それからという物、俺の周囲では魔法関連で高町なのは並びに神崎零、火喰隼人、會田蓮の四名が飛びまわっていた。無論、学校にはちゃんと来ているし、授業も寝たりしているが受けている。とりあえず俺の反応は高町なのはは眠らせたままで他三名を寝かさない、という物だ。まぁ街を護ろうと頑張ってる高町なのははともかく、彼女の行為を利用して好意を引こうとする輩だし、いいだろう。
尚、その間俺がやってる事といえば、毎日日常生活を送っているだけ。まぁ一応はやてに内緒でやってる事はあるけど、それもほんの少しだけ未完成だ。まだ実用段階では無いので、使えない。
だが、魔法関連で干渉した事は一応ある。それが今の事、何を隠そう現在俺の手の中にはジュエルシードが三つ握られているのだ。何故持っているかといえば、ただ単に拾ったのだ。一つは先日学校へ向かう通学路の途中で拾い、一つははやてと図書館に行く途中で拾い、一つは現在、夜にコンビニへ買い物をしに行く途中で拾った。
今はコンビニでアイスコーナーを見ている所だ。片手でジュエルシードを弄びながら、アイスを見る。とはいえ、俺がこのジュエルシードを持ってても意味はないんだけどな。
「あ………」
「ん? どうした?」
不意に横から後ろから声がしたので、そちらを見る。すると、そこには長い金髪をツインテールにして、黒いジャケットに白いスカートを履いた少女がいた。赤い瞳がこちらを呆然と眺めていた。いや、俺じゃない、彼女が見ているのは俺の手の中にあるジュエルシード。宝石が珍しいのだろうか、それとも……彼女も高町なのは同様魔法少女という奴か……どうやら年齢も同じ位だしな。
「! ……それ」
「ん、ああ……これか。これは拾ったんだ」
「それ、私に下さい」
「………これまた突拍子もない提案だな。なんでだ?」
いきなり目の色を変えて俺のジュエルシードを食い入る様に見る少女。どうやら、宝石だからとか綺麗だからとかそんな理由でこれを欲した訳じゃないらしい。だとすれば、この子はこのジュエルシードの事を知っていると見るべきだろう。少なくとも、そんじょそこらの宝石とは訳が違う魔法のアイテム……という事くらいは知っていそうだ。
「……私にはそれが必要だからです」
「………はぁ……とりあえず、事情とやらは外で聞こうか」
俺はそう言って、三人分のアイスをレジへ持っていきつつそう言った。
◇ ◇ ◇
そんなわけで、俺と金髪少女……名前をフェイト・テスタロッサという彼女はコンビニの前でアイスを手に話をしていた。俺の手にはジュエルシード、もう片方の手にははやての分のアイスが入った袋がぶら下がっている。
そして、フェイトはぽつりと呟く様に切りだした。
「そのジュエルシードを渡して下さい。それは危険な物なんです」
「なら、お前はこいつをどうするんだ? 危険な物なんだろう?」
「それは……母さんが必要としているから、母さんに渡します」
なるほど、母さんという奴がどんな奴かは知らないが……ジュエルシードを必要としている所を見ると、何かしらデカイ事を引き起こしそうだな。しかも、娘にその危険なジュエルシードを集めさせていると来た。フェイトには悪いが、碌な奴ではないだろう。
となると、俺はこのジュエルシードを渡すべきではないだろう。フェイトはそれで褒められるかもしれないが、それは家族としては駄目駄目だ、合格点どころか及第点でも行き過ぎているくらいだ。赤点レベルの対応でしかない。
「……さて、俺の中ではコイツは渡すわけにはいかないな」
「っ! ……なら、力づくでも奪い取りますっ」
フェイトはそう言うと、持っていたアイスを地面に落として代わりにポケットに入っていた黄色い四角い宝石を取りだした。一件ジュエルシードに似通った雰囲気を放つソレだが、危険なオーラは感じられないので幾分マシな品だろう。
「バルディッシュ……セットアップ!」
フェイトがそう言うと、黄色い宝石は輝きを放ち、彼女を光で包みこんだ。そして、ポンポンと音が光の中から聞こえる。まるで魔法少女アニメの変身シーンで服が魔法少女服に変わる際の弾ける音だ。やっぱり魔法少女とはこういう変身音を発するものなんだろう。まぁあの某シリアスしかない魔法少女アニメだって、主人公が魔法少女化しなかったり、親友が絶望の末魔女になったり、時間巻き戻しても絶望の結果しかならない事に疲弊したりしてたけど、それでも魔法少女の変身時にはそれなりに弾ける音が付いていた気がする。多分、必須な物なんだろう。
そして、その音が止んで光が収まった時、中からは先程のフェイトが何やら奇抜で露出の高い黒い服を来て立っていた。具体的に言えば、赤黒いスク水にベルトをしてそこからピンク色のスカート的な布、上半身には前を開ける様に羽織った黒いマント、そして手にはかの高町なのは同様に黄色い宝石の付いた黒い斧型の杖を持っていた。やっぱり、魔法少女といえば杖なんだろう。
「……そのジュエルシード、頂いて行きます!」
そして間髪いれずに突っ込んでくる少女。その速度は魔法で強化されているのか少女の身体からは出る筈もない速度。
だが――――
「うぐっ!?」
「―――それだけじゃ意味ないな」
俺はフェイトの腕を掴んで地面に合気道の要領で投げつけた。一応衝撃は最低限で抑える様に加減したが、やはり少女の身体では十分すぎるダメージが通ったようだ。
「っ……」
「あーあー、全く。勿体無い事するねぇ……折角買ったアイスなのに」
「あ……ご、ごめんなさい」
先程までの勢いは何処へやら、彼女は俺がしゃがんで落ちたアイスを拾い上げると、買って貰った手前罪悪感が出たのか、慌てて謝って来た。さてさて、どうした物か
「ま、いいよ。さて……俺としてはこのジュエルシードとやらは必要じゃないから渡してもいいんだが……お前さんの母親の話を聞く限り、あまり良い印象はないな。渡しても良いが、渡したくはない」
「………」
「でも、まぁお前が所持するのならば渡しても良い。どうだ?」
「! ……私が持つのなら渡してくれるの?」
「ああ、お前が母親に渡さなければいけないのなら……許可するのは2つまでだ。最低でも1つはお前が持ってろ。渡す事は認めない」
そう言うと、フェイトは少しだけ迷った後、こくりと頷いて変身を解いた。
「よろしい。ほら、しっかり持って帰れ」
「あ、っと……あ、あの……名前」
「あー……そうだったな。俺の名前は泉ヶ仙珱嗄、珱嗄か先生と呼ぶと良い」
「うん、分かった。珱嗄……だね。ありがとう、お礼はちゃんとするから」
そう言うと、彼女は一つお辞儀をして走り去って行った。
「さて、帰るか……ん? ありゃ」
俺も帰路に着こうとしたが、ふと手元を見ると袋の中にあったはやての分のアイスが既に溶けていた。
◇ ◇ ◇
「ただいま」
「お帰りフェイト!」
「あ、うん。ただいまアルフ」
フェイトは珱嗄と別れた後、自分の拠点へ帰って来ていた。玄関を開けると、使い魔のアルフが出迎えて来て、フェイトは微笑みながらそれを受け入れた。
「ほら、ジュエルシード二つ手に入れたよ」
「えっ? 凄いじゃないかフェイト!」
アルフが喜ぶが、フェイトはポケットに入れた3つ目のジュエルシードを握る。約束だから、と一つは自分の物として隠したのだ。
「あれ? そういえばフェイト。夕飯を買いに行ったんじゃなかったのかい?」
「え? ……あ」
それでも、自分の事では少し抜けているフェイトだった。