小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 さて、ここで皆に問うてみたい。皆は『気功』という物を知っているだろうか?
 この気功というものは、本来全ての人間が平等に持って生まれるエネルギーの様な物だ。これの使い方はかなり多様性を持つ。時には身体能力を強化し、時には傷を癒す術となる。治癒に関しては、怪我をした他人を治療する事も出来るし、致命傷を怪我で済ませられる事も出来る程の治癒能力をもたらしてくれるのだ。
 そこで、この気功と言うのはどうやって使用するのか?それが気になる所だろう。無論、作者は使えないぜ?俺は使えるけれど。まぁ、それは良いとしよう。まず、気功というのは体内に存在する生命エネルギーと似て非なる物だ。所謂体力や精神力といったあやふやな物の方が近いと思う。皆体力ってどんなもの?って聞かれた時、答えられるだろうか?
 案外、運動するときのエネルギーとか身体を動かす為に必要な物、とか言うかもしれないが、かなり漠然とした物なのだ。体力とは、身近にありながら形に見えないかなり複雑な物なのだ。気功もそれと同じ。

 つまりは、普段使ってはいるが、認識できないあやふやな物が体力であり、精神力であり、気功なのだ。つまり、それを理解していれば鍛錬次第で意識的に使う事が出来る。まぁ、俺は神様補正で使えてしまう訳だが、本来はちゃんとした鍛錬を必要とする。

 とまぁ、ここまで色々語った訳だが、その理由は俺の世話になった"高町家の大黒柱である高町士郎が『大怪我』をして入院している。"という部分にある。
 話によれば、なのははかなり孤独な生活を送っているようだった。俺が思うに、子供とは家族に包まれながら温かい環境で幸せに育っていくべきだ。まぁ、スラム街やストリートチルドレンといった多くの不幸な子供達という例外中の例外という物もいる事にはいる。全ての子供達が幸せになれるとは俺も思っていない。
 だが、目の前で孤独に苦しんでいるのは―――まだ、救える子供だ。

 その救済方法とは、結局の所原因の復活。つまり、高町士郎の復活にある。彼が戻ってくれば、喫茶店の経営は安定、家族もそれなりにゆるやかな時間を送れるだろう。
 さて、ここで話は気功に戻ろうか。つまり、俺がやりたい事というのは『気功』という技術をフル稼働させて、『高町士郎の復活』を図る…ということだ。

 実に俺らしくないと自分でも思ったりはしているのだが、まぁまだ4話しか書かれていない俺の性格なんてモノを実際掴んでいる読者は早々いないと思う。まぁ、そこは気にしないから良いのだけど。

「さて…ここまで思考してみたが……とどのつまりただの御礼参りな訳だ」

 現在は、空の色もとっぷりと黒く染まって夜も更けて来た深夜3時。俺の居場所は高町士郎の病室内、高町士郎が眠っているベッドの目の前だ。
 その姿ははっきり言って痛々しいと思える程の重傷だろう。だろう、というのは俺がそれを重傷と思えず、なんの感傷も抱かないからだ。つまり、俺はきっと人が傷つくことに対して一切の疑問を抱かない様になってしまっているのだろう。何せハンターハンターの世界では多くの人が簡単に命を落とすような出来事が多いからな。死体にも見慣れてしまったという事だ。

「ま、さっさと用事を済ませてしまおう」

 その手をふいっと自分の顔の前に持ってくる。その手には習得した技術の一つである『気功』を纏わせる。口元を緩ませ、高町士郎の傷口…肩から腰までの裂傷と圧迫された内臓、複雑骨折した右腕を確認し、まずは右腕をその手で触れようとした所で、病室の扉が開いた。


「―――何してんだ?お前?」


 ふいっと振りかえる。そこには以前見た事があった容姿の少年がいた。さらりと揺れる銀色の髪、金と青に別れた少し吊り目がちな瞳、小柄ながらもその顔は美男子と呼ぶに値する端正な顔をしており、身体と顔の大きさが釣り合わない不自然さが一種の嫌悪感を誘っている。
 名前は…神崎 零。俺が第一印象に"銀髪4頭身"と名付けたあの少年だ。

「何してる……というのは?」

「しらばっくれんな。お前、その人に何をしようとしてたんだ?まさか…眠っているのを良い事にその人を…」

「はぁ、勘違いするなよ少年。俺は別にこの男に危害を加えようとした訳じゃない」

 そう言うと、彼はその瞳に敵意を隠す気も無く浮かべ、その手を何かを握る様に構えた。その瞬間、俺の所有スキルの内の一つ、『気配察知』『危機察知』の二つが警鐘を響かせた。
 彼の手の中に、何か謎の力が収束される。空間を捻子曲げ、概念すらも思いのままに掴んで見せるその手の内に、光が現れる。その光は、徐々に形を変えていき、ある一つの形を生み出す。両手に掴み取られた二つのそれは、ほんの1秒を満たない瞬間にある一つの物質と化す。
 その手に現れたのは白と黒を印象付ける威圧感を持った――――"夫婦剣"

「―――"千将・莫耶"」

 彼はそう言った。おそらくはあの夫婦剣の名称なのだろうが、その名前は聞いた事がある。とある歴史上でとある名工が鍛えた双剣だ。だが、アレはそんなものではない…威圧感が異常すぎる。

「…そいつでどうしようっていうのかな?」

「お前を…ぶっ飛ばす。抵抗するようなら―――殺す」

 彼はそう言って、その異色な瞳をすっと鋭く尖らせて殺意の籠った視線で俺を射抜いてきた。多分、こんな力を使えるという事は…この世界にある異能の力の一端か、はたまた俺と同じ…"転生者"か、だ。
 だが、その疑問はなんというか子供らしく彼の方から自白した。

「…お前は何者だ。原作じゃお前みたいなのは存在しない…お前も"転生者"か?」

 ここで確定した。彼はこの世界にやってきた転生者なのだ。多分、俺を転生させてくれた神様とは別の神様とのやり取りで転生したんだろう。中身はきっと中学生か…はたまたおっさんかな?
 まぁ、そう思っていると向こうから勝手にペラペラと話しだした。ついでだから出来る限り情報を絞り出してやろう。

「この"魔法少女リリカルなのは"の世界は俺が無双する。邪魔な奴は殺す。もう一度聞くぞ、お前は転生者か?」

 はい、オッケー。なんというかまぁ…世界の事まで分かるとは思わなかった。それに、リリカルなのはってことは、高町なのは及びその家族は超主要人物って事になるな。てか高町なのはは主人公じゃね?
 やべぇよ。それならこの父親入院ってイベントはかなり重要なファクターだったりする?彼女が孤独な生活を送るのは必須事項だったりする?それは少し不味いな。俺は原作を崩壊したい訳じゃなく、原作通りに進む日常の中に俺というピースを組み込んで楽しみたいだけなんだけどなぁ…

「…転生者ってのは良く分かんねぇし、魔法少女リリカルなのはというのも良く分からない。そもそも、魔法少女なんてのは存在しない筈だ。それに、その剣はどこから取り出した?お前と言う存在は不明慮な部分が多すぎる…」

 とりあえず、転生者っつーのは伏せといた。なにかとややこしい事になりそうだ。それに、この少年の様な転生者が俺の他にもいるという事は、まだ別の転生者が存在しているのかもしれない。
 更に言えば、あの剣については少し推測が立っている。というか、思い出した事がある…だな。確かあれはどっかのアニメで出て来た剣を作り出す能力…いや魔術か?まぁ、そんなのだった筈だ。この推測が当たっているとすれば、奴の神様から貰った特典は…"アンリミテッドブレードワークス"という物だ。実際はこれがルビとして和名の上に掛かるようだが、和名の方は知らない。まぁ、簡単に"剣製"とでも言っておこうか。剣を作るんだし。

「……ってことは…イレギュラーか…?ちっ…転生者がこんなに来ていればそれくらいありえるか……クソ神が…」

 なにやらブツブツと呟いているが、聞こえているぞ少年。だが、これで分かった。この世界は、『魔法少女リリカルなのはの世界であって、魔法少女リリカルなのはの世界では無い世界』だ。魔法少女リリカルなのは、というのがどんな世界かは知らないが、転生者という物がいる時点で原作とは大きくかけ離れている。
 正確に描写するのなら、『転生者が多く存在する魔法少女リリカルなのはの世界』と言ったところか。ならば、おそらく彼がここに来たのは…高町士郎を救いに来たんだろう。

 彼の言う、リリカルなのはでの無双…というのは考えられる例として『ハーレム・チート無双・世界征服・邪魔な奴の排除』と言ったところか。



「まぁ、そんなことどうでもいいんだけどさ」



「は?」

 俺はそう言って、思考を中断。手を覆っていた気功をそのまま高町士郎へとぶつけた。すると、その瞬間に高町士郎の身体がオレンジ色に発光する。その光量は思わず銀髪が夫婦剣で目を覆ってしまう程。
 俺はそんな中、不敵に歯を見せて笑う。その表情はきっと、下卑た笑みで、悪役にはピッタリすぎる程の物だっただろう。
 だが、そんな物とは裏腹に、高町士郎の傷や怪我は見る見るうちに消失していく。複雑骨折を起こしていた右腕は青痣等を消して、元の筋肉のついた右腕へ戻り、圧迫されていた内臓は全て元通り。肩から腰までの裂傷も、巻き戻しの様に治っていった。

 そしてしばらくしたあと、光は収まり、そこには完治した高町士郎がいた。

「な…てめ…ぇ…何しやがった…?」

「治したんだよ。それ以上の事は言えないね…まぁ、君の使う様な不可解な異能を持ち合わせている訳ではないけど、これ位なら俺だって出来る」

 そう言うと、俺は床を蹴って瞬時に病室の扉の目の前まで移動する。傍目から見れば一瞬の移動だっただろう。いや、一瞬でも多すぎるかもしれないが。

「なっ…!」

「それじゃ、また縁があった場合のみ出会おうか。またね」

 俺はそう言って病室から出て行き、高町家へと戻って行った。


◇ ◇ ◇


「…はぁ、まったく…シリアスってのは一番面倒なんだよなぁ」

 病院の外へと出た俺は、病室を見てそう漏らした。さっきまでの俺は寒気が出るほどシリアスだった。面倒臭い事この上ない。
 しかしまぁ、転生者が俺の他にいる世界ってのも珍しい…くはないか。俺が転生した世界は2つ目な訳だし。

「さて…高町なのはが主人公か……これは何が何でもあの家に拠点を置く必要が出来たかな」

 今日の昼間になのはと約束通りに遊んで、一応手紙を持たせて家に帰らせた訳だけど…正直今の俺は文有りの住処無しだ。

「なら、少しだけ面倒だけど…ちょっと引っ掻きまわしてみようか。住処を手に入れる為にさ」

 俺はにたりと笑って、そう言ったのだった。

-4-
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