小説『IS 幻想の王』
作者:沙希()

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第2話 ここまで汚いのは、流石に予想外



俺は紫の境界を操る力で外界に飛び、あの時、俺が家出をして止まった神社に着いた
後から知ったが、この神社は現世の博霊神社らしく、境界を繋ぐには持ってこい場所らしいのだ
俺はにとりの手を引き、神社から見える外の風景を眺める
にとりの顔は何とも嫌そうな顔をし、刹那の腕をギュッと握りしめた




「汚い、ね」




「あぁ。俺が子供だった時は何も感じなかったけど、汚いな」




それは世界の事なのか、あるいは空気の事について言っているのかは、又は両方を意味している事を言ったのかは、誰でもわかる




両方だ
世界も空気も、誰にとっても幻想郷よりも汚れており、汚いのである
遠くから見える川の水は綺麗に見えるが汚染されており、空気はガスなどの影響で濁っている
幻想郷では全く有り得ない世界であった




「行こう。ユエルやノエルが待ってるだろうし、急がなきゃ」




「うん。行こう、刹那」



俺はにとりと一緒に、階段を下りて行くのだった
あの時よりも、世界はこうも歪んでしまったのかと、内心俺は悲しくなった・・・









???side



私はいつも以上に苛立ちを感じている
それは数千年前に負の塊と闘った時と同じ感覚なのだ


私が立っているこの世界は汚いものであった
水は穢れ、空気は完全に濁り、愚かな人間が増え続けている




まるで地獄だと言いたいが、映姫や小町の要る地獄とでは比べたら失礼なくらいである
断然この世界は幻想郷よりも汚いのだ



『ねぇねぇ、あの人ってさ、かなり美人じゃない?』



『うわぁ、ホントだ。どこのモデルさんだろう?』



『綺麗な髪に、すらっとした脚。いいなぁ〜』



周りの奴等が私を見て何かを言っているが、全く以て気にしていない
男共が私をチラチラと見てくるのがウザいと思ったが、もう直ぐ刹那が来るのでここは我慢している
私が苛立ちを感じていると、隣にいたノエルが水の入った(幻想郷の水)水筒を差し出してきた



「ユエルさん。そんな顔をしていたら刹那さんは悲しみますよ?はい、水です」



「すまない。ありがとう、ノエル」



「いえいえ。これくらいはお安い御用です」



そう言ってノエルは屈託のない笑顔を浮かべるが、目がそうでなかった
ノエル自身も、この世界の汚さにウンザリしているようである
神である私達にとっては、世界の事情や汚れには敏感であり、それを正す事が仕事であるが、この世界では神への信仰心は欠落どころか、まったくしない
神奈子や諏訪子の様に忘れられた神である私達を信仰する者は、幻想郷だけなのだろう
そんな事を思っていると、何やらカメラを持った男が私達に近づいてきた




「あの、僕はこう言う者でして、よかったらどうぞ」




そう言って一枚の紙切れを差し出し、礼をする
紙切れにはアイドルやら何やら訳のわからん単語、名前などが書かれており、男の顔を見る明らかに裏がある様な顔をしていたのだ



「僕はこのアイドルグループの編集者を務めていまして。アナタ達2人の姿を見てビビッと電流が体に流れたんです!!良かったら、そこの店で御一緒しませんか?」




そう言ってにこやかに営業スマイルを浮かべながら手を差し伸べている
汚らわしいな
そんな事を思いながらノエルとアイコンタクトをし、この場を去ろうとする




「結構だ。私達は待たせている奴等がいる。貴様に構っているほど、暇ではない」




「では、私達はこれで」



「あ、待ってください!!」



男はそう言って私とノエルの腕を掴む
その瞬間、一気に殺気が込み上がって来た
ノエルからも感じ様に、殺気がタダ漏れしている
男はその事に気が付いていないのか、そのまま言葉を続けた



「少しだけで良いんです。ほんの少し、時間をいただければ」



「だから、結構だと言っているだろ。その手を離せ」



「ですから、ほんの少しだけ「離せと言っているでしょ!!」!?」



その瞬間、男はノエルに腕を掴まれ、そのまま男を投げた
男は一直線に飛んで行き、そのままダーツの如く建物のコンクリートに突き刺さった
周りの人間どもは、その光景に呆気にとられ私達を見ている



「行くぞ、ノエル。こんな所に居ては時間の無駄だ」



「はい」



私の後に続く様に、ノエルはと私は場所を変えるのであった
はぁ、全く以て憂鬱な日だな
そう思いながら、刹那とにとりを待つのであった



side end














何から何まで変わっていない
俺が見た光景と全く変わらない所だってある
商店街にあるお菓子屋さんとか、惣菜売場とか、鮮魚店などは数年たっても変わる事もなく営業を進めている
ここで変わった事は、いつもお世話になった御爺さんや御婆さん達が居ないという事くらいかな・・・・・・・



この世界で唯一、俺という存在そのものを肯定してくれた人達はもう居なかったのだ
亡くなったのか、それともただ静かに暮らしているのかのどちらかであろうが、もう俺は見る事は無いのだろう
何時も俺が泣いているとき励ましてくれたおじさんも、怪我をしていた時に何時だって手当てしてくれた御婆さんも居ない



「悲しい、なぁ・・・・・・」



「なにが?」



どうやら声に出していたらしく、にとりが俺の方を向いて聞き返した



「いや。俺が子供のころ世話になった人達がいなくってさ、それが寂しいと思って。俺が居ない間に亡くなったのかなって思って」



「・・・・・・そうだよね。お世話になっていた人達が居なくなったら、そりゃあ悲しいもんね。でもね、刹那。私や幻想郷の皆は、刹那を置いて行ったりしないよ。絶対に一緒だって、いつまでも一緒だって約束したじゃん」



「覚えてる。それも数千年前だ・・・・・」



「あの時はまだ椛や文、はたてが居ない頃だけど、それでも刹那を守りたいって想いは誰だった一緒だ。だから、刹那。こんな非力な私だけど、刹那を守って見せるよ」



そう言って決意を込めた目で俺を見るにとり
幾千ものとしを超えても尚その眼には揺らぎもない本当の決意をした眼をしている



「ありがとう、にとり。お前が俺の傍に居てくれて、本当に良かった」



「その言葉、他の誰にも言ってるだろ?でも、有難く受け取っておくよ。」



確かに、と俺は苦笑いをする
でもにとりはそう言ったモノの嬉しそうな顔をし、スキップしながら商店街を歩く
俺はにとりを見失わぬよう、ノエルとユエルに合流するのであった


-4-
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