小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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 それからという物、アリシアの回復はかなりの時間を要していた。あの4人目の転生者が襲撃を掛けて来てから3日という時間が経っているというのに、未だ完全回復には至っていなかった。現時点での回復率は87%、明日か明後日辺りには完全回復するだろう。
 また、アリシアのこの回復率なら俺から受けたダメージを消去魔法で消去していたあの4人目も同じくダメージを少しづつ回復している筈。だが、消去魔法は術者が自身にその魔法を行使した場合その効果を他の魔法で緩和することが出来る。それはつまり、術者であれば消去魔法で消したダメージを回復魔法で回復させることが出来るという事。最悪奴は完全に回復していると見ても良い。

 そんな中、俺と転生者3人及び高町なのは、フェイト・テスタロッサは学校へも行っていた。てっきり襲撃を掛けてくるだろうと予想していた管理局はこの3日間一切干渉して来なかった。気になり最近やって無かった盗聴を行なったら、下手に干渉してダメージを受ける事を恐れているらしい。
 何故なら、俺とアリシアに加えて守護騎士4人というアースラ部隊を相手取っても軽く捻り潰せるくらいの戦力を闇の書陣営は保持しているのだ。下手に手は出せないのだろう。

 はやての状態も日に日に悪くなっているし、守護騎士達も陰でこそこそと何かをし始めた。これは良くない兆候だ。嫌な予感がしまくっている。

「まずいな」

「何が?」

「アリシアか……いや、ちょっとややこしい事になって来てなぁ」

 このままだと俺とアリシアと守護騎士の二勢力に別れてしまうかもしれない。そしたら管理局、4人目、俺達、守護騎士の四巴になってしまいそうだ。そうなると、管理局が狙うのは潰せそうな守護騎士達。そして俺に一度敗北した4人目もそこに加われば、守護騎士の勝ち目はまずない。とすると、それをきっかけに管理局と4人目が協力して俺達を潰しに来る可能性もけして低くない。
 そうなった場合、俺とアリシアの二人ではやてを守りつつ管理局連合を倒すのは少し難しい。

「どうするかねぇ……」

「はやてを救う方法ってお兄ちゃんの中にはもう無いの?」

「え?」

「だって前に言ってたよ? 俺の中には解決方法が500通り位あるとかなんとか……」

 
 ―――ソレだ。


 そう、俺の中にはまだ活路がある。たった一つの方法に目が行ってそこまで眼が行って無かったぜ。まだまだ手はある。それこそ、無数に。

 俺はそう考え、笑みを浮かべる。それを見たアリシアもまた、面白そうに笑顔を浮かべた。二人の表情はきっと悪戯を思い付いた子供の様なそんな顔だっただろう。



 ◇ ◇ ◇



「あれ? 兄ちゃんにアリシアちゃん。どないしたんこんな昼間から……」

 俺達がやって来たのは、はやての病室。来た目的は全ての勢力の全ての思惑を真っ向から叩き潰す事。管理局の目的は『闇の書及び闇の書の主の逮捕』、4人目の目的は『ハーレム』、俺達の目的は『はやてを救う事』、これはある意味全ての目的に共通点があると言える。
 それは、全てが闇の書に関わっているという事。管理局は闇の書を押さえればいいし、4人目は闇の書を押さえて上手くやれば一人くらいは惚れてくれるかもしれないし、俺達は闇の書を破壊及び修正すればどうにかなる。
 つまり、俺達の目的が解決した場合―――全ての思惑が一気に崩れさる事になる。

「はやて。お前の身体、今から治すぞ」

「え?」

「えへへ、もうなんだか私達めんどくさくなっちゃって」

 俺とアリシアの言葉に困惑するはやてだが、その意図は汲み取った様で次の瞬間にはにかっと笑った。

「そか。なら兄ちゃん達に任せるわ。私の身体、治してくれる?」

「任せろ」

「もっちろんだよっ」

 そう言うと、俺ははやての首筋に手刀を落として意識を刈り取った。

「大丈夫、次起きた時はもう心配する事は何もない」

「う………ん……」

 はやてはかすかに頷いて、その意識を手放した。

「さて……アリシア、始めるぞ」

「任せてよっ!」

 そう言った瞬間、アリシアが前計画の為に習得した低域結界を張る。その範囲は狭く、この病室を覆う位だ。この結界の使用方法は戦闘ではなく、防御や空間隔離といった物にある。そしてその狭さ故に感知されるには少なすぎる魔力で事足りてしまう。

「じゃあ第一段階だ」

 そう言って、俺ははやての脚に触れる。そこから侵食が始まっているから、そこから処理していくという事。最初に発動させる魔法は、アリシアの蘇生にも使った【覚醒魔法】。この魔法ではやての潜在能力を一時的に解放させるのだ。
 覚醒魔法で潜在能力の覚醒はほぼ不可能とされているが、それは魔力不足故の事。ここには闇の書という媒体に溜められた膨大な量の魔力があるのだ。それくらい容易だ。


「――――覚醒(アウェイキニング)


 覚醒魔法による潜在能力の覚醒。それは、身体がその能力に耐えられないが故に一時的な物。だが、それで十分。何故なら、この一時だけでいいのだから。

「―――次だ」

 無事にはやての潜在能力を覚醒させた珱嗄は、次にはやてと闇の書のリンクを一旦切る。それに使うのが、【契約破壊魔法】。
 魔導書やデバイスといった媒体との契約や所有権限の一切を初期化する魔法。これにより闇の書とのリンクを切り、侵食の一切を絶つ。

「―――解約(シュレンダー)

 その一言で、闇の書との所有者権限が途切れる。そしてすかさず珱嗄は同時展開で別の魔法を発動させる。

 それが、【静止魔法】。転移や移動魔法の一切の効果を封じる魔法。その対象は、マスターを失って転移を図ろうとする闇の書。機能的に設定されたマスターを探して転移する闇の書の移動を封じたのだ。

 そして間髪いれずに次の魔法。次は闇の書のバグの修正。【分離魔法】と【時空間魔法】と【救取魔法】の3つを同時展開。

 強制的に止められて暴走仕掛けている闇の書の中からバグである闇の書の闇を分離魔法で分離し、闇の書と同様に静止魔法で止める。次にバグの消えた闇の書を時空間魔法で作られた当初の状態まで時間を戻す。そして、バグによって失われていたこれまでの記録の数々を救取魔法でサルベージ。
 これにより、闇の書はその姿を夜天の書へと変えてさらに作成当初から現代までの記録を正しい形で手に入れる。

 残る問題は、闇の書から抽出したバグの塊である闇の書の闇。静止魔法で留めているがこのままでは暴走してしまう。そこで珱嗄が次に発動させるのは【分解魔法】。
 魔力を魔力素に分解し、空気中に霧散させる魔法。元々は攻撃魔法や防御魔法を分解する魔法なのだが、この場合魔力の塊である闇の書の闇を分解することも可能。リンカ―コアを形作った物だが、それを含めて分解するのだ。


「―――魔力分解(ディコンポゼーション)


 これにより、闇の書の闇は分解されていく。静止魔法で動くことすら出来ない闇の書の闇は、どうにか抵抗しようともがくが、珱嗄の適切な対処で先回りされてしまう。

「終わりだ。アリシア」

「分かった。【魔法殺しの鎖(チェインオブキリングマジック)】」

 アリシアの鎖型のバインドが弱体化した闇の書の闇を幾重にも拘束していく。その鎖の効果は、その名の通り魔法殺し。魔法を破壊し殺す鎖だ。
 弱体化し続けている闇の書の闇程度なら、容易に殺す事が出来る。

「アリシアの鎖の効果は、拘束からの対象の殺戮。闇の書のバグは此処で終わりだ」

 珱嗄はそう言って、最後の魔法を発動させる。それが【強制契約魔法】。これは契約破壊魔法とは逆の効果を持ち、魔導書やデバイスと強制的な契約関係を築く魔法。これを利用し、はやてと夜天の書に正しい契約関係を築かせる。

 その結果、バグの無い夜天の書の主として八神はやてが管理者権限を手に入れる。


「修正終了」


 珱嗄は静止魔法を解除し、主を見つけた夜天の書の転移が止まるのを確認する。そして、全ての魔法陣を解除すると夜天の書から銀髪の女性が顕現する。これこそはやての持つ夜天の書のユニゾンデバイス。名前はきっとはやてが良い物を付けてくれるだろう。

「ふぅ……」

 一息付くと、アリシアが結界を解除する。この方法は、俺とアリシアで組み上げた方法。俺が使えそうだと思った魔法をピックアップし、アリシアとその組み合わせを選んだのだ。結果、最初の計画よりもかなり効率のいい物が出来上がった。まぁ、かなりギリギリの組み合わせでもあった。
 転移を上手く止められるかどうかは一か八かの賭けだったのだ。そこで躓けば、一巻の終わり。闇の書とのリンクを切った事ではやての身体に侵食の形跡が残ったまま闇の書は転移していっただろう。

「お疲れ様、お兄ちゃん」

 アリシアはそう言って結界を解除した。現れた女性は瞳を開けて、こちらに視線を移した。

「貴方が、主を救ってくれたのですね……感謝します」

「おー、まぁ大事な義妹だからな」

 俺がはやてが3歳の頃に背負った責任。彼女が自立できる位成長した時まで親代わりに支える責任。俺が勝手に背負った物だけどね。

「しばらくすればはやての足も元に戻るだろうし、そうなればハッピーエンドだ。管理局云々は俺とアリシアに任せて、これからははやてを支えてやってくれや」

「無論です。この命、主はやての為に捧げましょう」

「じゃあ頼んだ」

 俺はそう言って部屋の出口へと向かう。

「どちらへ?」

「決まってんだろ? 管理局とか面倒な輩全部とちょっと命殺(たまころ)がししてくるんだよ」

「なにやら不穏な言葉に感じるのですが……まぁ程々に気を付けてください」

 その言葉に俺は何も答えず、アリシアは一つ愉快に笑って部屋を出て行ったのだった。



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