珱嗄が病院を出て、アリシアと共にやって来たのは高町なのはとフェイト・テスタロッサが最終決戦を行なった海鳴臨海公園。そこには、珱嗄とアリシアの他に守護騎士達がいた。
「なっ……主はやてが?」
「おー、ちょっと前に助けてきた」
軽く言った珱嗄の言葉に、守護騎士の全員は嘘とは思わなかった。何故なら、珱嗄ははやてを助けたがっている自分達にそんな性質の悪い冗談を言わないと信頼しているからだ。つまり、珱嗄の言葉は真実。自分達の主は助かったのだと、守護騎士達は歓喜した。
「そこで、お前達にちょっくらやって欲しい事がある」
「ああ、何でも言ってくれ」
「ん、良い返事だ。やって欲しい事は、今来てる管理局に―――自首してくれ」
その言葉に、守護騎士は全員眼を丸くした。それもそうだ、何故なら自分達に自首して主と離れろと言っているのだから。だが、珱嗄の言葉はとある事実と共に受け入れるしかない状況に彼女達を追いこんだ。
「そろそろ、お前らのバグも直る筈だけど……これまでの記憶が戻るとか、ね」
ドクン、鼓動が大きく鳴り響いた。4人の身体に起きる現象。闇の書が夜天の書に戻った事で、繋がっていた守護騎士システムもその姿を元の姿を取り戻す。一度はやてとの契約関係を切った事で、守護騎士システムははやての庇護下にはないが、それは守護騎士という単独個体という意味になる。
彼女達の中に存在する魔力が尽きるまで彼女達は存在することが出来るが、それはつまり寿命に似たシステムが彼女達に生まれたという事。
そして、彼女達の構成要素が次々と書きかえられ、この時代に生み出されてからの記憶と共にこれまで自分達がやってきた全ての記憶が彼女達の中に復活する。
「あ、あぁ……私達は……」
その記憶が戻った来た事で、大きな罪悪感に苛まれる4人。自首をしろと言う珱嗄の言葉が4人の頭の中を反響し、その行為をするべきだと4人に納得させる。
自分達のやってきた事は、それだけの事だと今なら理解できるからだ。八神はやてと触れ合って知った、家族の温かみ。それを何十、何百、何千人という人から奪って来たのだから。それがそう言う事を意味するのか、分からない彼女達では無いだろう。
「もう一度言う。自首しろ」
「………あぁ、分かった」
珱嗄の再度問いかける言葉に、4人は頷いた。その道しか、彼女たちには残っていなかったからだ。
だが、彼女たちには一つだけ不安があった。自分達が自首した事で八神はやてに及ぶ影響。彼女は何も悪くないのだ。何故なら、彼女は偶然にも闇の書の主になってしまっただけで何かした訳ではない。いや、何もしていないのだ。
それなのに、闇の書の主になってしまっただけで責任を問われるのはおかしいのだ。
「主、はやては……」
「ああ、そうだな。はやてもきっと責任を問われる事になるだろう。はやて自身もお前らが自首したら確実に一緒に責任を取ろうとするだろうな」
それが、八神はやてと言う人物。家族を愛し、なによりも他人の幸せを重んじれる少女なのだ。故に、少女は必ず家族を見捨てない。家族を一度失った彼女だからこそ、家族の為に出来る事は何でもするのだ。
「でも……!」
「勘違いするな。何のために俺とアリシアがわざわざ出張って来たと思ってんだ」
「え? でも、どうすんだよ?」
「決まってる」
珱嗄はゆらりと笑った。その佇まいは、いつもの面白い事を探してゆらゆらとした雰囲気を纏った珱嗄だった。そして4人は知っている、この雰囲気を纏った珱嗄は誰にも邪魔されない、邪魔出来ない男。
何をしてもゆらりと躱して最終的になんでも自分の思い通りの結果を出してしまう。そんな確信を持たせるだけの何もかもを持った男だと。
それが、4人がこの半年で知った珱嗄の人間性だった。
「管理局を丸めこむぞ」
◇ ◇ ◇
そんな中、自分達の目論見が全て崩壊した事に気付かない管理局陣営は、未だに闇の書をどうこうするかを考えていた。
問題になっているのは、フェイトのリンカ―コアが蒐集されてから、闇の書陣営の行動が一切ない事。先日、珱嗄と4人目が衝突した際に生じた結界によって拠点には確信が出たのだが、それも民間の家なので間違っていた場合非があるのは管理局になるのだ。そうそう簡単には乗り込めない。
そこで、彼らが考えた策は……なのはとフェイト達をその家に訪ねさせて調査すること。
調べた結果、あの家に住んでいるのは表向き八神はやてというなのは達と同年代の少女のみ。両親は小さい頃に失っており、今では彼女が一人で暮らしている。ということになっている。
故に、同年代の子供なら親しい関係にもなれるだろうという考え。ちなみに、この作戦に転生者3名は組み込まれていない。同年代といえど、男子がいる事は多少なりとも気後れさせてしまうかもしれないだろうし、あまり大人数で行くと警戒心を持たせてしまうかもしれないからだ。
この辺が大人の汚い部分と言えるだろう。
「でも、何故急に奴らはなりを潜めてしまったんだ?」
「分からない。が、なんにせよこの作戦次第だな」
クロノの疑問に答えたのは火喰。クロノを毛嫌いしている神崎とは違い、彼はクロノを無為に扱ったりはしなかった。それによってなのは達の好感度が下がる事を恐れたのだ。
故に、なのは達の転生者達に対する好感度は、火喰>會田>神崎。とはいってもこの好感度の位置としては、友達以上友達未満という、友人の域を出ない位置にいるのだ。
実際、とてつもなく微妙な位置にいる。クロノとフェイトを此処に入れると、なのはの好感度はこうなる。
フェイト>>>クロノ>>>>(頑張れば超えられそうな壁)>火喰≧會田>(超えられない壁)>>神崎
とんでもなく下の位置にいるのだ。今更好感度が下がるだの言ってられる場所にはいないのだ。つまり論外。
「おい、なんで俺がこの作戦に入れないんだよ!」
「だから言ったでしょう。それが一番成功率が高いの」
「ちっ……言っても分からねぇ馬鹿ばっかが……」
神崎はそう言って、リンディの下を去る。折角八神はやてと接触できるチャンスを潰されて憤慨しているのだ。これが精神年齢20代の男の姿である。読者の皆はこうなったら終わりと考えて欲しい。
「さて、それじゃあなのはさん、フェイトさん。宜しく頼みますね?」
「は、はい!」
「頑張ります」
リンディの言葉に、二人の魔法少女は元気よく返事したのだった。