アルビオン改めレコン・キスタ軍との戦は、もはや避けられないところまで来ていた。
たとえ相手が強力な軍艦や竜騎士団を有する大国であろうとも、貴族の誇りを失っての降伏はあり得ないと、アンリエッタ自らが軍を指揮する覚悟を示したのである。
その真意を知る者は少ないが、誇りと使命を抱いたまま夢半ばで死んでいった想い人の姿が、彼女の脳裏にちらついているのだろう。
「分かりました。じきに、私も王宮へ赴きましょう。
姫殿下にも、そのようにお伝えください」
「はっ!」
日も暮れた学院の中庭で、使いの者からその報告を受け、アレクはそのように返す。
使者は伝言を届けるべく、素早い動きで王宮へと馬を走らせていった。
「……何かご用ですか? ミス・ヴァリエール」
「……いつから気付いてたの?」
一寸も身体を動かすことなく、少年は背後の塔の陰に隠れていた人物に声をかける。
そこから、若干驚いたふうな少女が、すごすごと姿を現してきた。
「盗み聞きは、あまりいい趣味とは言えませんね」
「…ごめん……」
ため息交じりのアレクの指摘に、ルイズはそれしか言いようがなかった。
「…行くつもり……?」
視線を泳がせつつ、未だに背中を見せている少年に問いかける。
「はい。
我がエルバート家は、トリステイン王家の目であり、耳であり、そして……盾でもありますから」
答えは、是だった。
分家の役割は、本家が途絶えぬための、いわば保険。平時はトリステインとアルビオンをつなぐパイプ役を担い、そして有事の際には国軍を指揮して本家の人間の前に立ち、その盾となり矛となるのが、課せられた使命なのだ。
そしてそれは、彼自身の望みでもある。
「…もう誰も、ボクの前で死なせない……」
5年前、そしてほんの数日前の、自分の無知と無力の代償が、脳裏に鮮明に蘇る。
決意の炎を瞳に灯して呟かれたその言葉を、ルイズは聞き取ることができなかった。
「……ねぇ、アレク」
直後にルイズから投げかけられた言葉に、少年は思わず少女を振り向く。
夜の冷たい風が、2人の間を冷たく吹き抜けていった。
〜第29話 『タルブ奪還戦』〜
その翌日、サイトは当てもなく学院の渡り廊下を歩いていた。その手には、ハルケギニアの文字が3行ほどつづられた、小さな紙が1枚。
―――――――――――――――たぶん、アレクと一緒にアンリエッタ様のところに行ったんだと思う――――――――――――――
先ほど中庭で会ったゲルマニアの褐色女性の言葉が、少年の脳裏にこだました。
話は、今日の早朝にまでさかのぼる。
窓から差し込む朝日によって覚醒を促され、あくび交じりに背伸びをしたその時、サイトはワラ布団という名の寝床の枕元に置かれている1枚の紙に気が付いたのだ。
何やら文字が書き連ねられていたのだが、どこからどう見ても、その文字列の成す意味は分からない。異世界の住人である彼は、言葉は聞き取ることができても、文字は読めないのだ。
仕方がないので愛剣に翻訳を頼むと、そこに記されているのは、とんでもない内容だった。
曰く、
「『アンタ、クビ! どこにでもお行きなさい! ルイズ』、だとさ」
とのことらしい。金具を鳴らしながらの似ていないモノマネは捨て置き、少年はすぐさま部屋を飛び出した。確かに好き好んで彼女の使い魔をしていたわけではないが、このような一方的な三行半は納得がいかない。
主の真意を確かめるべく、学院内をさ迷い歩いていたところ、偶然にもキュルケとタバサというお馴染みの組み合わせに出くわし、三下り半の原因に心当たりがないか問うてみた。その結果、先ほどの言葉が返ってきたのである。
「……戦争…か……」
簡単に言えば、そういうことらしい。全く実感のないその単語を口ずさみ、サイトは薄暗い廊下の天井を見上げる。
ウェールズを殺害し、アルビオンを完全に手中に入れたレコン・キスタが、ついにトリステインにもその牙をむいたのだ。王家を守護するエルバート家の現当主として、アレクが国軍に合流することになり、ルイズはそれに同行を志願したのだという。なんでも、ギーシュを始めとした数名の男子生徒達も、同様に軍へと収集されていったらしい。
院内に残っている生徒達の間でも、近くに迫った戦争の話題で持ちきりだった。そこかしこから、不安と恐怖の入り混じった声が聞こえてくる。
当然と言えば当然だろう。唐突に、平和という名の日常が音を立てて崩れようとしているのだ。普段通りに過ごせというのが、無理な話である。
何しろ、普段は無表情のタバサですら、本を広げながらも、その目はどこか不安に揺れているように見えたほどなのだから。
「……なぁ、デルフ。
オレがいなくなったら、お前どうすんだ……?」
「また古道具屋で寝てるさ。なんにも変りゃしねぇ」
ふと、背中に背負った大剣に尋ねてみると、そんな返答が返ってきた。
普通なら、もう少し自由な時間を惜しんでもよさそうなものだが、あまり俗世に未練はないようだ。なんだかんだで、気楽な剣である。
「オレも、この世界の住人じゃねぇしな……帰っちまえば、戦争なんか…関係ねぇんだよな……」
「あぁ、その通りだ」
かの天才少年も言っていた。自分の世界に、家族や友人の下へ帰りたいと思うのは、当然だ、と。それは、決して悪いことではないのだ、と。
自分の言っていることは、考えていることは間違いではない。意思に関係なく勝手に異世界に召喚されて使い魔になり、わけが分からぬままその地で戦争に巻き込まれるなど、理不尽極まりない。
このまま2日後にこの地を去ったとしても、誰も文句は言わないだろう。主人にも、半ば許可をもらっているようなモノだ。
(…だけど……)
それなのに、背中の相棒も、身分違いの友人も、自分の意思と言葉を肯定してくれているのに、少年はどこか煮え切らなかった。
次々と脳裏に蘇る、ワガママな主と、その幼馴染の少年と過ごした日々。
散々怒鳴られた。ド突かれ蹴られ、ムチで叩かれもした。巨大なゴーレムとも戦ったし、アルビオンでは1流の魔法使いとも死闘を繰り広げた。今にして思えば、よくも生きていたと感心すら覚えるほどだ。しかし、不思議とそれらは悪い思い出とは思えない。
未だ悲しみの中に生きる少年、強がってばかりで素直になれない主。彼らの涙が、笑顔が、頭にこびりついて離れない。
(なんなんだよ…この感じ……)
その手に握りしめた置手紙を見つめ、サイトは正体不明の感情に揺れていた。
まるで、心に深い霧がかかったような、そんな嫌な感覚に。
壁にズラリと並んだ松明が揺れる石造りの廊下に、2つの足音が響く。
「先頃、報告がございました。タルブ村が、敵艦船によって攻撃を受けた、と」
「…そうですか。予想はしていましたが、先手を打たれてしまいましたね……」
プラチナブロンドと白銀の三つ編みを揺らしながら暗がりを歩く2人。
その話の内容は、決して色よいモノではない。トリステインは軍備を整える前に、のど元に剣の切っ先を突きつけられたようなモノなのだから。
「…正直私は、王女殿下が何を考えておられるのか分かりませぬ。
戦場において彼女にできることなど、たかが知れているでしょうに……」
軽く舌打ちを混ぜつつ、プラチナブロンドの女性はバラのような唇から言葉を吐き捨てる。
その心の内は、アルビオンの侵攻に対抗すべく兵と共に前線に立つという、あまりにも軽薄なアンリエッタの決断への不満に満ちていた。
「想い人を殺され、その仇が我が国に攻め入ってくるのです。
王宮にこもり、事が終わるのを待てというのが無理な話でしょう」
自らの1歩後ろを歩く従者をなだめようと、銀髪の少年が言葉を紡ぐ。
「しかし! このままではアレク様の身が危険です! 彼女は足手まといにはなっても、戦力には到底なり得ません!!」
だが、女性はなおも詰め寄った。
確かに王族ということもあって、アンリエッタの魔力は高い部類だが、戦闘経験が皆無に等しい。戦闘力という面で言えば、一介の魔法騎士にも劣るだろう。そんな人間が戦場に出たところで、マイナスはあってもプラスはないのだ。
「もしボクが同じ立場でも、同じことをしました。責めることはできません」
それでもなお、少年は淡々と呟く。その選択が正しいか否かに関わらず、その件で彼女を咎めるつもりはない、と。
「なぜですか! 100歩譲って王女殿下はまだいいとしても! ヴァリエール家の三女まで同行を許すだなんて……!!」
正気の沙汰ではない。そう言わんばかりに、かつてない剣幕で主へと叫ぶ女性。事実、基礎的な魔法1つ扱えない魔法使いなど、戦場では足手まとい以外の何物でもないだろう。
「彼女もまた、姫殿下やボクの身を案じて軍に志願してくれたのです。無下にはできません」
しかし、至極もっともな意見の羅列を前にしても、少年は平然とした態度を崩そうとしない。
「いい加減になさいませ! 今この国の中心は、間違いなくあなた様なのですよ!?」
そんな少年にしびれを切らしたかのように、女性は言葉を投げつける。
いかに『神童』と謳われる彼であろうとも、足手まとい2人をかばいながらでは、勝てる戦も勝てない。他者の心をくみ取り、意思を尊重するその行為は、今この状況では命取りにしかならないのだ。
そして、万が一にも彼が命を散らした場合、その行きつく先は想像に難くない。『最後の砦』を早々に失ったトリステインは、間違いなく侵略への一途をたどるだろう。
「今からでも遅くはありません! あの2人に真実を突きつけるのです!!
私とあなた様がいれば、戦艦の1つや2つは容易に……!」
王家の剣と盾たるイバラがそろい、足手まといがいない状況ならば、愚鈍な戦艦相手に後れを取ることなどあり得ない。
そう熱く語る女性の言葉を、
「1度目は5年前、2度目はつい先日……。ボクは2度も選択を誤った人間です」
少年の小さく静かな声が、有無を言わさず遮った。
「そんなボクには、彼女達の選択を否定する資格がない……。それだけのことです」
絞り出すかのような、苦しげな、悲しげな呟き。後ろからでは顔は見えないが、そこにある悲痛な表情を想像し、女性は言葉を詰まらせた。
「し、しかし……」
「心配には及びません。守って見せますよ、今度こそ……ね」
なおも女性が何かを言おうとしたところで、不意に少年が淡い笑顔で振り返る。
「なので、留守中の首都の警護、よろしくお願いします」
「……はい」
未だ納得はしていないようだが、他ならぬ主の正式な命令だ。従わないわけにはいかない。女性は不満を心の奥底にしまい込み、深々と首を垂れるのだった。
日の高く昇った学院の中庭。
「これでダーリンともお別れってわけか……さびしくなるわね……」
そう呟くキュルケの前には、ゼロ戦の機体に触れて状態を把握しているサイトの姿。
日食の当日となった今日、サイトはコレに乗って、この世界を旅立つことになる。
結局あれから、アレクやルイズが学院に帰ってくることはなかった。
あの2人とまともな別れができず、見送りがキュルケと、相変わらず本を読んでいるタバサだけなのは若干さびしい気もするが、仕方がない。
「いやぁ、待たせたね!」
と、そこへ、慌てた様子のコルベールが駆けつけてきた。
「竜の血…あぁいや、『ガソリン』であったな。
徹夜して、ここまで複製したのだが……」
そしてその傍らには、浮遊の魔法で浮かべられた、4つの大きなタル。その全てに、ゼロ戦の燃料であるガソリンが、なみなみと入っている。
「本来なら、学院を上げて壮行会…といきたいところなのだが……」
「あ、いえ、オレの方こそ、こんな大変な時に……」
この学院も、残っていた生徒達もそれぞれに実家に帰り、来るべき戦争に備えているところだ。
そんな時期にもかかわらず、個人のために尽力してくれたコルベールに、サイトは申し訳なさそうに感謝と謝罪の言葉を送る。
「敵軍はすでにトリステインの西…タルブの村に、戦艦を係留したそうでな…この学院もいつ……」
「タルブって…シエスタの村に!?」
「戦渦に巻き込まれるか分からない」。苦々しい表情でそう言おうとしたコルベールの呟きを、サイトの言葉が遮った。
「ああ。
我が軍も、姫殿下・王太子殿下の指揮の下、すでに進軍を始めているそうだ」
その瞬間、少年の目が一層大きく見開かれる。
バッと西の空を見上げ、睨みつけるかのような視線を送るサイト。その拳は、固く握りしめられていた。
タルブは、もはや戦場と化していた。
すでに住民達は森の中へと非難し、開けた野原において、レコン・キスタ軍の誇る巨大戦艦・レキシントン号およびそれに搭載されている竜騎士隊と、アンリエッタ率いるグリフォン隊・魔法騎士隊による、熾烈な戦闘が繰り広げられている。
ただし、旗色はどうやらトリステイン側が悪いようだ。
というのも、グリフォン隊の駆る幻獣は竜騎士隊の操る火竜の速度と火力に全く歯が立たず、魔法騎士隊の突撃も、戦艦に備え付けられた108門もの大砲に阻まれ、反撃すらままならないのである。前線にいるギーシュの情けない絶叫が聞こえてくるようだ。
しかしそれでも、トリステインが曲がりなりにも持ちこたえられている理由が、
「行きなさい!!」
アンリエッタやルイズのいる本隊から200メイルほど前方に足をすえ、幾百もの弾丸を巨大戦艦目がけて撃ち出している、『七色』の存在だった。
炎を纏った石のつぶてが、鋭く研がれた氷の槍が、戦艦の底に次々と穴を開けていく。
グリフォンでは、ドラゴン相手には敵わない。並のメイジの魔法では、空高くに悠然と構えている戦艦を落とすことなどできない。戦が長引けば長引くほど、トリステインは不利になる。それが、アレクの見解だ。
ならば、戦力が残っている内に、竜騎兵と砲台を牽制して時間を稼げる今の内に、特大の大魔法を叩き付けるしか、トリステインに勝ち目はない。
「来たれ大地よ…わが手に集い、敵を貫くつぶてと成せ……」
そして、その特大の大砲の役目を担ったのが、誰あろう、『トリステイン最強のメイジ』、『精霊に最も愛された男』、『千の魔法を会得した少年』。『神童』、アレクサンドラ・ソロ、その人なのだ。
「母なる水よ…友なる風よ…渦巻き逆巻き、空を成せ…」
炎のつぶてや氷の槍を撃ち出す間も、彼は別の石つぶての生成に専念する。その数は、10や20では済むまい。
しかもその全てが、『ただの石つぶて』ではないのだ。
(…よし! あとはコレを戦艦に撃ち込めば……ッ!?)
あらかたの呪文詠唱を終え、アレクが勝利を確信したその時だった。
戦艦の砲台が、最前線にいる魔法騎士隊から、後方のアレクへと一斉に照準を変更してきたのだ。
「お兄様ッ!!」
大砲が火を噴いたその瞬間、アレクからさらに後ろ、トリステインの本隊から、顔を青く染めたアンリエッタの絶叫が響く。
「くっ……!」
咄嗟につぶてを撃ち出し、少年は大砲の弾丸を空中で相殺する。
その際に生じた爆発に竜騎兵が幾人か巻き込まれたが、その程度だ。トリステインが不利な現状に、変わりはない。
いや、むしろ、状況は悪くなった。
(しまった……!)
集中力が途切れたため、奥の手として用意していた特別性のつぶてまで撃ち出してしまったのである。
今までの苦労が、水泡に帰してしまった。
そればかりか、
「っ!?」
敵は、彼を1番の危険因子と断定したのだろう。大砲が、ドラゴンの炎が、地上に立つ1人の少年に集中砲火を浴びせてきたのである。
アレクは時に避け、時に土の壁で防ぎ、時には炎の弾丸で相殺する。時折、戦艦に向けて魔法を放つものの、焼け石に水だ。
攻撃するつもりが一転、防戦するハメになってしまった。最悪である。自分自身が想定した、最悪のパターンだ。
すでにグリフォン隊はその全てが撃ち落され、彼らによる援護は見込めない。魔法騎士隊も、似たようなモノである。
そして、こうして間髪なく責められている以上、反撃の機会など限られてくる。ここに来て、腹心の部下の不在が大きな痛手となってしまった。
「お兄様! 今、援護に……!」
戦場の中央で半ばなぶり者にされている少年を見かね、アンリエッタは兵を率いて駆け付けようとする。
だが、
「なりません!!」
のどが張り裂けんばかりのアレクの叫びに、思わず手綱を引いてしまった。
「あなたはこの国の王女なのです! 自覚なさいませ!!」
こんな状態の自分の下へ駆け寄っては、彼女の身が危険にさらされる。『王家を守る』エルバート家の人間として、そんなことを認めてはならない。たとえ、この命を天秤にかけたとしても。
「で、でもっ……! このままではお兄様がっ……!!」
死んでしまうかもしれない。そう言いかけたアンリエッタの目には、涙が浮かんでいた。
想い人を裏切り者に殺され、その上今度は、実の兄にも等しい少年まで失ってしまうかもしれない。そう思うと、少女はたまらなくつらいのだ。
「それでもだ! あなたには、国を背負う責務が!
そしてボクには、そんなあなたを守る義務がある!!」
それでもと、アレクは叫ぶ。その瞳には、覚悟にも似た光が宿っていた。
(もう2度と! 誰も失いたくない!!)
彼の言動。それは、王家と分家、その役割のためだけではない。アンリエッタはアレクにとって、守るべき主君であり、同時にかけがえのない友人でもあるのだ。
(マリィも…ウェールズも救えなかったボクだけど……!)
5年前は手を伸ばすことすらできず、つい先日は手が届く場所にいながら救えなかった。
『大切なものを守る』。そのために魔法を覚えてきたはずのに、いざという時に、なんの役にも立たなかった。
(今度は……彼女達だけは! 絶対に……!!)
守るのだ。何物にも代えがたいアンリエッタとルイズを。自分の手にした、この魔法で。磨いてきた、この技術で。
幸いにも、敵の攻撃は速いが直線的だ。偉大な父に叩き込まれた体術を駆使すれば、よけられないことはない。
あとは、詠唱が終わるまでよけ続ければ、それで勝負がつく。自分は今度こそ、大切なものを守ることができる。そう思った。
その瞬間、
「アレクっ! 危ない!!」
ルイズの叫びが、戦場にこだました。
少女達へと意識が向かったことで、はたまた勝利が目前にちらついたことで、少年の心に隙が生じていたのだろう。
死角となる真上の上空から、火竜が火炎を放とうとしているのに、まったく気が付かなかった。
「ッ……!!」
今からでは避け切れない。かといって、杖をそちらに構え直す猶予もない。
少女2人の絶叫が、まるでスローモーションのようにゆっくりと、少年の耳に届く。
一瞬、死を覚悟した。
その時だった。
ダダダダダダダッ!!
「!?」
頭上で大口を開いていたドラゴンが、聞き覚えのない異様な音と共に、大量の血を流して絶命したのは。