小説『リリカル世界にお気楽転生者が転生《完結》』
作者:こいし()

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「急げ! 総員戦闘配置!!」

「了解!」

 現在、時空管理局闇の書事件担当部隊アースラ艦隊の人員は慌ただしく戦闘の準備をしていた。何故なら、敵が攻めてきたからだ。
 先日、管理局は闇の書の主の拠点と見た八神はやて宅を高町なのはとフェイト・テスタロッサの二人を使って訪ねようとしていたのだが、そこはもはやもぬけの殻。結界は張られておらず、中には人一人いなかった。よって作戦は失敗に終わり、結局拠点の当ては外れてしまったのだ。
 また闇の書の守護騎士達は動きを見せない事から、どうも何かがおかしいと管理局陣営の全員が懸念を抱き始めた。現れた仮面の男や闇の書陣営が動かないことから手掛かりは一切なく、捜査は難航していた。

「……くそっ、何故奴らは動かないんだ」

 そんな中、一向に動きを見せない犯人達に苛立ちを隠せないクロノ。なのはやフェイトも少し困惑気味だ。

 また、原作キャラがそんな風に動く中、転生者勢もまた困惑と焦燥を抱いていた。原作とは違う、これが3人……いや4人が考えている事。はやてが入院した事は知っているし、既に過ぎ去った日が闇の書の覚醒の日というのも覚えていた。
 闇の書の覚醒を待たずしてやって来てしまった別の未来。考えられる事とすれば、イレギュラーである泉ヶ仙珱嗄の存在。4人の転生者を捻りあげるだけの実力を持ち、アリシアの蘇生すらやってのけた異質な存在。

「何がしたいんだ、彼らは……!」

 そう漏らすクロノの正面。アースラのメインモニターが映す地球の海鳴臨海公園の光景。そこには、これまで姿一つ見せなかった闇の書陣営きっての実力者、泉ヶ仙珱嗄とアリシア・テスタロッサの姿があった。二人の後ろにはアリシアのバインドで拘束され、抵抗すらしない守護騎士達。どうやら闇の書の主はいないようだった。

 そこへ、どうやったのか珱嗄の声がアースラに響いた。


『―――聞いてんだろ。さっさと人寄越せや、こっちは自首するって言ってるだろう』


 そう、彼らは自首すると言い放ったのだ。その言葉は罠か本心かは分からない、が自首すると言うのなら人員を割いて確保に向かわなければならないだろうし、罠であっても行かなかった場合取り逃がす羽目になり、今後一切の手掛かりは経たれてしまうかもしれない。
 となれば、彼らに行かないという選択肢は無かった。

「あ、あの! 私が行きます!」

「私も」

 そこに名乗りを上げたのは、なのはとフェイト。お互いにバリアジャケットを纏い、既に両手にデバイスを構えていた。
 彼女達の後ろには転生者3名が戦闘態勢で連れ添っていた。付いて行く気満々である。

「くっ……分かった。僕も出る、全員出動だ」

 クロノは執務官として、彼女達に指示を出す。なのはとフェイト、転生者3人は頷いて転移ポートへと駆けだした。


「全く……なんなんだ、この展開はっ……!」


 クロノは憎々しげにそう呟いたのだった。



 ◇ ◇ ◇



「お、やっとやってきたか」

 そう漏らす珱嗄の前には、転移してきたなのは達の姿。どうやら戦闘準備は終えている様で、戦う気満々らしい。とはいっても、こちらには戦うつもりはないのだ、早々に大人しくして貰おう。

「アリシア」

「おっけー」

 そう言ったアリシアは、自身の得意魔法であるバインドを最大限駆使して目の前に降り立ったなのは達を一気に全員縛り上げた。

『なっ……!?』

 その発動速度に驚愕するなのは達一同だが、実際アリシアの魔法発動速度は速い。そして更にこの時珱嗄によるブーストが掛かっていたので、その速度はおおよそ2倍。気が付いたら縛られていた、という程の速度を叩き出す。

「『随時強化の鎖(ストレイジ ザ チェイン)』」

 アリシアの特殊バインド魔法の一つ、『随時強化の鎖(ストレイジ ザ チェイン)』。普通のバインド同様魔力を常時注ぎ込むのだが、その効果は一定ではない。その名の通り時間が経つ毎に強固になっていく鎖なのだ。そして、アリシアのバインドは発動初期段階の時点で並の魔導師のそれを大きく上回る。それはつまり、この場にいる物でこのバインドから抜け出せる奴はいないと言う事。

「かっ……たい……ぐぐっ……!」

 なんとかバインドを解こうと魔力をバインド破壊に注ぎ込むなのは達だが、破壊しようとした傍から強化され直ってしまう鎖。しばらくすれば破壊自体出来なくなっていた。

「さて、俺達は戦闘するつもりで来たんじゃないんだよ。なのはちゃん風に言うなら……お話、しようか」

 珱嗄は鎖で動けなくなった全員に向けて、そう言い放つ。ゆらりと笑ってそう言う様は、転生者を含めて全員の背筋に悪寒を感じさせた。
 危険、逃走、敗北―――珱嗄の姿や声から湧き出た感情。ある者はこの場から逃げ出したいと思ったし、ある物は危険に身を震わせ、ある者はバインドがあるにもかかわらず逃走を図ろうとした。

 これまで感じた事もない殺気。珱嗄が少年少女達を黙らせる為に放ったソレは、到底耐えられる様な物では無かった。これが珱嗄と彼らの違いで、殺し殺される様な戦いを数千年とこなしてきた人間と平和な日常を生きてきて少し戦いを学んだだけの子供の違いだった。

「あ、う……」

 眼を見開いて怯える子供達(なのはたち)。かろうじて動けたのは、執務官としてそこそこの戦闘経験を持ったクロノとフェイトのみ。
 だが、相対するのは勝ち目がなく、底の見えない大人(ばけもの)。クロノとフェイトも言葉を捻りだすのが精一杯だった。

「君はっ……一体何が目的だ……?」

「目的なんてないよ。さっきも言っただろう、自首しに来たって」

「本当か……」

「ああ、その代わりと言っちゃあなんだが……ちょっとした交換条件がある」

 交換条件。自首する側が言う物ではない言葉だが、珱嗄の放つ殺気の前ではそれを指摘する余裕は誰にも無かった。

「……なんだ?」

「闇の書の主について一切干渉するな」

「な、なにっ!? そんなの許されるわけないだろう! 闇の書の主は一番の罪人だぞ!」

「ソレが間違ってんだよ。この際言うけど、闇の書の主は俺の義妹八神はやてだ。あいつは偶然闇の書の主になっただけで何もしていない。蒐集自体も俺らが勝手にやってた事だからな」

 珱嗄の言葉は驚愕だった。過去に存在した闇の書の主とは違い、今代の闇の書の主は自分達と同年代。さらに、蒐集も何もしていないという。だが、珱嗄の言葉はそれを本当だと思わせるだけの説得力が有った。

「……証拠は無い」

「証拠が必要か?」

「……っ」

 交渉しようとするクロノと、交渉を破綻させている珱嗄。元々、これは珱嗄から出た提案で、クロノは拒否出来ない状況にあるのだ。
 何故なら、ここでこの提案を拒否すればまず間違いなく全員が守護騎士と珱嗄達によって殺害もしくは重傷を負う破目になる。逆に受け入れれば闇の書の守護騎士を拘束出来、珱嗄達も拘束することが出来る。

 この提案は、もはや提案では無い。珱嗄による命令だった。

「どうする?」

「……くっ」

 言い淀むクロノだが、他のメンバーは珱嗄の殺気に段々慣れつつもまだ口を開けずにいた。
 そこへ、介入する声が響く。

『分かりました。その提案、受け入れましょう』

「ああ、艦長さんか。久しぶりだね」

『ええ、お久しぶりです』

「で、提案を呑んでくれるわけだ?」

『ええ、ただし闇の書本体は必ず提出してもらいます。それが最低条件です』

「いいよ。元々、そのつもりだし」

 珱嗄が取り出したのは、夜天の書―――ではなく、闇の書。禍々しい空気を放つ魔導書だった。だが、珱嗄によって闇の書は今、夜天の書へと変化している。
 では何故此処に闇の書があるのか、それは珱嗄がダミーを作ったからに他ならない。珱嗄の知識の中にある、とある知識を使って作った物。

 その知識とは、ロストロギアの作成法。

 元々ロストロギアとは、滅びた文明や世界の中に存在していたオーバーテクノロジーや古代魔法具、高度な魔法技術の産物だ。ならば、それは自然によって作られた物だけではなく人間によって作られた物も含まれる。
 人間が作りあげたのなら、珱嗄が作れない道理は無い。そうして作りあげたのが、見た目や一部の機能のみ再現した偽闇の書。オリジナルの夜天の書ではなく、珱嗄は劣化闇の書を作り上げたと言っていい。

「これが、闇の書……」

「ああ、持ってけよ。これで闇の書事件は解決だろう?」

「………分かった」

『では、クロノにこちらへ案内させますので、付いて来てください。クロノ、後は頼んだわよ』

「はい、艦長」

 そう答えるクロノ。いつのまにか、珱嗄の殺気は消えていた。

「じゃ、行こうか。アリシア」

「うん」

 珱嗄はアリシアに言ってバインドを解かせようとする。アリシアも頷いてバインドを解こうとする……が、それは出来なかった。何故なら―――


「オイオイ、俺の女達になにしてんだよ。クソ野郎」


 ―――珱嗄がこの状況で最も介入して欲しくなかった男の姿がそこにはあったから。


「はぁ……またお前か」

 珱嗄はその男、霧咲俊也の嫌らしい笑みをゆらりと笑い返す。

「ふー……いつも俺が何かしようとすると変な方向に展開が進むなぁ……やっぱり、面白い」

 互いに違った意図の笑みを浮かべる中、珱嗄は誰にも聞こえない小さな声で……そう呟いた。

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