小説『ハルケギニアに蘇りし紅き狼』
作者:大喰らいの牙()

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第十六話  “王”の在り方


俺達は、甲板に戻った時には公爵と公爵夫人………そして、ちょっと脳内お花畑の姫殿下以外は魂が抜けかけていた。
というか、抜けてるのが見えてる時点でヤバいな。
三途の川、一歩手前ってところか。


「……さて、一時間過ぎましたが……いやぁ、中々立派な貴族の子供達が育ってますね? オスマン学院長」


俺はにこやかに話すと挙動が明らかにおかしい。


「そ、そそそそ、そうでスかのゥ……?」
「学院内で起こったことは全てミスタ・コルベールに事細かく伝えましたので………それを知った上で話させてもらいますよ?」


すると、凄まじい勢いで教師陣に汗が流れおちる。


「あ、そうそう。トリステインの皆さんにお伝えしないといけないことがあるんですよ」
「な、なんでしょう?」
「実は、我が国の水の秘薬をお宅の生徒に使ってあげましてね。その治療薬が我が国では結構安価で手に入るんですが、トリステインだとかなりの額でして………それに教師ともあろう者が、私に杖を抜いたり、暴言を吐きましてね。その辺の罪も問いただそうと思っていたんですよ。だけど、それじゃキリが無いので慰謝料で許してあげますよ? どうです、乗りませんか?」


俺が提示したのは、冷静に見れば誰でもわかる程のなんちゃって助け舟。
行き先は天国ではなく、地獄を通り過ぎて奈落ですがね。
だが、彼等は貴族の子供達の罪をもみ消す為に冷静さを失っていた為、その舟にバカ丸出しで乗ってしまった。


「……い、いくら払えばいいんでしょうか?」
「先程の提示した金額+1500万でよろしいですよ?」


トリステイン側は固まり、皆で計算し始めた。
答えは出たが、その答えが信じられないらしい。


「「「「3000万エキュー?!?!!!?」」」」


すると……………


「そんな額を支払う事など出来るわけない」とか、
「ふざけているのか!?」とか、
「国が引っくり返るぞ?!」とか、


じゃあしょうがない、それなら………


「では、払えないのであれば、今から学院内に居るヴェストリの広場に居た貴族の子供達の地位を剥奪してください。それで手を打ちましょう」


そういうと全員一瞬で黙る。
そのやりとりにカトレアが本当の意味で助け舟を出してあげた。


「真紅狼さん、さっきのことはちょっと驚きましたけど、私は怪我はしてませんし………優しくしてください」
「そうか? カトレアが言うのであれば仕方ない。では、貴族の子供達の地位を剥奪は無しにし、さらに支払金額を多少撒けましょう。ん〜〜〜、そうですね………2250万まで撒けましょう」


かなりに撒けてあげた、カトレアの良心を差っ引いた額だ。
お前等、本当にカトレアが居て良かったな?
居なかったら、今頃マジで支払わせてるぞ?


「わ、分かりました。その額でお支払いしますので、ルイズ嬢をここに連れて来てくれませんか?」


枢機卿は申し上げた。
やっべ、アイツの存在、素で忘れてた。
リュオンに合図させて、連れてくるように命じた。
自分達の愛娘の姿を見て、公爵夫妻は激怒し杖を抜いた。


「「ルイズ!?」」
「お母様、お父様!!」
「「貴様、私(達)の娘になんて仕打ちを………!!」」
「ああ!?」


そろそろ限界だったので、俺はキレた。


「王族である俺に向かって“貴様”だぁ? 調子に乗ってんじゃねぇぞ、コラ! それとも何か? あれか? 俺と戦争したいのか? いいぜ、その戦争を上限無しの金額で買ってやるよ。ただし、お前等は周囲から“他国の王族に喧嘩売って戦争を引き起こした最低貴族”というレッテルを貼られ、さらにはお前等の言動一つでトリステインが滅ぶ要因を作ることに直結してる事を忘れるなよ? そこまで頭が腐ってるわけでもねぇんだからよ」


俺はバカでも分かる様な言葉で、公爵夫妻が置かれている現状況を簡易に教えてやった。
すると、公爵夫妻を宥めることに必死になる枢機卿、教師陣たちだった。


「まぁ、今すぐ出してやるよ。ちゃんと支払ってくれるんだからな」


リュオンが鍵を開けると、家族の元に走っていった。


「ちゃんと払えよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「払えよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「は   ら   え   よ   ?」
「……はい」
「ちゃんと返事すれば、俺もそこまで怖くならないって」


俺は、公爵夫妻の顔を覗き込む。
非常に悔しいのか、爪が手のひらに食い込むほど握力を握っていた。


「さて、支払いの方も無事に解決したし、何か聞きたいことはありますかな?」


俺は口調を元に戻す。
すると、姫殿下が言葉を発した。


「蒼騎陛下に質問があります」
「なにかな? アンリエッタ姫殿下?」
「アナタ方の国では法がないと聞きましたが、それは本当ですか?」
「そうですが、それが?」
「何故、法が無いんですか? そんなことでは犯罪者で溢れかえるのでは?」
「我が国では犯罪者は今まで一度も出てませんが? ああ、失礼。法律が無いではなく、ある“三カ条”さえ護ってくれれば私は構いませんよ」


すると、トリステイン側は「たった三カ条だけだと!?」と困惑してる。


「だいたい、バカみたいに法律で縛って何が楽しいですかな? 貴女達の国はそんな風に縛りの多い国
だから、何時まで経っても新しい考えが浮かばないんですよ。それに新しい考えが浮かんでも宗教上の問題で、異端とみなされる。それじゃあ、成長もあったもんじゃない。だから、我が国はロマリアの神官を叩きだしたんです。“ハルケギニアは始祖ブリミルが降り立った土地”と言われてますが、トゥルゥーガは俺の土地で俺の国だ。だから、俺と俺の国民全員がさらなる発展させていく。それにケチつけるなら、容赦しない。始祖ブリミルなんざ、知った事か。しかも、ブリミル教の教えでは“魔法を使える者が貴族”と教えているが、そんなの所詮貴族を守る為の防護策しかねぇだろ。魔法が使えなきゃ、テメェ等全員平民以下だぞ? それを分かってんの?」


マシンガンのように、次々と言い放つ。
そして、少し口を休めると、トリステイン側から溜まっていた鬱憤が出てきた。
特に“平民以下”に癇が触ったらしく、強く反抗して来た。
そこで、再び俺はマシンガントークで黙らせる。


「なら、聞こうか。お前等はベッドメイクを一人で出来るのか? 料理は作れるのか? 穀物を育てることは出来るのか? 掃除洗濯は一人で出来るのか? もちろん魔法使わずに出来んのか? 言ってみろ」


すると、一人残らず黙りこくった。


「その沈黙が答えだな。誰一人出来やしねぇのさ。その辺の事を弁えてちったぁ貴族らしい振る舞いでもしろよ。テメェ等が上で好き勝手やるから、平民も不満を言いだすんだよ。………なんで、俺、こいつらの教師なんかやってんだろ?」
「………次の質問よろしいですか?」
「………どうぞ」
「蒼騎陛下にとって、王とはなんですか?」


王か、王ねぇ。


「次期国王のアンリエッタ姫殿下の答えをお聞きしてもよろしいか?」
「……………私ですか? 私は、国民が信頼できる王になりたいですわ」


ああ、こういう考えか。
それはなぁ、また。


「ああ、やっぱりそんな考えか。ま、だよなぁ、そんな考えしか持てないもんなぁ」
「では、陛下はどのような考えなのか、おっしゃってください」
「先程も法律について、尋ねられたからここで纏めて答えるが、“国民が王を信頼する”んじゃなくて“王が国民を信頼する”んだよ。姫殿下の考えではな、国民が王を全面的に信頼しても、王が国民を信頼してなきゃ意味ないだろう? 王が国民を信頼してるからこそ、そこで初めて国民との間に“信頼”と言う絆が生まれるんだよ。前者じゃ、それが生まれない。なんせ、王が国民を信頼してないんだからな。出来る筈が無い。いいか? 国ってのはな、王があって国民があるんじゃない、国民と王の間にある“絆”があるから国があるんだよ。それが分からなければ“国王”なんて、名乗れるか。それに、王が国民を信頼してるから、法律をその三カ条だけにしてるだけだ。俺は国民を信頼しているからな、必ず護ることが出来ると………そう信じている」


本当になんでコイツ等に王についてのレクチャーをしなければならないんだ?
ワケ分からん。
だいたいアンリエッタ姫殿下の教育はお前等の役目だろうが。


「さて、聞きたいことは以上ですかな?」
「ええ、十分です」


そこで、国の会談は終わり、俺達は帰る準備を始めた。
おっと、その前に………俺はマチルダに目配せをした。
頷いたマチルダは、オスマン学院長に辞表を提出していた。


「行くぞ、マチルダ」
『ちょっと待ちなさいな!』
『何故キミが蒼騎陛下と親しげに話しておるのじゃ!?』
『……ハン、あたしは元々“トゥルゥーガ公国”出身の人間だよ』
『なっ、なんじゃと?!』
「そういうわけだ。悪いね☆」
「じゃあな、エロジジイ」


オスマン学院長は、ショックを受けながらアンリエッタ姫殿下や枢機卿たちと降ろした………
そして、煌黒艇が浮き上がりトゥルゥーガに進路を取った。


「では、祖国に向けて帰還開始!」


クイラが叫び、俺達はトゥルゥーガに帰っていった。



四日後、またトリステインに荷卸しに行くけどね。




―――あとがき―――

今回は、真紅狼の視点でお送りしました。

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