小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 翌日の朝

 俺は高町家の父親である高町士郎のお部屋で目を覚ました。うん、すっきり!すばらしい朝だわ!うふふ、小鳥さんが鳴いてる。なんて清々しいのかしら!
 なんて少女漫画でありがちな朝を演出してみた訳だけど、これは美少女のお嬢サマがやるからこそ映える訳で、微妙なイケメンこと俺、珱嗄がやっても意味は無いんだよね。まったく、前世じゃ10人に5,6人は振り向くイケメンと呼ばれたんだけどなぁ。まぁ、振り向く奴がいるだけ幸福か?
 まぁ、とはいえさっきの気持ち悪いスタートの通り、高町家に一晩厄介になったワケ。まぁ、厄介になった所でどうしろってわけでもないけれど、折角泊めてもらったんだし感謝感激雨嵐〜見たいな感覚でお礼を言っておくべきだろう。アレ?雨霰だったっけ?まぁ、いいや。とにかく高町家の皆サマに挨拶しに行こうかな。

 で、二階建ての高町家の一階に下りて来た訳ですが…誰もいないね、うん。何故なら…現在時刻午前4時43分。まだ皆が起きてくるには早すぎる時間だ。小鳥が鳴く所じゃないわなぁ。
 とはいえ、一晩お世話になった訳だし?なのは曰く皆さん忙しそうだし?朝ごはんくらいは作っておいてあげよう。食材はあるし、人数分作れば文句ないだろう。『全ての人間が習得し得る全技術』を持っている私の全力全開の料理を見せてあげよう。
 俺は不敵に笑って調理を始めたのだった。



◇ ◇ ◇



「うう…ん……ふわ…ぁ…ふぅ」

 高町桃子。高町家の母親にして入院中の士郎の妻である。現在は入院中の父親の代わりに生活を切り盛りしている当人だ。
 現在時刻5時40分、桃子の士郎が入院してからの起床時間である。朝早くから朝食を拵えて、その後朝食も程々に喫茶店の仕込みを開始する。仕込みが終わった後は開店時間までに家事を終えて、開店時間がきたら喫茶店で働く。閉店時間は18時30分、昼の休憩時間はあるが、それも昼食を作る事に費やされている。実質、休憩はほぼ無い。長男の恭也や長女の美由希も店を手伝ったり、好きな事を我慢してバイトに大事な学校生活の放課後を費やして家計に協力してくれているが、それでもギリギリだ。そして、閉店した後は家に戻り、夕食の準備と洗濯、風呂焚き、掃除等をする。最終的に就寝するのは25時頃となる。つまり、午前1時だ。
 そんな中、午前5時40分起床なんて毎朝行なっているのだ、睡眠時間は4時間に満たない。何時か身体を壊してもおかしくない生活だ。

「うん、今日も頑張らないと……」

 そう呟いて、エプロンを装着してキッチンへと向かう桃子。だが、そこには既に人影があった。恭也か美由希のどちらかが気を遣って朝食の準備をしてくれていたのかと思ったが、そこいたのは普段見慣れない背丈に見慣れない服装をしていた。
 青黒い癖のある髪に、高身長で和服を着ている背中。キッチンからはその姿と共にいい匂いが漂ってくる。

「あ、あの…」

「んあ?ああ、おはようございました。朝食を勝手に作らせて頂きました。…う〜ん、この挨拶はちょっと微妙だな…」

 そこにいたのは、昨晩高町なのはを送り届けた礼に高町家に泊めた男。泉ヶ仙珱嗄がいた。



◇ ◇ ◇



 さて、朝食を作り終えた時、高町桃子がやってきた。恐らくは朝食を作るために起きて来たんだろう。だが、残念。朝食は既に作っちゃった。

「さて…高町桃子さん」

「え?」

「アンタはもう少し寝てな」

 俺はそういって、漫画で良くある様に首をトンと叩いて桃子さんを気絶させた。まぁ、実際にはこんなことをして気絶する訳は無いのだが、的確なツボを一定以上の力で叩くと気絶させる事が出来る。それに、この女性にはかなりの疲労が溜まっていたので、それも関与しているだろう。
 とりあえず椅子に座らせてテーブルに突っ伏す形で放置。とりあえず寝かせておく。さて、喫茶店の支度を開始しようか。

「まずはお菓子やケーキの材料の点検、機材の点検、あとは店の掃除くらいか…じゃ、ちょっくら出掛けてくるとしよう。喫茶店は店の近くにある訳だし、往復1分位だしね」

 俺はそう言うと、火を止めて書き置きを残した後、喫茶店へと向かった。まぁ、500m位の距離があったが、それくらいなら一回の跳躍で簡単に届く。

「さて…と、朝の運動にはならないけど…ちょっと跳ぶか」

 玄関から外へ出ると、喫茶店の方向へと跳躍した。
 着地した時はすでに喫茶店の前。まずは掃除から始めるとしよう。

「ふんふふんふ、ふ〜ん…」









「…さて、これで完了っと」

 掃除、各種点検終了。時間があったからついでにケーキまで作っちゃったぜ。コーヒーまで作っちゃったけど、まぁ紙コップ一杯分だからいいよね。
 そう思い、紙コップにコーヒーを入れて機材を洗い、高町家へと戻って行った。



◇ ◇ ◇



「ただいま〜っと…」

 時刻は既に6時45分。そろそろ皆起きて来てもおかしくは無い時間だ。その証拠に、リビングからは声が聞こえた。
 どうやらなのははまだ寝ているようだが、他は既に起床済みらしい。

「…ちわ〜。朝食の味はどうよ?」

「…ああ、美味かったよ」

「うん、おいしかったよ」

 さて、未だに桃子は寝ているようだ。まぁ、ちょっと今日一日寝かせる位の力でやっちゃったしなぁ…まぁいいか。とりあえず、勝手に家業をやっちゃった訳だし、報告くらいはしておこう。んで、朝食にありつく。

「とりあえず、喫茶店…ああ、翠屋の開店準備をして来たから。もう今すぐにでも回転できるからね。いただきまふ」

 う〜む…ちょっと味が薄かったか?まぁ、いいか。完璧主義を目指している訳じゃないし、大雑把な位が丁度いい。とはいえ、今日はどうしようかな。月日位は分かるし、今日は月曜日だから長男長女は学校に行くだろう。母親は店で働くだろうし、なるほどこれがなのはが一人になるって状況ですか。
 全く持って嘆かわしいね。子供を一人にして放置か…父親ってのはやっぱ大事なんだな〜。まぁ、そこらへんはきっと大丈夫だろ。この世界の主人公というのが誰なのかは知らないけど、それっぽいのはいたし。多分あの銀髪4頭身が主人公格だと思う。なんか容姿的にそんな感じがするもん。オッドアイなんて早々ないだろうしね。それがなのはに関わって来たんだ、きっとなのはも主要人物のどれかなんだよ。ヒロインかな?3歳のヒロインってのも何だと思うけどさ。

「そ、そうか…ありがとう」

「すごいねぇ〜」

 なんだか恭也と美由希の反応が少し戸惑いがちだが、まぁいいか。もう7時になるし、そろそろ送り出した方がいいだろう。

「ほら、もうすぐ学校だろ?ほら、お弁当も作ってやったからさっさと登校しなさい」

「おわっ!とと…ははは、ありがとう。行ってきます」

「行ってきます!」

 お弁当を渡してそう言ったら、少し考えた後恭也は笑って家を出て行った。そして、それを追う様に美由希も学校へと家を発ったのだった。

「さて…むぐむぐ…う〜ん…どうしようかな」

 実は俺は一晩泊めてもらっただけで、ここに住んでいる訳ではない。つまり住処が無いのは変わらないのだ。それは今も問題だ。結局、まずやることは住処と飯の確保だな。

「ま、それはどうとでもなるか」

 いざとなったらそこらの山にでも籠ってサバイバル生活でも送ろう。どうとでもなるだろうし、技術的には問題ない訳だからね。
 そう考え、朝食を食べ終わる。横でぐーすか寝ている桃子さんを起こすとしよう。

「ももこさーん?あーさでーすよー?」

「はっ……っ!時間!」

「大丈夫、今の時間は7時ジャスト。開店時間は7時30分だろ?まだ間に合うよ」

「え?いやでもまだ支度も…」

「全部俺が終わらせといた。店も掃除と機材、食材の点検をしておいたから今からでも開店できるよ?」

 これくらいやっとけば一宿一飯の恩って奴も返せるだろう。なにやら忙しいらしいしさ。あとは…まぁ、なのはの相手位なら今日一日勤めてもいいな。

「じゃ、なのはの事は俺に任せて…店に行っておいで。お弁当も作っておいたからさ。ああ、昼食は俺が作ってなのはに食べさせておくから、休憩時間とかはゆっくりしておきなよ」

 俺はそう言ってお弁当…まぁ、中身はサンドイッチだが簡単に食べられるから良いだろう。
 桃子はそれを見て、恭也同様に笑顔を浮かべて受け取り、礼を行って店へと出て行った。


「……さてっと…なのはが起きるまでゆっくりさせてもらうとしますかねぇ…」

 
 俺はそう言って店から持ってきたコーヒーをぐいっと飲んだのだった。



◇ ◇ ◇



 それから数時間。おおよそお昼頃になってなのはが起きて来た。朝は弱いのだろう、結構寝癖も酷く、服は着替えているがその顔はぼーっとしていた。声を掛けようとするが、少し躊躇われる佇まいだ。
 というか、リビングで一人寛いでいた俺の目の前にリビングの戸を空けて現れたねぼすけなのはがいる訳で、こんな状況で二人きりの沈黙はかなり気まずすぎる。なんて声を掛ければいいんだよ。放置しとけばいいのか?
 でもなぁ、桃子さんになのはは俺に任せて、みたいな事を言ったからなぁ…少しなんとかしてみますか…。

「おはよー」

「…ん…おはよー…なの…ふあ…」

 欠伸をしながらも挨拶を返してくれた。なんとかコミュニケーションは取れるようだ。とりあえず、昼食は作ってあるし、3歳児も食える軽い物だから大丈夫だろう。ま、その前に顔を洗って来てもらおう。

「なのは、顔を洗ってきな」

「分かったの……」

 そう返したなのははふらふらと覚束ない足取りで洗面台へと向かっていった。それを見ていて、ちょっと大丈夫かと思ったが、まぁ…なんとかなるだろう。
 一人で遊ぶのが寂しいみたいな事を言っていたし、今日は公園で一緒に遊ぶとしよう。昨日も公園にいた訳だし。鍵は…まぁピッキングで閉じよう。開けられるなら閉める事も出来るのだ。

「ズズッ…はぁ」

 これで一体何杯目のコーヒーになるのだろう。まさかなのはがお昼まで起きてこないとは思わなかったからなぁ…まぁそれならそれでいいのだけど。子供は寝て、遊ぶのが仕事だ。

「洗って来たの」

「ああ、じゃあご飯を食べようか。お腹すいてるか?」

「うん!」

 どうやら目は覚めたようだ。元気な顔でテーブルに着き、俺の出したそうめんを笑顔で食べ始めた。わざわざ手を合わせていただきますと言ったが、恐らくちゃんと教育が行きとどいているのだろう。今はどうか知らないけど。
 そして、俺も一緒にそうめんを頬張るが、中々美味い。俺の料理技術もそれなりに高質な物じゃないか。

「おいしいのー」

「そりゃよかった」

「?でもなんでお兄ちゃんここにいるの?」

 それ疑問に持つの遅いなオイ。まぁ、昨日はこいつ結局終始寝てたし仕方ないか。というか俺あの時こいつ背負ってた訳だけど、そんな中良く背後から木刀振って来たよな、あの長男。妹諸共ブチ殺すつもりだったのかな?大した兄貴だ、本当。

「まぁ、昨日一晩泊めてもらったんだよ。で、今日はなのはと一緒に遊ぼうと思って」

「ホント?なのはと遊んでくれるの?」

 不安げな顔を見ると、意地悪してみたくなるけれど、3歳児相手に何してんだと思われるのも不愉快なので止めておく。まぁ、ここは大人らしい対応をしておくのが良いだろう。

「ああ、今日は一日お前と一緒に遊んでやるよ」

「あはっ!やったぁ!」

 笑顔を一層輝かせてそうめんを啜るなのは。その表情には本気の喜びが浮かんでいた。俺の技術の一つ、読心術を使って見ても表面的な感じは見えない。
 あ、読心術とは言ってもそこまで使ってないから大したものじゃない。精々感情を読み取る程度だ。精進すればそこそこ考えている事も読めてくるのだろうが、今はその程度と言う事だ。

「むふふ〜…むぐむぐ」

「…何というかなぁ」

 聞こえない様にそう呟いたが、その実元気いっぱいにそうめんを頬張るその姿は、若干の微笑ましさを感じさせるのだった。

-3-
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