小説『ハルケギニアに蘇りし紅き狼』
作者:大喰らいの牙()

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第十一話  荷卸し


〜真紅狼side〜
はい、現在俺は、ウォルフガングの中で操縦してるよ。
低速で動いてるから、トリステイン上空に着くのはいつもよりかかる。
まぁ、それでも5分で着いちまうんだけどね。
通常時なら、45秒だ。
俺が一人で外出してるのはリュオンを始め、皆知ってるので怒られない。
だけど、諸国は知らないのでさすがに素顔で行くのも騒ぎになるので、カウボーイハットを被り、片目を隠すように被っている。
髪も紅に変えている為、分からないようになってる。


ピピッ………!!


現在位置を示すレーダーが、トリステイン王国のトリスタン上空と言う事を示した。
俺はウォルフガングを着陸させ、ハッチを開き荷車と荷車を引く為の小型艇を用意した。


「………周りには誰も居ねぇな」


周りに誰もいない事を確認した後、ステルス状態を解き、卸す分だけ積み再びウォルフガングをステルス状態に戻した。
小型艇は大型バイクぐらいの大きさだ。
これに無駄なスペースやデザインを無くしたモノが、戦闘用小型戦闘艇である。
俺は、変装の身なりを整えた後、トリスタンに商人として入った。
俺が向かった先はトリスタンでそれなりの街娘が働いていると言う“魅惑の妖精亭”という酒場。


コンコン………


「毎度ー、ガロン商会のガロンでーす!! 注文の酒を届けにきましたーー!!」
「あら〜、毎度御苦労さまですぅ〜。ガロンさぁ〜ん」


俺は変装時は“ガロン”と名乗ってる。
対応して来たのは、この店の店長であるスカロンだ。
ボディービルダー並みの体格をしてるが、オネエ言葉で対応してくる。
客受けもいいらしい。
トリステイン貴族のセンスを疑う。


「今日はえ〜っと、五箱ですねー。外に置いてあります」
「いつも有難うございます〜。お値段はいくらですか?」
「五箱注文ですが、纏め注文なので10%offとして13エキューですね」
「はい。こちらでよろしいですか〜?」


俺は金貨を数え、清算し確かに頂いた。


「確かに頂きました。では、御荷物の方を倉庫の方に運んでおきます」
「いえいえ、そんなのはこちらで〜」
「そちらのスタッフに怪我させたら、商売あがったりでしょう? やっておきますよ」


そういい、裏口に周り、女子が四人がかりで持っている木箱を俺は持った。


「ああ、俺がやっておくので構わないぞ」
「あ、有難うございます」
「そうよ、皆、お店の仕事も手伝ってよ………って、ガロンじゃない」
「よぉ、ジェシカ」


メイド長と言ってもいいポジションにいるこの店の一人娘、ジェシカ。
彼女は器用だし、頭の回転も速い。
この店と付き合って5年になるが、何度も俺の正体を明かされそうになりかけたことがある。
マジで侮れない。


「相変わらず、髪が艶やかだな」
「褒めたって、何も出ないわよ?」
「率直な感想を言っただけだが?」
「そう。アリガト。毎度思うんだけど、ガロンってなんでいつも帽子を被ってるの?」
「うーーん、何か被ってないと落ち着かないんだよ」
「そういうものなの?」
「そういうものだ」


ジェシカは『ふーーん』って一応納得しているみたいだが、絶対に納得していないな、コイツ。


「ガロンはどこの国の人なの? ゲルマニアやガリアじゃないんでしょ?」
「………海の向こう側の国―――――“トゥルゥーガ公国”だ」
「トゥルゥーガって、ロマリア神官を追放した国に住んでるの?」
「ああ、良い国だぞ? 貴族はいないし、余計な事に縛られることも無く、陛下が掲げている三カ条さえ護ればいいし」
「貴族がいないの?」
「陛下が貴族とかそういうものが嫌いなんだってよ。陛下も『王族とか言ってるけど、所詮肩書だしね。肩書なんて投げ捨てる物』って大衆の前で叫んでいたし、どんな存在でも受け入れる人だから。人間から忌み嫌われているエルフまでなんでもござれ状態だよ」
「……エルフまで!?」
「そう、エルフまで。至って普通に平然と受け入れてるよ」


そんな世間話をしていたら、運び荷はすでに終わっていた。


「いつの間にか終わってたな」
「じゃあ、話も終わりね」
「そうだな。………今日の夜、ここに寄るよ」
「あら、なら気合を入れて歓迎するわ」
「そいつは楽しみにしてるよ。じゃあ、ジェシカ。スカロンによろしく言っといてくれ」


そういって、裏口から出ていき次の目的地、シャルロットが留学している魔法学院に向かった。
〜真紅狼side out〜


〜カトレアside〜
ルゥちゃんのお仕事を簡単な仕事から慣れていくことにした私は、書類などの目を通していたら、一枚の書類が気になった。


“トゥルゥーガ公国の国庫”


どうやら、この国の財源が事細かく記されていた。
各都市の財源からこの王都の財源が記載されていた。
そして、最後の全体総合金額はなんと………………………おそらくガリアとゲルマニアを足してようやく届くと言う程の金額だった。


( ⊃д⊂)ゴシゴシ


今のは見間違いよね?


( ゜д ゜)ジー


何度見ても、単位はエキューで0が軽く15個以上ある…………。


( ; ゜口 ゜)ポカーン


「え、えぇぇぇぇぇええーーー!!!?」
「………どうしたんッスかーー?」


プリニーのオレンジが聞いてきた。


「オレンジくん、こ、この財庫はどういうことなの?」


目を通していた書類を見せると……………


「ああ、真紅狼さんは基本お金を使わないんッスよ! 必要な物は自分で採りに行ってるんで、作業代とかもほとんど自分でやってるッス!! だから、いつの間にかこの国の財庫がエライことになってたんス…………」


その後、オレンジくんは私が居るこの家も『真紅狼さんが造った』と言って、お城に帰っていった。


「凄い所に嫁いじゃったなぁ………」


改めて凄い所に来たと思う。
でも、ルゥちゃんの寝顔は可愛いんだよなぁ。
母性本能がくすぐられる。
あ、そうだ。
今度暇な時に膝枕してあげよう。
疲れも取れて、寝顔も見れてどちらもいいわ。
〜カトレアside out〜


〜真紅狼side〜
ジェシカと別れたあと、すぐさま王都を出ていきウォルフガングに乗り込み、魔法学院に向かった。
魔法学院の周りには何もなく、平原がどこまでも続いていた。
あそこがトリステイン魔法学院か………
さてと、変装して…………
少し離れた場所にウォルフガングをステルス状態で着陸させた。
なんて、尋ねようか?
そうやって、どうこう考えているうちに門までやって来ていた。


「門番がいねぇし………賊に入られても文句言えないと思うんだけどな。まぁ、いいや。失礼しまーす」


ノックはしてないけど、声でノックしたから大丈夫だ、問題ない。
さて、シャルロットは………っと。
おっと、ここでは“タバサ”って名乗ってんだったな。
タバサが留学までしてトリステイン魔法学院に通ってるのは、なんでもガリアでは自分を王弟の娘として周りは見るからそれが嫌らしく、態々留学をしているらしい。


「本を読むことが好きだったから、木立とかにいるかな?」


俺が木立のほうに向かって歩いていると………………居た。


「………タバサ、元気か?」
「………真紅……ガロン、どうしてここに?」
「荷卸しで、王都に行ってた。で、シャルルに伝言を頼まれたからここにやってきた」
「父様はなんて言ってたの?」
「『困ったことはないか?』と『イザベラが寂しがっているから、たまには帰ってきなさい』だってよ」
「父様は心配性よね」
「まったくだ」


タバサ(シャルロット)は第三者がいない場合は、普段よりもよくしゃべる。
第三者がいる時は無口になりやすいが………。


「ガロン」
「なんだ、タバサ?」
「ここに居たら、帰れなくなるわよ?」
「あん? どういういm…………「タバサーー」…………逃げるなら、いや、もう遅いか………」


後ろを見てみると、いつの間にか見物人がいっぱいでした。
しかも、褐色で赤というよりかはオレンジが混ざった赤髪の女生徒がこっちにやってきていた。


「タバサ、探したのよって、そちらの方はダレ?」
「………私の知り合い」
「ガロンといいます」
「あら、そう。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。“キュルケ”でも“ツェルプストー”でもどちらでも呼んで構いませんわよ? ミスタ・ガロン」
「これはご丁寧にどうも」
「そして、私の二つ名は“微熱”」


前々から思っていたんだけどよ………。
そんな二つ名付けてる暇あったら、もう少し力付けろと俺は言いたい。
二つ名語って、はっきり言えば怖くもなんともねぇーぞ?


「ミス・ツェルプストーはゲルマニアの方ですか?」
「ええ。そういう貴方はどこなのかしら? ミスタ・ガロン」
「………ガロンはトゥルゥーガ公国の人間」


タバサが俺よりも喋ると、ツェルプストーは驚く。


「わぁお、貴方、トゥルゥーガの人間だったの? でも、あそこって野蛮な国だって噂されてるわよ? 確か、王様が人狼だって聞いてるし、エルフまで住んでるのも聞いたけど………」
「事実ですが、それが何か?」
「貴方、国の事悪く言われても怒らないの?」
「言いたいなら、言っても構わないですよ? ただし、私の中でそいつは人として“小さい奴”として判断させていただきますがね」


そう挑発的な態度を取ってみることにした。
すると、一度は顔を赤くして、怒っているように見えたがすぐさま冷めていた。


「そうね。今ので怒るのは筋違いね。私が悪いわね、申し訳ないわ、ミスタ・ガロン」


驚いた。
案外、素直じゃないか………ツェルプストー。
っと、もうそろそろ夜になりそうだし、魅惑の妖精に向かうか。


「じゃあ、タバサにミス・ツェルプストー。私はこれで………」
「あら、もうお帰りに?」
「………父様によろしく」
「ええ、人と待ち合わせでして………では」


俺は軽く会釈し、魔法学院を出ようとした時、後ろから制止するように声を掛けられた。


『そこの男、待ちたまえ!』


なんか声が聞こえたような気がするが………空耳だな。
そのまま俺は出口に向かおうとする。


『待てと………言ってるだろうが………っっ!!』


ビュンッ!!


俺の顔の横にカマイタチのようなものが通り過ぎ、俺の目の前で風の刃が炸裂した。
俺に当たることは無かったが、頬を掠めた。
男は俺に杖を向けていて、先程の風の魔法から見て、風系統のメイジらしい。


「………なにか?」
「貴様、何者だ? ここがどこだか分かってるのか?」
「私は一応、ココに入る前に『失礼します』と叫びましたが?」
「聞こえるわけ無かろう! 取り敢えず、貴様を捕まえてやる………」


そう言って、先程の呪文を唱え始めたので、面倒だから“真紅の執行者”を引き抜き、杖に照準を定め、撃った。


ダァーーン………!
バチンッ!


「ぐぁっ!?」
「問答無用で掛かってくるなら、こちらも容赦はしない。今のは警告と忠告を兼ねて撃った。また襲いかかって来るのであれば、今度は………殺す」


俺は撃たれて手の痺れが未だに取れていない男を上から見下ろす様に高圧的に言い放った。
男はこちらを撃たれてもなお、睨みつけていた。


「くだらん………」


そういい、俺は魔法学院を出ていった。
そのまま出ていき、ステルス状態を解いて、トリスタンに向かった。
うーん、もう少しこれよりもサイズの小さい飛空挺を造るべきかな。
取り敢えず、魅惑の妖精亭に向かった。
中はそれなりに繁盛しているみたいだった。
戸を押して、中に入ることにした。


『いらっしゃいませー♪』
「ウイッス、来たぜ」
「あら、ガロンさんじゃないですか!」
「適当な場所でいいから、案内してくれない?」
「はい、こちらにどうぞー!」


そういって、案内された場所はジェシカが待機するホールと厨房の間の入口に立っている近くだった。
案内した女の子は、他の客から注文を聞きに行った。
その際に、小声で『今日のジェシカはちょっと気合入ってますよ………♪』
と囁かれた。
気合ってまさかなぁ………
俺は頭によぎった予感を否定しながら、トリステインの地酒、タルブの葡萄酒を頼んだ。
うん………美味い。
ウチのとは、全く違うさっぱり感があるな。
何が違うんだろう?
やっぱり、水か?
一応、水の国(トリステイン)だし……………純度が高いモノでも使っているんだろうか。


「あら、ガロン。来てたの?」
「おお、ジェシカ…………って………!?」


ジェシカの姿を見てみると、予想通りだった。
昼間見た姿とは全く違う姿で、色気がやたら出ていた。
その大きな胸もかなり大胆に出していた。


「嫌な時の予想って本当に当たるな」
「・・・・・・・・?」
「その姿になって、色々と声を掛けられただろ? 『仕事が終わったら〜』とかで口説かれたか?」
「ええ。つい先ほどもね」
「そりゃまた、人気が高いことで」
「まぁ、死んでも頷くつもりは無いけどね」
「お前もちったぁ恋とかしろよ、そういう相手はいないのか?」
「いないわねぇ。そんな相手は。…………いや、居たわ。私の隣でタルブの葡萄酒を味わいながら、飲んでる男が一人居たわ」


……………オイ、止めろ。
なんだ、その不安を煽ぐフラグは。
オイ、見てみろ。
お前のせいで、この店の中に居る男どもが全員こっち見てんじゃねぇか!


「ふふ、嬉しいかしら、ガロン?」
「嬉しい半分、この男達の嫉妬をどうにかしたいのを半分だな。…………チップはやらねぇぞ?」
「ちぇ、残念」


と、俺達は他愛の無い話をしてるが、周りの男から見ればそれがどのように見えてるかは、同じ男として想像できる。


『おーい、ジェシカ!! 注文したいんだけど!!』
「呼んでるぞ?」
「今日は貴方専属なの、だから貴方の注文しか聞けないの」
「オイコラ、小悪魔的な笑みをやめろ! お前のその笑みは碌なことになんねぇんだよ!!」


そう叫んだときにはすでに遅かった。


『そこのキミ! ちょっと話がある!』
「あーもう! なんでしょうかね?」
「ジェシカを賭けて勝負だ!!」
「いや、要はお前の嫉妬が爆発しただけだろ。それにジェシカの意思関係なくに賭けごとに使うなよ」


冷静に対処すると、周りの男達からは笑われていた。


「まぁ、そうカッカしなさんなって。俺ももう帰るしよ」
「あら、もう帰っちゃうの?」
「まぁな、これでも色々と請け負ってるからな」


本当に色々と請け負ってるんだぜ?


「表から出ると乱闘になっちゃうし、裏口から出てちょうだい。案内するから」


そういい、ジェシカと共に裏に回った。


「はい、ここが裏口。また来て頂戴」
「ああ、そうするよ」
「さてと、着替え直さないと………」
「そのままで仕事やればいいじゃないか」
「これは貴方が来た時しか着ないのよ、言わば、アンタ専用服ってことよ」
「俺が来るたびに乱闘とか、勘弁してくれ」


俺は天を仰いだ。


「あ、帰る前に本音を言っておくわ」
「本音ってなんの?」
「ガロン、貴方が恋の話の時に、私は貴方がいるって言ったけど、アレ、何割かは本気だから」


俺は天を(ry


「じゃあな」
「ええ、また来て頂戴ね」


そう言って、俺は帰っていった。
〜真紅狼side out〜


コイツは困ったなぁ………いつの間にかフラグが建ってたし

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