小説『遙か彼方の』
作者:読み手書き手(僕のブログ)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

日も落ちて練習が終わる頃、智弘が俺と啓太のところにやってきた。

「あのリュウさんと啓太さんにお願いがあるんですけど・・・・・・」

その目に、俺が覚えている智弘の能天気さは感じられない。
真剣さ。試合前のような緊張感を感じた。

「山高でハンド教えて下さい!!!」

「それって俺らにコーチやれってこと?」
啓太が聞き返す。


「そうです。今のこのチームはほとんどが四月から三年です。
最後の年くらい結果残したいんです。」

「どこまで行きたい?」
今度は俺が聞き返す。

「これは俺の勝手な目標ですけど、全国制覇したいです」
声が少し弱くなった。

しかしその気持ちに嘘がない。
それだけは分かる。

「お願いします!!!コーチやって下さい!!!」

智弘が両手をつけ、頭を体育館の床にこすりつけながら言った。
実際に見た事なんて一度もない、正真正銘の『土下座』


そんなことまでされちゃあ、答えは一つしかねーだろ。

お前の夢、俺達が叶えてやるよ。
絶対に、何があってもな。

そんなことを言っても

分かってるよ。
俺はこの日常を変えたいだけ。
つまらない毎日を塗り替えたいだけ。
結局、俺は自分のことしか考えてないんだ。



それでも、俺は後輩の頼みを聞いてやる良い先輩のように

「任せろ。俺達が、お前らをてっぺんに連れてってやる。」
と大口を叩いた。







-6-
Copyright ©読み手書き手 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える