小説『不思議な話』
作者:あさひ()

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第八話 猫


ある日、若い三毛猫が、魔術師の家のドアをガリガリと爪でひっかいていました。外は雨がしきりに降っていてとても寒かったのでした。
それに気が付いた魔術師は、すぐに猫を家の中に入れてやり、タオルで拭いてあげて、暖炉の前の座布団の上で寝かしてあげました。

(う〜ん、どうしてこんなところに猫が来たんだろう・・・?)

魔術師は暖炉の前の、猫の近くのゆったりとしたソファーに腰かけ、じっと猫の様子を見つめていました。

魔術師が本に読みふけっていると、
猫がゆっくりと閉じていた目を開きました。

「危ない所をありがとうございました。」

魔術師はびっくりとして猫の方をみやりました。その声は聞き覚えのある声でした。

「あなたはもしかして・・・。」
「はい、○○町の公園にいた学者です。」
「あぁ、あの時のペテ・・・じゃなかった。」
「いいですよ、好きに言ってください、その節はお世話になりました。」

魔術師は、○○町にいた数学者が権力争いや様々な人間の欲望によってつけられた心の傷を魔法薬によって癒してあげたことがありました。

「一体どうしたんですか?」
「魔法薬の副作用なのか、僕、猫になってここにくるようになってしまったんです。」
「まさか、あの薬に副作用があるなんて・・・。」
「僕の心の闇のせいなんです。あなたとは違う魔術師の人に聞きました。心の闇を除去せずに生きて魔法薬を使うと、薬の副作用で、人間以外の何かになってしまうんだと聞きました。でも、この猫の姿をした僕は、僕の分身で、本物の僕は現世に存在しています。」
「魔法薬には、私ら魔術師の涙を材料に使っています。きっとあなたの猫の形をした霊魂の一部が私のところに来てしまったのは、
そのせいでしょう・・・。」

魔術師は考え込んでから、三毛猫に、
「あなた、私に飼い主になってもらいたいと思う?」
と尋ねました。
「学者になんということを聞くんだ?」
「そうじゃなくて。この流れはそういうことだと思うでしょうに。
ひとまず、ここにいないといくら霊魂でも危険なことになると思います。」

魔術師は、その猫をとりあえず自分の家で飼うことにしたのでした。
魔術師は、それにしても可愛い三毛猫だなぁ と思いました。

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