小説『ハルケギニアに蘇りし紅き狼』
作者:大喰らいの牙()

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第十三話  我が侭お嬢様の横暴とささやかな反撃


〜カトレアside〜
ルゥちゃんを寝かせてあげた。
しばらく、心地よい風が部屋の中を通っていった。
気持ちいいわ、ここの風はいつも透き通っている感じがする。
すると、しばらくしてからクルスさんが再びやってきた。


『陛下』
「あ、ごめんなさい。クルスさん、少し静かにしてもらえる?」
「あ、カトレア様、陛下は?」
「真紅狼さんなら、ここで寝てるわ」
「………よく眠っていますね」
「ここ最近、まともに寝ていなかったからね。膝枕してあげたら、すぐに寝ちゃったの。だから、起こさないであげてね」
「それなら、仕方ありませんね」
「で、どうしたの? なにか、急ぎの用事?」
「あ、はい。移送した少年少女が城に着いたのをお知らせしに来たんですが………」


真紅狼さんの代わりに、私が対応しておくべきね。


「私が行きましょう」
「よろしいのですか?」
「私はこの国の主の妻なのですから、少しぐらいお手伝いしないと」


そういうと、クルスさんは「わかりました」といって、私に支度するように言ってきた。
ルゥちゃんの頭をゆっくりと降ろして、タオルを体にかけてあげてから私は支度した。


「準備出来ましたよ、クルスさん」
「では、行きましょう。カトレア様」


私は、クルスさんと共に歩いて城に向かった。
〜カトレアside out〜


〜???side〜
魔法を唱えたら、爆発していきなりこんなところまで飛ばされた。
はっきり言って状況が読み込めないし、ここの居る者達はなんなのよ!?
私をぞんざいに扱うし、公爵家の三女に対して暴言を吐く。
極めつけは、使い魔が平民だということ。


「あーもう!! さっさと来なさいよ!! この国の主ってとやら!!」
「おい、ルイズ。もう少し大人しくしとけって。ここはトリステインじゃないことはお前もさっき分かってるだろ?」
「うっさいわね、このバカ犬!!」


ここに案内して来た者達や周りの背景を見て判断出来た。
ここは「トリステインじゃない」と。
しばらくすると、獣人がやってきたので『ここの主に合わせなさい』と言ったら、ここに通された。


「………お待たせしました。私はこの国の王の妻、カトレア………って、あら、ルイズ?」
「ちいねえさま!?」


私は驚いた。
自宅に居る筈のちいねえさまが、何故ココに居るのか?
しかも、今聞き捨てならない事を聞いたわ。


「ちいねえさま………? 今、この国の王の妻っていいましたけど、どういうことですか?」
「あら、伝わっていなかったの? 私、この国の王と結婚したのよ。ヴァリエール家にも別れの挨拶をしに行って、今はこの国に住んでるの」


ちいねえさまが結婚した?
いつ? だれと? どこで?
そんな言葉が頭の中で響いた。
でも、その前に………!!


「でも、ちいねえさまは病気を患わっていた筈じゃないですか?!」
「病気は真紅狼さんに治してもらったの、今では毎日が楽しいわ」


そんなバカな!?
優秀な水の治療士ですら、お手上げだった病をどうやって!?
取り敢えず、ちいねえさまと結婚したっていう男を見定めなければ………!!


「ちいねえさま! ちいねえさまと結婚した男を連れて来てください!!」
「連れてきてどうするの?」
「見定めます!! それでふさわしくないのなら、破棄させます!!」
「ルイズ、その願いは例え貴女でも聞けないわ」
「何故です?!」
「今、真紅狼さんはお休み中なの。ようやくゆっくり眠っている所を邪魔したくないのよ。それと、私はもうヴァリエール家の人間ではないわ。だから、“ちいねえさま”と呼ばずに名前で呼びなさい」


そんな…………。
あんなに優しかったちいねえさまが、ここまでいうなんて。
その『シンクロウ』と呼ばれる男がちいねえさまをおかしくしたのね?


『リュオンさん』
『なんでしょう、カトレア様』
『ルイズ達に、一番良い部屋と食事を与えてください』
『畏まりました』
『あと………』
『はい、なんでしょう?』
『トリステインに書通を送ってください』
『分かりました。そのように手配します。では………』


私達は、いつの間にかそのリュオンという獣人に連れられて、部屋に案内された。
〜ルイズside out〜



次の日の朝・・・・・



〜真紅狼side〜
目が覚めた時には、朝だった。
いや、ダジャレとかじゃなくて、マジで。


「えーっと、今日は何時だ?」
「あら、起きたんですか? ルゥちゃん」
「カトレア、今日は何時だ?」
「ヘイムダルのラーグの曜日ですよ」


ヘイムダルのラーグの曜日ということは………………
俺は一日中寝てたのか?!
あちゃー、やっちまったー


「あ、昨日の少年少女の件は私がやっておきましたから、大丈夫ですよ」
「ほぇ?」
「私の元妹みたいなんです。飛ばされてきた少女と言うのは」
「知り合い?」
「ヴァリエール家の三女ですよ。もう一人の男の子はどうやら使い魔みたいなの………」
「トリステインに書通は送った?」
「はい、昨日のうちに手配しました」


カトレアの頭を撫でた。


「え、えぇ////?!」
「いや、よくやってくれたから、撫でたんだけど嫌だったか?」
「い、いえ、その………////」


もごもご言ってから、顔が赤くなって黙ってしまった。
あら、可愛い。


「………そのヴァリエール家のお嬢さんは今何を?」
「リュオンさんが街案内をしていますが、あの子、わがままで融通が聞かないからもしかしたら迷惑をかけているかも」
「あー、マズイ。それはマズイ。さっさとトリステインに返すか。じゃないとリュオンの奴がキレる」


俺はクルスを呼んだ。


「なんでしょうか、陛下?」
「この書通を持って再度、トリステイン王国の魔法学院に届けてくれ。最速で頼む」
「了解しました。では」
「ああ、頼んだ」


クルスは飛び上がって、風を読み、一気に加速していった。
その時、プリニーのクロが判子済みの書類を持っていくところだったのでついでに伝言を頼んだ。


「おーい、クロ」
「なんッスか〜〜?」
「明日、トリステインに向かうから再度、旗艦艇の準備をさせる様に輸送部隊隊長のクイラ、『神狼』の各部隊隊長に準備させる様にしろ。旗艦艇は“煌黒艇”の用意で各部隊連れていけるのは三名までだ。と言っておいてくれ。それと“八咫鴉”部隊は休暇中だから声は掛けなくてもいい」
「了解ッス!」


クロは書類を持っていきながら、各部隊の部隊長に声をかけに行った。


「そのお嬢さんは今は魔法学院に所属してるのか?」
「そうなの。春に使い魔召喚の儀式が行っているんですけど、彼が使い魔だと思うのよ。手の甲に使い魔の印(ルーン)が刻まれていたので」
「ふーーん。取り敢えず、カトレアも来てくれ。多分、俺たちじゃ喧嘩になる」
「はい」


俺とカトレアは二人で書類の整理やら判子押しをすることにした。
〜真紅狼side out〜



一方そのころ・・・・・



〜???side〜
今、学院では教師内で騒ぎになっていた。
ラ・ヴァリエール家の御息女と使い魔が忽然と学院内から消えてしまったのだ。


「どうします、オールド・オスマン!?」
「………学院内をくまなく探しても、見つかりません!!」
「このことがヴァリエール公爵と公爵夫人に知られたら………」


一人の教師がぽろっと、口に出した。
その様子を思い浮かべた全員は身を震わせた。
あの“公爵家”を怒らせたら、ここにいる教師の首が現実に飛びかねない状況であった。


「………ミス・ヴァリエールが外に出掛けたと言う事はないんじゃな?」
「はい。門番にも誰も出ていってないと言っておりました」


教師達が悩んでいた時に、戸を叩く音が聞こえた。


コンコン・・・


「誰かな?」
「門番の者ですが………」
「何用かね?」
「訪問者が来ております。なんでも『急いでいる』と」
「ふむ。ミス・ロングビル、ちょっと行ってもらえるかの?」
「分かりました」


私は、その訪問者の所に向かった。


「お待たせしまし………た」
「おや、マチルダさんじゃないですか」
「クルス? なんで、アンタここに?」
「仕事ですよ。我が国にこの学院の生徒が来てしまったので、明日送り帰すと言う書通を持って来たんですよ」


と、クルスはこちらの状況を知らず、軽く言う。
まさか………


「クルス、質問してもいいかい?」
「はい、なんでしょう?」
「その生徒って、髪は桃色でブロンドが掛かっていて背が低くなかったかい? それと、男の子を使い魔にしていた」
「あ、はい。そうですよ。………なんで知ってるんです?」


あの我が侭娘が祖国に居るなんて、夢であって欲しい限りだ。
溜息をついてしまう。


「その娘がここの生徒で、しかも、今その事で教師達が大騒ぎしてるんだよ」
「あちゃー、タイミング、ヤバいッスかね?」
「多分最悪じゃないか?」
「まぁ、取り敢えず、書通の方渡しておきます。書通にも書いていますが明日の昼に入る前にこちらに向かいますので」
「あいよ、分かったさね。そろそろ私もここの仕事辞めようかねぇ」
「給料がいいから、やり始めたんですよね?」
「そうなんだけどねぇ、ここの学院長がエロジジィでね。暇あれば尻を触って来るんだよ! だから、そろそろ辞め時期だと思ってね」
「大変ですねぇ。あ、そろそろ帰らないといけないんで………」
「ハイハイ。お仕事ご苦労さん」
「はい、失礼します」


そう言って、クルスは少し離れてから飛び上がり、祖国に帰っていった。
はぁ〜、憂鬱さね。
トリステインに馴染めることは出来たんだけど、どいつもこいつもプライドだけやたら高いだけで中身は最低だ。
こんな見栄っ張りの貴族達が上で好き放題やっていれば、下の者達には溜まったもんじゃない。
気分が良くならないまま、学院長室に戻った。


「失礼します」
「何用だったのかね、ミス・ロングビル?」
「どうやらミス・ヴァリエールとその使い魔の居場所が分かりました」
「本当かね!?」


他の教師達も驚いていた。


「それでどこにおるんじゃ?」
「トゥルゥーガ公国という国に居るそうです。今、使者のモノが書通を送ってきました」


私は、オールド・オスマンに私は壁際に寄った。
オールド・オスマンは書通の内容を教師達に分かるように読み上げた。


『前略


トゥルゥーガ公国の王 蒼騎 真紅狼といいます。本日、書通を送らせてもらったのは他でもありません。そちらの生徒と使い魔が我が国に飛ばされてきたので、明日の昼に差し掛かる前の時間帯にトリステイン魔法学院に向かいます。その時に、彼女等も連れて行き、返還しますので引き取って頂きます。



追伸
たった一日ではありますが、そちらのお嬢さんがもしこちらに損害を出した場合、別途でお支払いして頂きます故ご理解ください』


と書かれている内容を一文字一句間違えずに読み上げた。
追伸の内容を聞いて、私以外の教師は頭の中で………………


『絶対に事を荒げるなよ小娘!!!!』


と思ったに違いない。


「ど、どうします?」
「早急に王室と連絡を取るのじゃ、出来るだけ内密じゃ。特にヴァリエール家には内緒じゃ」
「はい、分かりました」


数名の教師は足早に出ていった。


「これは、マズイことになったのぅ」


オールド・オスマンが呟いた。
〜マチルダside out〜



次の日・・・・・



〜真紅狼side〜
無事被害も無くトリステインに……………行けたらよかったんだけどなぁ…………我が侭お嬢様の行動が炸裂して、リュオンがブチ切れた。
報告書を見たら、これまた酷い行動を繰り返すばかり。


トリステインでもないのに、道行く子供の物を取り上げるわ。
食事がマズイ、ベッドをもっと高級のを、衣類を洗濯しろなどと我が侭発言。
さらには、店の物を次から次へと壊す後始末。
壊したら、言った言葉が『壊れる方が悪いのよ』と言いやがる。


そんな事を次から次へと起こしていたら、リュオンがキレて、刀を首元に当てた。
その時若干皮膚が切れ、血が出た。
そしたら、血が出たら出たでギャンギャンと吠えてきたので、リュオンは彼女を“人”ではなく“猛獣”として扱いその場で気絶させて、檻の中にブチ込んだ。
その檻には“猛獣注意”と書かれていた。


「はぁ〜、頭が痛い」
「リュオンさんも同じことを言ってましたよ」
「休暇でも与えておこうかな、二週間ぐらい」
「そうしたほうがいいですね」
「で、カトレアはなんでココに居るの?」
「もうすぐ着くのでお知らせしようかと……………」


すると、艦内放送が響いた。


『陛下、トリステイン魔法学院上空に着きました』
「はいよ」
『それと、何故か銀火竜(シルバーソル)と金火竜(ゴールドルナ)、さらに冥雷竜(ドラキュロス)までついて来てます』
「え、マジ?」
『はい、どうしましょう?』
「まぁ、着いて来ちまったものはしょうがねぇ。俺から、警告させておくから」
『了解しました。っと、トリステインのグリフォン隊の一人が着陸場所に誘導するみたいなので、もうしばらくお待ちください』


その後、ゆっくり煌黒艇が動き、着陸した。


「はい。じゃあ、積み荷を降ろしてくれ」


各隊の皆さんは噛まれない様に手袋している。


「ちょっと離しなさいよ!! 私はヴァリエール家の………」
「うっせぇな、おウチに帰れるんだ。黙ってもらえませんかねぇ?」
「アンタが、ちいねえさまの相手の男ね!? …………ちいねえさまに似合わないわ!」
「いや、お嬢さんに決める権利は無いから」
「ちいねえさま!! 私はココから出してください!!」
「ルイズ…………それは聞けないわ。それから何度も言ってるけど、私はもう貴女の姉ではないのよ」


カトレアは全員が手こずっている我が侭お嬢様に優しく諭すように言い聞かせている。
本当にカトレアが居て助かった。
今頃、誰かしらキレてる。絶対に。
なんせ、リュオンなんか、すでに刀を抜きかけている。


「じゃあ、降りるぞ。少年もそこの猛獣と共に降りてくれ」
「………あ、はい」


俺達は煌黒艇から降りると、目の前にはこの学院の生徒達に教師達、それから姫殿下と枢機卿。そして再び出会ったヴァリエール公爵と公爵夫人、最後にグリフォン隊にヒポグリフ隊の二つの魔法衛士隊が杖を構えていた。
やれやれ、戦争しに来たんじゃないんだぜ?
〜真紅狼side out〜


〜オスマンside〜
今日は、トゥルゥーガ公国の者達がやってくるということで必要最低限の教師だけ出ることにさせ、それ以外の者は平常通り授業を行わせた。
王室にも連絡は取れ、昨日の内に魔法学院にこっそりと来てもらい、今回の事についてお話していたら…………次の日の朝一番にヴァリエール公爵と公爵夫人が二人揃ってやってきて、学園長室は一時期騒然となった。


「ワシ、死んじゃうかもしれん」
「ああ、学院長しっかり!!」


そして、予定の時刻になった時、空の向こうから煌めく黒いフネの様な物がこちらにやってきていた。


「なんじゃ、あれは?!」


皆も騒いでいたが、その時声が鳴り響いた。


『あー、こちらトゥルゥーガ公国旗艦艇の艦長を務めているクイラと申します。この旗艦艇を着陸させますので、少し離れていてもらってもよろしいでしょうか』


そのような放送をすると、姫様はグリフォン隊の一人を向かわせて、着陸場所を誘導させた。
さらに驚いたのは、その周りを飛び回っていた竜達だった。
竜騎兵が乗ってる竜よりも遙かに大きく、輝しかった。
フネらしきものが着陸した場所から離れて、その竜達も降りて、翼を休めていた。
そして、その煌めく黒いフネから降りてきたのは、黒髪に昏い藍のコートを着て、どこか狼の様な目付きを思わせる様な眼だった。
その隣には、ミス・ヴァリエールと同じ髪色にブロンドが掛かっておった。
ただ違うと言えば、胸の………ゴホンッ! なんでもないぞ?
その後は、獣人やら翼人などと言った者達が出てきた後、ミス・ヴァリエールの使い魔である少年と何かの檻だった。
その者達は、我々の前までやってきた。


「どうも、初めまして。トゥルゥーガ公国の王 蒼騎 真紅狼といいます」
「ワ、ワシはこの学院の学院長を務めておるオスマンと申す。皆からはオールド・オスマンと呼ばれておる」
「では、オスマン氏。書通の通り、こちらで保護した少年少女のお引き取りを願いたいんですが…………」
「ですが…………?」


ワシは『まさか!』という顔つきになった。


「ヴァリエール家の御息女が色々と損害を出してくれたので、それを支払ってからじゃないとお渡しすることは出来ませんので」
「そ、それは私どもじゃ判断できませんので…………」
「なら、会談でも始めましょうか」


この若い青年は笑顔で言うが、ワシにとっては地獄の始まりの様なものだった。
〜オスマンside out〜


この我が侭お嬢様が!!

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