シンク部屋に入るとガウルとジェノワーズもいた。リコッタは興奮しすぎて他の人が見えなかったようでシンクにさっきのことを伝えていた。
「どうしたんだ?」
流石にこの場面を話さないわけにはいかない。俺は少し渋ったが、今思い返せば再召喚が可能になったので隠す必要が無くなったんじゃないか?と思い事情を話すことにした。
「へぇ、そんなことがあったんか」
「だから駿は急いでたんだ」
各々感想を喋っていく。
リコッタもシンクに説明し終えたようでシンクはこっちに来た。
「駿、ありがとう」
「お前もか。言っとくが偶然だよ」
俺はベールが用意してくれたジュースを飲みながらそっぽを向いた。正直、俺はこうやってお礼を言われるには慣れていないからだ。
「でも良かったねシンク君、駿君。これで無事に帰れるんでしょ?」
「え?俺帰んないけど」
ジュースが美味しい。ズズッと全て飲み終わった時に俺はみんなが俺を見て絶句していることに気がついた。
「?、どうした?」
「帰らねえってどういうことだ!?」
「そうであります!」
なんだ?いきなり怒鳴られた。しかし、どうだって言われてもな。
「シンク、俺はなこの旅行の目的は3つあるんだ」
俺はそう切り出した。正直話すか話さないか少し迷うが
「え?現地の謎調べる為じゃないの?」
「まぁ、それもあるんだが・・・・・・えっと、まずは、人を、信頼出来る様になる為」
それを聞いてリコッタ、ガウルやジェノワーズは首を傾げたが、シンクだけは少し俯いた。
「あ、みんな知らないよな。俺は結構人間不信なんだ」
「そうは見えない」
「そやな」
「まぁ、それは俺が積んできた経験のたまものですよ」
ノワールとジョーヌに変な所で褒められた。いや、そんなとこ褒められても喜べないよ。
「それで、もう一つってなんですか?」
ベールが逸れた話を戻してくれた、ありがたい。がこっちはさっきの何倍も話しにくい。
「もう一つは・・・・・・・・・・・・はぁ、あれだ、死ぬことだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
こうなるよね〜。全員がキョトンとしちゃったよ。
「つっても、それは最終手段だぞ」
我ながら意味のない補足だ。
「えっと、どういうことかな、駿?」
シンクが一番最初に戻った、さすが勇者。
「まぁ、疲れたんだ」
ジュースを飲もうとストローを吸ったが何も口には冷たい水しか来なかった。そうだった、ジュースは全部飲んだんだった。俺はベールのおかわりを断り、話を続ける。
「まぁ、さっき言った通り俺は人間不信だ。正直、この生き方かなり疲れるんだ。だからこの旅行で、もしシンクを信じれなかったら、自殺でもしてやろうかと思ってた」
はい、Q.E.D証明終了。え?違いますか?そうですか。
「なんか、飛躍しすぎとちゃう?」
「まぁ、そう思えるかもしれないが、俺はそれにしかないと思ってたんだ」
遺書も鞄に入ってるよ。とも言った。ちなみにこれは嘘ではない。しっかりとした遺書をちゃんと書いてきた。
「それで、それが帰らねえってのにどう関係するんだ?」
「あぁ・・・・・・あれだよ。俺はさ、人間不信なんだ。誰も信じられない。でもここにきて、少し、ほんの少しだけど、俺は人を信頼出来そうな気がするんだ」
「それは逃げ、じゃないか?」
ガウルさん、流石だ。確かに俺もそれを少し考えた。
「逃げだよ。だけど俺は止まる気はない。あっちで逃げずに死ぬくらいなら、逃げて前に進むことを選ぶよ」
そう、停滞は苦しいんだ。俺はたぶんあっちでもう数年間停滞していたと思う。
「そう、駿はちゃんと決めたんだ。なら止めない」
そう言ったシンクを筆頭に全員が納得してくれた。
「ちなみに俺の遺書持って帰る?」
この誘いは断られた。残念だ。
*
さて、太陽もすっかり沈んだ午後11時、シンクの部屋で遊び疲れたみんなが寝ている間、重大な考え事をしていた。
そう、こっちに残ると決めた時点であっちでの俺の存在はどうなるのか?ということだ。
行方不明か?死か?
自我自賛になってしまうが俺はあっちではかなり期待されている人材だ。それが行方不明になればだいたい分かるだろう。
「う〜ん、どうしようか?」
そこから数時間、ずっと悩み続けた。そしてふっと思った。
俺は何に悩んでいるんだ?別に俺はこっちに住むんだ。あっちでどうなろうと俺はどうでもいいはずだ。なら何に悩んでるんだ?
こうなったらたぶん俺は何にも分からない、何にも思いつかない。だから寝よう。
シンク、ガウル、リコッタ、ノワール、ベール、ジョーヌが寝ていて床面積が少なくなっている、そんな場所で俺はなんかとスペースを確保してゆっくり目を閉じた。