小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 高町なのはをヴォルケンリッターが襲撃してから、俺とアリシアは俺持ち前の魔法を使って次元世界を転々とし、様々な魔獣から魔力を集めていた。やはり、半年前から蒐集を始めていた事もあって、ページ数は現時点で587ページ。残りは13ページという所まで迫っていた。
 ただ少し懸念があるとすれば、管理局の奴ら。結界のおかげではやての家はばれてない様だが、やはり奴らの動きは早かった。次元艦アースラの局員数名となのは襲撃の際に援軍としてやってきたフェイト・テスタロッサに、転生者によってその罪を揉み消されたプレシア・テスタロッサが、この世界に移住したのだ。とはいっても、早々に仕掛けた盗聴機によれば臨時拠点としてやって来たらしい。
 この分だと、闇の書の主がこの世界に居る事は既にばれているだろう。というか、転生者達が向こう側に居る時点で情報戦は無意味だ。敗北が決定しているのだから。

 唯一、彼らを出し抜ける部分があるとすれば、原作では死んでいたというアリシアと同じ転生者である俺が闇の書陣営に居る事。

 だが、いくら魔改造されたアリシアと俺がいたとしても、転生者を三人同時に相手にするのは火力の差が激しい。負けはないだろうが、俺もアリシアも三人同時で来られたらそこそこ苦戦するだろう。とすると、アリシアと俺がいるという秘密は、あまり役に立たない。

「どうしたものかなぁ」

「なにが?」

 隣で俺と同じ様に飛行するアリシア。魔力ランクSを持ってるだけあって、飛行魔法なんて直ぐに覚えた。元々、精神的には死んでいた当時からちょっと成長した位の物だ。精々小学1年から2年生程度の物なので、子供特有の卓越した吸収力は、教えた事をそのまま実現してみせた。

「いや、管理局がどう動くかなぁと」

「そうだねぇ……お兄ちゃんと私が動いても、いつかバレちゃう事なんだし、そう考え過ぎない方がいいんじゃないかな?」

 何だコイツ、子供の癖してちゃんとした意見を言えるだと……!? やっぱりこの世界の子供は何処か成熟するのが早いな。精神的に。
 とはいえ、確かにそうだ。結局の所、転生者が居る時点でこちらに不利なのだから先行は向こうに持ってかれる。なら、考えるのはやめにして後の先を取ろう。それが出来るだけの戦力が俺達には揃ってる。

 俺や魔改造されたアリシアだけでも一つの軍隊位軽く捻り潰せる戦力なのだから、慌てる様な事態じゃない。

「じゃあそろそろ帰ろっか! はやてがご飯を作って待ってるよっ」

「ああ、そうだな。んじゃあ帰りますかぁ」

 そう言って俺とアリシアは手を繋ぎ、転移魔法を発動させる。まぁ繋がなくてもいいのだが、魔力消費は少ない方が良いし、痕跡も少ない魔力ならすぐに消えてくれるから出来るだけ密着した方が燃費が良いのだ。

「『転移』」

 一つ、呪文を紡いで俺とアリシアははやて達の待つ家へと転移した。



 ◇ ◇ ◇



 珱嗄達がそうやって着々と魔力を蒐集している中、管理局では転生者達と高町なのは達原作勢が協力して闇の書事件解決に当たっていた。
 先日起こった、高町なのは襲撃事件。この件で、闇の書の存在が公になったのだ。そして、そのせいで管理局が動く事になった。事件に当たるのは、高町なのはと関係を持っていたアースラのメンバーとジュエルシード事件もといPT事件の容疑者であったが、今では管理局の保護監査処分を受けて2年間の無償奉仕を義務付けられたプレシアとその娘フェイト。そして、民間協力者として被害者であり高い魔力素質をもった高町なのは達。

 珱嗄とアリシアの存在は公にはなっていないが、高町なのはと転生者達、珱嗄と会った事のあるテスタロッサ親子から、魔法が使えて地球在住の男として珱嗄の情報が渡され、アリシアの死体を回収した事も同様に伝えられていた。
 とどのつまり、珱嗄とアリシア(死体)が共に地球に居る事はアースラ陣営に全て伝わっている事になる。未だに闇の書と繋がっている事は明らかになっていないし、転生者達もまさか原作主要キャラである八神はやての自宅に住んでいる事なんて思いもしないだろう。

「さて、と。とりあえずフェイトさんとなのはさんのデバイスはまだ修復中だし、とりあえずは休息としましょうか」

 現在、管理局勢が居るのは臨時拠点として間借りした海鳴市の一部屋。フェイトが住んでいたマンションの一室だ。機材や必要書類は全て搬入を終えて、やる事はしばらくないので休息の時間となったのだ。

「なのは、どう思う?」

「あ、神崎君……えーと、なにが?」

「闇の書だよ。あの守護騎士達と戦って、どう思った?」

 神崎の問いに、高町なのはは少し引き気味に受け答えした。というのも、転生者陣営は神崎を筆頭に随分と主要キャラに嫌悪されている。高町なのはは、幼馴染である神崎零のしつこく言い寄って来て自分の自慢話をする所や、自分に近寄ってくる人を男子なら追い払い女子なら優しくするという自己中心的な態度に何度も腹を立てていた。それに、自分に近寄ってくる彼の雰囲気が何処か自分を見ていない様で、気持ちが悪かったのだ。

 それもそのはず、精神年齢はとっく成人を迎えている男がたった9歳の少女を恋愛対象として見ているのだ。常人なら気持ち悪いと評するに値する変態(ロリコン)だ。

「んと……まだ良く分からない、かな。急に襲われたし、お話も聞いてくれなかったから」

 ちなみに、高町なのはは未だに蒐集されていない。転生者の援軍のおかげでなんとか蒐集されるのは免れたのだ。とはいえ、まだ受けたダメージは抜けきっていないが。

「そうか」

 神崎零も、なにか思惑が有って聞いた訳じゃない。とりあえずなのはと会話する話題が欲しかったのだ。それに、襲われた後のなのはにこの質問を投げかける事で優しさを見せようと計算しているのだ。

「あ、じゃあ私フェイトちゃんの所に行ってくるね」

「ああ、久しぶりだし、後で俺も話をするよ」

 本来なら神崎も一緒に行きたかったのだが、フェイトとなのはの友情はアニメでも伝わって来ていたので、最低限の空気を読んだのだ。
 だが、なのはとしてはこの変に空気の読めた所に感謝していた。彼女からしたら、いち早く彼の元を離れたかったのだ。神崎はこれまでなのはを事あるごとに助けてくれたので、感謝はしているのだが、それ以上になのはは彼を気持ち悪いと感じていた。

「さて……どうするかな」

 神崎は、去りゆくなのはの背中を下卑た笑みを浮かべながら見送り、そう呟いたのだった。

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