小説『不思議な話』
作者:あさひ()

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第十話 クローン少女




このお話の世界には、「クローン屋」というのがあり、
そこでは、クローンとして人工的に創られた人間が売られている。



昔、ある研究所の博士が、政府の闇組織に命令され、極秘にクローン人間の研究をしていた。クローンたちの遺伝子情報はすべて明らかにされ、クローン人間には時々内臓の一部に欠陥がもたらされることが分かり、クローンを創る時は必ず2人以上を創ることになっていた。そうして、実験に主に用いることとなったクローン以外のクローンの中で、殺されずにすんだクローンだけが、特殊加工液の入ったカプセルの中でいつまでも保存されている。彼らは眠っており、科学者による操作がない限り目覚めることはない。


しかし、カプセルの中にいないクローンはどうしても20歳まで生き延びることができず、この研究は行われなくなってしまった。

そして7年後、クローン人間の研究をしていた博士の助手をしていたマドール・レビノスが、生存クローン人間を商業に用いるようになった。その商業とは、「クローンの売買」であった。クローンには、よく遺伝的欠陥が見られるのだが、それはほんのわずかであるにも関わらず、権力争いによって生まれたデマにより、彼らは人間よりも格下で下賤な動物であるとされた。そのため、彼らを利用していかにも人道に反する商業が行われていることを知っても、人間たちが心を痛めることは無かった。10年以上カプセルの中に入れられているクローンは、カプセルの中に常に入れておかないと、1週間も経たないうちに死んでしまう
ことが分かっているため、研究から7年も経つ今、商品はカプセルの中に入れられたまま売られていた。



薄暗く、たくさん立ち並ぶカプセルをうっすらと照らす明かりが不気味な「クローン屋」の中を一人の男が歩いていた。黒いスーツの上に黒いコートを着、黒い帽子を被っていた。

男はある少女のクローンに会うために、その奥の部屋へと入って行った。


実は、この男は昔クローン実験に関わっていた人物の一人であった。その実験の時に利用され、18歳で死んでいった少女に恋をした男は、その少女のクローンに会いに来たのだ。

そして、男は一つのカプセルの前に立ち止まった。

カプセルの中にいる少女は眠っている。落ち着きのある雰囲気をした、髪を肩まで伸ばした少女である。灰色のクローンウェアとクローンズボンを着て、まるでロボットのようである。

「ちょっと待っててね。すぐに戻してあげるから。」

男はコートの内ポケットからなにやら小型のUSBのようなものを取り出し、カプセルの下の方にある小さな四角いカバーを開け、細長い穴の中に差し込んだ。

すると、カプセルの中の少女の頭に取り付けられているコードがかすかに振動した。
そして、少女はゆっくりと目を開けた。目の色は海のような青色をしていた。

状況が呑み込めず、少女は少し困惑しているようであった。

「君は、アンのクローンだよ。」

それを聞き、少女は状況を把握したのか、落ち着きを取り戻したようだった。カプセルが気になったのか、アンはカプセルの壁に手をあてた。

「君はカプセルから出たら死んでしまう。今日は、君に会いに来たんだよ。」

すると、カプセルの中でアンがにっこりと笑った。

「ありがとうございます。」

アンの言葉をしっかりと聞き取った男も、にっこりと笑い、それを見たアンは再び笑った。

そこにマドールがやってきた。
「そろそろ、この女も売って金にしてもいいですかい?」

すると、男はコートの内ポケットから今度は銃を取り出してマドールの頭に押し当てた。

「そんなことをしたらどんなことになるのか分かっているのか、他のクローンのUSBを使って商売の邪魔をしてやる。」
「やめてください、一般人にそんなことが知れたら面倒なことになります。」
「なら、今まで通り、このカプセルをここに隔離しておくんだな。」

マドールは舌打ちをして部屋を出て行った。

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