さて、転生した俺こと泉ヶ仙珱嗄な訳ですが、ここがどこか分かりません。ええ、さっぱりだよ。まぁ、転生先はランダムな訳だし、転生早々どんな世界か分かる訳は無いのだけど。
とりあえずは状況確認をしよう。ますは持ち物で、服やそこら辺をがさごそと漁る。出て来たのは、発行した覚えの無い通帳に、見覚えの無い財布。中には免許証や保険証、大量の万札と生活するには困らない程度の日用品があった。
次に身体だが、肉体年齢は18から20程度だ。前世のハンターハンターの世界での最終的な肉体年齢になっているようだ。身体能力も変わりない。容姿は同様に和服。ハンターハンターの世界で来ていた服だ。黒いインナーに袴を履き、上から着物を羽織って腰を布で締めている。
次に風景だが、町並みには結構平均的な物だ。一般的な街並みが広がっている。転生を行なう前の人生で見て来た街並みと良く似ている。
「…とりあえず、ふらふらしてみようか」
そう呟いて空を見上げる。空は既に日が沈んでおり、あと2時間もすれば完全に暗くなるだろうという程になっていた。
とりあえず、住居は無い訳だし、この街について知る所から始めよう。そう思い、俺は街並みを見ながら歩き始めた。
◇ ◇ ◇
それから2時間が経った。とりあえず街の名前は分かった。"海鳴市"というのがこの街の名前だった。ソースは図書館の名前から。歩いていたら図書館に辿り着いて、名前が『"海鳴市立"○○図書館』というもの。分かるだろうか?海鳴市と入っている。この時点でこの街は海鳴市だ。
現在は空も暗くなっており、若干の暑さを感じ始めている。体感温度からして今の季節は夏頃だろう。
そして俺が今いるのは公園。名前は"海鳴臨海公園"だ。さすがにこの時間帯だ。子供は一人もいない。まぁ、17時には帰りましょうよいうフレーズがこの街にも出回っているのだろう。…と思っていたのだが…
いた。子供が一人だけ。顔は俯いていて見えないが、栗色の髪をサイドテールに結んでいる少女がベンチに座っている。横にある街灯が彼女をスポットライトの様に照らしだしていた。周りが位のも相まって軽いホラーと化している。怖いよー、あの子怖いよー?子供が見たら泣くんじゃない?あ、あの子も子供だ。
だが、そこへ近づく少年の人影。見れば、銀髪にオッドアイというキマっている容姿をしていた。だが、イケメンの癖に身体が子供だ。傍目から見たら4頭身の大人だ。気持ち悪いな生物的に。
だが、少女も少年も単体ならそれほどダメージも無いが、少年は少女の下へ歩み寄って話し掛けている。二つが合わさるとホラーどころじゃないな。貞子も真っ青な光景だ。
「―――!」
「…―――?」
なにやら陽気に話し掛ける銀髪4頭身だが、ホラー少女は無気力に受け答えしている。完全に相手にされてないなあの銀髪4頭身。哀れな…。
「とりあえず、あの二人に話を聞いてみますか」
街の情報とか聞ければなおいいだろう。あの二人以外今は情報源が無いしね。
「という訳で、なにしてんの?」
「うおわっ!?」
「…え?」
俺が急に出て行って話し掛けると、銀髪4頭身は大袈裟に驚き後ろへ一歩下がった。ホラー少女の方は誰?って感じに首を傾げている。
「だ、誰だよアンタ!」
「お前こそ誰だ銀髪4頭身」
「アンタから話し掛けて来たんだろ!?」
まぁそんな事はどうでもいいんだよ。今は少しでもこの街の情報が知りたいのだから。それに……子供がこんな時間に出歩くのは教育上良くない。親が心配しているだろう。
そんなわけで俺は二人を担ぎあげ、公園を出た。
「は、放せ!」
「……ふぇ?」
「まぁ、とりあえずは名前を教えてもらおうか」
◇ ◇ ◇
「さて…」
とりあえず、あの後は銀髪4頭身…ああ、名前を教えてもらったんだっけ?彼の名前は"神崎 零"。零と書いてれいと読むらしい。厨二感がヤバいな。あの容姿と相まってかなりピッタリな名前じゃないか。
まぁ、かなり突っかかって来たのがうざかったが、家に送り届けてやった。ガキの癖に高級マンションに住んでいたのが腹立ったので足を持ってぶら下げた状態で管理人に引き渡してやった。
で、今はホラー少女、高町なのはを家へと送り届けている所だ。疲れたのか背中で寝ているが、まぁ神崎君よりは可愛らしものだ。
少しだけこの子の事情を聞いたのだが、どうやら父親が入院しているらしく、そのせいで父親中心で回っていた喫茶店の経営が滞ったらしい。それで、母親と兄と姉がバイトやお見舞いで忙しくなりなのははいつも家に一人だったようだ。まぁ構う奴がいないが、忙しいのは分かっていたようでなのはも良い子にしていようとしていたのだと。
だが、余りにも自分に無関心だったので、自分はいらない子だったのではないかと考える様になったらしい。その結果がベンチでホラー少女化だ。
というかこの世界の子供ヘビーな家庭環境持ってんな。トラウマ量産してるだろこの世界。絶対そうだよ。不幸な奴は物凄い不幸な目にあってるよ。怖いねぇ〜…
「とはいえ…家を知らないのに寝られちゃった訳だ。どうしようか?」
とりあえずそこらをふらふらと歩いているのだが、高町という表札は見えてこない。さきほど翠屋という喫茶店を見かけたが、もしかしなくてもあれがなのはの言う家族の働いている喫茶店なのだろう。閉店だったけど。
まぁ、この近くに家がある事は確定だ。喫茶店…というより自分たちの店を家の遠くに置いておくわけがない。非効率的だもの。
「えーと…高町高町…たかま―――っと?」
殺気を感じたのでしゃがむ。すると、背後から横薙ぎに木刀が頭のあった場所を通り過ぎた。後ろを何とも無しに見てみると、そこには殺気だった顔をした青年の姿が。その後ろには真剣な顔をした女性の姿。二人とも何処となくなのはに似ている。親類だろうか?
まぁ、転生したばかりで襲撃される理由は無いので、大方なのはが理由だろうなぁ…誘拐とか思われてたらどうしようかな。めんどうだなぁ…現実って。
「…貴様、なのはをどうするつもりだ?」
小太刀の木刀を二刀流で構えた青年はそう言った。まぁ、その言葉からなのは絡みかと確信した。ま、いいや。なのはが起きれば何とかなるだろうし。
「とりあえず、説明するからその木刀を引いてくれね?」
「………いいだろう」
青年は警戒を解かずに木刀を一度下げた。うむ、なるほど…話は通じる相手の様だ。とりあえずさっさと話をさせてもらおう。
「さて、簡潔に話させてもらおうか。ああ、簡潔と言っても簡単すぎるほどの簡潔な話だ。まず、俺がなぜこの後ろに背負っている高町なのはに出会ったかという所から始めるのだが、俺はこの高町になのはが海鳴臨海公園でホラー少女と化しているのを発見したのだ。最初は何故こんな時間にこんな年端もいかない少女が顔を俯かせながらに佇んでいるのか不思議でならなかった。だが、そこへ近づいていく一人の銀髪4頭身!その異色な瞳にいやらしい下心を浮かべ、俯く高町なのはへと近寄った!しかし、ホラー少女と化した高町なのははその銀髪4頭身の言葉をなんなくスルーしてしまう!それを見ていた俺はこんな時間に子供が二人も公園で屯しているのは教育上良くないと思った。傍目から見れば貞子も真っ青になって逃げ出す様な光景を醸し出す二人の少女達に近寄るのは流石に躊躇われたが、なけなしの勇気を振り絞って俺は少女達に歩み寄り、こう言った!「何をしているのか?」と!二人は驚くが、銀髪4頭身は何かを邪魔された様に不機嫌な瞳で敵意を放ち、ホラー少女高町なのはは不思議そうに首を傾げるばかり!だがしかし、俺はめげなかった!二人を有無を言わさずに抱え上げ、まずは銀髪4頭身を家へと送る。途中ずっと突っかかってきていた彼に負けず、強い心を胸にマンションの管理人へと引き渡す!そして次なるターゲットは高町家、ホラー少女の雰囲気を幾らか薄めた高町なのはに何故ベンチで俯いていたのか理由を聞きながら、彼女を家へと送るべく歩を進める。途中、当の本人である高町なのはが眠ってしまう等の弊害があったりもしたが、俺は順調に高町家へと向かっていた。だがそこへあらたな弊害が姿を現す!そう、背後からの木刀攻撃!俺はそれをなんなく躱し、襲い掛かって来た襲撃者を振り返る。そこには木刀を二本携えた青年と、真剣な面持ちをしている女性!さて、俺はこれからどうなってしまうのか!無事に高町家へと辿り着けるのか!……というのが今の俺の状況」
「どこが簡潔なんだ!」
俺の簡単な説明に青年はお怒りのようだ。だが、今の状況は鮮明に伝わった様で、警戒心は既に薄れていた。
「はぁ…まぁいい…アンタはなのはを家へ送り届けようとしてくれていたのか。それはすまなかったな…その子は家の子なんだ。引き取るよ」
「あ、そう?やっぱり?んじゃ、はい…寝てるから静かにね」
「ああ、ありがとう…でもなのははなんでこんな時間まで…」
ああ、なるほど。これはなのはもあんな結論に至るわな。こんな馬鹿な兄貴が相手じゃそう思うわ。自分の妹一人見てられない兄貴か。大した兄貴だなぁオイ。
まぁ、それは一家族の問題だし俺は口を出さないけど。とりあえず目的を果たすとしよう。ここでの目的は住居の確保と情報の収集だ。どんな世界でどんな物があるのか知る必要がある。
「ああ、そうだ。とりあえずアンタらに頼みがある」
「なんだ?なのはの事もある。何でも言ってくれ」
「あ、そう?んじゃあ…俺を高町家に泊めてくれない?」
俺は悪びれも無く笑みを浮かべそう言った。