小説『緋弾のアリア ―交わらぬ姉妹の道―』
作者:Pety()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

九十三話









夏休みが開け、武偵校は二学期に突入した。
始業式の行われている講堂では、黒い制服を着込んだ生徒達がズラリと並び、校長の挨拶を聞いていた。

世界初の武偵校であるローマ武偵校の制服を模した『防弾制服(ディヴィーザ)(ネロ)』と呼ばれるこれは、こう言った行事の幾つかで着用する事がある。
そこらの学校よりも遥かに重苦しい雰囲気を感じるのは、この黒づくめ集団の効果もあることは確実だろう。

始業式と言っても、大した理由もなく欠席している生徒は多い。
とことん生真面目な者か、他にやる事がない者か、あるいはキンジのように、内申点を下げられまいと神経を張り巡らせているような不出来な生徒のどれかだ。

なのだが、今回は意外な事に、こう言う行事への不真面目は定評のある理子や、こんな益もない事より有意義な何かに時間を使うであろうジャンヌまでもが出席している。
理由は・・・・・・・・・もはや言う必要もないと思うが、里香が出席しているからだ。

ほんの気まぐれで出てみただけだが、黒い防弾制服を着た里香を見た瞬間、他二人も急いで着替えて同行したという流れである。

「それにしてもー、もうすぐなんだよねぇ」
「そうだな、早いものだ」
「ええ」

何度注意されても収まりきらない喧騒にまぎれて、三人は言葉を交わしていた。
学年毎、クラス毎なんて整理がされていない式場は、せいぜいが会場の端側にいる海外の生徒達と少しの間が開けられている程度。

あくびをかみ殺す生徒も多い中、彼女らの会話を盗み聞きするような者はいない。
誰もがさっさと終わって欲しいと念じているからだ。

「既に各組織、各結社も自分達の代表を選定しているだろう。まさか私が司会進行を任されるとは思ってもみなかったが・・・・・・・」

どこか疲れたように話すジャンヌは、チラリと横の里香に視線を投げた。

「長く休戦させていた我らの誰かが、というのは分かる。しかしそれならもっと適任がいる気がするのだが」
「それこそ、適材適所ですよ」

お前がやるべきなのではないか、という言外に込められた意味をしっかり理解しつつ、里香はそれを否定する。

「ひと癖もふた癖もある者達が集うのですから、なるべく因縁の少ない(・・・・・・)人間でないと支障が出るでしょう」
「そうだよねー。なんでテメェが仕切んだコラァッ、って感じで乱闘始まりそうだもん」

艶のある笑みを浮かべながら里香に同意し、理子は自分の髪を弄っている。
まるで祭りが始まるのを楽しみにしている子供のようだ。

―――そして、それは同時に、来るべき時を前に自分を鼓舞しようとしている様にも見える。

「それこそ世界中に喧嘩売っちゃってるもんね。主に教授の頼み事で。というか、当日出るの? けっこう危ない気もするんだけど」
「もちろん行きます」

返答には、欠片の迷いもなかった。

「というより、私が出ないと納得しないでしょう。仮に顔を出さなくとも、力づくで舞台に立たされるのは避けようもないです」
「・・・・だろうな。教授亡き今、その懐刀であった者を放っておく手などない」
「まさに喉か手が出るほど〜ってやつだもんね」

世界に名を轟かせてから、長らくその正体を隠し続けてきたフリッグ。
その仮面の奥を世界が知るのは、そう遠くない。

イ・ウーが崩壊した今、各国の秘密組織、結社が血眼になって探している。
シャーロック・ホームズの右腕であり、最もすぐ傍で『緋色の研究』を眺め、なおかつその力を存分に引き出せるイロカネ保持者なのだから。

マリアの事を知るイ・ウー残党がほんの一握りとはいえ、それらを抱え込んだ一部の組織は、既に神崎・H・マリアの事までは調べがついているはずだ。
彼らはそれを秘匿しつつ、秘密裏にマリアを探し出し勧誘、または捕らえようと目論んでいるに違いない。

陰謀の魔の手は、ゆっくりと、だが確実に迫っていることだろう。

「しかし、少なく見積もってもあと二ヶ月はもちます。修学旅行・?(キャラバン・ワン)、アリアさんとキンジさんによるチーム結成、宣戦会議。最低限、それまで隠せれば文句はありません」
「・・・・・・・・その後、は・・・・?」

先程までとは逆に、ひどく小さな、弱々しいとさえ感じるような声で、理子は問う。

「正体がバレたら、ここにはいられなくなる。武偵校はもちろん・・・・・・この国にも。そうしたら・・・・・どこかに消えちゃう、だよね」
「そしてその上で・・・・・・お前は、私達に残れと言うのか」

引き継ぐように呟いたジャンヌの声に、非難の色が込められたのは当然と言える。
里香の・・・・・マリアの遂げんとする計画には、二人の行動さえ組み込まれていて、そこにはマリアを共に行くという選択肢はない。

理子には、アリアと同じチームとして。ジャンヌには、結社に迎合しなかったイ・ウー研鑽派の残党を纏める役として。
その役目を担って欲しいと、マリアは隠すことなく話したのだ。・・・・・一生のお願いだと、頭まで下げて。

暗に、いずれは必ず別れると言われて、いい気分になどなれるはずもない。
なんという身勝手な発言で、この上なくずるい。

分かっているのかどうかは知らないが、断れるはずもないのだから。
過剰な好意ゆえ、というのもある。だがそれだけなら、だからこそ絶対に一緒に行くとつっぱねる事も出来ただろう。

―――だが、二人は知っている。知って、しまっている。
マリアがこれまで、その計画とやらのために、どれだけの時間を費やしてきたかを。

本来なら、天地が逆転したって人を傷付けるなんて所業は出来ない少女が、どれ程の血に手を染めてきたかを。
無理やりに言うことを聞かせながら、マリア本人も同じ思いを押し殺している事を。

「・・・・・・アリアとも、いられなくなるよ」

だから、これはほんの些細な抵抗。
こんな言葉で止められるほど安い覚悟じゃないことぐらい、嫌と言うほど知っている。

「・・・・・」

校長の話が終わり、つつがなく式は進み、終わりを告げる。
そうして海外の生徒達から順に退場し、全ての生徒が外に出る頃になっても―――

マリアは、何も答えなかった。














パタン、とドアが閉まる音を背に聞きながら、マリアは自室へと入っていく。
家主の趣向によって若干以上に閑散とした部屋は、しかしいつもと違う変化を見せていた。

表面上は何も変わらない。いつも通りの室内。
だが、目に見えない範囲の情報から、予め推理していた事態に着実に進んでいる事を、マリアは理解した。

「予定通り・・・・・キンジさんが来ましたね」

女子二人の生活空間ではまず漂う事のない異性の匂い。
定着した生活臭にまぎれた異物というのは、人が思っている以上に長い時間残っているものだ。

マリアは昨日、泣き疲れて眠ったアリアにしがみつかれたまま、夜を明かした。
当の本人は妹に抱きついたまま眠ってしまった事に赤面し、飛び出すようにして駆け去った。

そういうこともあって、普段と違う匂いを敏感に察知出来るのだ。
キンジからしてみればレキとアリアを鉢合わせさせたくない故の、それこそ苦肉の策だったのだろうが、あいにく徒労に終わっているのだった。

黒づくめの制服を脱ぎ、いつもの防弾制服に着替え、居間のソファーに腰掛ける。
背凭れに頭を預け、天井を仰ぐようにして部屋の証明を見つめた。

「ふう・・・・・・」

疲れたわけでもないというのに、ため息が出る。
それと一緒に、体の中から何かが出ていってしまう気さえする。

だがそれは、決して気のせいなんかではないと、マリアは確信している。

「・・・・・・・・その後、か」

ふと呟いたのは、ほんの数十分前に理子に投げかけられた言葉。
正体がバレて、追われて、逃げて。その先にあるのは何なのか?

(そんなもの、決まっている。それこそが私の計画で、私の・・・・・・すべて)

何もかも予定調和。狂わせるような差異はない。
金一という例はあるものの、今となっては些細なことだ。

全部上手く言っている。間違いなどない。今までも、これからも。
そして―――――

―――ブーッ、ブーッ、ブーッ―――

ポケットの中で震える携帯を、マリアは手に取った。
開いて相手を確認してみれば、見知らぬ番号。登録外の誰かからだった。

しかし、それに訝しむでもなくマリアはボタンを押し、携帯を耳にあてた。

「もしもし」
『―――きひひっ。久しぶりネ、フリック・・・・・いいや、マ・リ・ア』

テンションの高い、イントネーションの狂った日本語。
何が可笑しいのか、楽しそうにマリアの名を呼ぶその人物は、

「―――ココ。元気そうでなによりです」
『・・・・・アイヤー、驚いてないネ。(ウオ)が連絡するのも、予測済みカ?』
「ええ。まあ」

何でもないことのように肯定したマリアだったが、ココは「きひひっ」と笑うだけだった。
イ・ウーで短くない付き合いの二人であるからこそ、大なり小なり慣れているのかもしれない。

『相変わらずネ・・・・・ああ、さっきキンチとアリア見てきたネ』
「そうですか。お二人はあなたの御眼鏡に適いましたか」
『どうせ知ってるくせに、よく言うネ』

意味はないと知っていて、ココはちょぴり不貞腐れたように言った。

『アリアは使えるネ。マリアの姉だけあって、素質は十分ヨ。でもキンチは0点。期待外れだったネ』
「・・・・・そう」

そして、聞かされた結果もやはり、予測通り。
素っ気ない反応を返したマリアだったが、ココの話はまだ終わらないらしい。

『そ言えば、お前はキンチ達の旅行中、どうするカ?』
「どう、とは・・・・・・私がキンジさん達を追いかけるのか、という意味ですか?」
『それ以外にないネ』

仕掛けさせてもらう、と暗に言っているのは明白だ。
来るべき時はもうすぐそこまで迫っている。少しでも優位に立とうという腹積もりだろう。

合理的商売を常とするココらしいし、マリアに隠せるとも思っていないのは経験故か。

「心配しなくとも、私は行きませんよ」
『・・・・・・・・ほんとうカ?』

そして、今の答えは少しばかり意外であったらしい。
期待と疑惑が半々で、その心情が如実に声に乗せられていた。

「本当も何も、私はここでは一年生です。同伴する動機がありませんから」
『それは二人をココに譲ってくれる・・・・・・わけないネ。(ウオ)が負けると言うカ』
「はい」

不敵な笑い声を発していたココだったが、マリアの即答によって口を閉じた。
あまりにも強い、それこそ確信と言って差し支えないほどの肯定。

ココとて、楽にどうこうできるなどとは思っていない。
キンジの傍に侍るレキやハイマキ。離れる時が多いとは言え、その気になれば救援に来れる距離にはいるだろうアリアや白雪、理子にジャンヌもいる。

一人一人ならばいくらでも勝算はあるが、そんな甘い状況など訪れるはずもない。
だからこそ入念に準備を重ね、キンジとアリアの戦力もおおよそ測った上で、十二分に勝てると踏んでいた。

『きひひひひっ、あっさり言うネ。今のはちょっぴりカチンときたヨ。絶対に二人はいただくネ』
「お好きにどうぞ。私は関与しませんから」
『・・・・・・後になって後悔するといいネ』

その言葉を最後に、通話がきられた。
ツー、ツー、と無機質な音を伝えてくる携帯を耳から離し、マリアは窓の外へと視線を向ける。

澄み渡った青空に、ゆっくりと流れる白い雲。
迫り来る闘争など夢物語であるかのように、のどかな時間を体現している。

・・・・それはまるで、何も知らない表の世界を象徴しているようだった。














「そう言えばさあ、マリアは理子たちの修学旅行中どうするの?」

朝の通学路で、理子が昨日のココと同じ質問をしてきた。

「特にどうする予定もありません。今しばらくはのんびりと過ごさせてもらいます」
「ふむ・・・・だがシーゲルや金一がいる以上、あまりのんびと、とはいかないような気がするが」
「・・・・・・・・」

あまり考えたくない事をジャンヌに言われ、口を閉じる以外にない。
理子達はココに襲撃を受けて、私は私で対応しないといけない事になりそうだ。

もちろん、ココが修学旅行・?(キャラバン・ワン)を狙う事は言っていない。
ハンデ云々というより、そんな事をしなくとも、皆なら乗り越えられるから。

「そこは上手く受け流します。あの二人も、仲良くとはいかないまでも、少しは穏便に話せるようになってもらうつもりですから」
「う〜ん、それは難しい気がするけどなー・・・・」

理子が苦笑いするほどに、あの二人の仲は思わしくない。
最初に会ったのは夏休みのさなかだったのですけど、その時から何故だか互いを敵視している。

直接火花を散らす事にはなっていないものの、このままでいるのは多少気掛かりなのも事実。
衝突しそうな人間達がしばらくいないくなるこの機会に、是非とも改善を進めたいと思う。

「男性同士の問題ですから、やはり難しいですよね・・・・・」
「いや、ちょっと違う」
「?」
「お前はもう少し視野を広げる必要があるな・・・・・」

はあ〜、と、二人して溜め息をついた。
呆れられているのはわかりますけど、まるで視野が狭いような発言は些か心外だ。

「気づいた事があると言うなら、教えてはもらえませんか? 改善策が見つかるかもしれません」
「いや〜、それはちょっと無理かな」
「むしろ断固拒否させてもらう。いかにお前の頼みでも・・・・いや、今回に限ってはお前だからこそ、だがな」

言葉こそ普段通りでも、二人の機嫌が少しづつ傾いていくのがわかった。
これはあれでしょうか。俗に言う思春期特有の不安定な機微なのでしょうか。

乙女心は複雑怪奇とよく言われているようですが、たしかにその通りですね。
曾お爺様でさえ測り難いと言っていたし、私が理解するのは相当に困難でしょう。

「そうですか。なら自分でなんとかやってみます」
「そうそう。いい機会だから自分に向けられる想いに気づく練習してね」
「まあ、だからといって連中には渡さんがな」

難解な言葉ばかり話す二人と会話しながら、校門へと辿り着く。
眠そうな顔をしながら入っていくものもいれば、少し急いた様子で出て行く人もいた。依頼で朝から出払う人間も珍しくないため、視線を集めることはない。

理子とジャンヌが一緒なためか、それとも嫌な知名度を得てしまったせいか、私達には少なくない注目が集まっていた。
ヒソヒソと声をひそめる者、私にあからさまな敵愾心を向ける者、パンダでも見ているかのような目を向ける者。

ここ数週間の熱は、まだ冷める兆しが見えない。
とはいえ、接触をしてくるなどという酔狂な人間がいないのが唯一の救いだった。

Aランク以上の人間が傍にいるのだから、無謀な行動は自然と抑制される。
これで常時一人で行動していたのなら、それはもう様々な面倒事が起きていたでしょう。

四方八方から突き刺さる視線を無視して歩き、そろそろ二人と別れる場所に来た――――その時だった。

「・・・・・」
「里香?」
「どうした」

一瞬だけ停止した私を、疑問符を浮かべた顔が両脇から覗いてくる。

「・・・・いえ、少し考え事をしていました。問題ありません」
「・・・・ならいいけど」

少しの間を置いて、理子は一応納得したようだった。
ジャンヌは訝しむ顔をしたけれど、深く聞いてきたりはしなかった。

それぞれの学年の教室へと向うために別れ、一人となった私は人気のない方へと歩いた。
校舎の裏側の、日の光によって影が差す場所。

窓から聞こえてくる喧騒が僅かに静寂を揺らす中、私は他に人影がないことを確認した後、口を開いた。

「―――もういいですよ、リシア(・・・)

背後の茂みに向けた言葉に、動揺したような気配はなかった。
ゆっくりと奥から姿を現すリシア。一応の変装は心得ていたようで、小柄な体躯を武偵校の制服で包んでいる。

ただ、やはり頭の上のナースキャップはそのままだった。
救護科と言えば誤魔化せると考えたのでしょうが・・・・・浮きますね、どうしても。

「お、お久しぶりです、マ・・・・・里香さん」
「お久しぶり。誰もいませんから、マリアで構いませんよ」
「は、はい・・・・」

呟くように返事をしたリシアの顔は、あまり優れているとは言えなかった。
何かを思いつめたような、とても言い出しづらい話をこれから言おうとしているような、そんな雰囲気でした。

「その様子だと・・・・・一族の方々からは許可が下りませんでしたか? やはり危険だと」

すぐに思いつくのはそれくらいしかなく、彼女の反応を見れば当たらずも遠からずなのだろう。
俯き気味だった顔がさらに下を向き、どう考えても話が丸く収まったなんて様子ではない。

「家族からも・・・・族長からも・・・・反対されました。フリッグについて行くのは、個人の問題で済まされないと」
「そうでしょうね」

別段驚くこともない。むしろ予測通りの推移です。
それどころか、これでリシアが私と関わって危険な目に合う可能性が潰えるのなら、それに越したことはないとさえ思う。

ナイチンゲールの叡智は人に救いをもたらす。
与える人間に正邪の区別はなく、生きようともがく者には分け隔てなくその手を差し伸べる。

それを良く思っていない者は当然いて、事あるごとに難癖をつけて邪魔をする人や組織は後を絶たない。
ひどい所では、ナイチンゲールを「得体の知れない道具を使って人を切り刻む狂人集団」などと吹聴する者達すらいる。

叡智を奪おうとする者、妬むもの、その叡智ですら救えなかった者の遺族達の逆恨み。上げればキリがない。
伝え聞いた話によれば、ナイチンゲールはその叡智を発展させる過程で、無数の人体の神秘を解き明かし、その知識を技術として昇華してきた。

だがそれは反面、より多くの人体の弱点、欠陥を知る事と同義だった。
人を治すことと殺すことは表裏一体。彼女らの知識は、その気になれば前人未到の殺人術を生み出しうる可能性を秘めた、言わばパンドラの箱。

故に彼等はそれを一族秘伝の術とし、世に広める事をしなかった。
金一さんのような一握りの人間にのみ、それこそ触り程度の知識を与えるのが精々。

人里離れた場所に集落を形成し、その力を人命救助にのみ捧げる精神を子孫に継承してきた。
そんな一族の人間が、死を振りまく死神と行動を共にし、あまつさえ私情によって贔屓するなどあってはならない。

私は、彼等とも小さくない因縁がありますからね・・・・・・。

「あなたが気に病む必要はありません。むしろリシアには危険しかないのですから、それが賢明でしょう」
「あ・・・・そうじゃ、なくて・・・」
「?」

なるべく落ち込まないよう言葉を選んだのですけど、リシアの反応は少し妙だった。

「許可はされなかったんですど・・・・・でも、禁止されたわけじゃないといいますか・・・」
「それは・・・・・つまり?」

保留、とでも言われた?
しかし同時に、それはありえないとも思った。

ナイチンゲールの一族が、他でもないリシアが危険にさらされる事態を容認するはずがない。
イ・ウーに来た時でさえ、半ば家出に近い形で無理矢理だったと記憶していますから。

何故なら、彼女は・・・・・・

「あ・・・あの、マリアさん!」

不意に、リシアが思い切ったように声を上げた。
しかし何故か、彼女の顔は先程までとは違って・・・・・・赤い。

「そそ、そのっ! わわわ、私と――――」

まだ夏も過ぎ去っていないというのに、彼女の顔は蒸気が立ち上らんばかりです。
何かとんでもない病にかかっているのではないかと心配する程でしたが―――その前に告げられた言葉が、私の思考を遮ったのだった。

「私とっ――――――両親に会ってください!!」

-94-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




緋弾のアリア Bullet.3 [Blu-ray]
新品 \2374
中古 \1040
(参考価格:\7350)