「で、なんだお前らは」
「くっ……放せ! 主! 早く逃げてください!」
「お黙り」
「あうっ……」
さて、前回家族が増えてたと言ったけども、現在の俺の中では家族どころか侵入者もといストーカーの疑いのある子達な訳で、とりあえず俺は現れた四人のうちの大将っぽいピンク髪をポニーテールにした女性をふんじばってその上に座っている。関節を極められたらまぁ動けないよね。
で、その状態で他のロリ、金髪女、ケモノを地に伏せさせた後、話してる。とはいってもこいつらあたかも俺が侵入者と言わんばかりに突っかかってくるから面倒だ。折角のはやての誕生日が台無しだろうが。
「で、もう一度聞く。お前らは誰だ?」
ま、十中八九あの魔導書……正式名称【夜天の書】の力で出て来た守護騎士か、それに準ずる何かだろうけどさ。一応、あの魔導所には一度解析魔法やら何やら色々と掛けたからね。それくらいの事は簡単に分かった。でも時期は不確かだったからなぁ……まさか今日とは…。
「……我らは闇の書より生まれし主の騎士。主の剣となり盾となり、何が何でも護り抜く誇り高きベルカの騎士だ」
「ザフィーラ!?」
「落ち付けシグナム。こいつの実力は正直言って我々四人を束ねても勝てない程の物だ。ならば、主の為に出来る事はここで喚く事ではなく、どう切り抜けるか考える事だ」
どうやらケモノは比較的冷静な思考をしているようだ。俺に突っかかってくる時も無駄な特攻はしなかったし、そんなにダメージも無かったのだろう。他の二人とは違って、彼はもう立ちあがっている。
「なるほど、つまりはあの魔導書の守護騎士プログラムって訳か。はやてが受け入れてる所を見た所、そこまで危険な奴らじゃないようだが……」
そう言うと、後ろに避難させられてあわあわしているはやてがコクコクと頷く。そういえば、守護騎士プログラムが発生した時、アリシアは魔力感知で気付かなかったのか?
「お兄さん、大丈夫?」
「おーアリシア、どうした?」
「なんか昨日の夜に嫌な感じが膨れ上がって家の中に出て来たから……部屋に閉じ籠ってたんだけど、お兄さんが動いたから……」
出て来た、と。まぁ、アリシアの魔力感知能力があれば俺らの動きや位置を正確に把握する位は簡単か。凄いな、俺でも魔力感知だけでそこまでは出来ないぞ。まぁ、気配察知やその他諸々のスキルを使えばまだまだ負けないけどねっ! ……負け惜しみだよコンチクショー。
「そうか、大丈夫。ほら、こっちおいで」
「うん」
「お前の感じた嫌なのはこいつらだ。まぁはやてのヒーローさん達だ。ちょっと嫌な感じするけどその辺は堪忍してくれ」
「わ、分かった」
さて、はやてにはいろいろと説明をしてもらおうと思ったけど……ま、無理だよね。魔法に関して何も知らない訳だし、説明するにもいきなり現れたとしか言いようがないだろう。となると、こいつらから色々聞くべきか……。
「じゃあ、まぁ少し話があるんだけど。いいよね、守護騎士サマ?」
「……」
シグナムと呼ばれた彼女ははやてを見る。するとその視線に気づいたはやてはコクリと頷いた。
「良いだろう」
◇ ◇ ◇
「―――という訳だ」
現在、かなり珍妙な話を聞き終わった所だ。正直、ここまで事態が進行しているとは思わなかったよ。まさか夜天の書が過去の改竄で闇の書に変化した結果、はやての身体を侵食していたとは……随分はた迷惑な話だよねぇ……。
「なるほど、馬鹿ばかりか」
「なにっ!?」
「まず第一に、守護騎士と名乗るからにはそれなりの実力を持って然るべきだ。それは空気を読む事、敵の把握も含まれるだろう。なのに、お前らは出会った奴に魔力があれば敵と決めて襲い掛かる。これは致命的なバグだ。
第二に、お前らの記憶に大きな欠落が見られる。俺の魔法知識とお前らの話を照合してみた所、お前らにはその魔導書の正式名称が分かっていないし、過去の記憶も消えているとみた。まぁ、それは後々俺が直してやろう。
で、最後にお前達の魔力構成と魔導書自身に溜まったエラーの数々。お前らを構成する魔力はとてもじゃないが不安定で、もって十年かそこらだ。それ以降は崩壊を始めるだろう。さらに、魔導書の中に人間で言う毒が溜まっている。どんどんダメージが溜まって最終的には今暴走するよりもっと大きな被害をもたらす。具体的に言えば……うん、次元世界の二、三個吹き飛ぶ」
そう、それが今の状態。縄どころじゃない、細い糸の上で綱渡りするような不安定な状況。そして暴走までの第一歩としてはやての身体の浸食、そして今第二歩として守護騎士が生まれた。となれば後は二段階。魔力蒐集
による封印の解除、その後に続く管理プログラムの顕現、そしてその後……闇の力の暴走が始まる。
予想するなら、このまま邪魔もなく進めばはやてはまず死に、闇の書は守護騎士を蒐集した後破壊を行なう者としてまたもバグを秘めた管理プログラムを生み出す。その後は簡単だ。破壊を繰り返すだけ。蒐集した魔力と魔法を惜しげなくフル稼働させて、次元世界の一つや二つ簡単に壊していくだろう。そのチートさ加減と言ったら転生者を歯牙にもかけない程。こうなったら転生者だけは蒐集させちゃいけない。
その話を聞いた他の反応は戦々恐々といった感じ。自分達の危険さを思い知った守護騎士とはやての悲しそうな顔、アリシアはもはや何が何だか分からないといった風だ。いや多分、なにも理解出来てないな。
「まぁ、そうならない為に俺がいる」
「! 何とか出来るのか!?」
「出来る。その為の手段を俺は全部で528通り持っている」
そう、それが俺の他の転生者とは違うチート。他の転生者の誰かが鍛えた高質な少ない手数では無い。俺が使うのは、この世界の全ての技術。全ての魔法。俺の単体に宿った極僅かな魔力と、それを扱う俺の世界最高の技術。今回は俺の身体能力の出番は殆ど無い。ハンターハンターで鍛えたと言っても、あまり役に立たないのだ。
「期限は恐らく今年の冬中盤。それまでに俺はその為の準備をしよう。で、それをする為に俺じゃ手に入らない
物がたった一つだけ……ある」
「……そ、それはなんだ」
「それは、"魔力"。俺個人の魔力じゃ足りないんだ。だから、この闇の書の蒐集能力を利用させてもらう。守護騎士勢、お前らは冬までに魔力を蒐集して来い。そうだな……必要量はページ数にして600ページ近く。それ以降は集めなくて良いからやってくれ」
「分かった。主を助ける為ならこの力、この剣、存分に使ってくれ」
どうやら協力してくれるようだ。まぁ、はやては不本意っぽいけどまぁ人から魔力を取らない様に言えば良いだろう。
「お兄さん。私は何をすればいいの?」
「んー……アリシアはとりあえず闇の書に恨みを持った奴らとか管理局の悪い人達が襲い掛かってくるかもしれないから……魔法と近接格闘の特訓をしようか」
「はーい!」
「兄ちゃん……うちは?」
「ん、はやては俺らを料理で支えてくれ。上手い料理はそのまま大きな支えになる」
これは嘘じゃない。上手い料理はそのまま帰ってくる奴らの心の支えになるし、守護騎士達ことはやて親衛隊ならなおさらだろう。
「……分かった! それじゃあうちは美味しい料理作って待っとるからな!」
「聞いたかお前ら。はやてが超上手い料理を作って毎日待っててくれるから、門限決めるぞ。うちの晩御飯は毎晩19時だ。だから19時には必ずこの家に帰って来い。分かったか?」
「無論だ!」
「必ず」
「絶対帰ってくるぜ」
「約束です」
さて……それじゃはやてを救おう。人ではなく、何より………俺達の手で