第3話 大切な存在と不安な気持ち
空の向こうに見える白い地平線
どこまでも続き、下はとても眺めが良い絶景の場所
飛行機や飛行物体の一つも飛んでおらず、風の音だけでとても静かであった
そして、その空に飛び交う閃光が2つほど、ぶつかり合っている
「終わりだ!!マター・デストラクト!!」
『ガァアアアアアアア!?』
黄色のラインが入った黒い鎧着た刹那は黒く染まった負の塊を無数の槍を投降し、最後に残った槍を掴みとり、突撃し、貫いた
負の塊は少しずつ光となって浄化され、淡い光を残し、消え去って行った
「これで18人目ですね。お疲れ様です、刹那さん」
「ありがとう、ノエル。ユエル、そっちは終わった」
「とっくに浄化さえた。しかし、分かり切っていた事だが多いな。いくら浄化の力を持っている私や刹那、ノエルだけでは流石に疲労がたまる」
「それに前よりも段々濃厚になってきてるから、力も強くなってる。これだと流石に・・・・・」
ノエルは魔銃ベルフェルクを仕舞い、疲れた表情をして刹那に寄りかかる
私もノエル同様、そう思わずには得られなかった
過去に倒してきた負の塊は私達にとっては苦もなく普通に倒せていた
だがこの世界の負の塊は違う
過去で倒してきた負の塊以上に強く、そして・・・・・・賢くなっているのだ
前は理性無き殺戮するだけのものであったが、今回のはまるで理性があるかのように強くなっている
今の私や刹那でさえ手を煩わせるレベルほどでもあるのだ
今までそんな事はなかった、ある言葉を思い出す
『繋がれた無限世界』
その言葉に私はある仮説を考えた
昔刹那が出会ったというもう一人の刹那が無限世界から来た
となればその無限世界の負の塊がこちらに流れ込んでいるという事である
それならば納得がいく
繋がった無限に等しい数えきれない可能性の世界の負が、こちらに流れ込んできており、そしてその無限世界で私達の戦闘での記憶を見てきているとならば、私の仮説は正しくなる
これは厄介だな・・・・・・・
「そろそろ戻ろう。にとりが入学手続きを済ませてるだろうし、待たせると悪いだろう」
「そうですね。ユエルさん行きま・・・ユエルさん?」
「む、すまん、なんだって?」
「だから、にとりを待たせると悪いから早く行きましょうって話です。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。少し疲れただけだから、なんともない。じゃあ、行くぞ」
ノエルは心配そうな顔で私を見たが直ぐにいつもの表情に戻った
だが思う所、早く休みが欲しいモノだな
私は、終わらない仕事に、嘆くのであった
???side
無くしてしまったモノは、二度と戻る事はない
何時だって現実は残酷なものだった
私は机の上の書類を片づける事を済ませ、隣に置いてある写真立てを見つめる
そこには元気に私の手を握っている弟の冬人と、隅っこで暗い表情をしているもう一人の弟・・・・・・・・・・・・一夏が写っている
一夏が居なくなって、もう約6年くらいは経っただろう
私は結果的に一夏を追いこんでいたのだ
気づいてあげられなかったのではない、気にかける事が出来なかったではない
見捨ててしまったのだ
冬人と一夏が4年生になった春、式を終わらせた直後に一夏は居なくなってしまったのだ
直ぐに世界から逃げている束に頼み、探してもらったのだが見つかる事さえなかったのだ
死んでしまったのかというのを考えたが、死体が無かった為死は有り得ないと思えたが、でも、それでも私は不安に襲われた
きっと、私達の事を嫌って、家を出たのかもしれない
だから私達の前から消えたのかもしれない
「・・・・・・・何も出来なかった私を、お前は恨んでいるか?」
私の問いは誰も問う事もなく消えていく
私は写真立てを置いて、食堂のコーヒーでも貰いに行こうかと思って椅子から立ち上がったその時だった
「お、織斑先生!!た、大変です!!」
「なんだ、騒々しい。少しは落ちつきたまえ、山田先生」
「こ、これが落ちついてはいられませんよ!!テレビを見ていないんですか!?」
「テレビ?」
山田先生の言葉に私は訊き返した
私は職員室のテレビを付ける
チャンネルを一つ一つ変えて行くと気になるニュースが流れていた
『次のニュースです。先日ISを動かした男性、織斑冬人に続き、新たなISを動かせる男性が発覚した模様。名前は蒼月 刹那といい、河城重工と八雲重工の親類にあたる人物です』
冬人以外にもISを動かせる男だと!?
冬人以外にもISを動かせる事に驚きもあり、書類が増えるだろうと内心嘆きながらニュースを見た
そしてキャスターが淡々と話を進めて行くと、ISを動かした男の写真が出た
私は見た瞬間に驚きと、戸惑いを覚えた
顔立ちは整っており、髪はそれなりに伸びている
綺麗なサファイアブルーの瞳の少年がそこにいたのだ
一夏
それはかつて救えなかった、構ってあげられなかった、気づいてあげられなかった、弟がそこにいたのだ
髪は伸びているが、顔立ちは小さいころの面影を残しており、唯一違うと言ったら瞳の色くらいだろう
私は自然と涙が流れ出てきた
嫌われてしまった私の前に、大切な弟が帰って来たのだ
でも私の心は不安で染まった
帰って来たのは良い
だが、それで相手は私の事をどう思っているのだろうか?
今まで散々厳しい事を言って、散々目もくれず見捨ててきた私を見て、アイツはどうするだろうか
きっと怒るかもしれない、嫌うかもしれない、殺しに掛かるのかもしれない
そんな感情が湧きあがり、さっきまでの嬉しさなど、消え失せていた
「一夏・・・・・お前は・・・・お前は私を怨んでいるのだろうか?」
小さな声で呟き、私は涙を流した
後悔と悲しみ、そして不安という感情に襲われながら、私は入学式が訪れる日までその全ての感情を抑えることも出来なかった
Side end