日も落ちて練習が終わる頃、智弘が俺と啓太のところにやってきた。
「あのリュウさんと啓太さんにお願いがあるんですけど・・・・・・」
その目に、俺が覚えている智弘の能天気さは感じられない。
真剣さ。試合前のような緊張感を感じた。
「山高でハンド教えて下さい!!!」
「それって俺らにコーチやれってこと?」
啓太が聞き返す。
「そうです。今のこのチームはほとんどが四月から三年です。
最後の年くらい結果残したいんです。」
「どこまで行きたい?」
今度は俺が聞き返す。
「これは俺の勝手な目標ですけど、全国制覇したいです」
声が少し弱くなった。
しかしその気持ちに嘘がない。
それだけは分かる。
「お願いします!!!コーチやって下さい!!!」
智弘が両手をつけ、頭を体育館の床にこすりつけながら言った。
実際に見た事なんて一度もない、正真正銘の『土下座』
そんなことまでされちゃあ、答えは一つしかねーだろ。
お前の夢、俺達が叶えてやるよ。
絶対に、何があってもな。
そんなことを言っても
分かってるよ。
俺はこの日常を変えたいだけ。
つまらない毎日を塗り替えたいだけ。
結局、俺は自分のことしか考えてないんだ。
それでも、俺は後輩の頼みを聞いてやる良い先輩のように
「任せろ。俺達が、お前らをてっぺんに連れてってやる。」
と大口を叩いた。