さて、高町士郎の回復の翌日。といっても、回復を行なったのは午前3時頃だから実際には日を跨いだ訳ではなく、単に朝を迎えただけなのだけど。現在時刻午前8時頃、俺はというと高町家を拠点にするにはどうすればいいかを考えていた…公園のベンチで。
ちなみに、考えて欲しい…ないし想像してみてくれ。公園のベンチで見た目高校生の男があたかも『考える人』の様なポーズでピクリとも動かない場面を。自分で言うのもなんだが、馬鹿じゃないの?って言いたくなる。というか、不気味だよね。それに、こんな場面を警察に見られでもしたら『君、高校生だよね?学校は?』と言われる事必至だ。なんせ、現時刻は午前8時、学校に登校すべき時間なのだから。
とはいっても、考えた所で高町家へ取り入る方法なんてのは思い付きゃあしない。はっきり言って俺と高町家の繋がりは既に途切れていると言っても過言ではないのだから。
「まぁ、考えていても仕方ない。出ないもんは絞ったって出ない。さしあたっては暇潰しに…うーん……そうだ、図書館へ行こう」
という事で、俺は以前にこの街の名前を知るために歩きまわった際に見かけた図書館へと向かう事に決めたのだった。
◇ ◇ ◇
―――海鳴市立海鳴図書館
さて、やって来たのは以前の図書館。名前は今回やってきて確認した。以前は街の名前に注目していて図書館の名前までは覚えていなかったからね。
でも、開館してすぐに来たせいか、中には人があまりいない。図書館の職員は俺の姿を見て少しいぶかしんでいたが、高身長故か勉強に来た大学生もしくは浪人生と取ってくれたのか、あまり気にしてはいなかった。
というか、着物姿の俺を見ても怪しく思わないなんて流石はアニメ補正だな。魔法少女がいるだけあるわ。
「さて……誰もいないこの静かな空間で何をしようか」
そんなことを呟いて見たが、結局やることと言えば本を読むしかない。さしあたり、手近にあった薄めの本を手に取る。どうやら絵本の様だ。タイトルは『三匹のこぶた』…なるほど、アニメの世界と言っても現実世界と似通っている部分もあるらしい。
まぁ、某ボーカ○イドとかライトノベル的な物は一切なかったけどね。しかし、そこまで似せてしまうと版権云々色々引っかかってたんだろう。この小説も何時消える事やら。おっと、メタな発言だったぜ。
「…何々?『狼はまず初めに、長男の子ブタの作った家へと出向きました。しかし、長男は堅固な鉄の要塞を作りあげていて、歯が立ちませんでした。狼はそれを見て、長男を諦めて次男の子ブタの家へと出向きました。笑みを浮かべながら向かった次男の家、それは長男の要塞どころではありません。寧ろ城でした。大きな大きな、城でした。警備兵として人間が猟銃を構えていて手が出せません。よって、最終的に狼は三男の子ブタの下へと向かいました。一匹ぐらいは食ってやると狼はイライラした様子で三男の家へと向かいます。
しかし、狼が一歩"そこ"に踏み込んだ瞬間、狼は幾百の警備兵に取り押さえられてしまいました。困惑する狼。前を見ると、そこには不敵に笑みを浮かべる三男の子ブタ。狼は全てを察しました。狼が踏み込んだその領域、そこは―――三男の子ブタが作りあげた国と言うなの家だったのです。故に、狼が踏み込んだその瞬間、子ブタの敵として取り押さえられてしまったのです。そう、母親が三匹の息子達を自立させたのには理由があったのです。それは、三匹は頭が良すぎたから。結果、長男は要塞を築き、次男は城を築き、三男は国を創りました。
その後、狼は三匹の子ブタ達によってすっかり躾けられ、三男の国で悪人を捕まえる役人にされてしまったのでした。』……何これ?」
読んでみると、アホみたいにカオスな物語だった。俺は本をぱたんと閉じて本棚に戻そうとする――が、そこに声を掛けてくる人物がいた。
「あの〜…それ、戻すんやったら私に貸してくれませんか?」
幼い少女の声。どことなく関西弁が入ったような敬語。俺はその声の主の方へと視線を向ける。そこには、なのはと同じ位の年齢の少女がいた。レバーで動く様な車椅子にちょこんと腰かけているので、恐らく足に何か障害を持っていると考えられる。周囲に親がいない事から多分一人で来たんだろう。
「…まぁ、いいけど。お嬢ちゃん、一人かい?」
「はい。そうですけど」
「ふーん……ああ、そうだ。今の俺はとても暇で仕方ないんだ。ちょっと付き合ってくれるかな?」
俺は彼女を見て、ちょっとだけ思い付いた。最近、父親は大切なものなんだなぁと実感した所だし、ちょっと娘と言う物を体験してみるとしよう。俺の実年齢はハンターハンターの世界を合わせると1204歳だし、問題は無い。念能力って若さを保ってられるから凄いよね〜。
◇ ◇ ◇
さて、俺が少女に出会ってから数時間が経ち、現在時刻は12時ちょっと。まぁ正午だな。何をしているかと言えば、何もしてない。
というより、何も出来ない状況にある。何故なら、胡坐を掻いた俺の足を枕にしてあの少女が寝ているからだ。まぁ、3歳児ともなれば今の時間はお昼寝タイムと言っても過言ではない。幸い、俺のいる場所は子供本エリアに敷かれた畳みスペースだ。子供達が寝っ転がったりして絵本を読めるようにするための図書館側の配慮だろう。
そこで、読み聞かせの如くいろんな本を少女に読んでやっていたら、時間は経って行き、結果少女は眠ってしまったワケ。
「……ま、いいか。俺としては父親の気分を味わえて新鮮な感じがするし」
そう言うと、少女が寝言を言いだした。その内容は、少し気になる様な物で、更に涙を一筋流しながらの言葉だった。
「お父さん…お母さん……ひとりぼっちにしないで…」
良く事情を知らないが、この子は両親がいないのだろうか。それにこの動かないという足、少し病気とは違う何かが関与している気配がある。あの銀髪の彼とは全く別の力が感じ取れる。はっきりとした原因はさっぱりだが、おそらくこの少女は主要人物なのかもしれない。
まぁ、推測にすぎないが、この世界の主人公格に匹敵する奴らは全てそれなりの不幸を背負っているのではないだろうか?なのはの現状しかり、この少女の両親不在しかりだ。あと、年齢的に少女となのはは同年代という事実、さらにあの銀髪転生者の年齢もなのはと同じだ。ということは彼がハーレムを狙っていた場合、なのはの同年代には主要人物が多く存在する、という事になる。まぁ、誤差があっても1歳年上か年下かってところだろう。
「……両親ねぇ」
少女の頭を撫でる。すると、少女はどこか安心した様な表情になり、また眠りに落ちてしまった。だが、そんな中考えるのは、俺の本当の両親について。
死んでしまったのは正直、神様の世界の偶然だったが、それでも両親とは別れてしまった。今ではほとんど考える事は無いが、少し名残惜しくはあるな。
「ま、それもこれもどうでもいいけどね」
俺はそう言ってその思考を中断。考える事を放棄する。俺はシリアスは苦手なのだ。
「…さて、どうするかなぁ」
俺は天井を見ながらそう呟いた。
◇ ◇ ◇
「ん…んぅ……」
それからもうしばらくして、おやつの時間帯…午後15時に少女は眼を覚ました。どうやら、かなり熟睡していたみたいで、起きた時はぼーっとした顔で涎を一筋垂らしていた。それなのに3歳児というのはだらしないという印象よりもあどけないという印象を与えてくる。
やはり、若いに越した事は無いのだろうか?ということはロリコンやショタコンというのは案外悪いものではないのか?悪影響を及ぼすだけで。……ああ、悪影響の時点で悪いか。
「おはよう、良く眠れたか?」
「んっ!あわわ…ごめんなさい。寝ちゃって…」
少女は俺の言葉に勢いよく起き上がり、慌てて頭を下げて来た。そんな必要はないのにね。正直、袴での胡坐だから結構寝やすかったんだろう。知ってる?袴の感触って結構スベスベしてて気持ちいいんだぜ?
俺は頭を何度も下げる少女の頭に手を乗せて、その動きを止める。
「大丈夫大丈夫。それより、そろそろおやつの時間だけど……なんか食べる?」
「え?いやでも…迷惑じゃ…」
3歳児が迷惑という言葉を知ってて、遠慮と言う行動をする事にびっくりだよ。なんだ、この世界にいる子供は皆こうなの?天才児ばっかじゃん。俺の生きてた世界だったら即神童とか天才とか呼ばれるぞ。
「子供がそんな事を気にするんじゃない。ほら、行くよー」
「にょわ!な、なにするんですか!どこに…」
相も変わらず関西弁混じりな敬語に違和感を感じながらも、少女を抱えあげて車椅子に乗せた後、シートベルト的な物で固定する。そのまま、車椅子を押す。
行先は、喫茶翠屋。あそこに行けばなにかしらのおやつにありつけるだろう。金は余るほどあるのだから。
「さぁ、れっつごー」
「もう…強引な人や…」
そう呟くな少女。あ、そう言えば名前聞いてねぇや。
◇ ◇ ◇
―――翠屋
で、やってきました翠屋。コーヒーの匂いがするあたり、高町士郎が戻っているのだろうか?まぁ、早朝に完治させた訳だし、退院しててもおかしくは無いか。
とりあえず、車椅子を押しながら中へと入る。そこには早朝にベッドの上に寝ているのを見た人が笑顔でコーヒーを作っていた。そして、その目の前には銀髪4頭身もいる。
「ここですか?」
「ああ、そうだよ」
「いい匂い…」
とりあえず、気功での聴覚強化。銀髪と高町士郎の話を盗み聞き。
―――
『君には感謝しているよ。僕の身体を治してくれたんだからね』
『でも、俺の力については内緒にしておいてください。その、あまりバレたくは無いので』
『…何か事情があるようだね。まぁ、恩人の君の頼みだ。この事は僕の心の中に留めておくよ』
―――
え〜と、まだ色々他愛も無い話をしているが、あいつは俺の手柄を自分の物にしたと。なるほど、あいつクズだな。まぁ、俺は誰かに感謝されたくてやった訳じゃないからいいけれど、なんかアイツの目的見えて来たぞ。十中八九なのはを自分の物にするつもりだよ。外堀から埋めるつもりだよ。計算高いな〜
まぁ、どうでもいいけれど。とりあえず、おやつにありつこう。
「よいしょっと」
「失礼します」
少女をテーブルの前に移動させ、俺は正面のテーブルへと座る。というか、今思ったけど銀髪4頭身は3歳児の設定だろ?なのになんであんな流暢に話してて疑問に持たれないんだろう?あれが普通なのかな?
「いらっしゃいませ、ご注文は…って…あ、貴方は…!」
そこにやって来たのは何処となく嬉しそうな表情の高町桃子。俺の顔を見て何故か驚愕の色を浮かべている。どうでもいいけど接客して欲しい。俺はおやつが食いたい気分なんだ。普段食わないくせにね。
「あ、すいません。ご注文は?」
「んー…とりあえず、コーヒーと…ここのおすすめスイーツで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
桃子はそう言って店の奥へと入って行く。途中高町士郎に何かを言っていたが、まぁいいだろう。
「あの…」
「ん?」
「私の分までいいんですか?」
「ああ、別にいいよ。俺の暇つぶしに付き合ってくれたお礼だ」
そう言うと、少女はくすりと笑った。何がおかしかったのかはなんとなく予想が付くけどね。
「…そういえば、名前言ってなかったですね」
「ああ、そうだったそうだった。じゃ、自己紹介と行こうか。俺の名前は泉ヶ仙珱嗄、面白い事が大好きな男だよ」
すると、少女は変な自己紹介だと笑いながら、自分も自己紹介をした。
「八神はやて、3歳です!」
なるほど、少女の名前は八神はやてというのか。知らなかったよ。で、こちらに振り向いた銀髪4頭身をどう切り抜けようかなぁ…
ずんずんと近づいてくる銀髪4頭身。正直面倒極まりない。コッチくんな。
「お前、なんでこんな所にいやがる」
「俺がここに居ちゃ悪いか不思議少年。俺はおやつを食べに来ただけだよ。ああ、この子はさっき暇潰しに図書館に行った時にあった子だ。近寄るなよ、厨二が移るだろう」
「俺は厨二じゃねぇよ」
「あ、あの…珱嗄さん…その子はだれですか?」
「あー…うん、こいつは銀髪4頭身って言ってな。女の子を虐める怖い奴だ。今の所ここの喫茶店の次女が狙われている。気をつけろ?はやても襲われるかもしれないから」
そういうと、はやては怯えた様な顔で銀髪4頭身を見た。彼はその様子に大慌てで誤解を解こうと詰め寄る。しかし、それは逆効果だ。結果的に、はやては俊敏な動きで車椅子を操作、俺の背後に隠れてしまった。その様子に肩を落とす銀髪。とぼとぼと元の席へと帰って行くが、同情心は抱かない。むしろザマミロと思ってしまったのは内緒だ。
「はぁ、大丈夫大丈夫。ほら」
「ひゃっ!?」
俺は怯えるはやてを抱きあげて膝の上に乗っける。ここなら多少マシになるだろう。
そうしてしばらく待っていると、高町士郎がコーヒーとシュークリームをお盆に載せてやってきた。
「お待たせしました。コーヒーと当店のおすすめです。ごゆっくりどうぞ」
そう言うと、高町士郎はお盆と共に何か紙を置いて帰って行った。なんだあいつ…スパイか。動作に迷いの無い所が怪しい。なにか怪しい仕事してそうだなぁ
「いただきます!」
「うん、召し上がれ」
はやてがシュークリームをはぐはぐと頬張っている横で俺はコーヒーを啜りながらその紙を手に持った。それは簡単な手紙で、今日の夜に高町家に来てほしいとのこと、面倒だなぁとは思いつつも住処が手に入りそうなチャンスだなぁとも思っているので一応行くけどね。
「おいし〜!」
「そいつは良かったよ」
◇ ◇ ◇
その後、喫茶店ではやてと色々雑談した後、時間も時間になって来たので、はやてを家へと送る事になった。はやてはなのはと違って寝る事は無かったので、スムーズに家へと案内してくれている。
「そこを右です」
「ああ……そういえばはやて。別に敬語は使わなくても良いよ?堅っ苦しいし」
「え?そうですか?う〜ん…わかり…わかったで」
おお、これが元祖関西弁か。3歳児の癖にやりおる。まぁ、言語習得技術を持つ俺もやろうと思えば出来るけどね。とはいっても、3歳児にしてはマジに成熟しまくってんな。精神年齢いくつだよ。
本をたくさん読んでいる分なのはより成熟しているかもしれないな。いや、してるな確実に。言葉遣いから知識までなのはより数段上だ。これがアニメ補正と言う奴か…
「それにしても、珱嗄さんには色々お世話になってしもうたなぁ」
「まぁ、気にしなくても良いよ。どうせ、暇潰しだったし」
関西弁とはいっても結構舌足らずな部分が多いのは一応言っておこう。ペラペラ喋っている訳じゃないよ?
「そこ、左に曲がった所が私のおうちや」
「あいよー」
言われたとおりに左に曲がって八神の表札がある家の前へと辿り着く。玄関の門を開けて、家の玄関の前で止まる。はやてが持っていた鍵で扉を開けて、中に入って行くが、ぴたりとその動きを止めた。
俺はその停止に首を傾げるが、はやてはこちらに背中をみせたまま言った。
「……珱嗄さん…また、会えますか?また…一緒に遊んでくれますか?」
その言葉を聞いて、俺は玄関を見る。そこにははやて以外の靴は見当たらず、また使われている様子も無かった。つまり、あの寝言通りこの子には親がいない。この歳で両親のいない一人暮らし、料理だって出来ないだろう。
一応、生活出来ている辺り金銭面で問題は無いのだろうが、食生活的にはどうなのだろうか?
「…はやて。お前、食事はどうしてる?」
「え?…えと、料理はまだ練習中やから…とりあえず出前を取ったりしてなんとか…」
なるほど、まぁ3歳児でもここまで精神的に成熟していればで前くらいは取れるか…。とは言っても、出前だけで毎日を過ごすのは将来デブになる可能性大だ。それはちょっと不味い。
高町家で暮らすのがベストだったが、状況が変わった。もう住処があれば良いや。ここに住まわしてもらおう。
「はやて」
「な、なに?」
「俺はな、家を持っていないから帰る所が無い」
「え…?」
「だから、はやての家に住まわせてくれない?」
俺は急に、そして図々しく、呆然とするはやてにそう言い放ったのだった。