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玄関は山中にあるとは思えないくらい立派で、しかし古風で貫禄のあるたちずまいは周囲の風景に程良く溶け込んでいる。
大きな両開きの扉は左右とも開けられていて、来る者を誰であれ歓迎している風だ。
人の気配はしない。
足音も聞こえない。
「こんにちは、だれかみえませんか」
大声を上げるのは、この場の空気にそぐわない。
普段の会話とさほど変わらない大きさでも、声は屋敷の中へと吸い込まれていった。
返事はなく、しんとしている。
意を決して、一歩だけ屋敷の中に入る。
暗い。
外が華やかだったぶん、室内がひどく暗く感じる。
このまま屋敷の奥へ行くことには躊躇を感じたので、一度屋敷から出て、そのぐるりを廻ってみることにした。
扉が開いていたのだから、近くに誰かいるかもしれない。
扉から出て右を見ると、長い髪の少女の後ろ姿が目に付いた。建物の角に隠れてすぐに姿が消えてしまう。
あれは誰だろう。
追いかけようか迷い、少女とは逆の左側へ行くことにした。
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屋敷の周りを回ってみると、改めてその大きさに驚く。
部屋の数はいくつで、一体何人住んでいるのだろう。
掃除は大変だろうけどどうしているのだろう。
壁が蔦に覆われていてもおかしくないのに、手入れが行き届いているのか、古色蒼然とした壁には苔もついていない。
「だれかいませんか?」
しんと静かな空気。
どうして誰も答えてくれないのだろう。
あの少女は、この家の住人ではないのだろうか。
いくつもの疑問が浮上する。
角を一つ折れた。