小説『IS ―世界を守護せし狂王―』
作者:悪名高き狼()

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 第四幕 - 織斑千冬 -




「お前には今日から一年一組に加わって貰う。」

「――――――――――は?」


早朝、織斑千冬に呼ばれ部屋まで来ると聞かされた言葉に唖然とした。
恐らく、イヤ確実に私は間抜けな顔をしている事だろう。
如何してこの様な事になったかと言えば、数時間前の夜の事だ。


―――――――――――――――――――――――――――――――


先日、ようやくIS委員会・全世界政府会議から解放された私は
IS学園内にある寮の一室に案内される。
規約の中にある様に、私の身柄はIS学園内に監視・拘束される為
織斑千冬の隣という迷惑極まりない条件付きで決められた。

用意された部屋は無駄に高級感が感じられ
たかが、学生の如きにココまでする必要があるのかと、思いつつ
ベランダと部屋を分けるガラス戸の前に設置した椅子へと腰かけ
夜空に浮かぶ月を眺めていた時だった。


「入るぞ、フレグランス。」


ノック無しで部屋の戸を開け入って着たのは
これから長い付き合いになるだろう、織斑千冬だった。


「ノック位したらどうなんだ。教師だろ?貴様は。」

「お前には必要無いと判断したまでだが?あった方がいいか?」

「好きにしろ。で、何の用だ?こんな夜中に。」

「明日・・・もう今日か。早朝、隣の私の部屋へ来い。話がある。」

「何故だ?今話せばいいだろ。」


椅子に座ったまま、ラインフェルトは質問する。
織斑千冬は部屋の中心辺りで、お決まりの腕を組む格好で答える。


「もう夜遅い時間帯だ。日付も変わってしまったばかり。」

「それが何だ。別に私は気にせんが?」


片手を彼女へと向け、その話をさせようと促そうとするが
彼女はソレを断り、子供はサッサと寝ろ―――と言って
此方の制止を無視し部屋を出って行った。
仕方なく、私はその時は織斑千冬の言葉に従い眠りに就いた。

そして早朝。
言われたとうりに来てみたら――――――――――こうなった。


――――――――――――――――――――――――――――――


「言っている意味が理解できんのだが?」

「そのままの意味だ。お前は此処に生徒として居て貰う。」

「それで?何故一年なんだ。私は十八だと言った筈だが?」

「本来なら三年に入れるべきだが、私はお前の監視及び拘束の権を持っている。」


腕を組みニヤリと口角が吊りあがる。
さて、これはどう言う意味だと思う?と試されていた。


「目の届く場所に置きたいと?」

「良く分かっているじゃないか。ならコレに着替えて、出直して来い。」


そう言って手に持っていたモノを投げる。
ソレを払い除ける様に片手で受け取るラインフェルト。


「職員会議でお前にも伝える事がある。時間が無いからな、早くしろよ。」


それだけ言い残し織斑千冬は部屋へと消える。
多少、言いたい事はあった―――――――が。
無駄だと思い、私は自室へと戻り着替え始めた。

以前にも着た事のある学生服とは真逆の“白”の制服。
その上から自身のISの待機状態でもある右肩掛けの蒼い外套を纏う。


――まさか、またこんなモノを着る事になるなんてな・・・


着替えが終わり、部屋を出て織斑千冬の部屋へと戻ろうと
廊下を見ると部屋の前で背中を預けている彼女が目に映った。

彼女も此方に気が付くと


「よし、もう直ぐで会議が始まる。行くぞ。」


返事も聞かずに歩き出した。
私も返事などする気も無かった為、そのまま彼女の後ろを付いて行った。

寮から出て校舎へと移り、廊下を歩いている時だった。
織斑千冬がこんな事を聞いてきた。


「それで、記憶の方は?何か思い出したか?」

「いいや、何も。と言うより数時間寝ただけで治るものか。」

「それもそうか。しかし・・・」


立ち止まり、振り返る。
真っ直ぐ此方を見つめる織斑千冬。
真剣な表情がやがて、面白い物でも見つけた様に笑みに変わってゆく。


「世界中の国家にもお前に関する情報が一つも無いなんて―――――。」

「・・・・・・・・。」

「お前は何者なんだろうな?『ライヒアート・フレグランス』」


挑発じみたそれらは彼の中で、何かを引き出した。
歩き出す織斑千冬の背中を睨みつける蒼い瞳は赤く染まり
鳥の様な模様が浮かび始める。
彼女のみ聞こえる様に、誰一人として拒む事の出来ないアレ。


「織斑千冬。私に関して、知っている事を―――――――。」

「!!」


突如背に感じた恐怖に似た寒気。
得体の知れない、今まで感じた事の無い感覚に織斑千冬は
勢い良く振り返る。

そこには顔を右手で覆い隠しているラインフェルト。
だが、彼からは先程感じた感覚は無い。
それどころか、その感覚すら最初から無かった様に消えていた。


「ん?・・・どうした、急に振り返って。」

「い、いや。何でも無い。」

「そうか。」


―――気のせい・・・だったか。


疑問は残る。だが証拠も無ければ確信も無い。
彼の正体については依然と判明してない。

本当にコイツは何者なんだ―――と頭の片隅に置きつつ
職員会議もある為、足を進めた。


―――まだ、ここでコレ使うべきでは無い・・・か。


先程まで紅く輝く鳥の模様は消え、蒼い瞳へと戻っていた。
織斑千冬が感じた感覚は気のせいなどでは無く、彼が放ったのもだった。

その恐怖の根源は、とある世界では『魔術師殺し』が使用した
『自己強制証文(セルフギアス・スクロール)』と
同じ名を関し、「強制」「誓約」を意味する他者の思考に干渉する特殊能力。

この世界には存在しない未知のソレに
織斑千冬は世界最強の称号を持った彼女だからこそ気付いたのかも知れない。

彼女の存在はラインフェルトの中で大きなモノとなった。
それが幸か不幸かは、彼女は知る由もない・・・

-4-
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