翌日、宣言通りシンクはあっちに帰る。たぶん道の途中で送還方法の都合により、エクレールに物を渡してたりしているだろう。
確かユキカゼにはストラップをロランさんとダルキアンさんには記念コイン、ミルヒオーレさんには懐中時計と約束の言葉を書いた手紙を渡したはずだ。
これは昨日、ビスコッティに泊まってシンクと2人で考えたりした結果だ。
そうしてそこでお別れも言ったので見送ることもせずに俺は書斎に来ていた。
「へぇ、リコッタは4色ボールペンとスピーカー貰ったんだ」
「そうであります」
リコッタ超笑顔、恐るべきシンクパワー。
「でも、駿様は本当に帰らなくてよかったでありますか?」
「いいんだよ、もう未練ないし」
「そうでありますか」
「そうであります」
「真似しないでほしいであります!」
リコッタのまねをして言ってみたがり、少し頬を膨らましたリコッタに怒られた。しかしリコッタは笑顔でも怒り顔でもかわいいな。
「お、もうそろそろ時間だ。それじゃ俺は帰るよ」
「もうそんな時間でありましたか。また来てくださいであります」
あぁ、と言って俺は書斎を後にした。なんたって今日はガレットへの就任式なのだから。
俺は外に出るなり、ライジングモードを発動。
俺は走り出した。
*
「それでは天理駿の勇者就任式を行う」
「え!?」
勇者就任式、俺はレオ様のいきなりの発言によく分からない声が出た。
「ん?どうした駿よ?」
「いや、どうしてただ単にガレットに入るだけなのに就任式とかあるのかな〜て思ってたけど、まさか勇者とは。てか勇者になりませんよ、俺!」
なんかものすごい早口になってしまった。
「なに!?お主勇者にならぬのか?」
「俺言いましたっけ、そんなこと?」
そんな一悶着あった後になんとか勇者にならないことをレオ様が承諾、とりあえず今回は歓迎会となった。
こっちの兵士達と自己紹介をしあったり、いつものメンツと笑いあったり、歓迎会は何のトラブルもなく、楽しい時間が過ぎていった。
「はぁ、今日も楽しかったな」
歓迎会後、俺は1人ベッドに寝転がり、いろんなことを考えていた。
俺はもうこっちの住人だ。あっちへ帰ることはもう出来ない。別に後悔はしていない。だがやはり何かモヤモヤがある。これはたぶん今俺が考えても何も分からないと思う。分かるのだろうか、いつか?
昨日、今日の話についても考えた。
リコッタやユキカゼと話したりして少し、ほんの少しだが距離が縮まった気がする。冗談を言い合えたり出来る仲にはなったと思う。
友人か、俺はその言葉をここで何回も使ってきた。だが実際、俺はシンクを友人と思っているのだろうか?ここだけの話、俺とシンクは長期休暇とかの時に昔の馴染みで呼ばれるくらいで年に5回くらいしか会ってないし。
それに正直言うとその言葉を使ったほうが効率が良いと思ったから使ったのだと思う。だから俺に友人はいるのだろうか?そもそも友人とはなんなのか?
こんなにも何も分からないなんて初めてだった。いつも答えを出せた。いつも正解へ導けた。分からない物はないと思っていた。だがここに来て、俺は何も分からない、分かっていない。
でもそんな俺にでも分かることがある。
それは俺が勇者になれないということだ。
俺にはシンクの様に誰かの為に何かを出来ない。ミルヒオーレさんの様にみんなを元気づけて先導出来ない。リコッタやレオ様の様に誰かの為に全力を尽くせない。そんな人間が勇者になるなんてちゃんちゃらおかしいことだ。
でも真似事は出来る。俺はシンクや泣いていたリコッタの為に頑張れたはずだ。
俺は勇者にはなれない。こんなにも人間不信な自分が誰かと信じあって支え合うなんて出来るわけない。でも一度出来たんだ、きっといつか人の為に頑張れるはずだ。
エピローグは終わった。これから俺は自分の物語を歩み始める。
俺の戦いは始まったばかりだぜ!