小説『ハルケギニアに蘇りし紅き狼』
作者:大喰らいの牙()

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第十八話  月下の戦い


〜真紅狼side〜
俺とチキン中隊の連中は、外に出た。
店内にいる客達は観客となり、この通りを歩いていた者達は騒ぎに駆けつけて、観客達に騒ぎの内容を尋ねていた。


「こんなに観客(ギャラリー)がいるんだ。今の内に命乞いでもすれば、命ぐらいは助けてやってもいいぞ? 青年?」
「手元が狂って、首を斬られたくなかったら黙ってる事だな、ハリボテ共」


俺達は喋らず対峙した後、俺は懐から短刀を取り出し、構える。
その姿を見た中隊連中は、笑い転がっていた。
周りの観客も口元を押さえて笑いを噛み殺していた。
よし、その笑いが人生最後の笑いに変えてやろう。


「…………………………………………」


しゅんっ!!


笑い転がっていた連中はすでに始まっていることすら気が付かず、未だに笑っていた。
俺は、そのまま一気に距離を詰めて、一番手前の奴を掴んで目に見えない速さで素早く斬る。


――閃鞘・七夜――


「あ………………?」


斬られた男は、自分の腹が濡れていることに気が付き、触れるとそこにはざっくりとはいかないが、それなりに血が流れていた。
そして、一瞬身体が浮かび上がる。


「なっ!? おい………!!」
「………………遅い」
「ぐぉ!! 何時の間に?!」


連中はようやく事の事態に気が付いたのか、杖を構え始めていたが、何度も言う様に遅い。


――閃鞘・八点衝――


「…………盛り上げるか!」


連中が杖を構え終わった瞬間、目の前から中隊全員を襲う様な凶刃の嵐が襲いかかる。


「ぐぁああああああ!!」
「ああああああああ!!」
「ぎゃああああああ!!」


本来、『七ツ夜』の短刀の長さでは、中隊全員を襲えるほどの長さは持ちあわせていないが、俺の魔力で形成された魔力刃が本来の『七ツ夜』の短刀の長さをカバーしている為、出来る芸当である。


「仕留めるか」


俺は獣のように飛び上がり、中隊連中とすれ違いざまに一閃。
斬られた連中は自分達の身に何も起こらない為、俺が失敗したと思い、杖を振ろうとした瞬間、自分達の腕から血が噴き出た。


ブシャアアアアアッッ!!!


『ギャアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』


血を噴き出している者達は何故、血が吹き出ているのかよく分かっていなかったので、優しく丁寧に説明してあげることにした。


「何故、血が噴き出てるのか、分からないって表情だな」
「き、貴様………! 我々に………くぅぅ!! な、何をした!?」
「先程の一撃の時に、すれ違うざまに手首を斬った。だが、この時俺は力加減を絶妙に調節して、ゆっくりと血が出てくるように血管を斬った。だけど、その斬られた者たちが腕を激しく振るったりすると血が勢いよく噴き出るように仕込んだ。そしてお前等はそれに気が付かないで、腕を振るったんだ。だから血が激しく出てるわけ」


俺は『七ツ夜』の短刀をしまい、店の中に戻ろうとすると……………


「貴様、ドコに行く?!」
「酒の飲み直しだよ。トドメを刺さなくても、出血多量で直に死ぬしな」
「まだ、この俺が残ってるぞ!!」
「あん?」


後ろを見てみると、一番最初に腹を斬られた男が杖を構えていた。


「この俺と魔法で勝負しろ!!」
「…………引き際を誤れば、死ぬぞ」
「やられっぱなしで、下がれるか!!」
「やれやれ、しょうがない」


俺はニューカッスル城璧をブッ飛ばしたスタイル…………ゾディアックのスタイルで立ち向かう。
もちろん放つ技は、魔法っぽく見える技にするつもりだ。


「………お先にどうぞ」
「なんだと…………?」
「先に放っていいって言ってるんだよ」
「この…………食らえぇ!!!」


男の杖からは風が流れる傾向から、風系統の呪文だと分かった。


「俺のエア・ハンマーはナヴァール中隊の中でも威力が一番大きい!!」


大気の拳がこちらに迫って来るが、俺は慌てず掌打を放つ。
そして………………


――ブレイド・オブ・“クサナギ”――


俺の掌打から円柱の炎柱が次々と地面から噴き出て、奴の放ったエア・ハンマーを飲みこんで勢いは収まることなく、そいつごと炎柱の中に飲みこまれた。


「がぁぁあああああ………ぁあぁ…………」


炎に身を燃やされて、火傷に悶えながら俺を睨んだ。
何か喋ろうとした時…………第三者の割り込みが入った。


『コラァ! ココで何をやってる! 我々は姫殿下の銃士近衛隊だ!!』
「女王の飼い犬共は黙ってろ!! これは我々(・・)、ナヴァール中隊の問題だ!!」
「通報でココで乱闘騒ぎがあると来たが、原因は貴様らだな!! 全員連行しろ!!」
「我々は仕方が無く、杖を取ったのだ!! 責任はそこに立っている青年にある」
「どちらにしても、両方連行する!! 貴様もこちら…に…………こ………………い………………」


銃士隊長は俺の顔を見ると否や、言葉が次第に出なくなっていた。
アレ? 俺、もしかしてカウボーイハットを被ってない?
と言う事は、本来の姿に戻ってると言う事か?


「も、もしや、貴方様は“トゥルゥーガ公国国王”の蒼騎 真紅狼様じゃないでしょうか?」
「いや、私はガロン商会のガロ……………「………真紅狼、帽子」…………タバサァァァ!!」
「………ゴメン」


見事なオチが付いて、俺の本名が一瞬で知れ渡った。


「な、何故、貴方様が商人なんて格好を?」
「国王も働くものだから。王室で(使ってないけど)書類を押すだけが仕事と呼べないモノで」
「そ、そうですか」
「ああ、そこに転がってる連中は早く治療してあげた方がいいぞ? あと三分少々で出血多量で死ぬから」


俺は言うだけ言って、魅惑の妖精亭に戻ると全員が怯えた目でこちらを見ていた。
そして、目の前にはジェシカが仁王立ちしていた。


「アナタ、王族だったのね………」
「悪いな、騙してしまって」
「本当は怒りたいわ。でも、何となくだけど貴方がそんな感じじゃないかなって、頭のどこかで分かってたのかもしれない」
「こっちはジェシカの質問でバレそうだったことが何回もあったけどな」
「…………………(まったく、この芽生えてしまった恋心をどうすればいいのよ)」
「全くもって、ジェシカはイイ女だよな」
「は、え、ええ////!!?」
「だってよ、騙していたのに怒らないなんて、女(・)として最高だろ。まぁ、また寄るよ。その時も普通に接してくれよ、ジェシカ」
「………………/////」
「じゃあな」


俺はカウボーイハットを深く被り、出ていこうとするとその行く手を阻める桃色でブロンドのかかった小柄な女とこの世界では奇妙な服装の男が俺の往く手邪魔していた。


「ちょっと待ちなさい、アンタ」


はぁ〜、一難去ってまた一難か。
〜真紅狼side out〜


〜才人side〜
俺達は、凄まじい光景を見た。
立った一人の男に中隊連中が全員倒されていた。
しかも、ガロンは傷一つ付いていなかった。
それにしても………………容赦がねぇ。


「なぁ、ルイズ。アイツ、メイジなのか?」
「アンタはドコ見てんの? アイツは杖を持っていないじゃない!!」
「でも、魔法使えてたぞ? しかも、見たことの無いような魔法だったぞ」
「うっ………!!」


ルイズはその事実を突き付けられて、唸っていた。
その傍でキュルケとはいうと…………


「なに、あの魔法………!? 『火』を司る私にとって、興奮するわ!!」


先程の炎柱の津波にうっとりと目を蕩けさせていた。
そして再び、外を見てみるとどうやら微かに生き残っていた一人の中隊の男がガロンを睨んでいた。
そして、中隊の男が何かを喋ろうとした時、大声が響いた。


『コラァ! ココで何をやってる! 我々は姫殿下の銃士近衛隊だ!!』


前の国談で王女様の近くにいた女騎士の人だ。
騒ぎに駆けつけ、この騒ぎを収めようと引き起こした者たちを連行しようとした瞬間ガロンの姿を見た瞬間、動きを止めていた。
そして、次に放たれた言葉に俺達は度肝を抜かれた。


『も、もしや、貴方様は“トゥルゥーガ公国国王”の蒼騎 真紅狼様じゃないでしょうか?』
『いや、私はガロン商会のガロ……………「………真紅狼、帽子」…………タバサァァァ!!』
『………ゴメン』


……………………………………え?
ガロンが………………トゥルゥーガ公国の国王!?
でも、あの国王は髪が黒かったはずだが………………!
もう一度髪を見てみると髪の色が紅から黒に変っていた。
その姿を見た、ルイズは何故か怒りに燃えていたのである。


「お、お前何やってんだよ?」
「何してるのよ! アイツと戦うわよ!!」
「いやいやいや!! さっきの戦闘を見ただろ!? 俺たちじゃ勝てねぇよ!」
「この前の借りを返すのよ! このままやられっぱなしじゃ、ヴァリエール家の名が泣くわ!! ほら、行くわよ!!」


そして、去っていく蒼騎真紅狼の前に俺達は立ちはだかった。
でも、確かにルイズにあの仕打ちはやり過ぎかもしれないし、いっちょやるか。
俺もバカにされっぱなしは好きじゃねぇ!!
〜才人side out〜


〜真紅狼side〜
目の前ではこの前の仕打ちを返そうとしている子供がいる。


「なんか用か?」
「この前の借りを返しに来たのよ!!」
「借りって言ったって、自分で無礼を働いた自業自得じゃねぇか」
「うるさいわね! はっきり言うわ、ここはトリステインよ!! アンタの国じゃないわ!!」
「ホームだから勝てるとでも?」


そう言い終わる瞬間、使い魔の少年が懐まで迫ってた。


「ハアァァァァ!」
「おっと!」


横薙ぎを回避し、そのまま『七ツ夜』を構え、首元に突きつける。


「…………くっ!」
「室内では、そのような大太刀よりも小回りの聞く短刀の方が強いんだぜ? 状況に合わせて戦わないと早死にするぜ?」
「私を忘れないでちょうd…………ッ!!」


我が侭お嬢様が杖を振ろうとしたので、左手に真紅の執行者の銃口を向ける。


「てめぇ等よりも戦いに慣れてるんだ、こんな状況を予測できないわけないんだよ。…………ま、今日はすでに事を引き起こしているので、さっさと帰らせてもらうさ。そんじゃ、ジェシカ、また逢いにくるぜ」
「……………………………………ええ」


っと、去る前に言っておくか。


「おい、そこの無礼千万の我が侭お嬢様と使い魔の少年!」
「私の名前は…………」
「うるせぇな、無礼な奴の名前なんか覚えねぇから黙ってろ。仕返し、是非待ってるぜ? その代わり、遺言を済ませておくことを勧めるよ」


挑発をたっぷりと含ませて店を出ていく瞬間、後ろから俺の名を呼んだ者がいた。


「待ってください、蒼騎陛下!!!」


後ろを振り向くと、俺がフルボッコした青年が四つん這いになって叫んでいた。


「キミは、俺にボコボコにされた青年か?」
「はい! ギーシュ・ド・グラモンといいます!! 前回の無礼は申し訳ありませんでした!! あの事に関しては僕に責任がありました。そして、巻きこんでしまった貴方様にこんなことを言えるのは、失礼かもしれませんが……………僕を…………僕を鍛えてください!!」
「……………いきなり、何故だ?」
「僕は、貴方と戦って…………心のどこかで貴方の様な方になりたいと思いました。だけど、ここではどうやっても強くはなれない。なので、貴方の元で修業させてください!! お願いします!!」


青年は自分が貴族と言う事も忘れて、地面に膝をつけて頭を下げていたのだ。
そこまでの覚悟があるのか、確かめるか。


「青年、顔を上げて、俺の目を見ろ。どんな苦痛にも耐えるか?」
「はい」
「絶対に逃げださないか?」
「はい!」
「絶対に護れるか?」
「はい!!」


ほぅ、良い目だ。


「名はギーシュと言ったな?」
「はい!」
「ギーシュ、俺について来い。鍛えてやる。我が国でやるから、御両親に断りを入れる為に家を案内しろ。それと今は名前で呼んでるが、それは今日だけだ。明日からは名では呼ばん! 呼んで欲しければ、基礎体力の項目をクリアしろ。そうすれば、名前で呼んでやる」
「はい!!」


俺はヴォルフガングにギーシュを乗せて、コイツの領地に向かい、事情を説明し、長い間コイツの父親は唸っていたが、了承を得ることが出来たので俺達はトゥルゥーガ公国に戻っていった。
〜真紅狼side out〜


さて、俺達の修業はキツイぞ?



―――あとがき―――
今回は甘くなかったよ!

ニヤニヤはありますけどね。
ちゃっかりとジェシカを落とす準備を進めている真紅狼です。
コイツ………出来る!

中隊との戦いは………まぁ、予想どおりですね。

そしてまったく懲りずに挑むアホコンビ、成長しろ!

ボコボコにされたギーシュは真紅狼と戦って何か考えが変ったのでしょう。
次回はギーシュの心境の変化から始まります。

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