小説『IS 幻想の王』
作者:沙希()

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第8話 怒りと過去の記憶



時はすでに放課後に達している
あの後、クラス全員は放課後まで静止状態が続いていたのだ
刹那の威圧でビビったのか、それとも千冬を怒らせたくないのかと言われればどちらとも言えないだろう





教室では、刹那は机に座り、4組から来たノエルと会話をしている
隣の席の箒はというと、部屋に戻ったらしく、もう居なかった




「で?その簪って子のISを手伝う為に俺とにとりに頼みたい、と」




「はい・・・・・・えっと、ダメでしたか?」





(別にダメという訳でもないんだが・・・・・その子の名字が更識だし、姉の楯無に探られるのは紫からは避けてほしいって言われてるからなぁ・・・・・)




刹那はそう思い悩んでいる
実質知りもしない相手にISの製作を手伝えと言われてもどうしようもない
その子自身が、なぜ一人で作りたいのか、そこまでして何の意味をなすのか聞かない限りどちらとも言えない
そう思っていると




「別にいいよ」




「「にとり?」」




教室の入り口からにとりが現れた
何時も来ている水色の作業着に、手にはスパナ、腰にはレンチとドライバーなどを装備させている




「私は別にいいよ。紫からは刹那の接触を他人から避ける事が本命だから。私個人が動く事にはそうそう支障はでないよ」




「ありがとう!!にとり!!」




「ちょっ!?女から抱きつかれても嬉しくない!!せめて刹那に抱きつかれた方がまだマシ!!」




「もう、照れないで下さいよ♪」




「照れてない!!」




「はぁ・・・・でも良いのか、にとり?ここでは負の塊相手に時間を割くのはお前らしくも無い」




「だろうね。でもね、すこしこの学園に妙な力を感じたって紫が言ってたんだ。私はあの賢者がうわ言を言うとは思えないからね。一応この程度の力を分かる事が出来る『河城製・能力発見器君mk2』で探してみたら、玲子と十蔵を覗いて二つほど持ってる奴がいたよ」




「そのツッコミがありそうな名前はスル―させてもらうぞ。で?その能力もちは誰だ?」





「ノエルがさっき言ってた簪って子と、刹那のクラスにいる篠ノ之 箒って子だ。」





「!?・・・・・・・そうか。箒が」






刹那が一瞬顔を強張らせたので、にとりとノエルは疑問そうな顔をしたが、気にすることなくにとりは話を進める






「簪って子の能力は『点を消滅させる程度の能力』だ。これは流石に厄介だね。自分が視た相手の要点、つまりは見た場所、時を消滅する事が出来る。対価としては同じ相手、場面には2度も効かないという事だね。そして箒って子は『断を司る程度の能力』だ。文字通り、一刀両断、切断、寸断、いわゆる切り離すという事を重点に置かれた能力だ」




「うわぁ、2人ともえげつない能力ですね・・・・・」





「しかも簪って子の能力が特にだ。要点でなく、死の点を消滅させられたら相手は簡単にお陀仏出来るな・・・・」





刹那の言葉に、2人は押し黙った
大抵の能力持ちは、幻想郷の住人であるならありうる事で外界の人間が持つことなどあまりない事なのである
そして刹那やノエルにとって最近できた友人が、まさか能力持ちである事を知り、不安と戸惑いの感情が湧きあがってくる




「ま、こんな所だろ。因みにこの事は、幻想郷メンバーズ以外は知らないから、安心して良いよ」





「安心とは、どっちの意味でだ?」





「・・・・・・・・・そのままの通り、保護する事に安心していいって事さ」





にとりがその言葉を言った瞬間に教室の、いや、世界の風景が変わった













黒と白き世界
滲み出る強烈な怒りの感情、そして優しき感情を映し出された、刹那の心象風景がそのまま創り出される



「にとり。俺は別にその2人を保護するのは別に構わない。だがこれだけは言わせてもらう。その後はどうするつもりだ?」




「・・・・・・・・」





「にとり・・・・・・・」





ノエルが心配そうににとりを見る
刹那は今まで見たことも無い表情をし、にとりを睨みつける
にとりは少し後ずさったが、気負わされぬようなんとか耐える事が出来、言葉を続ける




「闘えるように鍛えてもらう。能力持ちという事は、少なからず闘う事にならなきゃいけない事だ。それに能力だってそうだ。これほどの能力なら、負の塊に対抗できるかもしれなんだ」




「ふざけるな!!一般人を、何も知らない子供達を俺達の戦争に巻き込む気か!!」




「そうだ。これはユエルや紫の意志でもあり、幻想郷の皆の意志でもあるんだ。少なからず負の塊相手に有効的な能力を持っている連中が少ないというのに、これ以上の戦力になる者はいない。だから刹那、分かってくれ」




「分からねぇよ!!どうしてそこまでして巻き込める!!アイツ等は普通の学生で、一般人で、普通の人生を歩んできた奴らだぞ!?」




「・・・・・・・・」




「もう、嫌なんだよ・・・・・・華苗の時もそうだった・・・・俺が弱かったせいで、アイツは死んでしまって・・・・・・・俺が弱くなければ、アイツは人間として普通の人生を歩んで行けたはずなのに・・・・・・・」




「刹那さん・・・・・・・」




「だから強くなるって決めたんだ。守れない自分を捨てる為に、俺は必死に強くなろうとしたんだ。だからもう俺は、誰も失いたくないんだ・・・・」




「刹那・・・・・・」




悔しそうに、そして悲しくて今にも泣きそうな刹那ににとりとノエルは何もする事が出来なかった
嘗て、刹那はある人物を自分の弱さのせいで亡くした事を後悔している
唯一人間として愛した女性を、救う事が出来なかった
それが原因で、刹那はなんでも一人でやろうとする所がある
誰も死なせない為に、誰かを失なわないようにするために
そんな涙を流す、刹那に、にとりは優しく抱きしめた




「刹那。君があの人や私達を誰よりも、何よりも愛してる事は知ってる。でもね、これだけは言わせて欲しい。『振り向かないで。前を見て走り続けて』。これ、誰の言葉か、分かる?」




「・・・・・・・・」




「華苗の最後に、刹那に残した最後の言葉。あの時はショックで記憶が曖昧だろうけど、あの場に居た私や紫、諏訪子や神奈子は覚えてるよ。」




刹那と過ごしてきた、華苗の思い出がよみがえる
何時だって生き生きしてて、誰よりも優しさに溢れていた女性の顔が思い浮かんでくる




『もう、刹那さんは忘れん坊なんですから』
いつも頼まれごとをこなすのだが、偶に忘れた時に華苗を困らせた、あの時の表情




『どうですか、この筑前煮?刹那さんの助言を生かして作ってみたんですけど』
初めて刹那の好物を作った時の不安そうで、でも期待している様な表情




『こら〜!!また諏訪子様や神奈子様と一緒に飲んで!!私も参加させてくださいよ!!』
諏訪子と神奈子と一緒に、暇があれば宴会の様に桜の木の下で飲み明かしている所に、華苗が泣きながら誘ってと懇願してくる様子




『こうやって見る桜は、とっても綺麗です』
2人っきりの時、布を下に轢いて桜の木の下で刹那が膝枕をしてあげた事




『うん・・・・はぁ・・・気持ち良かったですよ、刹那さん。刹那さんが、生涯の初めてになる方で、本当に良かった』
そして体を重ね合わせ、共に求め合い、そして契りを交わしたあの夜





どれもが楽しくて、温かい思い出の一つで、刹那にとってはそれは掛け替えの無い、何よりも愛しい記憶なのだ





『せ・・・刹那・・・・さん・・・・私が死んでも・・・・はぁはぁ・・・・
・・・・・泣かない、で・・・ください・・・・・。これからも・・・・この先も・・・・『振り向かないで・・・・・前を見て・・・・走り・・・続けて』ください・・・・」



華苗の最後に言い残した、最初で最後の記憶
負の塊に殺され、自分の弱さに殺された、忌々しい記憶
自分の弱さのせいで、自分が情けないせいで華苗が死んだ記憶
でも、最後に残した言葉、頭の中に響き、刹那は、涙をこらえる事を忘れていた。





「―――――――――――――――――――――――――――っ!!」




彼は、声を殺し、何度も何度もにとりの腕の中で泣き続けるのであった
子供の様に、泣きじゃくる子供の様に泣き続け、悲しみを流し去ろうとするのであった






――――――――
あとがき

ユエルが幻想郷から連れてくる人物ついてですが、誰がいいですか?
個人的には魂魄 妖夢か十六夜 咲夜かと


希望は感想にお願いします

-12-
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