僕の体は勝手に駅へ向かう、そしてホームを歩き回る。
ホームの片隅に来たとき、白い陶器製の痰壺を発見する。
ようし、見つけたぞ、おい、おまえはそのまま痰壺の前まで歩くんだ。
頭の中の声に操られた僕の体は痰壺めざして歩き出す。
そしてその前に立ち止まると、
周囲を良く見ろ、誰も見てないことを確認するんだ。
僕の頭は勝手に周囲を見回す、そして誰も見ていないことが判ると、
ようし、そのまま痰壺の前にしゃがみ込め。
僕の体は痰壺の前にしゃがむ。
ようし、次は痰壺の蓋をあけろ。
僕の手は痰壺の蓋を開ける。
中身を見ろ、痰がいっぱい入っているだろう?
そしたら今度はポケットからストローを出せ。
僕は反論する。
ちょ、ちょっと待ってくれ、僕はストローなんか持ってきてないぞ。
ポケットの中をまさぐってみろ、ストローがあるはずだ。
僕の手がポケットをまさぐると、何故かストーローが入っている。
あっただろう? そしたらそのストロー痰壺に差し込むんだ、ハアハア、早くしろ! ハアハア・・・。
頭の中の声が荒い息使いを始めている。
ハアハア、そうだ、ストローを差し込んだら、それを口にくわえろ、ハアハア、早く!
ウゥ、い、イヤだ! こんなバカなマネができるものか!
ハアハア、う、うるさい! 黙れ!
頭の中の声は僕の意識を隅に追いやると僕の体を操りだしていく。
そして痰壺の中身を・・・。
おおお、なんという美味! す、素晴らしい!
吐き気を堪える僕を余所に、頭の中の声は感嘆する。
痰壺の中身を半分ほど吸い上げたとき、ふと、背後に視線を感じる。