小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「手、出すなよ。淫獣」

「何度も言うけど、僕は淫獣じゃない。ユーノだ」

「ハッ、どうでもいい事だ」

 高町なのはとフェイト・テスタロッサが上空高くで決闘を繰り広げている中、ユーノ達は臨海公園の中でその戦いを見守っていた。
 手出しはしない。この決闘に手出しをすれば、それこそ慕っているなのはや近い内に好意を寄せているフェイトに対する侮辱。いずれ彼氏彼女の関係に、ハーレムの関係にするために原作に関わっている転生者にとってはやろうとも思わない行為だ。

「それにしても、なのはも随分と強くなったじゃねぇか」

 そう言ったのは、神崎零。おそらく現時点で一番高町なのはに近い人物。仲が良いとか好意を寄せられているといった関係ではないが、なのは自身は神崎の手助けは助かっていると思っているし、友人として付き合って行くのは構わないと思っている。がしかし、なのはは神崎を恋愛の対象どころか付きあって行くのは最低限で構わないと思っている。正直、彼のなのはに対する接し方は気持ち悪いと評するに値するからだ。他人から見ても、なのはから見ても、だ。

「まぁ、あの子も随分とがんばっとったからの」

「俺も結構手助けしたしな」

 そう言うのは、會田蓮と火喰隼人の両名。神崎は二人の発言に機嫌を悪くして舌打ちする。彼は二人に対してかなり険悪な関係を築いているのだ。

「つっても……かなり厳しい勝負だな。なのはの奴も善戦してっけど、やっぱり押してんのはフェイトの方だ」

「ああ、フェイトはアタシが使い魔になる以前から魔法の訓練に手を付けていたからね。経験だけならあの白い子なんか比べ物にならない」

 神崎の言葉に、アルフが返す。フェイトの経験量はなのはと比べれば二倍どころか十、百倍と言っても良い位だ。寧ろ、なのはが善戦出来ている方がおかしい。

「なのはが善戦出来てるのは……やっぱり生まれ持った才能だろうな。あいつの収束魔法の才能と高い空間把握能力は驚異的だ」

「…………でも、フェイトだってそんな事位分かっている筈だ。証拠に、なのはの収束魔法はフェイトの接近戦で封じられているし、空間把握能力もフェイトのスピードで対抗されている。確実な決定打が無い限り勝てない」

 火喰がそう言うと、會田も頷いて見せる。とどのつまり、勝負は均衡状態。かなり互角の勝負なのだ。なのはが収束魔法を使おうとすれば、させまいとフェイトが間合いを詰め、フェイトが近接戦を行なおうとすればなのはがその空間把握能力で最適な場所へと回避を繰り返す。この繰り返し。勝負は一向に着かない。

「でも、俺達は黙って見てるしかないさ」

「やな。信じて待とうや」

 そう言って、再度上空へ視線を向ける全員。

 だが、全員の視線の先に広がる視界は次の瞬間には真っ黒に染まった。



「―――そんな信頼とかどうでもいいから」



 そんな言葉と共に。




◇ ◇ ◇




「さて……と」

 まずは邪魔者を排除した。転生者達にはまだ少し俺の事を知られたくはないのでね。一応生活もあるし、はやての事もある。特にはやての事が大きい。俺がはやてに近しい人物と知られれば、それは最悪はやての周辺に不穏な物を呼び寄せる結果になるかもしれないし、あの不気味な本による足の麻痺の方もなんとか出来なくなる可能性が高いからな。

「…………まだしばらく掛かりそうだなぁ」

 上空を見上げれば、なのはとフェイトの奴が空を飛びながら戦いを繰り広げている。

「……で、お前はどうすんの?」

 俺は横を向いて、唯一俺の攻撃を躱した転生者の一人。火喰隼人にそう言った。まぁ、これは予想していた事だから関係無い。寧ろ、こいつには俺の正体をバラしといた方が良い。無駄に頭良さそうだし、変に嗅ぎ回られても面倒だ。なら、はっきり正体を言っておいて口止めしといたほうが良いだろう。

「やっぱり……アンタは転生者か…………珱嗄先生」

「ま、転生者っちゃあ転生者なんだろうな。お前らとは多分転生させてくれた神様が違うんだろうけど。だがまぁ俺はこの世界の原作を知らない。原作破壊とか、お前らがこぞって狙ってる主人公達ヒロインを狙ってる訳でもない。でも、俺は俺の生活を護る為か……俺のやりたい事をする。お前達は俺の生活を脅かすし、俺のやりたい事の延長線上にお前達がいた。つまり、俺がお前達に関わることは必至な事だったワケだ」

「……アンタのやりたい事ってのはなんだ」

「決まってる。面白い事がしたい。俺にとっての面白い事は俺が決めるし、お前らが与えられるようなモノでもない。ただ、俺は知らなくとも物語に関わりたいんだよ。その為だったら、俺はお前ら転生者を殺しても良いし、主人公達を殺しても良い。まぁしないけどさ」

 俺が転生者含む、ユーノや犬耳女を気絶させた方法は一つ。魔法なんか使わない簡単な方法だ。気功による神経への直接ダメージ。身体能力にモノを言わせて打撃の瞬間に内臓器官及び神経系に必要最低限の衝撃を通す。それだけで人体は多大な負荷を追って意識を手放すし、意識を取り戻してもしばらくは内臓器官へのダメージで動けない。手っ取り早いやり方だろう。
 まぁ火喰君はかの騎士王のチカラを持ってるみたいだし、予知とも言える直感で躱したのも頷ける。

「つまり、俺達の行動を邪魔するって訳だな?」

「平たく言えばそう言う事だな」

「そうか……大人しく行動する奴なら組んで上手くやろうかと思ってたが……止めだ。アンタは此処で殺す」

「そうかい……いいよ掛かって来い。幸いにも高町なのはとフェイト・テスタロッサはまだ戦闘中だし、あっちが終わる前にさくっと終わらせようか」

 そう言って、俺は火喰君を挑発する。すると、彼は何も無い空間を掴み、風を纏った黄金の剣を取りだした。そしてすぐにその剣の姿を隠していた風の結界を開放して黄金の剣の姿を露わにする。

「いいのか? 簡単にその剣見せて」

「いいさ。どうせ、アンタもこの剣の事はアニメで見てただろ。なら、隠してても無駄だ」

「なるほど」

「じゃ…………行くぜっ!!」

 そう言って、火喰君は飛び出し、俺に向かって駆けだす。その黄金の剣を腰に持っていき、体勢を低くして小学生とは思えない速さで飛び込んできた。
 騎士王の経験と剣、そして身体能力を強化する魔法を使って再現したかの騎士王の動き。その一挙手一投足は、まさに戦いを勝ち抜いてきた騎士の王そのもの、並の相手では相手にもならないだろう。

 だが

 それでも俺には届かない。

「残念。お前じゃ俺に届かない」

 俺はそう言って、飛び込んできた彼の持つ剣の剣先を気功を纏わせた手刀を使って流す。そしてそのまま彼の胴体に掌底を当てた。その際にしっかり内臓器官に衝撃を通すのを忘れない。

「がふっ…………!!?」

「お前の動きとスピードは確かにあの騎士王そのものなんだろう……でも、お前の未成熟な四肢の長さで再現できる動きには限界がある。つまり、お前の中にある騎士王の経験とその手の剣を扱うだけの身体がまだ出来てないのに、身体強化したぐらいで動けるワケないだろう。アホか」

「ち……くしょう……」

 簡単に崩れ落ちる火喰君。だが、何時までも構ってられない。何故なら―――



「スターライト――――ブレイカぁあああああああ!!!!」



 桃色の巨大な閃光が背後で輝きを放ちながら轟音を響かせていたからだ。



-12-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st<初回限定版> [Blu-ray]
新品 \6600
中古 \3500
(参考価格:\8800)