文化祭も終わり完全に寒くなった時期、俺は冬休みで美保の宿題に付き合うことになり、また美保の部屋に来ていた。
「それで、お前やる気ないんだな」
「うぅ〜〜折角の休みなのにどうして勉強しないといけないの・・・・・・」
こいつはさっきからずっとこんなことを言って寝転がって一切宿題をする気がない。前に授業を聞けばいけるって言ったが聞くことがまず無理そうだな。
「それにしてもお前の家はまた両親いないんだな」
「忙しいからね〜〜」
勉強以外になると会話はこんな感じに二言三言しか続かない。基本俺と美保は別々に何かをしている。ちなみに俺は勉強をやめてただ寝転がって、美保は雑誌を読んでいる。
「あ、これ可愛い。ねぇ、天理君これかこれ、どっちがいいかな?」
「どっちでもいい」
俺は寝転んで天井を見ながら答えた。つまり美保が見ている雑誌を一切見ていない。
「・・・・・・天理君って性格悪いよね」
「なんだ?知らなかったのか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほらまた、これで会話は終了。俺は寝転びながら美保の本棚を眺めた。そこには父さんが持っている様な本とは違った小さい本ばかりだった。
「ん?なんだこれ?」
「漫画だよ。知らない?」
「それは知ってるよ」
さすがに漫画は知っている。だって父さんがバトル系統の漫画が大好きだったのだから。でも美保の本棚には俺が見たことがない本ばかりだった。
「ちょっと読んでみてもいいか?」
「いいよ〜」
美保に許可をとってから俺はテキトーに1巻目を手に取った。
話はとても日常的、だが俺にとってはとても非日常的な物だった。2人の男女が出会い、色んなイベントを経て、恋に落ちて付き合って終わり、そんな話。
あっという間に読み終えて俺は他の漫画にも手をつけた。でもどれも内容は違えど、恋愛に関するものばかりだった。
「初めて見る系統だったな」
「へ?少女漫画知らないの?」
少女漫画・・・・・・・・・・・・ああ、あれか。このリアクションには一切の嘘はなかった。
「うそっ?すっごい後悔してるよ、それ!?」
「・・・・・・・・・・・・恋愛か。俺には縁遠いものだな」
「確かにね・・・・・・・・・・・・」
また会話は終了。そうしてこの1日こんな途切れ途切れの会話をしながら過ぎていった。
*
1週間に1回、そのペースで美保の家に行っていたのだがクリスマス、つまり12月25日、美保が俺の家に行きたいと言い出した。もちろん、特に断る理由ない。
というわけで今俺の家路を美保と共に歩いていた。空は冬だけあって暗くなるのが早く、街灯が無いと歩くのがきつそうだ。
「ふんふ〜ん」
まぁ、街灯があるので周りは結構見える。その証拠に後ろにいる美保が楽しそうなのがはっきりと見える。鼻歌まで歌っちゃってるし。
親戚の家は一軒家、2階建ての木造住宅だ。その姿が見えてきたのだが少し疑問というか不可解なことがあった。
電気が点いていない。
「美保」
「ん?な〜に?」
「おじさんとおばさんいないわ」
「え!?」
すっごい驚かれた。振り返ると街灯に照らされている美保の顔は真っ赤になっている。
「これは少女漫画的に良い展開か?」
俺はわざとらしい笑顔で美保に訊いた。美保はそれを聞いて顔をさらに真っ赤にさせた。
「て、天理君ってそんな冗談言う人だっけ?」
「母さんの遺品から少女漫画がどっさり出てきてな。あれから読んでたんだ」
「へぇ〜。それじゃ、恋に目覚めちゃったの?」
「いや、それが俺には登場キャラクターの気持ちが一切分からないんだよ」
人とはとても不可思議で不可解だ。これは俺が昔からずっと考えていることだ。その中でも感情とか気持ちとかはまだ解き明かせていない。少女漫画はそれが多い所為で全然理解出来なかった。
「そっか〜。まぁ、寒いから続きは中に入ってからにしよ」
「だな」
冷たい風が吹き抜ける中、俺と美保は足早に家に入った。中は電気が点いてなく真暗、電気を点けてリビングに行くと予想通り机には置き手紙があった。そこには高級料理店へ行ってくると書いてあった。
「はぁ・・・・・・・・・・・それじゃ、適当に作るからくつろいどいて」
「は〜い」
とは言ったものの美保は俺が思っている3倍くらいくつろぎだした。俺はそれを見て呆れた後、料理を開始する。時刻は既に6時、俺はさくさくと作っていった。
料理が出来たのは7時半、美保に手伝ってもらい、机に料理を全て並べた。そして2人合わせて、いただきますと言って食べ始めた。
「ん、うま〜い!」
「あんがと」
おじさん、おばさんに作ったことしか無かったのだが、こうして違う人に作って出して美味しいと言われるのも悪くない。
「そういえば、お前よかったのか?他の連中にも誘われてたろ?」
「いいの。あいつらは私の家の豪華な料理が目当てだから」
何か完全に吹っ切れてるな、こいつ。
「そうだ、天理君の部屋行こうよ」
「ん?まぁ、いいが・・・・・・まだケーキあるぞ?」
「天理君の部屋で食べよ」
なんだかさっきも言った気がするが特に断る理由も無いので俺は冷蔵庫からケーキを出してリビングを出た。その後ろから美保はついてきた。そうしてたどり着いた部屋は日用品以外ほとんど物が無い俺の部屋に着いた。
「片づいてるね」
「だろ」
ケーキを机に置いて、1人で見るには十分の大きさのテレビの電源を点けた。番組は何かのドラマが丁度終わったところだった。
「あ、録るの忘れた!」
美保はどうやらこのドラマを見ていたらしい。録画を忘れて嘆いている。
「ほら、寝転がってないで食べるぞ」
「うぅ、はい・・・・・・て1ホールあるじゃん」
「そりゃ・・・・・・作ったからな」
うぅ・・・・・・食べれるかな、とか太っちゃうよ、また嘆きながらも美保の目はしっかりとケーキをロックオンしていた。
「大丈夫だよ。残ったら俺食うし」
「食べれるの?」
「頭を使うと甘いものが欲しくなるんだよ。1ホール位ぺろりといける」
まぁ、食べ過ぎは良くないしそんなに食べなくても良かった気がするが気にしないでおこう。
「それじゃ、食べよっか?メリークリスマス!」
「・・・・・・メリークリスマス」
なんだこの号令は?と思いながらも俺は同じ様に返してケーキを一口パクリと食べた。我ながら美味い。今回はかなり成功だ。その証拠に前にいる美保もカロリーなんて何のそのと言っている感じでケーキにがっついていた。
話相手がケーキに夢中になったので俺はテレビをぼーと眺めた。何かのバラエティ番組が流れていた。
12月25日、今年ももう終わり、実際まだ数日あるのだが年末も似たようなことになるだろう。
本当におかしな1年だった。気がつけば友人らしきものが出来てそれとほぼ毎日会っている。俺の16いや、10年間からしたらありえないことだ。
このまま終わればそれもまた幸せだろう。だが未来は決まっている。俺はフロニャルドに行く。
物語が動き出したのは年を越えた後、確か1月14日だった筈だ。
*
俺は現在、また美保の家に来ている。だがいつもと訳が違った。何故か、それは・・・・・・・・・・・・
「君が天理駿君か」
目の前にいる30代後半の男性、彼は美保の父親神崎倉蔵、前にも言ったが有名な会社の社長だ。今回は美保ではなくこの人から呼び出された。
「そうですが・・・・・・・・・・・・」
正直、こういうお偉いさんは苦手だ。たぶんその気持ちは顔に出ているだろう。
「娘が世話になったな」
「・・・・・・・・・・・・そんな世間話する為に呼んだんじゃないですよね?」
さっさと帰りたい、その気持ちが大きすぎて俺はついつい口走ってしまった。一応補足だが、この場には俺とこの人以外美保とその母親がいる。2人とも俺の言葉に絶句している感じだ。
「・・・・・・そうだな。天理君、君の噂はかながね聞いているよ」
「?、お父さん、天理君って有名人なの?」
そういえば俺、一度もこいつに自分のこと言ってなかったな、聞いてこなかったし。
「天理君は天理修一の息子で、昔は神童だったのだよ」
「へぇ・・・・・・・・・・・・」
う〜ん、あんまし分かってない感じがするが、 倉蔵は気付いていない。てか神童だったてのは少しイラッとくるな。
「それで、その神童だった俺に何の用なんですか?」
だったを強調した。
「簡単な話だよ。うちの会社に来ないか?」
「「!?」」
まさかのヘットハンディングだった。そして美保もそれを聞いてやっとさっきのことを理解した様だった。
「君はあの修一さんの息子だ。しかも才能は名だたる科学者達のお墨付きだ。是非私の会社に来てほしい」
俺はここからの倉蔵の話をあまり覚えていない。興味がなかったのだ。確か、給料の話とかしてた筈だ。
「どうかな?」
気がつけば倉蔵はそう言っていた。
「凄〜い!天理君って本当に凄いね!」
横でそんなことばかり言っている美保、たぶん倉蔵の会社が凄いってことだけで判断しているのだろう。
俺は少し黙り、考えたふりをする。答えは決まっているが、なんというか・・・・・・悪戯心?
「お断りします」
あくまで深刻そうな顔で言う。すると倉蔵に誠意的なものが伝わったらしく、残念だと言ってすんなり諦めてくれた。あれ?なんかあっさりしすぎな気が・・・・・・・・・・・・。
「それにしても何故いきなりこんな申し出を?」
「・・・・・・実は今度会社の開発班で大発見をしたらしく、そのトップである人がが是非とも君を人材としてほしいと言ってな」
何故今更俺を?そう思いながらもどこかで悪い予感がしていた。早く帰った方がいい、その言葉がアラートの様に鳴っていた。
ピンポーン
「お、来たみたいだ」
美保の母親は玄関へ歩いていった。俺が固まって思考停止しているのに時間は進み、物語はページをめくられていく。
やがて美保の母親は客人と談笑しながら帰ってきた。その客人の顔に俺は見覚えがあった。
「久しぶりだね、駿君」
「・・・・・・岡、崎さん・・・・・・・・・・・・」
俺の父親、天理修一の助手であり今や日本が誇る科学者の1人であり、そして・・・・・・・・・・・・俺の両親を殺した相手だった。
*
突然、話は変わるのだが俺の父親は研究者だ。新技術の発見を中心に様々なものに手を出していた。
常人の3倍のスピードで何かを発見して最年少でノーベル賞を取ったらしい。だから死んでしまった時は色んな人が残念がった。
そんなスピードで発見をしていた為に父さんの部屋にはまだ未公開の物がある。と言っても3つだけなのだが、俺はそれを遺品として受け取った。
そこから色々あって俺は岡崎が犯人であることを知った。確かそこからだ、人を信じれなくなったのは。
そしてその5年後、岡崎は父さんが残した未公開の研究を発表した。しかも自分の手柄で。俺はその時、いやもっと前からかも知れないが分かったのだ。岡崎が2人を殺した理由はこの3つの未公開の研究だったと。
*
美保side
今日はお父さんが天理君を呼んでほしいと言ったから連れて来たんだけど・・・・・・・・・・・・
「いや〜本当に久しぶりだね〜。あのパーティ以来かな」
「はい」
天理君に会えてご機嫌な岡崎さんと呼ばれる人、それと真逆な天理君の作り笑顔。どうしたんだろ?感動の再会・・・・・・って雰囲気じゃないな〜。よし!ここは私が1つ!
「お父さん、私そろそろ勉強したいから戻っていい?」
「ああ」
「それじゃ行こ、天理君。私天理君に教えてもらわないと分からないから」
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
私は天理君の腕を引っ張ってリビングを出た。そして少し走って私の部屋に入った。
「いや〜それにしても天理君って本当に凄かったんだね」
「・・・・・・・・・・・・」
天理君はクッションに座って下を向いて無言、あれか、心ここにあらずって奴か。
「どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・」
やっぱり話してくれないか。というか言葉が届いてない様な感じだな。
そうして無言で数十分経った。天理君はその間全く動かず、凄く気まずかった。でも突然天理君はポツリと言葉を吐いた。
「・・・・・・・・・・・・もう無理だ」
「え?」
突然言われた所為で良く聞き取れなかった。けど何か良くないことを言ったことは分かる。
「て、天理君、本当にどうしたの?」
「・・・・・・・・・・・・」
天理はまだ黙っていたけれど顔を上げて私を見た。
パンッ!
そして自分の頬を叩いた。
「え、え?だ、大丈夫!?」
「あぁ、大丈夫だよ」
そう言ってもう一度こっちを向いた時には、天理君は何時もと同じ様に笑っていた。