小説『IS ―世界を守護せし狂王―』
作者:悪名高き狼()

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 第三幕 - 接触 -




―――IS学園
アラスカ条約に基づいて日本に設置された、IS操縦者育成用の特殊国立高等学校。
操縦者に限らず専門のメカニックなど、ISに関連する人材はほぼこの学園で育成される。

今や世界的に注目されている織斑一夏も、新入生としてココ『IS学園』へ入学する事になっている。数日後の入学式の準備の為か、多くの人が動き回っていた。
その中に一際目立つ人物がいる。
すらっとした長身に黒のスーツにタイトスカート。
長く黒い髪は一つに纏め、狼を思わせる鋭い吊り目。

『織斑千冬』
あの織斑一夏の実姉。元日本代表であり、ISの世界大会の第一回モンドグロッソ総合優勝&格闘部門優勝者。加えてココ、IS学園の教師で織斑一夏が入る事になるクラスの担任。


―――何だと言うんだ・・・・


常にクールで知られる彼女だが今だけは少し変化が見られた。
世界大会で優勝する程の実力を持った彼女だからこそ感じ取れたかもしれない。
それは、時間が経つにつれ徐々に大きくなる。イヤ、近づいてくると言った方が正解だろう。

織斑千冬は今までに感じた事の無い気配に悩ませていると
彼女を呼ぶ声に意識を戻される


「織斑先生!大変です!織斑先生ーーー!」


バタバタと効果音を出しそうな勢いで向かってくる一人の女性。

『山田真耶』
身長はやや低めと織斑千冬と比べると見かける生徒のそれと変わらない。
着ている服のサイズが合っていないのか、たぼっている。
さらに、かけている眼鏡も大きく若干ずれている。
そのためか彼女の印象は『子供が大人の真似をしている』感じ。


「山田君か。どうした、そんなに慌てて。」

「た、たった、大変なんですよー!」

「少し落ち着いてくれ。それでは伝わるモノも伝わらないぞ。」

「す、すす、すみません!」


すーはーすーはーと深呼吸を始める彼女を見ながら
織斑千冬は先程まで感じていた感覚は彼女の事なのかと思っていた――――――――のだが


「そ、それが――――――――」


彼女から告げられた言葉に、自分の感じていた違和感に答えが出たのだった・・・



―――――――――――――――――――――――――



「ここが・・・IS学園か。以外に広いな。」


示されるまま、ISに導かれるように飛び続けて十数分の時間が流れた。
IS学園の全体を見下ろせる位置で上空を停滞する一機のIS。
それを纏うは、つい先程この世界に来たばかりの青年。ラインフェルト。


「・・・・さて。来てみたはいいが。どう接触を試みるか、だな。」


実際問題、それが何時でも一番重要だった。
どの世界に行ってもファーストコンタクトは失敗する事は出来ない。
何故なら、やり直しと言うのが効かないからだ。


「むやみやたらとアレを使う訳にもいかないからな。」


奴の方で記憶操作ぐらい出来ないのかと
内心、カリオストロに不満をぶつけていた時だった。


PiPi!


外部からラインフェルトへ通信が来ているとISが知らせる。
解放回線とバイザーに表示され、音声のみが発せられる。


『そこの所属不明のISに告げる。貴様は一体何者だ、答えろ。』


聞こえてくる声は女性の声でありながら凛としており、それでだけでも
ラインフェルトに、この声の主の強さを伝わらせる。


―――ほぅ、随分と強い意志を持っていると見える。それに、向こうから接触してくれるとわな。


無駄な労力を使わず接触の機会を得た彼は、内心喜ぶ。


「それに関しては直接会って答えたのだが?それと・・・・」

『それと・・・・何だ。』

「私に、君らとの戦闘の意思は無い。」

『・・・ソレを信じろと?』

「別に信じなくても構わんさ。何なら君らは武装して来てもいいが?』

『・・・・・・・・・。』


沈黙が流れる。
こちらとしてはこのまま通信で終わる訳にはいかない。
だが今の彼には待つ事しかできない。


―――――――――――――――――――――――


「ど、どうしますか?織斑先生・・・」

「・・・・・・・。」

織斑千冬は迷っていた。
今まで感じでいた不安は、あの所属不明のISを纏った者の登場を告げていたのだと気付いたのは
副担任の山田真耶の報告で理解した。


―一時間前―


「た、大変なんですよ―!」

「どうした?何か問題でも起こったのか?」

何時も慌てている彼女にしては何時にも増して慌てている。
よほどの一大事なんだろうと織斑千冬は推察する。
しかし、未だ不安感は消えない。

「そ、それが。所属不明のISがココに向かって来てるんですよ!」

「何?それは本当か。」

「はい。単騎みたいなんですが、あと一時間後にはココに到着するみたいなんです。」

―――まさか、この不安感はこの事なのか?

「・・・わかった。相手が何らかの接触をして来た場合は私が対応しよう。」

「は、はい!お願いします。」







そうして二人は今いる管制室に向かったのだった。
管制室の巨大なモニターに映し出される白を基調とした銀と蒼。
特徴的な六枚の翼の様な推進機(スラスター)。
拡大され全身は確認できるが、顔はバイザーのよって隠されており確認する事が出来ない。


「以前、学園上空に待機しているISからは攻撃意思は無いようです。」

「そうか。」

「織斑先生、どうします?政府に・・・」

「すでに連絡はしてある。」

「なら・・・」

山田真耶は不安そうに織斑千冬を見つめる。
見つめられている彼女とはと言うと、モニターに映し出されるISを鋭い目で見る。

モニターに映し出されるISの情報を集めるべく数人の教員が動いている。
流れる音はそれに関しての機械音のみ――――――――すると。


『・・・返答を聞かせて貰っても?』

「ひゃい!」


管制室に響く声。
突然、発生したソレに山田真耶はビクッと反応する。
隣にいる織斑千冬は暫らくモニターを見続けると、顔を片手で覆い隠す。


「・・・そこからグラウンドが見えるだろう。そこに降りてこい。私が行こう。」

「織斑先生?!」

『私は、君達の信用を得たと?』

「勘違いするなよ。まだ貴様を信用した訳じゃない。」

『だろうな。私もこれだけの情報では信用などしない。安心したよ。君はなかなか優秀で良かった。』

「な、何なんですか。この人、私たちを・・・」

「試されていた様だな。舐められたモノだ。」

『気を悪くしたようなら謝ろう。此方としても些か訳ありでね。無能な奴なら・・・』


そこで言葉を詰める。
織斑千冬はモニターを背に視線のみ向ける。
その表情は一般人なら身が竦む程のモノだ。


「無能なら?どうするつもりだ?」

『イヤ、済まない。言いすぎた。』

「・・・そうか。ならそう言う事にしておこう。」

『感謝する。でわ、また。』


ソレを最後に通信終了と表示され通信が切られる。
モニターにはグランドへと降下して行く様子が映し出される。
織斑千冬は一度モニターを確認すると管制室の出口へ向かって歩き出す。
続いて山田真耶がその後を追う。


「山田君。君はISを装備し、私と来てくれ。」

「え、私一人で良いんですか?他にも教師の方を・・・」

「・・・何故だかは分からん。だが君と私の二人だけで十分足りる気がするんだ。」


まぁ、勘みたいなモノなのかなっと付け加える。
腕を組み右手を顎にのせ、自身の考えを後ろを不安そうな表情で付いてくる彼女に伝える。
彼女は暫らく考えた後、分かりましたと返事をし
織斑千冬とは逆方向へと去って行った。

一方、織斑千冬は考えが纏まったのか添えていた手を下し
グラウンドへと続く廊下を歩み続けた。



――――――――――――――――――――――――――




「さて、グラウンドは・・・あれか。」


通信を切った後、ラインフェルトは眼下に見えるグラウンドへと降下を始めた。
見える限りではグラウンドに人影は無く。また怪しいモノは無い。
もし、仮に罠などがあっても十分対処できる。


「それにしても、面白い人物だったな彼女は。」


名前を先に聞くべきだなコレは。
薄く笑みを浮かべながら決して速くは無いが、指定された場所へと降下を続ける。
それにしても広い。広過ぎだと思ってしまう。
昔、行った事のある『学園都市』並みにでかいんじゃないかと思うほどに。
まぁアソコはココと違って商業施設などがあったから、あっちの方が上かと自己完結。


「アッシュフォード学園の方が近いのかもしれんな。」


と、遥か昔の記憶を思い出すように呟く――――――――が。


「過去より明日を迎えるために・・・そう決めたのにな、癖というのは厄介だな。」


左右に頭を振り、思考をクリアーな状態に戻す。
グラウンドの中心に降り立つと前方から一人の女性が向かってくるのをセンサーが捉え、
それと同時に別方向から接近してくる熱源を捉えた事を知らせる。


――二人か、以外に少ないな。しかも武装は一人のみ・・・か。


自分のの予想と違ったのか、彼は驚く。
感情を表に出してはいないが良い方向へ裏切られた事になったため素直に喜ぶ。


「わざわざ此方の申し出に付き合って貰って済まない。そっちの黒い服の方、君が通信相手で合っているな。」

「ああ、そうだ。」


やはりそうか。
彼女から感じる雰囲気から断定していた彼の予想は当たった。
それなら話が早い。


「私の名は―――「その前に」ん?何かな。」

「名乗る前に武装を解除しろ。」

「そうだな。敵意が無い証拠を見せなければな。」


彼女に自ら出した条件を危うく忘れる所だった。
ISを解除し、待機状態に移行するために私の体は再び光の粒子に包まれる。
光によって遮られていた視界が戻った時、最初に見たモノは
驚愕した表情を張り付けた、二人の姿だった。





私は、私たちは信じられないモノを見ていた。

顔が蒼いバイザーで隠れていた為、分からなかった。
声も中性的で、体躯も女性とそう変わらない。
何より例外が一人いるが『ISは女性のみ扱える兵器』と言う先入観が、勝っていたのか分からない。

ただ、言える事は一つ。












私たちは『世界で二人目の男性IS操縦者』を目の当たりしたと。











そこからの展開は早いモノだった。

『ライヒアート・フレグランス』と名乗った青年は、どうやら記憶喪失であり
知識はあるモノの自身に関する名前以外事を覚えていない様だ。


『気づけば海の真ん中で、船の上で目覚めた。』

『自分でも良く分からないが、何故かISがあり、使えてしまい、自信を知るためと出来れば保護を求めIS学園に来た』


当初は出鱈目を言っていると思い調べてみたが嘘は付いていなかった様で
また、彼に関するモノは一切出てこなかった。

彼がIS学園に侵入した際に政府に連絡を入れておいた為、政府の部隊が到着。
そのまま彼を拘束し、連行して行った。
それに私も同行、IS委員会による審議だけには留まらず
最終的には全世界での審議にまで及んだ。

しかし、それでもなを彼に関する情報は一切出てくる事は無かった。



そして、ついに全世界の政府はこの『記憶喪失の青年』に対して
異例中の異例としてこの対処方法を取った。


『全ての国家にIS情報を開示、提供。』

『数年間はIS学園に身柄を拘束』


など多くの条件で彼は解放される。

そして彼は『世界で二人目の男性IS操縦者』として世界に知れ渡る事となった。


































しかし、本当の真実を知る者は誰一人としていない。

彼が本当は何者で、何のためにこの世界に来たのか。

彼が人を従わせる『王の力』を持っている事を。

そして、世界の各国のトップを含む政府高官がすでに

その力によって、操られ、彼の手の平の上で踊っている事は

今はまだ、誰も知らない――――――――――――――――。

-3-
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