小説『ハルケギニアに蘇りし紅き狼』
作者:大喰らいの牙()

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第九話  王の背中と女の想い


〜カトレアside〜
陛下は、何事もなかったようにこの場を去っていき、お父様との二人っきりになったが、お父様も私の心情を察したのか、無言で出ていった。
お父様は、もうだいぶ歳をとっていて、時折睡眠中、『死ぬ前にカトレアの花嫁姿を見たい』と寝言で言っていた。
本来の私なら、私の為に尽くしてきたお父様の願いを叶えてやりたいけど、それじゃあ、私自身の気持ちの答えを誤魔化している気がする。


「はふぅ………」


溜息をついてしまう。
その時だった………部屋の中から、声がしたのは。


『アナタ、どうしようもないことで悩んでいますわね』
「えっ!? ドコ?!」
「ここですわ。私、真紅狼様の使い魔をやってるタマモって言いますのよ」


目の前に現れたのは、獣耳を生やした小さな女の子だった。


「えっと、タマモさんは………聞いていたんですか?」
「ええ、主の傍に常にいるのが、使い魔ですので。 ………アナタ、自身の気持ちに踏ん切りがつかないようですわね?」
「言葉に出しても分かるんですか?!」
「私だって、“女”ですわよ? 同じ女として分からないと思ったの?」


彼女は私の気持ちを見透かすように言ってくる。
もしかして、彼女も………


「もしかして、タマモさんも………?」
「ええ、愛していますわ。真紅狼様を」


はっきりと彼女は言った。
臆さず恥ずかしがらず堂々と………。


「まぁ、同じ殿方を愛す者として言えることはただ一つですわ。―――“自分の気持ちに素直になる事”ですわね。いつまでもあたふたしていたら、その人はどこまでも先に行ってしまうわ。いずれは、追い付けなくなるほどまでに距離が離れてしまう」
「“自分の気持ちに素直になる事”」
「私からはここまで。後は自分で気が付きなさいな」


彼女は消えおうとしたのでお礼を言う。


「タマモさん、ありがとう」
「………ウジウジ悩んでる女性の尻を叩いただけですわ」
「それでもありがとう。決心が付いたわ」


タマモさんは、何も言わずに姿を消した。
本当は………………ちょっとカッコいいと思ったのだ。
陛下のうしろ姿を見た時、普通の人間と変らない背中だったが、その背中がとても大きく感じられたのだ。


『護ってやるよ』


と、そのような言葉が背中から伝わってきた。
たった一言だが、その一言が重く、力強く感じられた。
そして、もう一つは何故か知らないけど母性本能がくすぐられた。
あの人の笑顔を護っていきたいとそう思ったのだ。


「……………決めた」


私は想いが決まり後は、夜まで待った。
〜カトレアside out〜


〜真紅狼side〜
いつも通り、書類に判子や提案書に意見を書いていたら、いつの間にか夜になっていたので俺は今日の仕事を終えて、果実酒引っ張って待ちあわせのテラスに向かった。


「相変わらず、下は賑やかだな」


夜になろうが、賑やかな街の音が途絶えることは無い。
さすがに深夜になると、静かになるがそれでも不気味な城下町にはならない。


「いるんだろう………? カトレア」
「………何故分かったんですか?」
「人の気配には敏感でな。取り敢えず、座ったらどうだ?」
「いえ、座るのは………私の気持ちを伝えてから座ろうかと………」
「なるほど………それもまた然り………だな」


俺は、立ち上がりカトレアの方を向く。


「私は、貴方を愛しています。私を貴方の妻にしてくれますか?」
「俺の様な男には持ってないほどの女性ですよ、ミス・カトレア。その想いに喜んで受け取らせてもらいます。こちらからも一つよろしいか?」
「どうぞ………」
「俺のような者でも愛してくれますか?」
「………はい。喜んで」


俺達はお互いに近づき合い、そして互いの唇を重ねた。
長い間、唇を重ねたがゆっくり唇を離すと、カトレアは顔を赤くしながら………


「これから、よろしくお願いします。真紅狼様」
「真紅狼でいいぞ。俺達は結婚した身だ。呼び捨てでいいだろう?」
「じゃ、じゃあ、ルゥちゃん、よろしくお願いします」
「“ルゥちゃん?”」
「その、国の名前に入ってる“ルゥ”って、真紅狼様の“狼”から来たのじゃないかな?………と思いまして、それで、ルゥちゃんなんですけど………ダメですか///?」
「い、いや、いいんだが、出来れば第三者がいない時のみ呼んでくれないか? さすがに恥ずかしい///」
「はい、ルゥちゃん♪」


いやはや、コイツは結構効くな。
俺達はこの後、テラスで結婚祝いの果実酒を飲みながら夜を過ごしていった。


次の日……………


どこから嗅ぎ付けたのか、国中が結婚した事を知っており、どの都市もお祭り騒ぎになった。
さらに状況が悪化し、リュオンが諸国に『我が国王陛下がご結婚させていただきましたので祝儀を上げさせていただきます。つきましては、周辺諸国の王族の皆様にご招待の書通を送らせていただきます』などという、書通を送ったせいで大掛かりな物になってしまった。
送っちまった以上、取り止めは出来ず、三日後ウチの城でやることになった。
城がまともに使われるよ。
祝儀は三日後となった。
〜真紅狼side out〜


リュオンの野郎………!!

-9-
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