『第六章:F氏の日記』
私は浣腸魔だ
バサッ!
途端に読む気が失せた僕は黒い本を放り投げる。
いよいよスカトロマニアのお出ましだ。
尤もいつか出てくるだろうとは予測していたが、いざ現れてみると思わず溜息が出てくる。
はぁ〜・・・、冗談じゃねぇよ、勘弁してくれよ・・・。
嘆く僕の頭の中にスカトロマニアが話しかけてくる。
なんだキミは、一行も読まずに放り出すなんてヒドイじゃないか。
文句を言う頭の中の声に僕は噛みつく。
何言いいやがる! 誰が読むかい、バカバカしい!
それではこれからの展開がわからないだろう?
フン、そんなこと見当つくさ、僕にスカトロを体験させる気なんだろう?
違うな、キミはなにか誤解している、私は浣腸魔だがスカトロマニアなどではない。
私を汚物嗜好の汚らわしい性的倒錯者と一緒にしないでもらいたい。
僕は頭の中の声の言い分に思わず笑いだしてしまう。
フハハハハハ! 目くそ鼻くそを笑うとはこのことだ、バカバカしい!
すると頭の中の声は憮然とする。
それは違うな、スカトロマニアは低級だが、私のような浣腸魔は高級な存在だ。
頭の中の声の言い分に僕は呆れる。
高級な存在? へへぇ〜、そうですか、で、なにがどう高級なんだ?
うむ、よろしい、今からキミに浣腸魔とは何かをスカトロマニアと比較検討しながら、その神髄を教授してあげよう。
頭の中の声は講釈をはじめていく。
例えば、ほら、そこを歩いている女性を見給え。
僕は顔を上げると女性が目に入る。
どうだ? とてもチャーミングな女性だろう?
ああ、そのようだな。
低級なスカトロマニアはこうした女性を捕まえてはナイフで脅し強制排泄させる。
そしてその排泄過程と排泄物にこの上ない快楽を感じる。
それだけではない、彼らスカトロマニアは排泄物とその汚臭にたまらない魅力を感じる。
まさに軽蔑すべき変態性欲者だ。
ふぅ〜ん、それで?
しかし、浣腸魔はそうではない、あくまても浣腸することに喜びを感じるのだ。
後のことは全てイマジネーションに委ねる。
ふふん、というと?
今度は前を歩く女性を見給え。
僕は前を歩く女性に目を向ける。
あの女性に浣腸したと想像してみたまえ、便意を催す彼女は懸命にトイレを探すだろう。
たまたま近くにトイレがあれば、ことはそれで終わりだ。
だが、トイレがなければどうなるか?
彼女は強烈な便意に身悶えしながらなんとか堪えようとする、しかしそんなことにも限界がある。
我慢できなくなった彼女は遂に異音を立て始める。
そして周囲に汚臭が立ち込め始めていくとき、周囲の目はその発生源を探っていくだろう。
すると脱糞してしまった一人の女性に一斉に目が向いていく。
その途端、彼女は羞恥と恥辱にまみれていく・・・。
そんな有り様を想像したまえ、この上ない快楽ではないか、そうは思わんかね?
僕は浣腸魔に言い分に呆れる。
なに言ってんだ、たいして違いはないじゃないか。
いいや、大いに違う。
低級なスカトロマニアは実物を好む、だが浣腸魔はイマジネーションの世界で快楽を見出すのだ。
原始的な実物を好む者らとイマジネーションの世界で戯れる者とでは精神レベルが異なるのだ。
つまり浣腸魔はイマジナリープレイを楽しむ高級な存在なのだ。
ふぅ〜ん、そんなものかねぇ・・・。
論より証拠、今からさっそくキミは私と一緒に浣腸魔になるのだ。
な、なんだって?
キミに浣腸魔の醍醐味を体験してもらおう。
じょ、冗談じゃない、イヤなこった!
すると頭の中の声は僕の意識を押しのけて体を占拠していく。
ふふん、嫌なら嫌でかまわんさ、キミの体を使って浣腸魔になるだけさ、ムハハハハ!
僕は頭の中の声を追い出そうとするが、逆に僕の意識を抑え込んでしまう。
ウハハハハハ、無駄な抵抗はやめよ、今からキミは浣腸魔になるのだ!
ウゥ、く、クソッ!
悔しがる僕の意識を尻目に頭の中の声は僕の体を好き勝手に操りだすと前方を歩くOLスーツの女性の後をつけていく。