小説『IS 幻想の王』
作者:沙希()

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第一話 数億年ぶりだが、あっちではまだ数年しか経っていない



そして、織斑一夏が別世界に渡ってから数千年の月日が流れるのであった



綺麗なサクラの花びらが舞い散り、お茶の上には茶柱が浮かぶ
神社の境内でずずっと、お茶を飲んでいる白と赤の巫女服を着た少女が座っているのだ
今はまだ昼の時間であり、この時間は大抵参拝者が来るか掃除をしているはずなのだが少女はのんびりとお茶をすすっている



「暇ね」



少女はそう呟き、空を見る
空を見る少女の横顔は、誰かを待っている様な顔をしており、ブラブラと足を揺らすのであった
そうしていると、一瞬少女の視線の先に一筋の光が走るのが見えたのだ
少女はお茶を置き、境内から立ち上がると一人の男が空から降りてきたのだ



「お帰りなさい、刹那さん。今日も妖怪の山で文と椛の稽古?」



「あぁ。今日もいつもって感じで俺を囲んでの訓練だ。いや〜今日も疲れたなぁ。霊夢、俺にもお茶くれないか?」



「ええ、良いわよ。ちょっと待っててね。ついでにお茶菓子も持ってくるから」



そう言って霊夢という少女は隣の家に行ってしまい、刹那という男は境内に上がり奥へと進んでいく
そして奥にある机の上に、霊夢が付けていた赤白で似ているが古くなった髪留めが置かれている
刹那は髪止めの前に立ち、手を合わせて礼拝をする



「ただいま、霊歌。」



そして顔を上げ、そのまま背を向けて外へと出て行った
刹那が外に出ると、上品な紫色の服を着ており、白い傘を差した金髪の女性が境内に座っていた
そして刹那が境内の奥から出てくるのに気が付いたのか、優しい笑みを浮かべて立ち上がった



「お帰りなさい、刹那。今日は霊歌達の参拝?」



「そ。先月ここに来なかったからさ、霊夢の家で泊るついでにって思って。紫は何か用でもあるのか?」



「ユエルとノエルが外界から帰って来たから伝えに来たの。外界は相も変わらずISなんて言う存在で負のエネルギーが溜まりつつあるそうよ」



「・・・・そっか。じゃあ、来週は外界で過ごす事になるのか」



「そういう事ね。にとりには色々と頼んであるし、同行者として許可するわ。ユエルとノエル、にとりで不満があるなら後一人、誰かを連れて行って良いから」



そう言って紫は境界を開き、消えて行った
残された刹那は思い詰めた様な顔をしてサクラを見ている
そうしていると、霊夢がお茶とお茶菓子を持ってやって来た



「今日は羊羹にしてみたけど、よかった・・て、刹那さん?大丈夫ですか?」



「え?あ、ああ、大丈夫。お、今日は羊羹だな。しかも『甘蜜』の栗羊羹なんて、また奮発したな、霊夢」



「まぁ、今日はそんな気分だったから出したんですけどね。はい、どうぞ」



「ありがとう。じゃあ、頂きます」





刹那は霊夢から渡された栗羊羹が乗っけてある皿を取り、楊枝で切り取り一口食べる
霊夢はその光景を、頬を赤く染めながらジッと見つめていた
それに気が付いたのか、刹那は霊夢の方を見る




「どうした?」




「あ、いえ、その、あの、なんでも、ないです////」




霊夢はそう言って背を向ける
しかし、チラチラと刹那の方を見てくるので刹那は少しヤレヤレと言った感じで霊夢の肩を抱き寄せ、霊夢を膝に乗せる
真っ赤になった霊夢は起きあがろうとするが、刹那によって制止され、そのまま膝枕をされた状態なのだ




「甘えたいなら、素直に甘えても良いんだぞ?」



「うぅぅ、恥ずかしいから、そんな事、出来る訳ないじゃないですか////」



顔を赤くしたままそっぽを向く霊夢に苦笑いする刹那は、優しく頭を撫でながら空を見上げ、思い詰めた顔をする
そんな様子を、霊夢は察したのか、不安げに聞いてきた




「また、負の塊との闘いですか?」



「あぁ。それも、俺がいた世界でだ。来週にはここを去るつもりだから、当分、いや、結構長いかもしれないが帰ってこれない」



「そう、ですか・・・・・」




「でも、心配すんな。何時も言う様に、俺は決して死なないし、負けたりしない。俺の事を思ってくれる奴等を置いて行くなんて事はしねぇよ」




そう言ってワシワシと元気づけるかのように強引に頭を撫でる
霊夢はそれでも、不安でいっぱいであった
過去に、自分の行動のせいで、彼に死を彷徨わせる様な傷を負わせてしまった事に、不安と恐怖でいっぱいだったのだ



「せ、刹那さんは、私を責めないんですか?」



「どうしてだ?」




「どうしてって!あの時、私がフランの狂気と負の感情に呑みこまれていなければ刹那さんを傷つけることなんてなかったのに!!私のせいで死んでもおかしくなかったんですよ!?どうして責めないです!!」




「・・・・・・・・・」



「紫が言った様に私には先代の博霊の力を持ってる!!けど、私は結果的にその大きな力でアナタを傷つけてしまった!!私さえ、私さえいな「霊夢!!」っ!?」




「霊夢。お前は確かに俺を死に追い込んだかもしれない。でもな、それでもお前は負の感情に抗おうとしていたのは知っている。だから自分さえいなければとか言ったらダメだ」




「でも、でも・・・・」



霊夢は今でも泣きそうな表情で、刹那を見つめるが次第に涙腺が壊れ、ポロポロと涙が溢れ出てくるのだった
刹那はそんな霊夢を抱きしめ、安心するまで背中を撫で続けた
泣きやむまで、悲しみを流し去るまで、刹那は優しく抱きしめるのであった












数分後、霊夢が泣きやみ、また膝枕された状態のままに戻される
なんとか説得できたものの、霊夢は少しまだ不安な部分が残っているが、刹那はそれでも遣らなければならない使命であり、義務である事を思い出し、刹那が安心してここから去る事が出来る様に無理にでも笑顔をするのである


















そして、霊夢の家に泊って数日が立った
予め他の幻想郷の住人には、長い間帰ってこれないかもしれない事を知らせてあるため刹那は直ぐににとりの家に向かい、家の前に着くと、家の玄関が開き、誰かが出てきた



「や、刹那。もう出来てるよ」



家から出てきたのは水色の服と帽子を着て、ツインテールの髪をした少女が出てきたのだ
服は所々汚れており、手には小さな指輪を持っている
刹那は差し出された指輪を取り、指にはめる



「神々が作りし太古の武器『神輝・アマノムラクモ』。形状はなんとか固定で来たから、想像すれば自在に形を変える事が出来る。」




「ありがとう。何から何まで助かるよ、にとり。外界に着いたら何時か2人でデートしよう」




「うん。それが欲しかったから頑張ったんだ。じゃあ、私は荷物を取りに行くから外で待っててくれ」



にとりは家の奥に消えて行った
刹那はにとりの指示通り、外で待とうとどこか座れる所を探している
すると、直ぐそこに丁度座れるような岩があった為、そこに腰をかける



「やれやれ。何時になったらゆっくりできるのかね」



嘆き、いや、願望に近い事を刹那は言葉にし、溜息を吐く
その瞬間、何かが横を通った様な気がしたが、直ぐに判別できた
刹那の目の前には、獣耳で白い髪をし、椛柄の袴を着た犬走 椛と、黒髪で背中には黒く綺麗な翼をした射命丸 文が居たのだ



「「刹那さん!!私を連れて行ってください!!」」



「椛!!アナタは下端天狗なんですから、上司である私に譲りなさい!!」



「文さんはその上司で仕事が忙しいはずです。あまり天魔様を困らせない様にしてください!!」



出て着て早々、いきなり喧嘩が発展してしまったようだ
刹那は取っ組み合いをしている文と椛を見て、苦笑いをし、ジッと見つめている。にとりが鞄を持って来た所で漸く止めに入った



「で?刹那と一緒に行きたいから妖怪の山の警備や仕事を抜け出してきたと?」



「だけど、天魔は許可したのか?」



「「・・・・・・・」」



「許可すらしいてもらえなかったか」



「で、でも!にとりだけズルイです!!ユエルさんやノエルならまだしも、どうしいてにとりだけなんですか!?」



「紫から指示だよ、椛。あっちの世界の学校じゃ機械、というよりパワードスーツって言うのがあるらしいからね。その学校ではそのパワードスーツの適正が無いと入れないんだ。それに整備が必要だ。だから私が行く事になったんだ」



「あぅ・・・・」



椛はにとりに反撃をするもあえなく撃沈
隣にいる文は納得がいかない顔をして居ているので、刹那は今日で何度もはいたかわからないくらい溜息をする



「文、椛。お前らが俺を心配しているのは知ってるし、むしろ有難い。でもな、妖怪の山の最有力戦力であるお前達が居なくなったら外界から来た妖怪の始末はどうなる?」



「「あぅ・・・・」」



「それで俺からの提案だ」



「提案?」



「うん、提案だ。一度だけ、2週間に一回は外界に来てもいい。これでどうだ?」



「「・・・・・・・」」



文と椛は顔を合わせ、眼をパチパチしている
この提案は幻想郷の住人たちにも出しており、皆はこの条件を承諾している
大賢者である紫や、西行桜の幽々子、USCのひまわり妖怪の幽香でさえこの条件を飲んでいるのである
その事を知ったら、文も椛も頷けないわけがないのだ



「分かりました。その提案、飲ませてもらいます」



「そか。じゃあ、俺達はもう行くから。」



「あ、待ってください、刹那さん!!」



「うん?なんだ、文ムグッ!?」



「うぅん・・・くちゅ・・ちゅぱっ・・・・・ぷはっ。せめて、これくらいしてください。」



「・・・・・はぁ。萃香や勇義と同じ事をするんだな」



「別にいいでは有りませんか。刹那さんがどれだけ大切なのかは、幻想郷の誰もが知っていますし」



「はぁ、過保護はやめてほしいよ」



刹那は呆れたように呟く
その後、椛からお守りを貰い、紫の元へと行き境界を開いてもらった
そして境界を潜り、刹那とにとりは、幻想郷の表側の世界へと旅立つのであった。



刹那にとっては、何億年ぶりの現世だろうが、現世では、まだまだ数年程度しか経っていない、何も変わらない汚い世界であると思いながら刹那はその世界を見て、そう言うだろう




-3-
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