小説『続・黄泉路への案内人』
作者:楽一()

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第三五話


 毎回ほぼ同じことの繰り返しだ。ただ、なんというか日を重ねるごとに思うことがやはり、

葵「なんというか互いが互いに依存し合っているな」

 まぁここは私が介入すべきなのかどうかと思うが。

葵「・・・・強引に行くか」





簪「近接戦闘?」

葵「あぁ。装備を見ただけだと簪の近接装備は無い」

 そう。一切無いのだ。打鉄は本来接近戦に特化した量産型。にもかかわらず刀型近接ブレードも何もない。

葵「というわけで基本動作を学んだ後剣術を学んでもらう。その間に制作を完了させておく」

簪「・・・そんなの・・・・悪い」

葵「まぁ選ぶのはお前だ。講師も用意はしているがお前の判断次第で話をつけなければならん。まぁやるだけやってみろ、体験するのも良いだろうしな」
 そういって今日の放課後剣道場を借りきってやることを伝えた。


SIDE簪


 いつからだろう。彼と一緒にISを組み立てたり、訓練をするようになったのは。

 最初は妹の織斑さんのためだと思ってた。でも、だんだんそれでも良いや、彼と一緒にいられるならと思いだした。

 でもそれだけじゃなくなった。ご飯を食べて、他愛もないことを話して、一組の皆を紹介してくれて・・・・でもその時皆またかって顔してたな。それで友達になった。無論彼もいっしょに。その時は意味がわからなかった。でも今なら分かるような気がした。

 自室でシャワーを浴びながら今日のことを振り返ってみると頭の中、振り返ることはいつも自分のISについてなのに彼と出会ってからはいつも彼のことばっかりだ。

簪「・・・」

 そっと彼の名を口ずさむと急に顔が赤くなるのがわかるほど熱を帯び、しだいに胸の動悸も早くなっていった。

簪(なに!? ・・・わ、私・・・どうしたの!?)

 でも、

簪「・・・・いや・・・じゃないかも///」

 そして今日、彼から、

葵「近接戦闘の特訓をしようと思う」

簪「近接戦闘?」

 まぁ言われなくてもなんとなくわかる。

 それにわざわざ講師になってくれる人にも話をつけたみたいだ。

 でも彼の知り合いでそんな人は候補で上げるなら織斑先生、ナターシャ先生、山田先生の三人だ。
その中でも接近戦闘、とりわけ打鉄の本分ともいえる武装刀型接近ブレードの扱いに関して言うならブリュンヒルデである織斑先生だろう。

 でも、それは油断、いや、彼を信用し過ぎたというのがあだという形で帰って来た。信用、信頼、それらを裏切られた感じだった。

簪「え・・・・」





 あの人が入ってきたから。





楯「簪ちゃん・・・・」


SIDEout


SIDE楯無


 彼から放課後剣道場に来るように言われた。

楯「何かしら? お誘いか何か?」

 ・・・・うん。自分で言っておいてなんだけどあり得ないわね。

???「あれ? あいつは確か・・・・」

 う〜ん。どうやったら彼を落とせるのかしら。彼の周りにいるのは、織斑先生、ナターシャ先生はまだどっちつかずかしら。それ以外だと一夏ちゃんに篠ノ之さん、オルコットさん、それに転校してきた鳳さんかしらね。

楯「はぁ〜前途多難ね」

???「あなたに溜息なんて似合わないですよ」

 さて、どうしようかしら。それにさっきから耳元でうるさいわね。

 ちらっとばれないように見ると、銀髪オッドアイ。確か・・・新庄君?(お忘れかもしれませんが神城帝君です)だったかしら? 世界で二番目のIS操縦者。正確には三番目。

 やたらとウザい。一言で言うなら就寝前に蚊が耳元でん飛んでいたり、食事中にハエが飛んでたり。
新庄君(?)「なにかお悩みですか? 相談に乗りますけど?」

 なんか彼の態度が気にくわない。評判というか噂に聞いたけど三組の女子を全員と付き合ってる状態らしい。全員といっても九割がだ。他のクラス、特に一、二組は彼に対する嫌悪が酷い。むしろ彼、葵の方が人気らしい。

 あと虚からもらった情報だと最近彼、葵の方だけど二、三年生、教職員にも人気があるみたい。何でも内容は外見は新庄君(?)には劣るけど内面は圧倒的に上。兄や父親に似ている感情を持っている人が多いみたいね。

楯「さて、じゃあ行きますか」

 後ろで何か言っている人がいるけど無視無視。

 そして剣道場に来て引き戸を引いてはいると、

簪「え・・・・・」

 そこにいたのはまぎれもなく私の妹、

楯「簪ちゃん・・・・」

 すると、彼女は急いでここから出ていこうとした。でも、

葵「逃げるのか?」

簪「・・・・・裏切って・・・・何言ってるの!?」

葵「裏切るね。確かに裏切ったかもしれない。だが、それで逃げるのか?」

簪「・・・・「まぁ逃げてもかまわない」え?」

楯「え?」

 その言葉に私も驚きを隠せなった。普通は逃げるな、前を向けというはずだ。でも彼は違った。

葵「逃げる。大いに結構。一度逃げる、そして落ちついて次に備える。それなら結構。だが、それその時だけだ。次に同じ状況になったら逃げるな。何回も逃げて何回も現実から目をそらして、背を向ける。それだけはするな。二度目は無い。そう思っているならこの場から出てもいい。だが次があるならその次も、そして次、次と永遠にあると思うならこの場で言いたいことを言え」

 そして彼は壁にもたれて、

葵「後悔はするな。人はいつ自分の目の前からいなくなるか分からない。それが来年か半年後か一週間後か明日かはたまたこののち数分後か。だから言いたいことがあるなら今言った方がいいぞ」

 彼は何かを知っている。なんとなくそんな気がした。

簪「・・・・葵は・・・・したこと・・・あるの?」

葵「後悔か?」

簪「・・・・うん」

葵「したさ。何かを失うたびにな。だから後悔だけはしたくない。だから逃げないと決めた。だから手にした者は話したくないと決めた。だからそれを守るためなら自分を盾にしてでも護ると決めた。たとえ対象となる者たちが泣いたとしても、例え己が死ぬことになるとしても、己が後悔しないために」

楯「・・・・・自己中だね」

 思わずつぶやいてしまった。だってそうでしょ。己が死んでも大切な者を守る。泣いても。でもそれで護られたその大切な人はどうなるの? 後悔するんじゃないの?

葵「自己中ね。確かにそうかも知れん。だが、私はそれがいやなんだ。護れるだけの力を持っているはずなのにただ見ているだけが」

 そして彼はまっすぐと簪ちゃんを見て、

葵「で、どうするんだお前は」

簪「わたしは・・・・嫌だった・・・・」

葵「そうか」

簪「常に・・・・お姉ちゃんと比べられて・・・・・お姉ちゃんが遠くに行ってしまいそうで・・・」

葵「それで」

簪「・・・・お姉ちゃんに護られるのが・・・・わたしが・・・・必要とされて・・・・無いんじゃないのかって・・・・思って・・・」

 うそ・・・・自分が、私が良下のために思ってやってたことが裏目に出てた・・・。

簪「わたしは・・・・ただ・・・お姉ちゃんと・・・一緒にいたかった・・・それだけ」

楯「・・・そんな」

 私は簪ちゃんのその一言に何も言えなかった。私がやってきたこと、彼女のためを思って来たことが逆効果だった。でも彼は違う一言を言った。

葵「良かったな二人とも」

楯・簪「「え?」」

葵「話をしなければいつまでもすれ違うばかりだ。話をして互いに何かを言わないとわからないだろ。そして楯無。お前も言いたいことがあるんじゃないのか?」

 うん。彼女もいったんだ。私も、

楯「私は、ただあなたにこっちに来てほしくなかった。更識家がどういう家か分かってるよね?」

簪「・・・うん」

楯「こういう言い方は嫌だけどあなたには普通の女の子として生きてほしいの。危険な仕事を請け負うのは私だけで良い。私はあなたのためならどんな汚い仕事だってする」

簪「・・・・じゃ、じゃあ」

葵「互いにすれ違っていただけのようだな。互いに互いを思うあまり」

 そういって彼は剣道場を出ていった。

 今の彼には感謝しよう。

再び彼女と距離を戻せた。

 彼女と普通の会話をした。

 久しぶりに彼女と泣いた。

 いつ以来かの彼女と笑いあった。

 そして、

簪「お姉ちゃん・・・・もしかしてお姉ちゃんも?」

楯「あら? もしかして簪ちゃんも?」

 いつ以来だろう、いや初めてかな。好きな人のことについて語ったのは。


SIDEout


葵「で、仲睦まじいことはいいことだが何でその場所が私の部屋なんだ?」

 あの後確かに私の方が確かに早くこっちに戻ってきたと思うんだが、何故か簪と楯無がいた。

楯「あら、ここって私の部屋でもあるのよ」

簪「!?///」

葵「・・・・いらんことを。というかもう潮時だろ」

楯「酷い!! 私との関係はお遊びだったの!!?」

葵「・・・・・」

楯「お願いだからそんな冷たい目で見ないで。やってて恥ずかしいのよ/// なのに帰ってくる反応がそれって・・・・」

簪「だったら・・・・やらない方がいい」

楯「ぐさっ!?」

 おぉ、なんか仲がよくなった途端言葉にとげが。

葵「というか良くいれたなアギト、リイン」

アギト「ん〜。別にいっかなって」

リイン「そうですぅ。二人は悪い人じゃないです」

簪「あ。この子・・・・たちが?」

葵「あぁ」

楯「こうやって見ると不思議ね。でも」

アギト「ん?」

楯「可愛いから許す!」

 そういってアギトに抱きつく。

簪「じゃあ・・・・わたしは」

 簪はリインを、

葵「まぁ仲が戻ったのは良かったな。さて、次の課題は」

簪「うん・・・・もう・・・逃げない」

楯「簪ちゃん・・・・」

簪「クラス対抗戦・・・でる」

葵「そうか」

 その後簪はリインを置いて自分の部屋に戻っていった。

 一方楯無しは、

葵「何で同じベッドに入る?」

楯「最初で最後のお願いよ」

葵「重いな」

楯「私ね。更識家の当主なんだ」

葵「知ってる」

楯「あら。つれないわね」

葵「で」

楯「うん。当主って言う役目って思ってたよりもしんどいの。肉体的にも精神的にも」

葵「事務仕事、戦闘、そして誰にも甘えることも、くじけることも、弱音を吐くこともできないからか?」

楯「!? え、えぇ」

葵「誰か一人でも良い。そういう相手を創れ」

楯「でも「じゃないとお前が壊れるぞ」・・・・うん」

 そういうと彼女は私の胸にすり寄ってきた。

楯「・・・・今だけで良いからこうさせて」

葵「・・・あぁ。それともう一つ言っておくぞ」

楯「なに?」

葵「さっきの願いは取り下げるぞ」

楯「え?」

葵「最初で最後のお願いだっけ? 最初は認める。でも最後というのは認めん。甘えたい時は甘えるといい。泣きたい時は泣け。こんな胸でよければいつでも貸してやる」

楯「うん。ありがとう///(こんな胸じゃないよ。最高の胸だよ。こんなに安心できる胸は無いよ。ありがとう///)」

 そういって彼女は眠りについた。




―――翌日
 今日はクラス対抗戦の発表日。クラスの掲示板には大戦票が張り出されていた。で、簪と一夏の初戦の対戦相手は



一年一組織斑一夏VS一年二組更識簪



葵「・・・・・楯無、お前何かしくんだか?」

楯「・・・・私もこの時ばかりは驚きね。神様がいるならぶん殴ってやりたいわ」

 ・・・・私はぶん殴られるのかな?

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