男はアンの方へ向き直った。
「しばらくは君をここに隠しておくよ。実はまだ裏で研究を隠れてやっている人間がいるから。
君は、僕がいない間は眠っていたいかい?それともこのままでいたいかい?」
「生きているのが辛いから眠るっていうのは好きじゃありません。眠って辛いことを避けるよりも、普通の人のように生きて、運命を受け入れる方がましです。」
「それじゃあ、君をこのままにしておくけど、他の人間がここにやってきた時は眠っているふりをしてもらいたい。ここに訪れる客が足を踏み入れるかもしれないからね。」
アンはカプセルの中で少し不安そうな顔をしてこっくりとうなずいた。
「それじゃあまた会いにくるよ。」
そう言って男が去ろうとした時、
「あなたはいつか私を捨てますか?」
と少し大きな声を出してアンが尋ねた。
「捨てる?」
男は再びアンの方に向き直った。
「僕が君を見捨てる時は、それは君の死を意味するだろう。僕が好きな人を殺せると思うのかい?」
「それはないと思いますが…。この先私があなたのためにできることって、あるのでしょうか…?」
「恋人同士が互いを捨てられないのは、互いが互いを必要としているからなんだよ。別の人に置き換えが効くくらいなら、恋人なんかじゃない。いくら貢がれていても、愛がなきゃただの都合のいい相手なんだ。僕らの関係は研究で結びついていたんじゃないだろ?」
「まぁ…。」
いつのまにだな、と思いながら、アンは薄らと照れ笑いを浮かべた。
「あと、忘れないでもらいたいことがあります。」
男は、なんだろう、という顔をしてアンの顔をまじまじと見つめた。
「私は絶対に人を裏切れない人です。だから、私たちの縁が切れる時は、あなたが私を捨てる時です。」
男は嬉しいそうにうなずき、扉の前まで歩みを進め、そこでカプセルに向かって手を振って、部屋を出ていった。