*
畑を抜けると、大きな建物が建っていた。
アーチ状の門をくぐり、立ち止まって屋敷を見上げる。
洋風建築だ。
煉瓦造りの四角い建物、どこかで見た明治時代の銀行を、ベランダや窓を生活しやすいように変えれば、ちょうどこんな具合だろう。
建物の手前の緩やかな斜面には、梅の木が無数に植えられ、いずれくる桜や桃の時期に忘れられないようにと躍起になって咲き狂っている。
その梅たちに邪魔され、建物全ては目に入らない。
木々に挟まれた道は曲がりくねり、おそらく屋敷へと続いているのだろうが、もしかしたら全く別のどこかに続いているのかもしれない。
幻想的と言うより幻惑といった方がしっくりくる景色に圧倒されながらも、ことりは道を歩き出した。
道を曲がったとき、女の子の後ろ姿が目に入った。
長い髪をことりと同じように背中に流した少女で、背格好も同じくらいだ。
道の真ん中で立ち止まっている。
ことりが近づくと、少女は早足でことりから離れた。
少女の姿はすぐに梅の花に隠され、見えなくなってしまう。
「あ、まって!」
走って追いかけるが、道を折れたときにはすでに見失っていた。
見渡しても人の気配ひとつしない。
しかたがないので、ことりは道の先へ急いだ。鬼ごっこみたいだ。