小説『dog days not勇者』
作者:maguro328()

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・未練

ノワとあんな話をしたせいで俺は久しぶりに昔の夢を見た。それは俺がフロニャルドへ訪れる前の1年間、たぶん俺が人を信じようとはっきり考え始めた出来事であり、今思い返せばシンク、七海、レベッカ以外の初めての友人が出来た出来事でもある。

そしてその出来事が俺の一番の未練。

*

その出来事の始まりは高校生活の始まり、高校1年生になって1ヶ月、いつも通りに登校すると俺の下駄箱に1通の手紙が入っていた。色はオレンジ、花の絵も少し書かれていた。

(なんだこれ?)

今思い返せば完全にそれはラブレターだったのだがその時の俺は変に面倒くさい内容の本と父さんの趣味のバトル漫画しか読んでおらず、それの意味をあまり理解出来なかった。

そんな理解も出来ていない俺だったからその手紙をすぐに開けて中の内容を見た。そこには女の子特有(偏見かもしれんが)の丸っこい字で放課後、伝えたいことがあります。体育館裏まで来てくださいと書かれていた。

俺はその手紙を便箋にしまい、何も無かったかの様に再び歩き出した。特に興味がなかったんだ。いつも通り、黙って教室に入り自分の席まで、座ってからはずっと本を読んでいた。

そういつも通り、授業中も先生の話を全く聞かずに自分のやりたいことをやって先生に当てられたなら即答する。休み時間は誰とも喋らず1人ただ黙々と本を読み続ける。ぼっちではない。

そうして放課後、俺は手紙に書かれていた通りに体育館裏まで来た。いちおう言うとおりにするあたり俺は結構周りを気にしているのかもな。
そうしてしばらく経ったのち、少しウェーブがかかったロングの髪を携えた少女が体育館裏に来た。正直この時、放課後と書かれていたが時間は書かれてなかったから放課後の定義は何なのか、考えてたんだよな。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「えっと、いきなりすいません。でも言いたいことがあって・・・・・・」

言いたいこと?と俺は聞き返したはずだ。相手は初対面、名前も知らない、そんな相手からの言いたいことに俺はかなり警戒心をもった。

「・・・・・・・・・・・・あなたが好きです」

少女は顔を赤らめながら言った。神様は少女に味方したいのか柔らかい風を演出した。そして俺は

「それだけか?それじゃ俺帰るな」

と無表情で無関心で少女に言った。少女はそれを聞いてポカーンとしていた。もっというとそれを見に来ていた後ろの野次馬共もポカーンとしていた。俺は少女を気にせずきびかえそうとするが少女に「待ってください!」と言われて止まる。

「あ、あの!それだけですか?」

「は?それだけって、あんたこそさっきのだけだろ?」

「いえ、私はそれの返事を訊きたいんですが・・・・・・」

何を言ってやがんだこの女は、俺は少女を軽く睨みながら思った。だってそうだろう、いきなり体育館裏に呼ばれて、なんだと思えば好きですの一言、しかもその返事を聞きたい、意味が分からない。少なくともその時の俺は思った。

でもその時の俺は返事をちゃんと考えた。そして「嫌いだ」と答えた。

「な、なんで?」

「人間だから。そして初対面の人間を好きと言ったから」

人間だから、という理由はこの頃、俺は誰も信用出来ず、本気で人間が嫌いだったからだ。誰とも結婚する気もなかったし。まぁ、動物は大好きだったが。

そして初対面の人間を好きと言ったから、という理由は、というかそれで疑わない人間はいないだろう。そんな胡散臭い人間は嫌いだ。

「てなわけで俺は帰るぞ」

次こそきびかえして俺はその場から去っていった。たぶん少女は固まったままだっただろう。

*

そのラブレターの件があってから数ヶ月が問題なく進んだ。この場合の問題ないというのはそれから一切誰も俺に関わらなくなったということだ。告白してきた少女もそれから会っていなかった。

そうして10月、体育祭(真面目にやればよかったという未練がある)も終わり、文化祭までの間にある期末テストから2週間前になった。別に俺は勉強しなくても点がとれるので何も変わらず自分の読みたい本を読んでいた。その放課後、学校に残ってきりがいいところまでと本を読んでいた。

「・・・・・・・・・・・・」

どこかで憶えがある感じがする。もちろん、その時の俺ではなく、今の俺に。

「・・・・・・・・・・・・ん!」

この時点では気がつかない。

「すいません!」

「ん?なんだ?」

ここでやっと気がついた。本から顔をあげるとそこには告白してきた少女が立っていた。そして「どうして無視するんですか?」と訊いてきたので、本に集中してると周りの声が聞こえないんだ、と少女は「そうなの?あ、ごめん」と言ってくれた。

「それで、なんだ?」

「べ、勉強、教えてください」

「なんでいきなり、てかなんで俺だよ。お友達いんだろ、そいつらに教えてもらえよ」

「あなた、頭いいから・・・・・・それにみんな私に勉強を教える暇なんてないよ」

「俺もない」

そう切り捨てて本をしまい、かばんを持って俺は教室を出ていこうとする。だが先回りされて扉を閉められた。

「・・・・・・・・・・・・私、次のテストで点をとらないとみんなと遊べなくなっちゃうの」

「なら遊ばなければいい。それにお前に勉強を教えないってことはそいつらはお前とさして遊びたくないんだろうな」

ひどく安直に率直に俺は言った。少女はそれを聞いて唖然とした。

「もっと言うと俺はお前と遊びたくない。だから俺にも勉強を教える義理はない」

「な、なに!?嘘の告白したの、まだ怒ってるの!?」

それは俺からしたらとても突拍子がなく意味が分からなかった。今は勉強の話をしていたはずなのにいきなり告白という言葉が出てきたのだから。

「・・・・・・・・・・・・えっと、お前誰だ?初対面だろ?」

「はぁ?5月の頃に体育館裏に呼んだでしょ?」

「あ、ああ。そういえばあった様な気がする様な・・・・・・・・・・・・」

そういえばなんか色々と会話した気がするな。ああ、思い出した。と今より現実に興味がなく全然エピソード記憶が働いてなかった俺は頭から引き出すのに数分かかった。

「なら、お前が嫌いだから、帰るわ」

「ちょ、ちょっと待って!あれは嘘で、私も初対面の人間を好きなんて言わないわ」

「なら嘘ついたお前が嫌いだ、帰る」

「ああ!ああ言えばこう、こう言えばああ。あなた性格悪いわね、そんなんだから友達出来ないのね」

少女も頼みごとのことなんて忘れたのか、言い争いを始めだした。だが俺はそんなことで熱くなるような心は持っていないので冷たい目で「友達なんていらないよ」と言った。

「人間なんて誰も信じれないだろ、みんなすぐに裏切り、騙す。利用して価値がなくなれば捨てられる。結局お前もそうだろ、そいつらにとって利益がなくなったからお前切り捨てられた」

「・・・・・・・・・・・・」

少女も思い当たる節があるらしく、黙ってしまった。

「何か他に言いたいことはあるか?」

俺はそれだけ言って少女をどけて教室を後にした。

*

少女と話した放課後から1日経っても俺は何も変わらず1人席について本を読んでいた。少女の様子は気にならない。どうでもいいからだ。
そうして時は過ぎていきある日の放課後、学校に出る前に教室に本を忘れたことを思い出して、俺は教室に取りに戻った。すると教室にはまだ数人の生徒が残っていた。すぐに入ってもよかったのだが男が言った言葉で扉を開けようとする手をとめた。

「最近あいつ付き合いわるいよな〜」

「美保だろ?だよな〜」

美保というのは誰だろうか?そう考えていたのだが心のどこかでは誰だか分かっていた。

「本当よね〜カラオケとかみんなで行きたいのにね〜」

「だね〜」

話している内容から推測出来るのは2通り。

まずこいつらが美保という子を本当に大切だと思い一緒にカラオケに行きたがっているパターン。

もう1通りは、言い方悪く言うなら美保という子がサイフのパターン。

おそらく、いや、確実に後者だろう。もし前者なら誰かが勉強を教えているだろう。やっぱり人間というのはこういう生き物だ。人間を利用して利益がなくなれば切り捨てる。

俺はそこから少し話を立ち聞きした後、扉を開けた。中にいたのは5人、全員が突然扉が開いたことにギョッとしていた。だが俺はそれを無視して自分の席の引き出しから本を取り出してすぐに教室から出てこうとした。だが扉のところにはあの少女がいた。

「あ、どうしたの、美保?」

「あ、うん。図書室で勉強してたんだけど忘れ物あって」

少女、美保でもういいだろう。美保は自分の席まで行って引き出しからノートを取り出してパタパタと出ていった。

さっきの会話は聞いていなかっただろう。だがあいつはもしかしたらこいつらがここに残って喋っていた内容が想像出来たのかもしれない。

まぁ、俺には関係がない。俺は思って教室を出た。すると美保は廊下に突っ立ていた。俺はそれをすり抜けるように歩き出した。

「待って!」

だが美保が叫んだことにより歩みを止めた。

「あの、べ、勉強教えてください
「お前、まだあいつらと遊びたいのか?」

「違う。本当に全然分からないの。でもあの子たちも教えてくれなさそうだし・・・・・・・・・・・・だから、教えてください!」

「・・・・・・・・・・・・分かった」

この時、なんで俺は了解したんだろう。なにかの心変わりだったのか、それともただの気まぐれだったのか。今の俺にも分からない。でもこの選択は正解だった。

*

俺は美保に連れられて図書室に訪れた。そこには何人か残って勉強をしていたり、委員活動をしていた。さらに美保に誘導されて勉強道具が置きっぱなしになったテーブルまでたどり着いた。

「で、何を勉強するんだ?」

「それじゃ・・・・・・数学から」

美保はそう言って俺に問題集を差し出してきた。俺はそれをパラパラとめくる。今回の提出分のページは真っ白、でも頑張ったらしく一問目は消して書いての連続で跡がついていた。

「・・・・・・・・・・・・お前、これより前は分かるのか?」

「で、できません」

「えっと、教えて欲しい科目ってなんだ?」

「数学と英語と物理と化学です」

4科目か。それならいけるか。

「なら流しで基礎から教えるぞ」

「は、はい!」

こうして俺は美保に勉強を教え始めた。美保も本気で点数を取りたいようで俺の話を真剣に聞いていた。そして俺も出来るだけ分かりやすく解説した。

「へぇ〜天理くんの教え方ってわかりやすいね」

「そうか?まぁ、ちゃんと理解してたらこれくらいはいけるな」

「むぅ・・・・・・なんかその言い方はムカつくな」

「事実だろ」

はい、今の俺からしたら完全にイチャイチャしているようにしか見えません。

そこから図書室が閉まるまで俺と美保は勉強をし続けた。外は冬だけあって真っ暗だった。俺と美保は横並びで歩いて帰っていた。

「で、俺はこっちだから」

「あ、うん。てかこういう時って送ってくれてもいいと思うんだけど」

「何故に?」

「もういい・・・・・・」

よく分からないがいいならいいか。そうして俺は手を振ってから歩き出した。そうして帰り道、俺は今日を振り返った。

高校生になって初めてこんなに喋ったな。たぶん、全部上っ面で話していたと思うのだが、それでもこんなに喋ったのは初めてだ。

だが何故か悪い気はしなかった。

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