小説『猟奇日記』
作者:ウィンダム()

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目的地に着いた僕はタクシーを降りると研究所へ向かって歩き出す。
ほどなく歩いたところに鉄筋コンクリートの小さなビルが建っている。
ここがパラサイト研究所だ。
建物の中に入っていくと頭の中の声が僕に告げる。

  ここから先は私が応対する。

頭の中の声は僕の意識を追いやると体を占拠していく。
そしてツカツカと歩いていくと受付嬢に、

  あの、募集広告を見てやってきました。

すると受付嬢は驚いたように、

  は? 募集広告? そ、そうですか・・・。

受付嬢はしげしげと僕を眺めると、

  あの・・・、募集内容はご存知ですね?

問いかける受付嬢に頭の中の声が答える。

  ええ、知っていますよ、承知の上で来ていますから。

  は、はい、そ、そうですか、少しお待ちください。

受付嬢はインターフォンを取るとなにやらやり取りが始まる。

募集内容? なんのことだろう?
疑問に思う僕は頭の中の声に問う。

  募集内容ってなんだ?

すると頭の中の声が、

  余計なことを聞くんじゃない、キミはこのまま私に身を任せていればいいのだ。

暫くすると奥から白衣姿の年配風の男が現れる。
見たとここの研究所の所長らしい。
所長は僕を見るなり両手を広げて、

  いやぁ〜、よく来てくださいました、さ、どうぞ、こちらへ!

所長は僕を建物の奥へと案内していく。
薄暗い廊下をしばらく歩くと鋼鉄製の扉の前に来る。
所長がパスワードを入力しセキュリティシステムを解除すると、ガシャーンと大きな音響とともに鋼鉄製のドアがゆっくりと開いていく。
 
  さっ、どうぞ、中へ。

僕は中に入っていく。
仲はまさに研究所といった感じでさまざまの実験器具に薬品、パソコン類が並んでいる。
そして一際目を引くのはホルマリン漬の寄生虫標本だ。
その数は数十本を下らないだろう、実にいろいろな寄生虫がいるものだ。
所長はソファに座るように促す。

  いやぁ、まさか本当に募集に応じる方が現れるなんて思ってもみませんでした。
 
笑顔の所長に頭名の中の声が勝手にしゃべりだす。

  そうですか、実は私も以前から寄生虫には大いなる関心を持っています。
  それどころか、私は人類と寄生虫の共存こそが、さまざまな免疫障害や疾病に打ち勝つ秘訣なのではないかと考えています。

すると所長は我が意を得たりとばかりに、

  そ、そうですとも、その通りです!
  いやぁ〜、これほど寄生虫に造詣が深い方が来られると思いませんでしたよ。

  ハハハハ、いえいえ、あ、そうそう、申し遅れましたが私は生物学者のDと申す者です。

例によって何時の間に入っていたのか、スーツの内ポケットから名刺を出して差し出す。
所長は渡された名刺をしげしげと眺めながら、

  ほほう、大学の先生でしたか、いや、これはどうも、これなら話は早い、さっそくこちらへ。

所長はソファから立つと研究室の奥へと案内していく。
すると手術台のようなところへ来ると、

  さ、どうぞ。

何がなにやら解らないまま僕は手術台の上に寝かされる。
どうにも腑に落ちない僕は頭の中の声に問いかける。

  おい、どうする気なんだ?

すると頭の中の声が、

  これから被験者になるのだよ

  被験者? いったい何の被験者だ?

頭の中の声は笑いながら、
 
  フフフフ、キミはこれから寄生虫の体内飼育実験の被験者になるのさ。

驚いた僕は思わず問い質す。

  な、なんだって? どういうことだそれは!

  キミはこれから体内に回虫、蟯虫、サナダムシ、日本住血吸虫、エキノコックス、
  ついでに肝臓ジストマその他エトセトラ・・・。
  今言ったこれら寄生虫を取り入れるのだよ。

  じょ、冗談じゃない! だいいちそんなものどうやって体内に取り入れるんだ!

  フフフフ、もちろん口からさ、キミはこれらの寄生虫を口から飲み込むのだよ。

思わず戦慄が走る僕は、

  ふ、フザけるな、キサマ!

  フフフフ、フザけてなどいないさ、これは立派な科学の実験でもある。
  それに寄生虫を買ってみれば判るが、それほど悪いものじゃないぞ。

  冗談じゃない! 僕は絶対に断るぞ!

  なに? 断るだと? それなら今から警察へ行くか?

  ああ、警察でもどこでも行ってやるさ、そんなもの喰わされるなら警察の方がまだマシだ!

そして僕の意識は頭の中の声と乱闘を起こすと、僕の体から追い出してしまう。

  バカ野郎! そんなに寄生虫喰いたいなら
  別な誰かに憑依しやがれ!

すると追い払われた頭の中の声は、なんと所長に憑依してしまう。
そして突然人格が変化した所長は、

  ウハハハハ、無駄な抵抗はやめるんだ!

と告げると手術台のスイッチを押す。
すると途端に僕の体に、ガシャガシャと枠が嵌められていく。

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