小説『緋弾のアリア ―交わらぬ姉妹の道―』
作者:Pety()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

八十九話










・・・・・・いったい、何がどうしてこうなったのか。
珍しくも困惑に近しい状態で、里香は己に問いかける。

レキのプロポーズ宣言の翌日、彼女はいつものように衛生科の課題を消化していた。
夏休みも大詰めとなり、ほぼ全て処理してはいる。残っているのは継続的な内容のものだけで、作業時間そのものは三十分とない。

手早く今日の分を片付けて食堂へ向かおうとしていたその時、彼女は訪れた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

無言で向かい合う人物を真正面から見据えながら、里香は素早く情報を整理していく。
表面上は丁寧なお願いでありながら、問答無用な空気をぶつけて自分をここまで引っ張ってきた人物。

人気のない校舎裏という前時代的な密談は、しかし不思議な事に険悪な雰囲気どころか緊張のきの字も見当たらないほどに穏便だった。
里香の背後から二人を撫でるように吹き抜けた風が、その艷やかな黒髪をなびかせた。

・・・・なんとなく、キンジさんが原因のような気がするのは考え過ぎでしょうか。
推理するより先に頭に浮かんできた元パートナーの顔に、里香は不意義な確信を得つつ口を開くことにした。

「何か私に御用でしょうか――――星伽先輩」

キンジの前にいる時のような可愛らしい幼馴染みではなく、研ぎ抜かれた刃のように鋭く凛とした佇まいの彼女――――星伽白雪は、まるで里香が問うのを待っていたかのように躊躇なく応えた。

「黒村里香さん・・・・・・・いえ、神崎・H・マリアさん。あなたに、お聞きしたいことがあって来ました」

場の雰囲気が一瞬で緊張を帯びたのは、白雪が気を張ったからではない。
里香から発せられる空気に揺らぎが走り、警戒の色が濃くなったからだ。

至近距離で見ている白雪でさえ視認できないほど緩やかに、里香の肩が下がり、全身が脱力していく。
それはカナと似て非なる無形の構えであり、その気になれば十分の一秒以下で相手の命を刈り取る姿勢でもあった。

別に、正体を知られた程度でどうこうする気はない。
いかに相手があの(・・)星伽の巫女とはいえ、武装もろくにしていない現時点ではさほどの脅威ではないからだ。

白雪なりの戦意が無いという意思表示なのだろうが、些か浅慮と言わざるをえない。
里香と・・・・・マリアと白雪はボストーク号での対面が初であり、病院での一件を除けば会話らしい会話などしたことがない。

つまり互いの事を何も知らない――といってもマリアは白雪の人柄を十二分に把握しているが――ような関係のはずで、にも関わらず白雪は非武装でマリアをここに連れてきたということ。
よく人となりを把握しているならばともかく、ほとんど初対面に等しい相手にそんな危険な接触を図るなんて、とてもAランク武偵にしてSSRの期待の星かつ東京武偵校の生徒会長である彼女の行動とは思えなかった。

「・・・・・その前に、どこで私のことを?」

たとえ一瞬でも、とぼけようなどとは思わなかった。
白雪の目を見れば里香の正体に絶対の確信を抱いているのは明白だったし、どの道そこまで長期間隠せるとは思ってなかった。

今重要なのは、どこから漏れた情報なのかの詮索・・・・・・というより、一応の確認か。

「キンちゃんと粉雪が、あなたに降りた『託』の話をしていたのを偶然聞いてしまったんです。そのあとはキンちゃんを問い詰めて教えてもらいました」
「・・・・・やはり」

思わず溜め息をついて、マリアは構えを解いた。
なんて不用心なんだと呆れたくなるが、そこに至るまでの経緯が透けて見えるから救いがない。

(どうせ、私が破滅するという点でムキになって否定でもしたのでしょう。粉雪さんと売り言葉に買い言葉で、周りが見えなくなった、と)

『条理予知』などなくとも一瞬で想像できる。
聞き流してしまえばいいものを、昔から納得できない事態が起こると意固地になるきらいがある。

普段は彼なりに思考を巡らせようと努力する筈が、こうなると視野狭窄になりがちだ。
事実、こうして秘密を露呈する羽目になっているのがいい証拠だろう。

「それで、聞きたいこととは?」
「・・・・・・あなたは、キンちゃんの敵ですか? それとも味方ですか?」

この時初めて、白雪がほんの微かに視線を強くしてきた。
里香の返答いかんによっては今すぐにでも飛びかかって来る。そんな想像を掻き立てられる

しかし、

「敵ですよ」

そんな雰囲気など微塵も気にすることなく、里香は即答していた。
なんの気後れも迷いも見せなかったその言葉に、逆に白雪が気勢を削がれる形になった。

「私とキンジさんが歩く道は、決して相入れる事のないものです。彼が(武偵)であり続ける限り、私が(犯罪者)でいる限り。この先ずっと、味方にはなり得ません」

それは、今までと同じ・・・・・いや、今まで以上に感情の抜け落ちた、まるで機械音声でも聞いているかのような声だった。
耳に入れるだけで体が底冷えし、無意識に震えてしまう。

思わずといった感じに一歩足を引いて、戦闘態勢へと構えてしまう白雪。
そんな彼女を見ても、里香はなんら反応を示さなかったが・・・・・・・

「―――あまり、ご無理はなさらないほうがいいですよ」

里香はそっと、白雪の手を(・・・・・)包み込むように(・・・・・・・)握った(・・・)

「え・・・・・」

一瞬、白雪は何が起こったのか理解できなかった。
先程までの空気が消え、こころなしか優しく微笑んでいる里香。

手を握られた事も驚いたし、そこから伝わる温度に妙な安心感を得る自分自身にも疑問はある。
・・・・・だが、驚くべきところはそこじゃない。

―――いったい、いつの間に(・・・・・)距離を詰め(・・・・・)られていた(・・・・・)

そばで対峙していたとはいえ、二人の距離は三メートル程度はあったはずだ。
たしかに消そうと思えば一秒とかからず詰められる距離だが、里香の接近はそんなレベルの現象ではなかった。

一瞬以下の時間でテレポートでも使ったかのような、距離を詰める前と後でコマを繋ぎ合わせたかのような。
実質Sランクの白雪をして、気が付いたら目の前にいたという、実に奇怪な事象が起きていた。

そして、高レベルの超能力者(ステルス)でもある白雪だからこそわかる。里香はそう言った類の力を使っていないと。
さらなる思考を巡らせようとした白雪だったが、

「今の状況で私を相手にして、結果のわからない人ではないでしょう」

これもまた、いつの間にコンタクトを外していたのか、飲み込まれそうな深い碧眼が白雪を射抜いていた。
腕を掴まれただけで、決して体を拘束されているわけじゃない。にも関わらず、白雪は動けないでいた。

「私は、少なくとも校内で彼に危害をくわえるつもりはありません。そしてこれからも、しばらく猶予はあるでしょう」
「猶予、って・・・・・?」

この上なく危険な状態なはずなのに、不思議と冷や汗が流れることはない。
真正面から見返してそう問えば、里香は淀みなく答えてくる。

「私と彼が相対する時と場は、とうに決まっています。キンジさんと、そして姉さんが今よりもずっと強くなったその果てに―――――私は二人の前へと赴きます」

朗々と語られるセリフは、まるで物語の脚本でも読み上げているかのような印象を抱かせた。
そうなることが当たり前で、自然の摂理だとでも言うように。起こらなければならない必然のように。

「だから今、ここで問題を起こすつもりはありません。生徒会長に何かあったとなれば、単なる騒ぎでは済まないですから」
「・・・・・・そう、ですか」

確信は、できない。
里香の目は嘘をついてるものではなかったが、信用できるようなものでもなかった。

終始何を考えているかわからない目は、平気で人を騙す事も、真摯に約束を守る事も、どちらでもやりそうであったからだ。
だからこそ、戦う備えもない現状では引くしかなかった。

白雪の考えを見透かしたかのように、里香はふっと笑う。
なんとなくそれが気恥しくて、白雪は少し熱くなった顔を背けた。

「健気な行動は好感が持てますが、少しばかり過保護な気もしますね。まあそれも、好きな人を想う故なのでしょうか?」
「はうっ!」

不意に囁かれた言葉に、今度こそ白雪の顔面が沸騰した。
超高速で振り向いた視界が捉えたのは、微笑ましげな目で自分を見る里香。

何故今日に限ってよく笑うのか、なんて疑問は軽く吹き飛ぶほどに動揺する。

「なな、なんで知ってるんですか!?」
「・・・・・・・それはまあ、大した付き合いもない私に勘づかれる程にあなたの態度が露骨だから、としか」
「うぐっ」

胸を矢で貫かれたかのように、白雪は身を仰け反らせた。
そのまま地面に崩れ落ちて両手をつきたい衝動を堪え、項垂れる程度にまでとどめた。

そう、たしかに露骨すぎるほどに露骨・・・・・・なはずなのだ。
本人とてそれは理解しているし、むしろ積極的に露骨になっている――――というのに。

それでも気付かない、気付いてくれない超弩級の鈍感野郎なのだ、彼女の想い人は。
―――古今、物語りで幼馴染みキャラが想いを伝えられないのは、その立場に甘えてアプローチを怠るからだと相場が決まっている。

そのくせ恋心の隠蔽は対象以外には疎かにしがちで、第三者にあれこれといらぬ知恵を与えられるから空回りするのだ。
その際、第三者は恋愛経験もないわりに物知り顔で口を挟みまくり、当人の恋心を見破れたのは自分が鋭いからだと十中八九勘違いをしている。

・・・・・・・などと、聞いてもいないのにそんな考察を永遠と聞かされた時の事を、里香はふと思い出していた。
語り人は言うまでもない。

(・・・・・まあ、彼女にはそれが当て嵌らない。いえ、当て嵌らないからこそ面倒なのでしょうね)

これほど献身的に愛情表現を続ける人も希少であろうに、当の幸せ者はそれを全く理解できていない。
恋愛ごとに関心のない里香でさえ同情を寄せる程度には、白雪の現状は不憫と言えよう。

だからといわけではないが――――

「協力はできませんが、応援はしますよ。最終的に、選ぶのはキンジさんなのですから」
「そっ・・・・・・・そうですよね。そう、そう・・・・選ぶのはキンちゃんなんだから。泥棒猫なんかに・・・・・」

さすがと思えばいいのか、未熟だと思えばいいのか、白雪は自分の世界に入っていった。
里香に対する警戒が呆れるほどに霧散しているあたり、まだまだ経験が足りないと言うことだ。

最後にもう一度笑ってから、里香はそっと白雪の横を通り過ぎて歩い始める。
―――白雪が元の世界に戻ってきたのは、里香が去ってから二十分後の事だった。















・・・・・・・うん、なんだこれ。
誰もない部屋の中で、ついでにいえば玄関で、俺はそう誰かに問わずにはいられない。

今は8月25日。粉雪は昨日・・・・・・まあ色々あったが無事に帰っていったし、白雪はどっかの町の神社に行くと言って今はいない。アリアも、ここしばらくは連絡すら取れていない。
つまり俺は完全な一人きりだったわけだ。

残りの単位をどうしようかとか、そういや里香が何かしてみるとか言ってなかったっけとか色々考えていた俺の耳に、来訪者を告げるチャイムが聞こえた。
しかし、ドアノブを回そうかという直前、俺の脳裏に妙な閃きというか予感というか、そんな感じの何かが走り抜けた。

それに従って、まずはドアスコープで相手を確認しようとしたら――――奴らはいた。

「・・・・・ねえちょっと、さっさと消えてくんない? キーくんに依頼渡すの理子の役目なんだけど」
「ふっ、もう忘れてしまったのかな? 里香は遠山に選ばせようと言ったんだ、君にどうこう言われて引き下がる筋合いはないよ」
「キーくんのこと大して知りもしないくせに、ちょうどいい依頼なんて探せたんだぁ? どうせ見せた瞬間に無理って突き返されるのがオチなのにね」
「君こそ、知っているつもりで勘違いするのが得意だろう? 里香の初めては自分だと思い込んでいたくせに」
「あ゛ぁ?」
「何だい?」

・・・・・・・・・・・・居留守決め込んでいいすか?
この扉は防弾防音に優れた、それなりにいい値段がするものだ。(住人達によって幾度となく破壊される悲劇を繰り返しているが)

したがって廊下の話し合いくらいはほぼ完全に遮断する代物で、今の一連の会話は俺が読唇術で読み取った結果だ。
正直、読まなきゃよかったと深く後悔している。

なんなんだよお前ら何で人んちの玄関先で殺気全開で睨み合ってんだよ他所行けよこんちくしょう。
なんて、埒もない事を考えつつ二人を観察していたら・・・・・・・・・

「おい遠山、さっさと開けたまえ」
「そこいるのはわかってるんだよキーくーん。理子とお話しーましょー」

いつの間にか、ドアスコープごしに二人と―――――ランディと理子の二人と目が合っているじゃねーか。
さすがイ・ウーの超人さん方。たかだかEランクの武偵の気配殺しなんて見破るのは容易いってことかよチクショウ。

無言で鍵を開け、視線も合わさずに扉を開けた。
その瞬間、なんの遠慮もなしに上がり込んで来る二人。おいこら、ランディはちゃんと靴脱げよ。この数週間なにやってたんだお前は。

「いやーそれにしてもこぉんなギリッギリで単位不足なんて、さっすがキーくんというか、落ちこぼれは大変というか」
「むしろ依頼完了の確認もせずに過ごすその精神に脱帽するよ。武偵だろうが犯罪者だろうが、とても重要な事だと思っていたんだが」
「くっ・・・・」

反論出来ねぇよ、確かに正論だよ。
つーかお前ら何か? そんな嫌味言うためだけに押しかけて来やがったのか、なんて性根の腐った奴らだ。

「・・・・・・何しに来たんだよ」

胡乱に問う俺の心情を把握してくれたわけじゃないだろうが、二人はあっさりと本題に入ってくれた。

「ふふーん。実はねぇ、理子りんがお困りのキーくんのために依頼を持ってきてあげたのだぁ!」
「何!?」

ほぼ反射的に食いついた俺は悪くない。断じて悪くない。
今の俺にとってまさに渡りに船。ああ、今だけなら理子が聖母に見える気がするぞ。

「急くな遠山。どうせ彼女の依頼など無理難題であることは明白なのだから、代わりに僕が持ってきた依頼を受けるといい」
「まじかよ!」

一気に二つも救いがもたらされるなんて、今日は一体どうしたというんだ。
持ってきた張本人達が何やら互いを射殺さんばかりの視線で睨み合っているが、そこは置いておこう。

とりあえず差し出された理子の携帯と、ランディが机に置いた封筒を手に取った。
まず、理子の携帯にはネットのサイトが表示されていて、どうやら緊急依頼の貼り出し一覧が書かれていた。

東京武偵校からの依頼で、何でもサッカー部員全員を停学処分にしたため、全国高校サッカーCSとやらの二次予選に出るメンバーがいないらしい。つまりは代理選手の募集ってことだ。
そんでもって――――

(勝てば1.2単位・・・・・負けても0.6単位だって!?)

思わず叫びそうになったぞ。
俺の不足単位が0.7単位だから、負けてもかなり削れる事になる。

よしこれにしよう! と言いたいのは山々だったが、一応ランディが持ってきたのも見ておかないとな。
個人的にあまり好きになれない態度だが、もしかしたら理子以上に優良物件を提供してくれるかもしれない。

この際、なんでこいつらが手を貸してくれるんだ、なんて疑問は隅に追いやろう。
きっと里香が手を回してくれた結果だろうし、むしろそうとしか考えられないしな。

近い内に何か礼をしないと、と思いつつ、俺は封筒を開けて中身を見た。
そこに記された内容は―――――

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・おい、ランディ」
「ん、なんだい遠山。あまりの感動に打ち震えたのかな? まあ礼には及ばない、これも我が女神のためなれば―――」

何故だか白雪のようなトリップ状態に入ったランディだが、俺はその言葉の半分も聞いていなかった。
何度も何度も読み返し、結果として俺の目の錯覚なんかじゃないんだと確信する。

さすがに俺の様子を不思議に思ったらしい理子が、横からひょいっと顔を覗かせて書類を見た。
十秒程度、それを見て、

「―――ぶっは!」

盛大に吹き出した。

「あっはははははははは!! ちょ、なにこれ!? まじでこんなの、これ、だってっ・・・・・ぷふぅっ!」

ツバ飛ばすんじゃねぇよ汚いだろうが、と注意する間もなく理子は床を転げ回り始めた。
腹を抱えてゲラゲラと笑う様は、花も恥じらう乙女なんて形容はお世辞にもできない。

ちなみにパンツ丸見えだった。危なっ!

「な、何がそんなに可笑しいんだ峰・理子!」

ようやく帰還したらしいランディが状況に気づき、怒りで顔を赤くして理子に叫んだ。

「くひっ、くっひゃっひゃ! ひっ、ひぃっ! 息ができない! 死ぬってこれ!」
「貴様っ、僕を愚弄するか!」
「待て待て待て!」

どこからかあのデカい西洋剣を取り出したランディを慌てて止めた。
理子はわりと本気でツボに嵌ったらしく、しばらくは会話ができそうにない。

「持ってきてもらった俺が言うのもなんだが・・・・・・理子がこうなるのも、正直な話、仕方ないと思うぞ」
「なっ! 僕が用意した依頼に笑う要素があったとでも言うのか!?」
「・・・・・いや、笑う要素はないんだが・・・・」

言うのか、俺が言わなきゃならんのか?
いや、ぶっちゃけ俺も何だこれはって問いたい気分だし、もっと言えば喧嘩売ってんのかと疑いたいくらいのレベルだ。

だがランディの反応を見る限り、少なくとも真面目に見繕ってきてくれた感じは否定できない。
どうやら言葉を交えて確認しなきゃならんようだ。

「そもそもお前、これ本気で俺にやらせるつもりなのか?」
「? 当たり前だろう。でなければここに持ってきたりはしない」
「・・・・・・そうだよなぁ」

さも当然と言わんばかりに頷いているランディを他所に、俺はもう一度内容を読んで、それを口に出してみた。

「・・・・・依頼主はドイツ連邦政府。内容は要人警護。期間は四日。対象は連邦労働・社会大臣兼副首相」

・・・・・・・うん、なにこれ? 政府とか用心とか大臣とか副首相とか?
馬鹿なのお前? 脳外科紹介しようか? 知り合いなんていないけどな。

実はこの文章が丸々何かの暗号文とかそう言うんじゃないのか?

「というかそれ以前にだな、海外とかありえんだろ」
「何故だ? そういう経験も武偵には必要不可欠だろう。依頼の選り好みをしていては、武偵としての信頼を築く事なんてできないぞ」

元イ・ウーの人間のセリフかよ・・・・・・。
というか選り好みしなさすぎだろ。こちとら万年Eランクの落ちこぼれだっつうの。これ受けたらただの馬鹿だろ。

獲得単位は7単位と破格ではあるが、むしろそんなにいらんわ。
進級最低限さえ確保できれば充分なんだよ、異世界冒険の旅なんて望んじゃいないんだよ。わかる?

「さあ遠山、どちらか選ぶがいい。まあ最も、結果は火を見るより明らか―――」
「じゃあ理子ので」
「毎度ありー」
「だがな・・・・・・・・って、何故だ!?」

契約成立の握手を交わす俺と理子の間に割って入るランディ。
何故だってお前・・・・・・

「どう見ても俺がこなせるものじゃないだろうが。期間が四日じゃ後がなくなるし、そもそも7単位も必要ないしな」
「こなせないだと!? イ・ウーを神崎アリアと共に崩壊させ、教授(プロフェシオン)とも渡り合った男が何を言う!」
「いや、だからな・・・・」

そもそも俺の実力じゃないし、向こうは老い先短い瀕死状態だったし。
なにより実力で勝ちをもぎ取った訳でもなんでもない。最後の一撃にしたってギャンブル紛いのヤケクソだったんだ。

どうにも、こいつには俺の情報が詳しく伝わってないらしいな。
シャーロック・ホームズと互角に戦ったなんてトチ狂った話だけを聞いて、レベルに合わない依頼を引っ張ってきたようだ。

というか、こんなとんでもない任務を取って来れるあたり、こいつも相当なもんだな。

「とにかく、労力的にもリスク面的にも理子の依頼の方が効率が良い。悪いがこっちを受けさせてもらうよ」
「そっ、そんな・・・・・・」

ガクリ、といきなり床に崩れた。
哀愁とか絶望とか他にも色々な負の感情をかき集めて頭を垂れる様は、見ていて不憫を通り越して不気味だ。

・・・・・・つうかなんでそこまで落ち込むんだ?
俺を助けて何のメリットがあるって言うん―――――

「うおっしゃあー! これでマリアからのご褒美は理子のものだもんねぇー!!」

・・・・・・ああ、なるほど、理解した。十分すぎるほどにな。
つまり褒美を巡って競っていた、と。

何をやってんだか・・・・・と思うと同時に、また俺のせいで手間をかけたと申し訳なくなる。
こりゃ本当に何か恩返しさせてもらわんとな。

そう考えていた・・・・・まさにその時だった。

「―――その話、詳しく聞かせてくれない?」
「あ・・・・・・・」

不意に聞こえてきた絶対零度の声に、俺達は反応せざるをえなかった。
燃え盛る緋色の髪、今にも光線を放ちそうなギラッギラの紅眼。

全身から立ち上る淡い輝きは、決して彼女の中に眠る超金属の力によるものではないと信じたい。きっと俺の目がイカレたんだ。
まるで足下からライトで照らされたかのような影が差すその表情は、地獄の閻魔も素足で逃げ出しかねない悪鬼羅刹の如しだ。

「マリアからのご褒美って――――何?」

我らが最強無敵の鬼武偵・・・・・・魔王アリア様が、そう問うのだった。

-90-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




コスプレ道具☆^-^☆緋弾のアリア☆神崎・H・アリア 抱き枕/抱き枕カバー--約50*150cm両面(芯を含まない)
新品 \5800
中古 \
(参考価格:\)