいる。
ちなみにキラー1―――シーゲルは屋上へ続く扉の前で警戒している。
里香相手に読み合いで勝てるとは微塵も思っていない四人は、とにかくしらみ潰しに探す事を選んだ。
キンジというウイークポイントを抱えている今、そうそう素早い行動はできまい。
そう思っていた矢先の事だった。
『っ! こちらキラー1、反応ありだ! 場所は・・・・一階東階段付近』
シーゲルからきた報告に、一同の目に炎が灯る。
彼の能力の応用性は、なにも戦闘方面だけに限ったものではない。
今回の場合、強化したのはいわゆる第六感。
もっと言えば感覚の鋭敏化、特に気配察知の方面に重きを置いている。
強者と相対したときに感じる圧力、恐怖、緊張。
そう言った本能的な機能を強化することで、擬似的なレーダーのごとき効力を発揮するのだ。
とはいえ、そんなシーゲルの能力の使い道を当然読んでいるであろう里香に対しては、それほど効果の期待出来るものではない。
気配を殺す、なんて芸当は理子やジャンヌにだってこなせるものであり、ならば里香が出来ない道理はない。
なので、この場合の対象はキンジに限定される。
「くふふ。それじゃあたっぷりと遊んであげなきゃね」
ニヤリと口元を歪めつつ、理子はその場から離れる。
キンジだけを狙えばそれでいい理子達は、対象さえ見つかれば延々と追うだけだ。
他三人もそれに続くように、東階段へと集結する。
狭められる包囲網、接触はもはや避けられない事態だった。
しかし、このままでは二番煎じな展開になることは目に見えている。
この四人の力を結集させたとしても、里香突破をすることは至難の極み。
それどころか、視界に入った瞬間に拘束されて身動きがとれなくなる可能性が高い。
故に、狙うべきは時間差攻撃以外にない。
問題は、その先人を誰が担うかという事なのだが。
『僕がいこう。概要を知られているとはいえ、この中では一番彼女の意表を突ける望みがある』
さしたる迷いもなくそう言ったのはシーゲルだった。
たしかに都合数年ごしの、しかも再会するまで存在そのものからして忘れられていた彼である。
他三人と違って手の内の全てを知られてはいない人間こそ、この場の一番槍に相応しいだろう。
幸い、里香とキンジがいる場所の付近には人気がほぼ無いに等しい。
さすがに銃声は不味いだろうが、ある程度なら暴れても問題はなさそうだ。
段取りを決めて通信を切り、四人は決戦の場へと歩を進めていく。
その胸に宿るのは、怒りと憎悪と、極大の嫉妬。
性別を越え、立場を越えて、たった一つの目的のために団結する。
開戦の時は、もうすぐそこまで迫っていた。
「・・・・・ふぅ」
時間にしてみれば僅か数秒。
石のように硬直していた体を動かし、キンジは息をはいた。
それは良く言えば悠々とした、悪く言えば不気味なくらいに落ち着いた様子だった。
「今回は人命優先の措置ということで、大目に見てもらえると助かります」
「・・・・そうだね。たしかに感謝するべきだ」
顔を上げてそう言ったキンジは、すでにいつもの彼ではない。
まんまと里香の策にはまり、HSS――――ヒステリアモードへと変わっていた。
「一度だけじゃなくて二度も使うなんて、イタズラっ子なのは相変わらずだね。女性がこんなものを持ち歩くものじゃないよ」
死んだ魚のような目をした根暗顔・・・・ではない。
自身に満ち溢れ、それだけで幾人もの乙女達を籠絡してしまいそうな甘い微笑みでもって、キンジは語る。
内から滲み出る風格が、先ほどまで存在した二人の差がかなりのレベルまで埋まった事を如実に表していた。
少なくと、今この場で肩を並べる程度には遜色ないと誰もが言えるほどに。
「不足の事態に常に備えるのは、武偵として基本でしょう。当分の私にとって最も起きて欲しくないイレジュラーは、キンジさんか姉さん、どちらかの死亡に他なりません」
イ・ウーをたった二人で壊滅に追いやった。
例えそれが全て最強の名探偵とその右腕のシナリオだったとしても、世界がそれを知る術はない。
遠山キンジと神崎・H・アリアは間違いなく、ただの武偵と一笑に付せるような存在ではないと認識されたはずだ。
引き込みか、傍観か、観察か、それとも排除か。
いずれにせよ世界中にあまねく結社が動き出し、近い将来戦火は引き起こされる。
その過程で、あるいはそれよりも前に、二人に降りかかる予想外の事態を、マリアは常に警戒している。
自身の『条理予知』が、戦闘面以外での完成度が心許ないのを誰より理解しているからこそ、十二分な用意は怠らない。
二人が対処出来る範囲ならば手は出さないが、いつでもそんな都合のいい相手が来てくれるほど、これからの戦いは甘くない。
とはいえ、さすがに今回のような事態は――少なくともマリアにとっては――異例に過ぎるものだ。
殺すわけにはいかない相手、いまいちよく分からない動機。
敵対勢力を問答無用で殲滅するための備えを、まさかあの四人に使うわけにもいかないだろう。
「なので、とりあえずHSS状態にさせてもらいました。あの四人の目が、どうにも冗談に見えなかったもので」
「そうだろうね。でもまぁ、こういう事は障害があればあるほど燃えるものだろう?」
「・・・・?」
こういう事、の意味を読み取れない里香が首を傾げた。
その様子にキンジが含み笑いをして、ついでにウィンクまでしてみせた。
「マリアは罪作りな子だ。それでも憎めないところが、なによりの魅力だけどね」
「・・・・そろそろ移動しましょう。私の予想が正しければ、こちらの位置はもう知られたはずです」
一拍おいて、マリアは流すことにした。
強引な話題転換に、キンジは笑顔のまま黙って肩を竦めてみせた。
階段にたどり着き、一階と二階の間の踊り場まで来て、二人は立ち止まった。
二人の研ぎ澄まされた感覚が、こちらに向かってくる複数の気配を感じ取ったからだ。
「順当に考えて、先頭はシーゲルでしょう。最後尾はジャンヌですが、姉さんと理子は上下から挟撃してくるかと」
一階の方を一瞥しながら、マリアは淡々と述べる。
近付くにつれて、ねばつくような殺気がひしひしと伝わってくる。
キンジに口元が僅かに引き攣り、思わずいつもベレッタを納めている場所へと手が動きそうになった。
しかし当然、今はそこに愛銃の姿はない。
もちろんバタフライナイフも持っておらず、防弾制服さえ着ていないのだ。
あるのは身一つ、そしてかつてのパートナー。
「・・・・いや、十分だ」
そう思い直し、余裕を取り戻すキンジ。
少なくとも、今この場でマリアは自身を生かすために動いてくれるのだろうと。
というか、そもそもこんな時にこそ一緒に戦うはずのパートナーが、今回の敵サイドである。
虚しいというか悲しいというか、それに負けず劣らずマリアが横にいることへの安堵があるのだから、心中複雑の極みである。
まぁそれでも、一から十まで任せようなんて気は当然無い。
「キンジさん、これを。何もないよりはマシでしょう」
そう言ってマリアが差し出したのは、刃渡り二十センチほどのサバイバルナイフ。
いったいどこから取り出したのかと一瞬だけ思ったが、たしかに完全非武装よりは遥かにマシと、追求はしなかった。
感触の違いに違和感はあるが、『銃弾斬り』をする分には差し支えない。
発砲させないことが大切だし、なによりそっちはほぼマリアが対応してしまうんだろうが。
そうだとしても、最低限足手纏いにはならずにすみそうだと安心する。
そしていよいよ、絡みつく殺意が質量すら伴ってキンジに襲いかかる。
ファーストアタックは・・・・・上から。
煌めく金髪に、エメラルドのごとき瞳。
キンジは初対面だが、武偵校では良い意味でも悪い意味でも時の人である、シーゲル・ランディだった。
上階からやってきたらしく、キンジとマリアからすれば視界の横から飛び出してきた構図だ。
しかし、彼が足を付けているのは床ではなく・・・天井だった。
「なっ!」
あまりに奇天烈な登場により、思わずキンジは声を上げた。
交差する視線は、たった刹那の一瞬でさえ二人の何かを相互に伝えるに足りた。
―――敵。
ただの一言。
言葉というより、意思というより、もはやそれはただの認識。
どうしてと問われれば答えに詰まるが、とにかくこの瞬間、キンジとシーゲルの関係性はこの場だけに留まらない敵同士という枠に収まった。
即座に、手にしたモーゼルをキンジに向けたシーゲル。
体が自由落下を始めているあたり、どうやら宙を飛んだり足を天井に吸い付けているわけではないらしい。
身構えるキンジだったが、それより早く対処にたのはやはりマリアだった。
右手を持ち上げ、人差し指をクイッと折り曲げる。
たった、それだけ。
たったそれだけのことで、モーゼルが宙を舞った。
まるで何かに弾かれたように、あるいは何者かに殴り飛ばされたかのように。
とにかく何の意味があったのかも分からない動作で、原因不明の事態が引き起こった。
とはいえ、それはあくまで一般人が見たらの話。
やった本人は勿論のこと、シーゲル、そしてキンジまでもが事態を素早く理解していた。
(なるほど。最初からそうだって分かった上で見なきゃ分からないな・・・)
HSSによって高められた動体視力を集中し、空中で踊る銀糸を見つめて、キンジはそう内心で呟いた。
イ・ウー戦の終幕後、兄である金一から伝えられたマリアの戦術。
チラリと横目で見れば、マリアの手には見慣れないグローブがいつの間にか装着されていた。
その存在を認知した上で、なおかつ常人を遥かに越えた視力をもって見なければ捉えられない、人伝に聞くだけで恐ろしい武器。
常軌を逸した捕縛力と切断力を両立させながら、使い手の意思に合わせて縦横無尽に動き回る。
理子と同系統の、しかし桁違いの脅威を持つ色金武装。
今までマリアによって引き起こされた数多の不可思議な現象のカラクリを理解していくと同時に、こんな恐ろしい組み合わせは世界を探しても中々ないだろうと、キンジは冷や汗を流す。
そんな思考も、モーゼルが音を立てて床に落ちるまでの数瞬の出来事。
銃を弾かれたシーゲルは、驚くどころか当然の事といったふうに冷静そのもの。
左手に持っていた剣を両手で握り締め、まだ足が届く距離にあった天井を思いっきり蹴った。
凄まじい勢いでキンジに迫るシーゲル。
ナイフを構えて迎撃の姿勢を見せるキンジだが、瞬時に自分の不利を悟った。
いや、もともと装備からして不利なのは既知の事だが。
自身に向かってくる話題の転校生。
それが、Sランクというには少しばかり無理のある実力であることを悟ったのだ。
アリアよりも、理子よりも、ジャンヌよりも強い。
かと言ってブラドやパトラのような人外じみた脅威を感じるでもない、それらの中間。
そして、さきほどサイトの掲示板で見た情報の数々。
HSSの直感と洞察力をもって、キンジはシーゲルの正体を看破した。
(だとしたら・・・・不味いな)
十中八九超能力者であろう相手を前に、キンジは舌打ちしたい気分になった。
ナイフ一本で戦うには骨が折れるなんてレベルではない。
だから、これは仕方のないことだろう。
シーゲルが天井を蹴ったのとほぼ同時に、マリアがキンジの正面に陣取ったのは。
適材適所。
先陣は両陣営とも、互いの最高戦力で。
もっとも、その最高戦力の差は悲しい程に隔たっているのだが。
「はっ!」
なんの気負いも躊躇いも遠慮もなく、シーゲルはマリアに向かって剣を振り下ろした。
この程度は何の問題にもならない。そう確信しているからこその一撃。
紙一重でも避けて、それを突破の糸口に出来れば、程度に振るわれた一閃だ。
・・・しかし、そんなシーゲルの思考すら容易く読んでいるマリア。
迫る刃に対し、やったのはただ、片手をその軌道上に掲げるだけだった。
―――ガキィィンッ!―――
「なっ!?」
微かに飛び散る火花。
驚愕するシーゲルと、同じく驚きながらも状況を瞬時に理解するキンジ。
やったこと事態は、さほどビックリするものではない。
右手の五指を使い、マリアはシーゲルの剣を掴んで見せた。
真剣白刃取りの片手版。
キンジやシャーロックが使った技で、マリアなら出来てもおかしくない。
しかしそれより重要なのは、シーゲルの斬撃が大上段からの振り下ろしだった事だ。
単純な太刀筋なだけに力も大きく、空中であるからこそシーゲルの体重、落下速度、さらには天井を蹴った時の勢いも加わっていたはずだ。
それを、いくら強くてもけっして筋力が強いわけでもないマリアが真正面から受け止めたのだ。
だがキンジは・・・・・いや、キンジだからこそ理解が及んだのだ。
普通に見ただけならまず分からないだ、今のマリアの体制は少しばかり不自然だ。
視認するのが困難なほど微妙に落とされた腰に、剣を掴んでいる右手とは逆側の、左半身を後ろに引いて、両足も心持ち広く開かれている。
カラクリが分からない奴から見れば、剣を受け止めて体勢を崩したように見えるが、それは違う。
マリアがやったのは、ごくごく単純な衝撃の緩和である。
刃を掴んだ右手から、肘、肩、背中、腰、膝、足首、そして足の指先に至るまで。
全ての間接を、剣を受け止めると同時に、全てを同調させながらほんの数ミリだけ下に動かす。
そうすると、剣から放たれた凄まじい運動・位置エネルギーが、それらを伝わって一部の漏れもなく床へと逃がされるのだ。
緩和というより、完璧な伝達だ。
これは、技術的にはキンジの『桜花』の正反対。
関節の反射運動によってインパクトを生み出すのではなく、綿密な計算によってインパクトを流す。
これならば、例え相手が筋肉隆々の大男でも受け止めきれるだろう。
筋力の差を十二分に補える高等技術だ。
「長く会っていないから判断が緩みましたね。ついさっきの注意に加え、相手の実力を見抜く目も今後の課題ですっ」
「うっ!」
言葉と共に、マリアは一歩踏み込んでシーゲルの胸倉を左手で掴んだ。
シーゲルが驚いて呻いた直後、マリアは思い切り体を反時計回りに回転させる。
空中にいたシーゲルに逆らう術はなく、なされるがままに宙を舞う。
「まずは一人目、ですっ」
そうして、シーゲルを一階の方へと力の限り放り投げた。
「うわぁー!!」
頭から突っ込む体制のまま投げられ、思わず声を上げてしまう。
そして、その先にはちょうど曲がり角から姿を現した新手の姿が―――――
「え、ちょ! 邪魔!」
―――ズゲシッ!!―――
「げふぅ!!」
驚きつつも咄嗟に反応した理子が、顔面に遠慮のないローキックを繰り出した。
あまりにも迷いのない一撃を、シーゲルは防ぐ事は出来なかった。
哀れなほど不様に廊下を転がっていくシーゲル。
それに目もくれず、理子はマリアとキンジを見上げてくる。
正確には、憎悪と殺意に満ち満ちた目でキンジだけを睨んでいる。
ちなみに、表情だけは天使のような笑顔で。
「やっほーキーくーん。遊んでくれないとぉー、理子りん怒っちゃうぞぉ〜?」
今まで感じたことのないプレッシャーに、一歩後退したくなったキンジ。
そんなキンジに、更なる脅威が迫る。
「キンジさん。一応被害者の意思を尊重して訪ねますが、どちらの相手がマシですか?」
「? それはどういう・・・い・・・・み・・・」
問いかけに対する疑問は、最後まで発せられる事はなかった。
視界の隅、具体的に言えば左上、つまりは二階。
理子とは違う、文字位通り赤鬼のごとき修羅をその目に捉えたからだ。
ギギギ、と錆びた機械のような動きで、キンジは視線を動かす。
そこには―――――
「キーーーンーーージィィィーーー! 風穴風穴風穴風穴っ!! いやもうそれだけじゃ足りないわっ! あんたを風穴にしてやるんだからぁっ!!」
ギリギリと奥歯を軋ませ、すでに抜き放ったガバメントをキンジに向ける赤鬼・・・・もといアリア。
「理子や白雪だけじゃなくっ・・・・よりにもよって! マリアに手を出してたなんてっ! 最低最悪の発情犬! 二度とそんな事出来ないようにしてやるわ! きょきょっ、去勢よ! 風穴去勢!」
今にもバカスカと撃ち始めそうなアリアを見て、キンジは思った。
(どっちを相手にしても死にそうなんだが・・・・)