第三話 凍結
ある町に変わり者の数学者がいました。彼は、すでに答えの出ている数学の問題を解き続けているのです。というのも、その数学の問題の答えが出てしまったら数学のために時間を費やすことができなくなるからでした。彼はなんとかして誤魔化しの数式を用いてむやみに違う答えに導き続けようと考えました。
ある日彼は家の近くの公園で問題用紙を膝の上において右手にペンを持ち、深々と考え込んでいました。
「そんなことをしていて、虚しくないのですか?」
その声に気がついて、数学者は膝の近くに向けていた顔をあげて声のする方を見やると、そこには魔術師がいました。
「他にやることはないんですか?」
「別の問題には興味がないんだ。別の問題を解いたって誰にも相手にされないからな。」
「人の気をひくためにそんなことをやっている。」
「別にいいだろ。」
魔術師はその数学者のことを見て「可哀そうな人だ」と思いました。
「すでに出ている答えが真実だとしたら?」
「真実なんてない。真実といわれるものは、すべて人が作りあげるものさ。」
魔術師も人間なので、自分が悟っている真実を必ずしも真実だと言い切ることができませんでしたが、彼の問題を解いている様子を見て、これは明らかに真実に背いた行動だと受け止めました。それに、彼は魔法の力を使うことで、その問題の答えがすでに出ている答えであることに気が付いていました。
魔術師は、数学の問題を二度と元の答えにたどりつかないようにイタズラでいじくってそのことを気付かないように彼に魔法をかけてその場を後にしました。