小説『ハルケギニアに蘇りし紅き狼』
作者:大喰らいの牙()

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第二十話  vs盗賊集団


〜真紅狼side〜
時間をすっ飛ばすことを許してくれ。
小僧………じゃなくてギーシュの修行も一週間と三日が過ぎた。
こちらの世界では、一週間が八日なので修業開始から十一日目が過ぎたと言う事になる。
ギーシュは基礎訓練の階段の上り下りをクリアできたので、名前を呼ぶことにしてやった。
当初、階段の上り下りを二往復するまで、四時間だったが、今では二時間前後でこなしていて、二往復ではなく三、四と回数も増えていってるらしい。
基礎訓練はクリアできても、続けながら魔法のかなりレベルが上がり、前よりも数は少ないが立派な戦乙女が二体創られていた。
どうやらこの辺はギーシュ自身が訓練中に気が付いたらしく、数を少なくすることで造形としての完成度及び操作のしやすさ、そして何よりも戦闘フォームとして維持しやすいことに気が付き、前まではゴテゴテの戦乙女がたくさん並ぶよりも、スマートで数が少なく戦闘維持を継続できるような持久型に変わっていた。
この辺は、成長したなと感じられる部分でアイツをこの国に連れてきてよかったと思っている。


基礎訓練がクリア出来た為、あらゆるモノが身体についたギーシュは今は魔法以外にも経済の事も手を出してる。
こちらは、リュオンが教えている。
リュオンも「なんとも新鮮な気分ですね」と言って、ビシビシと鍛えているらしい。
そして、今俺はギーシュに土系統にしか覚えられないスキルを教えてやろうと待っていた。


「蒼騎陛下、失礼します!」
「おう、来たか。ギーシュ」
「用があると聞いて参りましたが、どんなようでしょうか?」
「お前がここまでやりきるとは思わなくてな………ちょっと早いが土系統の者しか覚えられないスキルを教えてやるよ」
「土系統の者しかに………ですか?」
「ああ。ところでこの片手剣は知ってるよな?」


俺が持っているのは、黄土色に群青色の牙を盾に拵えた片手剣。
サーブルガッシュだった。


「確か、風牙竜の素材を使った片手剣。サーブルガッシュですよね?」
「そうだ。この武器はお前も知ってる様に無属性。つまり、なんの属性も付加されていないが、これから俺がその木に向かって剣を振るから、見といてくれ」


ギーシュはぎこちなく頷く。
俺は、上段から袈裟切りの如く振り下げると木を斬った瞬間、ボォゥと赤い炎が出る。


「へ、陛下。今のは一体……?」
「このスキルの名は“覚醒”」
「“覚醒”ですか?」
「無属性の武器に秘められた力を引き出すことが出来る特殊なスキルでな。秘められた属性だけではなく、異常状態を引き起こす武器も中には隠されている。その特殊スキル“覚醒”をお前に教える」
「はい、質問があります!」
「なんだ?」
「その“覚醒”は、トリステイン製の武器でも発動しますか?」
「いや、無理っぽいが、もしかしたらあるかもしれん。だが、ウチの国で創った武器もあちらで売ってるから、一応扱える武器は多い筈だ」
「そうですか………」
「あ、でも、修業最終日にお前専用の武器を一つ作ってやるから、カタログ渡しておくから、決めといてくれ」
「僕専用の武器ですか?!」
「おう。俺のお勧めは片手剣だな、攻守が共に備わってるし、扱いやすいからお勧めするよ」
「陛下、普通の土系統の方はどのような物をお選びになるのですか?」
「普通の人は、突撃槍(ランス)か突撃銃槍(ガンランス)のどちらかだな」
「この二つはどう違うのですか?」


どう違うかね。
簡単に言うとそうだな………


「突撃槍(ランス)の場合だと、相手の攻撃を防ぎつつ、チクチクと突いていく。突撃銃槍(ガンランス)の場合だと、突いて、斬って、撃つ。この三種類の攻撃方法を駆使しつつ、戦うだな」
「撃てるんですか!?」
「おう。ランスの柄の近くに弾倉があってな、それをリロードして突いて→撃つ。という動きが出来る。ランスとはまた違った動きが出来るクセのある武器だよ。ガンランスにも【通常型】・【放射型】・【拡散型】という三種類があって、装弾数は左から五つ・三つ・二つと言う風になってる。通常型の特性は、砲撃範囲がその場だけなんだが、装弾数が多いということだな。放射型の特性は砲撃範囲が縦長で多少遠い敵にも届く。拡散型の特性は砲撃範囲が狭い分、一発の砲撃の威力が高い。だが、その分装弾数が少ないというデメリットを持つ。どれが強いかは分からない。それは各々自分に合った物を選ぶべきだからな。だが、まぁ、ランスかガンランスのどちらかを選ぶならそういうことを頭に入れつつ、自分に合った戦闘スタイルを確立させることが重要だぞ」
「色々と有難うございます」
「で、“覚醒”の方だが、神経を研ぎ澄ませて、魂で感じろ。そうすればいずれは発動することが出来るぞ」
「“魂”ですか………」
「そうだ。これだけは、どんなにレクチャーしても、そいつの気持ち次第で発動できるかがカギになるからな。後はお前次第だ」
「分かりました。さっそく後で試してみます」


そう言って、ギーシュは近くの椅子に座って、カタログを眺めているとリュオンが厳しい表情で部屋の中に入ってきた。


「陛下、失礼します!」
「おう、どうした、そんな厳しい顔をして?」
「実は………(賊が入りこみました。おそらく流れ者の盗賊集団のようです)」
「ほう………(で、連中は? どこに拠点を構えた?)」
「(ウッドモックの奥の平原に潜伏していると、ライフェンから聞きました)」
「(部隊を動かせ、戦闘準備だ。それとギーシュの奴も連れていく。直に肌で戦場を味わせてやってもいい頃だしな)」
「(分かりました。皆には何と?)」
「(『この国の土を踏んだことを後悔させてやれ』と言っとけ)」
「(伝え置きます。では、私も準備します)………では、失礼します」
「おう」


リュオンは礼をしてから、足早に去った。
ギーシュは「何事?」とこちらを見ていた。


「どうしたんですか?」
「国に賊が入った」
「………!?」
「そこで討伐しに行く。ギーシュ、お前も来い」
「しかし、僕みたいのが役に立つのでしょうか?」
「何言ってんだ? お前は見学だ。だが、近くで見て、感じておけ。戦場の空気ってのをな。何事も経験だ」
「あ、はい!」
「では、行くぞ」
「分かりました!」


ギーシュは、カタログをしまうと俺と共に空港に向かった。
〜真紅狼side out〜


〜ギーシュside〜
僕は、今、ウッドモックの奥の高原、クォール高原に向かっていた。
僕達の陣は多少高さのある崖に築き、盗賊集団は斑に生えている茂みを利用して、隠れてアジトにしているらしい。


「敵の姿が、視えませんね………」
「まぁ、流れ者の盗賊集団とは言え、これぐらいのカモフラージュはお手の物だろうよ。それとギーシュ、敵を目で追うな。周りのことにも気を配れ」
「周りですか………?」
「そうだ。この辺は高原といえども、野生の獣が多くいる筈なのに、声一つしない。その時点で何か異常なことが起こったんだよ。それに群れで暮らす鳥たちも居ない時点で怪しいだろ?」
「た、確かに………では、この辺りで何かが起きて獣たちは居なくなってしまったということですね?」
「そうだな。………「陛下、この辺り一帯を下調べしてきました」……どうだった?」


蒼龍隊、部隊長のライフェンさんが報告している所を僕も聞く。


「どうやら、盗賊集団の近くの地面には“魔法地雷”が仕掛けられています」
「“魔法地雷”か………。ということは、五年前の盗賊集団の生き残りがいやがるな。あー、懐かしい」


“魔法地雷”………初めて聞く単語だな。
なんなんだろうか?


「蒼騎陛下、“魔法地雷”というのは?」
「ギーシュ達は知らなくて当然か、コイツは、どっかの国の武器商人が創りだした厄介な代物だからな。“魔法地雷”ってのは、地面に埋めて、それを踏んだら埋めた魔法が発動すると言う代物だ。コイツの厄介さは、一度埋められたら半永久的に待機状態に出来ることと、込める魔法量の器がデカイことだ」
「器がデカイ………ということは、最初は中身が空なんですか?」
「ああ。実物は器が丸型でさほど大きくは無いんだが、外見とは裏腹に中身の容量が半端なくてな。スクエアクラスの魔法を簡単に入れ込むことが出来るんだ。しかも、それが二個まで詰め込むことが出来るせいか、発動する魔法が非常にめんどくさい。以前、火のスクエアと水のスクエアを詰め込んだ“魔法地雷”があってな。それを踏んだ馬鹿が強烈な蒸気を食らってな、全身火傷で顔の皮がはがれて死んだ奴が居たんだよ」


うあ、想像するだけでぞっとする兵器だ。


「五年前も………と仰ってましたが、五年前もこういうことがあったのですか?」
「まあな。あの時は俺とリュオンの二人で壊滅させたんだよな?」
「そうですね。あの時は、ライフェン達の初戦場でしたな」
「ああ、そうだったな〜。任命されてから、ようやくの初戦場だったな」
「………どのような方法で戦ったんですか?」
「俺とリュオンが武器持って、“魔法地雷”の埋まってる場所を走りぬけて叩き潰した」
「………へ?」


今、とんでもない単語が聞こえたような………?


「蒼騎陛下、自ら戦ったんですか?」
「そうだよ。おかしいか?」
「いえ、僕たちの国では、王様や女王様は後ろでどしっと構えているのが基本だったので………」
「俺達の国は逆だ。俺自らが先頭に立って、戦場を駆けるのさ。まぁ、今回は新人(ギーシュ)も居るし、五年前と同じことするか、リュオン。準備しろ」
「あぁ、やっぱりやるんですか………」
「身体を動かさないとなまっちまうからな」
「まぁ、分かりますが………」


蒼騎陛下とリュオンさんは、武器を持って崖を降りていく。


「いいんですか?! 陛下は、王ですよ!?」
「少年見ておけ。これから起こる光景は………君の魂を震わせる程の光景が眼に映るだろう」


ライフェンさんは、静かに物言い。
蒼騎陛下とリュオンさんを見ていた。
お互い、武器を抜いて、リュオンさんは先を下に向けて構え、陛下は上段で構えていた後、盗賊団に向かって走り出したのだ。
多くの“魔法地雷”が埋まっていたらしく、蒼騎陛下とリュオンさんが次々と踏み抜き、爆発に巻き込まれるが二人とも被曝することなく、次々と突破していった。


「すごい………」


次から次へと爆発の中、蒼騎陛下とリュオンさんが走りぬけていく姿は、何とも言えないが男として、心が……………いや、魂が震える。
それに釣られて、ライフェンさんを除く、他の部隊長さんとその部下たちも蒼騎陛下の背中を追って、突撃していく。
そして、蒼騎陛下とリュオンさんの武器が盗賊集団とぶつかり、剣戟の音が響いていた。


「どうだ、少年」
「なんというか、カッコいいです」
「だろう? 陛下が見せる後姿は、俺達にはぐっと来るモノがあるんだ。それに陛下は常に第一人者として、戦場を駆けるんだ。何故だか、分かるか?」
「………いえ、分からないです」
「王自らが戦場を駆けることで、私達部下全員を導くと同時にどんな困難な敵にも立ち向かう勇気を分け与えるのだよ。………だってよ、陛下が自分の身を呈して戦っているのに俺達が屈してたら、あの人の顔に泥を塗ることになるだろう? だから、俺達は自然と足があの人のあとについていってしまうんだ」


そう言ったライフェンさんとその部下たちも崖を降りて、突撃していった。
これがこの国の強さなんだろう。
その時、蒼騎陛下が敵の首領を討ち取り、こちらの士気がさらに上がり、盗賊集団はその勢いに呑み込まれるように蹂躙された。
〜ギーシュside out〜


僕もライフェンさん達みたいになってみたい!

-20-
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