小説『ハルケギニアに蘇りし紅き狼』
作者:大喰らいの牙()

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第二十五話  トリステイン・アルビオン側の会合


〜アンリエッタside〜
ガリア・トルトゥーガ国側では、何やら騒音が聞こえ始めた頃、私はウェールズ様と近頃の様子を話していた。


「ウェールズ様、このような所に出ていて、国の方は大丈夫なのですか?!」
「大丈夫だよ、アンリエッタ。まだ、そんなに激しい戦闘はそれほど起こってない。小競り合いが頻繁に起きる様にはなったけどね」
「そうですか………。もし、危険が迫ったら私の国の兵を………」


そう言うとウェールズ様は首を振る。


「駄目だ、アンリエッタ。キミ達を僕達の争いに巻き込むわけにはいかない」
「しかし………!」
「キミは、自分の国で待っていてくれ。必ず戦いに勝利し、君の元に戻ってくる」
「なら、誓ってk………!?」


そういい、私が「誓ってくださいまし」と言う前に抱き寄せる。
それだけで、私は言いかけた言葉を口の中に押し込められてしまい、言いだせない。
ずるい人………、以前この湖でのパーティーでもそうだった。
私が何か約束を取り付けようとすると、こうやって誤魔化して結べなくしてくる。


「………ところで、アンリエッタはトルトゥーガ公国の蒼騎陛下とは、知り合いかな?」
「知り合いとまではいきませんが、知っていますわ。それがどうかしたのですか?」
「かの国は、我々が持っている技術を遥かに超えている。つまり、資源も豊富だから、少しばかり交渉したいんだが、紹介してくれないか?」


私は、ほんの少し迷った。
紹介してもいいか、どうか。
だけど、紹介しなければおそらくウェールズ様は私の前から永遠に去ってしまうだろう。そんな気がしてはならない。
この時だけ、“王女”という立場を忘れて、“少女”として判断した。


「分かりましたわ、私に着いて来てください」
「ありがとう、アンリエッタ」


私達はガリア・トルトゥーガ国の方へ向かった。
〜アンリエッタside out〜


〜ウェールズside〜
アンリエッタに案内してもらった先には、何故か所々ボロボロの蒼騎陛下が居た。


『………ったく、ちょっとマジでやりすぎだろう?』
『僕の可愛い愛娘を口説いといて、よく言うよ!』
『だから、口説いてねぇって!』
『キリがないね。やはり、ここは………』
『上等だよ、この野郎!』
『『もう一戦やろうぜ!!』』


お互いが息を合わせた様に同じことを言い、どこかに出掛けようとした時、アンリエッタが声をかけた。


「蒼騎陛下」
「あん? おっと、これはこれは、アンリエッタ姫。ちょっとばかし、ここには似合わない姿になってますがご容赦を」


軽い口調で蒼騎陛下は対応しているが………この方、隙がないな。


「……して、何用でしょうか?」
「用があるのは、私の後ろに居るウェールズ様ですわ」


僕は前に一歩出て、挨拶する。


「蒼騎陛下、シャルル外務大臣、お初にお目にかかります。アルビオン王国ジェームズ一世の息子で次期国王候補のウェールズ・テューダーと申します」
「御丁寧にどうも。蒼騎真紅狼だ。こっちは………まぁ、知ってるからいいか」
「シャルル外務大臣、今回はこのような場に誘っていただき誠にありがとうございます。………して、蒼騎陛下にお願いがあって参りました」
「ほう? 俺にお願いね。内容を聞こうか」
「はい。貴殿の国は技術が大変発達していると伺っております。そこでなんですが、私達アルビオン王政権側に“火の秘薬”、硫黄を頂けないでしょうか?」


小競り合いが起きていると言ったが、じわじわとこちら側が不利になってきている。今はまだ拮抗しているが、その内押し切られてしまうだろう。しかも、貴族派の方は、今でも勢力を拡大中でいずれは質よりも数で負けてしまう。それを防ぐために、こちらは強力な秘薬を用いて迎撃に出て、一気に戦況を変えてしまうつもりでいた。
だが、“火の秘薬”を大量に保有している国など、このハルケギニアのどの国でもどこも有りはしないが、この方の国ならあると思って、こうして頼みこんだ。


「まぁ、確かにウチは火山地帯があるから、硫黄も大量にあるな。いくら必要だ?」
「約500kgほどですが………」
「なんだ、そんだけでいいのか? そんだけなら、今すぐ送り届けてやるよ。お礼はいらねぇ。タダでくれてやる」


蒼騎陛下はそういうと「失礼」と言って、この場を後にした。
こ、こんなに簡単に手に入るなんて………予想外だ。
もう少し手間取ると思っていた。見返りを求められて来てもいかなることでも応えるつもりだったのだが………。
すると、彼の隣に居たシャルル外務大臣が話しかけてくる。


「……簡単に“火の秘薬”が手に入って驚いているね」
「何故………そう思われるのですか?」
「顔に書いてあるよ。キミ達にとっては真紅狼の行動は理解しがたいモノかもしれないな。どの国でも見返りを求めてくるのが当り前だが、彼はそういうことをしない。こう言ってはキミ達に失礼にあたるかもしれないが、彼はね、物よりも繋がりを大事にする方なんだよ。彼はこう言っていたよ。『物なんていくらでも獲れるが、繋がりは時を逃しちまったら二度と手に入らない。手に入ったとしても、最高の形でない。なら、俺は目に“視えるモノ”よりも目に“視えないモノ”を選ぶさ』と語っていたよ。………まぁ、僕達は国を動かすトップの存在だから、商人にような考えは持てないけど、彼は一時期、商人をしていたし、そのような考えに至ったのかもしれないな。では、僕も失礼するよ」


シャルル外務大臣は蒼騎陛下の行動を詳しく語ってくれたあと、彼も去っていった。
僕達は取り残され、彼らの言った意味を再度理解しようとした。


「………蒼騎陛下達は一体何をおっしゃっていたんでしょうか?」


アンリエッタはどうやら理解できていなかったみたいだ。
いや、この話は理解出来る、出来ないの問題じゃない。今までの考えを捨てて、新しい考え方が出来るかどうかを問われている。
今までの考え方では、彼らの考え方は異常だ。誰もそんな考えに至らない。
先程の話し合いはとても奥が深い!
若輩の僕に対して、ちょっとした授業だったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
だけど………蒼騎陛下達と話せてよかった。
たった、数分だったがとても勉強になった。


「ウェールズ様、どうかしましたか?」
「いや、この世界は厳しいなと思っただけだよ」


アンリエッタは首を傾げながら、僕と共に自分達の付き人達の元に戻った。
〜ウェールズside out〜


なかなか厳しい世界だな。




―――あとがき―――
短いですが、これで【アルビオン内乱】のプロローグは終わりです。
これから、物語は加速していきます。
予定では、色々と詰め込むつもりですが、入らない部分もあるかもしれません。
おそらく、濃い内容になるかと思います。

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